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国立大学法人東京魔術大学 ─血継魔術科─  作者: おめがじょん


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55/78

前科55:ただ一人、君という素晴らしき凡才の為に




 天才の中でも、自分が一番劣っていると千ヶ崎真央は常々思っていた。

 同級生に"あの支配の魔剣"と日本初の氷結魔術が居るのだ。しかも一学年下には総理大臣の孫まで入ってきている。失われた魔術の再来だ等と持ち上げられて、親の薦めでこの大学に入った自分は現にこの戦いでも、特に目立った活躍はない。


「真央、上!」


 飛ばされた先、清麻呂と清春と共に何とか着地した先の相手は不死川一人だ。

 足止めという事はすぐにわかった。不死川の強さは先程よく身に染みてわかっている。まともに相手できるのは清麻呂ぐらいだ。彼が引き付けている内に、清春と共に梢子や八代達を探そうとしているが、さっきからずっと上手くいかない。

 上空から降ってきた炎を、風を起こして自身を吹っ飛ばして避ける。その隙に清春が抜けようとするも、白い炎の壁が邪魔をする。清春の氷では突破できないのだ。不死川はふらふらと炎となり姿を隠しては実体化したりと翻弄してくるので、清麻呂も狙いを定める事はできない。


「天才ってこういう人なんだよね」


 どこか感傷じみた呟きは一瞬の油断を伴った。

 白い炎が地面から吹きあがり、一瞬にして真央の周囲が囲まれた。距離を取り過ぎてしまったのだ。掠った白い炎が真央の指の傷口を消していく。それは血継魔術が使えなくなると同義だった。清麻呂が遠くから魔銃を構えるが撃てない。不死川の炎に打ち勝つ威力で放てば真央とてただでは済まないからだ。


「君が一番厄介だからね」


 不死川の声が聞こえたと同時、炎が形となって実体が現れた。

 真央の一瞬の油断を見逃さず確実に仕留められる距離だ。血継魔術は発動しない。ここまでか──と思った時、氷柱が飛んできて真央の右肩を斬り裂く。同時、清春が何時の間にか接近していた。氷で炎の直撃を避けながら、だが体の複数が火傷をしている。不死川の一瞬の迷い。だが真央を倒す方が先だと決めた不死川の拳が炎に染まる。


「マロ先輩! 撃てェ!」


 清春が吼える。同時、その意志に何かがあると感じた清麻呂は魔銃の引き金を引いた。

 圧倒的な破壊魔術の弾丸が迫る。不死川はそこで攻撃を辞めて再び炎と同化し、回避行動へと入った。後はもう受け止めるしかない。清春が氷の壁を作って清麻呂の弾丸を受け止めようとする。だが、威力が凄まじく止まらない。そこでようやく真央も風の壁を作ってそれで清麻呂の弾丸が霧散した。真央が脱落しなかったものの、受け止めきれなかった破壊の残滓は清春の体を傷つけていた。

 

「ぼさっとしてんな」


「ごめん」


 清春が助けに来るとは思わなかった。こういうチームプレイをする人間だとは思っていなかった。少なくとも昨年はそういう人間でなかったのだ。

 

「負けたら、全部終わりだぞ。オレ達のここまで狂っちまった人生、なんだったんだってなっちまう」


 清春が真央の方を向かずにそう言った。不死川を警戒しているのだ。

 だが、その言葉だけで清春が何を言いたいのかはわかった。自分自身も似たようなものだからである。血継魔術なんて要らなかった。普通の人生を歩みたかった。それを失った対価として得たのが、人の努力の限界の先の今の立ち位置である。東京魔術大学に入る為に死ぬ程訓練してきた魔術師達よりも上の階層だ。それが普通の魔術師に負けてしまった時、残る物は何なのだろうか。真央は八代達のお陰で何とかなったが、母を失った清春はどれ程の絶望に苛まれるのだろうか。


