前科60:東魔大エロ・トラップ・ダンジョン(前編)
その日、流星寮内にある八代の部屋には清春と真央と美鈴の姿があった。日曜の昼だが、既にもう美鈴以外の三人は酒を飲んでできあがっており、顔がかなり赤い。偶々大学近くまでランニングしていた美鈴は、材料を買って部屋でお好み焼きをやろうとしてた三人と出会ってしまい、拉致されてるような形でこの場に居た。
「僕達、もう少しラブコメみたいな展開になるべきじゃない? なんかこう、バカな事ばかりしててドキドキがずっとないじゃんね」
そんな中、伊庭八代がお好み焼きのタネをかき混ぜながらそう言った。その横では在原清春が興味無さそうにスマホを弄っており、正面に居る千ヶ崎真央と西園寺美鈴は自分達の焼き具合を見ている。しばらく無言の時間が続いて、そろそろ食べ頃だと判断した美鈴がため息をつきながら言った。
「ゴミと恋愛ごっこする行為に需要ってあるんですか?」
「ランキングでも恋愛が強い風潮あるじゃんな? そういう流れに僕達も乗っていく必要があると思うし、僕をゴミってさらりと呼ぶな」
「でも、人気があるのって大体イケメンとの恋愛じゃんねー。全裸で警察に捕まった変態の恋愛なんか見たい人いないでしょ」
「いるよ! 今までにないラブコメを僕達でやろうぜ!」
「──バカ言うんじゃねぇよ。イケメンならここにオレが居るだろうが。お前の出る幕なんてねーよ」
スマホから目を離さずにふっと笑った清春がそう言うと真央と八代が手を叩いて笑いだした。
「どこの世界にチンポ改造してるラブコメの主人公がいるんだよ! お前こそバッカじゃねーの! 笑かすな!」
「いくらイケメンでもさぁ。ハメ撮り流出したくせに、何カッコつけてんのよって感じよね」
清春の顔が強張った。痛いところを突かれたと苦々しげな表情を作る。大学入学を期に今までよりもセフレ作りに精力的に励んだ清春は一部の女性から恨みを買ってしまい、行為の最中が盗撮されて流出したのだ。八代と真央がゲラゲラ笑いながら説明してくれたが、美鈴は丁寧にヘラでお好み焼きを切る事にしか興味がなかった。
「お前らだって人の事言えねーじゃん! 真央だって、お前去年やったパーティーで舞台俳優といい感じになった時さ。キスされそうになって、まずは手を繋ぐところからって断ったらしいじゃねーか! 本人困惑してたぞ」
「小学生か」
「……ふっ」
八代のツッコミに美鈴がつい吹き出してしまった。酒で元々少し赤かった真央の顔が更に赤くなっていく。味方になれとばかりにバシバシと肩を真央に叩かれている美鈴だが、どこ吹く風といった感じで流している。
「べ、別にいいじゃん。普通、手を繋ぎたいとかからじゃないの? あんた達みたいに、すぐ体触ろうとする男の子って本当にどうかと思う」
真央がそう言うが清春と八代は「お可愛い事で」みたいな目で真央の言葉を流した。美鈴も同意の気持ちはあるが、ここでこいつらに乗っておけば真央より恋愛上級者感が出せると判断し八代達に乗った。
「う────っ! 意地悪!」
真央が何時もの突起付指輪に力を込めて血継魔術を発動させる。清春目掛けて風の弾丸を放つが、清春もそれは予想していたようですっと顔を傾けてそれをかわした。背後にあった小麦粉の袋に風の弾丸が直撃し、部屋に粉塵が舞い起こる。
「始まりましたね」
「あんまり僕の部屋荒らさないで欲しいんだけどな」
真央と清春の小競り合いが激しさを増し、八代はやれやれといった感じで煙草を口に咥えた。
「ちょ────っ!? 粉塵──っ!」
天候魔術により部屋に舞う大量の小麦粉。そして八代の煙草を咥えた動作。その二つから最悪な未来が想像できてしまった美鈴が止めようとしたが、時既に遅し。魔術印の先に煙草の先に火が灯った瞬間、八代の部屋が炎に包まれ大爆発が起きた。
●
「美鈴ちゃん。パーマかけた?」
「その話はしないでください」
「ごめん……」