「アンタの言ってる事少しだけわかるよ。全部に共感してあげられるわけじゃないけど」


 真央の言葉に清春は返事をしなかった。気持ちを汲んで欲しいわけではない。一緒に戦って欲しいだけだ。久しぶりに出会う、格上の相手。清春はそれでも負けたくないのだ。才能無き者達が、自分より上に行くのが許せないのだ。

 

「二人とも、大丈夫か?」


 清麻呂も近づいてきた。同時、【西園寺美鈴、脱落】という表示が空に表示された。相手の強さを理解した三人に特に動揺はない。不死川、ノエルというこちらに匹敵する才能を魔術科は出してきたのだ。下手を打てば負けるのはこちらであると共通の認識を持っている。


「意外だな。マロ先輩、もっとどうしよう~みたいな感じになってると思ったけど」


「仕方ない。今年は相手が強い。ここまで追いつめられると、流石の俺でも吹っ切れるさ」


 すぐに自信を無くしナーバスに陥ってどんどん弱体化していく何時もの清麻呂の姿はない。どこか楽しげに煙草を咥えると魔術印で火をつけて紫煙を吐いた。


「今頃ネットじゃ叩かれているだろうな。今期の血継魔術科はハズレだとかなんだとか。──マロ先輩、就活大丈夫なの?」


「良いイメージは無いだろうな。でも、今はそれでいい。最後の年に、こんな戦いが出来た事を嬉しく思う」


 織田清麻呂の弱点であるメンタルの弱さが消えてなくなっていた。

 最強の敵を前にして思考がクリアになり、将来への不安も、清麻呂の目標も、全部頭の隅において戦いに集中する事ができている。こうなった時の清麻呂の頼もしさに真央も清春も安堵の表情を作った。血継魔術科最強が伊達じゃない事はこれまでの付き合いでよくわかっている。


「じゃあ、反撃開始といきますか」


 清春が周囲一帯を凍らせ始めた。それに対応するようにして真央が強い嵐ではなく霧雨のような雨を降らせた。嵐のような雨を降らせても不死川の炎が止められないのはもうわかった。ならば、清春のサポートに回った方が効果的だと判断したのだ。清春の氷の展開速度がこれにより上がった。建物も何もかも凍らせていく清春は一つの強い熱源を感じ取った。目線でそれを知らせるが攻撃はしない。


「まずは、()()()()()()()()()


 そう短く呟くと、真央がその意図を組んで三人の体を風を起こして空へと押し上げた。

 2人が空中姿勢をとったと確認すると、真央だけは更に風を起こして舞い上がる。そのまま戦闘区域を抜けようとするが炎の壁が吹きあがって阻害しようとする。そこでようやく、清春が先程熱源を探知したビルを凍らせ始めた。巨大な氷柱が建物を突き破り、これはたまらないと炎の塊がビルから飛び出した。不死川である。炎を噴出し、高速で空を移動しながら清麻呂の銃弾や氷柱の嵐をかわしていく。


「行け──っ!」


 その間にも真央は炎の隙間を縫って包囲網を抜けようとするがしつこく炎は前面に出続けている。

 清麻呂達の攻撃を避けながら炎の壁を展開するのは至難の業だ。何時かは突破されると判断した不死川はようやく攻撃へと転じる事にした。血継魔術科に連携も何もなかった。ただ己の才覚のみに頼って殺しに来ていた連中の攻撃を捌くのは容易かったが、今の流れは非常に良くない。


(どれぐらい時間を稼げるか……)


 不死川は移動だけでは避けられずに炎を展開して全てを焼き尽くす。彼ら相手に防御魔術はほとんど意味がない。そこで、【伊庭八代:脱落】【山崎軍司:脱落】の表示が出た。伊庭八代を落とせたのは大きい。血継魔術科にも流石に動揺が広がっていた。どうしようもないバカだが、本気になった時の強さは侮れないものがあるからだ。山崎がきっと命を賭して戦い続けたのが見えてなくてもわかる。そういう男だと知っている。だから、不死川もそれに応えようと力を出す。