翌日、東京魔術大学の食堂で美晴とランチをとっていた美鈴はムスっとした顔で会話を切り捨てた。寸前で狂化を発動出来たから身に傷一つないものの、髪までは守れなかった。上級生組ははどんな魔術を使ったのか慣れていたのかわからないが、髪にも変化一つない。八代だけは部屋にあったエロ本やDVDがダメになって大泣きしていたが、美鈴も泣きたくなるような状況に追い込まれている。
「……今週中に十万円稼ぐ方法ってないですかね?」
そう美晴にぽつりと零す。
八代の部屋のリフォーム代として請求された費用である。一人十万の計四十万円。西園寺家からはクレジットカードを持たされてはいるが、何を買っているかは常に評価対象として見られている。誰と会う時はどのブランドを着用して、どの鞄や小物を買うかまで自分で決めなければならない。現金は世話係に用途を申請すれば何時でも貰える。
そう、この返済をするにあたってカードは使えないので、現金を貰うのに「先輩達と酒飲んで部屋を爆破して10万円請求されちゃいました」と言わなければならないのだ。そんな事を言うぐらいであったら死んだ方がマシである。この件は内密に、そして速やかに解決しなければならないと美鈴は追いつめられていた。美晴にもそうかいつまんでそんな事情を話すとうーんと唸って頭を抱え始めた。何か案があるような反応だ。
「うーん……。でもなぁ、あの先輩評判悪いからなぁ」
「多少のリスクは覚悟の上です」
「あー……。魔導力科にね。前原先輩って人が居るんだけどさ。その人がよく学校内でアルバイト募集してるんだよね。しかも、凄く給料良いらしくてさ。偶に流星寮の先輩達も見かけるよ。ただ、ナツ先輩達は絶対にあいつに近づくなって凄く怒るんだよね。流星寮の先輩達が関わってるから多分普通のアルバイトじゃないけど、女の子もそこそこ居たからえっちなアルバイトじゃないと思うんだよね」
「面子から考えて掃き溜めみたいなバイトには違いないでしょうね」
「言い難いけど、怪我人とかも結構出るらしいんだよね」
「危険って事ですか……。まぁ、私なら大丈夫でしょうが」
「ちなみに今日あるらしいよ。前原先輩と二限一緒なんだけど、他の学科の人と三限終わったら図書館前に集合って話をしてたから」
美晴が話を終えると美鈴のスマホに通知が来た。「全裸」と表示されているので誰かはすぐにわかった。嫌々中身を確認すると、「三限終了後に図書館前に来い」とだけ書いてある。この話をしていて良かった。知らなかったら無視していた所であった。美晴に画面を見せると「ああ……」みたいな反応が返って来た。
「私は四限まであるから行けないけど、気を付けてね。伊庭先輩はともかく、在原先輩と千ヶ崎先輩もその感じだと一緒なら大丈夫だと思うけど」
「ゴミ二号は、オレは金持ちだからせこせこ働かねーよって言って私達に十万投げつけて来たので来ないと思います」
「ゴミ二号……。在原先輩のお家、放任主義そうだもんね」
「放し飼いレベルですよ。いまだに女子寮に住み着いてるかと思いきや、この前なんか西園寺の別邸で私の従姉と寝てましたからね」
「えぇー……。凄いね」
「叔父様が怒り狂って叫んでるのに、どこ吹く風って感じでコーヒー淹れはじめたのを見て、この人も他の先輩みたいにバカなんだなって諦めがつきましたよ」
血継魔術科にまともな先輩は居ない。来年まともな後輩が入ってきたら仲良くしようと決めている。バカバカしい騒ぎでまた疲れそうだ、と気合を入れて頼んだ学食で一番高いスペシャル定食に再び箸を向けた。
●
教室棟から少し離れた静かな場所に東京魔術大学の図書館は存在している。魔術に関する文献なら国有数の文献数を誇る為か、兎に角敷地が広い。大学内で唯一落ち着けるスペースとしてよく活用する美鈴も未だに全部周れてはいない。
三限の授業を終えて嫌々図書館の前に来ると、人がかなり多い事に気づいた。簡易テントみたいなものまで張られており、受付と札まで貼ってある。その一角に八代と真央が立っていた。地面には縄でぐるぐる巻きにされて転がされている清春の姿もある。
「お疲れ様です。在原先輩も転がっていらっしゃるとは思いませんでした」
「こいつらに拉致られたんだよ! なぁ、美鈴。オレと組めよ。解放してくれたら十万払って──ぐあああああああッ!?」
八代と真央にぐりぐりと踏まれて清春の悶絶した声が響き渡る。流星寮の面々が「俺もヤられてぇ」「あんなのご褒美じゃねぇか」とどよめいている。とても煩かった。
「美鈴ちゃん」
「裏切ったらわかってるよな?」
八代と真央がニコニコ笑って清春を踏みつけながら言ってくるのにうすら寒いものを感じた美鈴は清春を見捨てる事にした。。清春から十万貰うか、八代と真央を敵に回すか。後者の方がずっと面倒くさい。清春にげしげしと蹴りをくらわせ自分も仲間であると証明する。
「これは何の集まりなんですか?」
「これから東魔大に作られたダンジョン探索のアルバイトに参加する。皆でチーム組んで、潜ってお宝ゲットしたら魔導力科の前原が買い取ってくれるって流れだ」
「ダンジョンって正気ですか? 頭おかしいんですか?」
「それがこの大学はあるのよ。OBに村松さんって魔導力の権威みたいな人が居てね。その人が在学中に作ったダンジョンには色んな魔導具が隠してあってさ。魔導力科の伝統で何年も探索し続けてるのよ。それで、先週新しいダンジョンの入り口が見つかってね。今日はその調査隊が組まれてるってわけ」
「前衛に僕と美鈴。後方支援は千ヶ崎と清春。血継魔術師が四人も居れば、魔導具沢山集めて一攫千金も夢じゃねぇ。お金はきっちり四等分するから安心しろ。受付登録もしておいたから」
「はぁ……。それで呼ばれたって事ですね」
美晴の話とも合う。この大学に入学して2か月目。ようやく魔術大学らしい事が起きていると心の中で少しだけ喜んだ。割と乗り気になってきた美鈴は、それを表には出さずに「行きます」と短く了承した。それを見抜いている八代と真央は特に弄ったりはせずににっこりと笑う。美鈴程の接近戦に長けた魔術師が居るのは自分達にとっても楽だからだ。最初から絶対に逃がさないと決めている。
「美鈴! お前は騙されて──ぐうっ!?」
真央の蹴りが股間に入って悶絶した清春が黙った。
八代が無言で清春を担ぐと、集団が移動し始めた。「中では静かに」と前原から注意喚起がされて図書館の中に入る。いつもの図書館にしか見えない。人数は三十人程だろうか。新入生は訝しげな顔をしているが、上級生は知っているのか反応しない。先頭の前原が奥の書庫に辿り着くと、本を入れ替え始めた。すると、魔術印が書庫を覆うように展開した。
「〇グワーツ見てぇだな」
誰かが呟いた。八代と真央は美鈴の反応をチェックする。
いつもは顔のパーツ全てを使って興味無さそうな顔をしているのに、仏頂面の中で目だけが輝いているのを隠して切れていない。可愛い奴だな、と2人は心の中で笑うと魔術印に触れて中へと入る。
魔導力によって維持された転移魔術が発動し、一瞬意識がブれた後は広大な空間の中に居た。魔導力科の生徒達はてきぱきと持ってきた荷物を解いて設営を開始し始めた。本物のダンジョンのような薄暗い建物だが、魔導力で作られたであろう光源が随所に灯っている。
「はいはい。それでは新発見ダンジョンの探索を始めますね。必ず、4人以上で行動してください! 生存率にも関わってきます! 保険の加入もまだここで受け付けてますよ!」
魔導力科では完全にノウハウが構築されているようだ。商才逞しいなと美鈴は感じる。
「前原君とこはアフターケアも手厚くてで信頼できるからな。他にもこういう調査やってるグループもあるんだけど、必ず僕か流星寮の誰かに相談しなよ。モグリもいるし」
「伊庭先輩達は結構参加してるんですか?」
「山崎田所齋藤に連れられてな。あの三人はプロの域だぞ。ほれ、あっち見てみな」
八代の指さした先では流星寮バカ三人組が囲まれていた。「俺達と組もう」とか「私達と一緒に」とか。異様な光景であった。しかし三人はちょっとキメ顔で「申し訳ない。先約がある」等と気取りながら断り続け、美鈴達の方へとやってきた。そして、真央の前で膝をつき、騎士のように恭しく頭を下げる。
「我々三人、命を賭してお守り致します」
「えー!? ありがとう! 嬉しいな! いつもありがとうね!」
ちょっと大げさに喜ぶ真央に手を握られてバカ三人組は天にも昇るかの如く浮かれ始めていた。美鈴がジトっとした目で見ているとようやく存在に気づいたようで、少しだけ憐れまれた目で見て来た。
「聞いたぞ。八代の部屋を爆破したんだってな」
「バカだなぁ」
「可哀想だから俺達が色々教えてやるよ」
バカ軍団に憐れまれるのが悔しい。だが、現実に起きてしまった事は覆せないのは美鈴もわかっている。怒りを何とか抑えて引き攣った笑顔で「ありがとうございます」とだけ返事をしておいた。と、そんなやり取りの横ではぐるぐる巻きにされていた清春がようやく八代に解放されていた。
「もう逃げられねぇからな」
「うっせぇバーカ! テメーらみてぇなバカ共と組んでられっか。千ヶ崎真央よりヤれる女と組むに決まってんだろ」
ぷんすかと清春が怒りながら去っていく。誰もそれを止めない。美鈴が「いいんですか?」と聞くと全員が「今に見てな」みたいな顔をして生暖かい目で見守っている。
清春がにこやかに手を振って女子生徒に近づいて行く。歓迎ムードなのは女子だけだ。男達が露骨にムっとした顔を作った。次に他の女が別のグループからやってきて、清春に凄い剣幕で捲し立てる。それを最初に声をかけた女がかばうものだから小競り合いが始まった。そこに女を守るべく男達が参戦し、二つのグループが揉め始め最終的に清春は「失せろ」と、両グループの男達から叩きだされてとぼとぼと美鈴達の方へと戻って来た。
「なはははははははっ! 速攻パーティー追放されてやがんの! しかも自業自得で!」
「しかも有能なのに性格ゴミ過ぎて追放されてんのクソ笑えるんだけど!」
「テンプレはちゃんと守った方がいいぞ! 読者が離れちゃうからな!」
「血継魔術師なのに追放されてんのアンタぐらいのもんよ」
真央や八代達が清春の背中をバッシバシ叩きながら囃し立てる。本人は怒りと屈辱でプルプル震えている。
「まーまー。気を取り直して探索始めようぜ。ドクター村松の魔導具が無くなっちまう」
山崎の言葉でようやく清春弄りが止んで一行はダンジョンの奥へと歩き始めた。既に先を行っているグループも多い。分かれ道も沢山あり迷路のようで、これは探索に骨が折れるなと美鈴は感じた。情報収集担当の田所がどこをどう曲がったかをいちいち印をつけて紙にもメモをしている。手あたり次第進んでいる他の学生達とは考え方から違った。
「何か聞こえるな……」
奥の方から何かがぶつかる音や人の大声が聞こえる。足を進めた先では広い空間で学生達とロボットが戦っていた。下半身がキャタピラで上半身は人型の黒いロボットである。頭部の単眼ユニットが忙しなく動いてターゲットの位置を記憶している。
「"魔導"アーマーまでいるか。上級ダンジョンだな。……これは、かなりのお宝が眠ってそうだ」
「何なんですかあれ?」
「ドクター村松最大の発明品だ。簡単に言えば魔導力製のガードマシーンだ。重要拠点の警備ぐらいにしか配備されてないから知らない人間も多いんだ」
「あれ、強いから気をつけろよ。捕まったら魔力吸われて動けなくされるからな」
田所が神妙な顔で言う。八代も戦った事があるらしく警戒感を強めていた。魔導アーマーは強力な兵器の側面もある。ダンジョンに配備されているものは基本的に鎮圧が目的なので殺傷能力は低い。それでも並みの魔術師では対抗できないぐらいの性能はあり、実際に戦っていた男子学生が目の前でアーマーから伸びて来た触手に捕まった。
「うわああああああああああああああ!?」
魔術印を展開して逃げようとしたが魔力が吸われているらしく上手く展開できなかった。男子生徒は魔導アーマーの触手によって拘束され、服をビリビリと破られて悲鳴を上げた。そのままポイっと投げ捨てられ男子生徒は股間を抑えて逃げていく。
「やべぇな……。普通のダンジョンじゃねぇ。ここは、エロ・トラップ・ダンジョンだ」
八代が神妙な顔でそう呟き、結局そういうオチかよと美鈴はげんなりとした顔を作った。
面白かったらブクマ評価等お願いします。
Twitterで #東魔大どうでもいい話 で検索すると
私をフォローせずに東魔大のクソどうでも良い話が読めます。
よければどうぞ。