「っふ!」


 白い炎を高速射出。炎の壁を避ける事に集中していた真央に当たると、血継魔術の効果が切れて三人が落下を始めた。天候魔術を再発動して制御を取り戻すまでの時間を稼ぐつもりであったが、空中に氷の道が生まれていた。その上を滑るように清麻呂と清春が不死川目掛けて迫る。真央が霧雨を降らせているので、氷が作りやすいのだ。


「マロ先輩。オレ、一個思いついたんだけど良い?」


「好きにしろ」


 清春が魔銃に手を添えて氷結魔術を発動させた。魔銃は清麻呂の魔術を装填して何倍にも威力を増幅して放つ魔術である。そこに血継魔術が装填された時の威力は予想もつかない。氷結魔術を装填するよう魔銃に命じ、その行為が完了すると清麻呂は躊躇いなく引き金を引いた。轟音と共に、発射された氷結魔術は不死川が展開した質量ある炎の壁に激突すると、その全てを凍らせた。炎が凍るという現実にはあり得ない現象が周囲を蝕み、その威力は不死川さえも飲みこんだ。ギリギリ回避し損ねた左腕が凍ってしまっている。


「血継魔術の弾丸とはまた厳しい……」


 不死川という強大な相手は、やる気のなかった血継魔術科のカンフル剤となっていた。

 ルーティーンのように才能だけで叩き潰すような時間から脱却し、全員が勝ちを求め連携まで取られては流石の不死川もダメージを負う。白い炎の翼を全力展開し、周囲一帯に嵐のように解き放つ。次いで、巨大な炎の拳を清麻呂達に叩きつけると空高く跳び上がった──が、


(飛べない──っ!?)

 

 空気の壁が不死川の行く手を阻む。上昇できないと気づいた時には、不可視の風の弾丸が降り注いでいた。魔銃に装填されなければ己の炎で全てを焼き尽くせる。貰ったのは数発で腕やわき腹に痛みが走るが、白の癒しの炎が全てをなかった事にした。真央はそれでも風の弾丸や、稲妻を不死川目掛けて浴びせかけるがその全てが捌かれてしまい、手詰まり状態であった。


(違和感が凄い……)


 不死川が強いのは知っている。自分では勝てるレベルではない事もわかっている。

 だが、天候魔術を使う度に違和感が生まれていた。この魔術の使い方では意味がないと頭の中で分かっていながら撃っている感覚があった。何かが違う。絶対に勝てない強敵を前にして、まるで天候魔術自体が語りかけてくるような感じだ。──()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 

「──まだ諦めてなさそうだね」


「はい。何か、天候魔術がまだいけるぞ! って言ってる感じがします」


「だから君が一番厄介なんだよ」


 先程の不死川の発言に嘘はない。──そもそも、天候魔術は世間のイメージとは違い、そこまで強力な魔術ではないのだ。古では巫女や、修道女、神に仕える女性によく発現した魔術というのが不死川が古の文献で調べた天候魔術の実情だ。空を飛び、風の弾丸を放ち、稲妻を叩きつける程の力はない。だからこそその違和感に不死川はこう結論付けている。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 誰かが意図的に真央の魔術を天候魔術と定義付け、真央もその通りに魔術を使っているだけに過ぎないと予想している。変な所で生真面目で魔術師らしくない真央の性格もある。それが、"覚醒"が近くなった今ようやく違和感として意識上まで上がってきている。不死川自身も血継魔術が覚醒に近づいた時、同じような感覚を持っていたからよくわかる。ここで覚醒されたら、もう彼女は止められない。そう認識した不死川は全力で真央を倒すと決めた。


「生まれて初めて、全力を出すよ」


 不死川の周囲の炎が一段と激しく燃え盛る。槍、剣、斧、鳥、犬。様々な形に炎の姿が変わり、それはすぐさま優に100を超えた。清麻呂達に邪魔をされては敵わないとその内の半分が、清麻呂達目掛けて落下していった。そして残り半分は真央の方を向く。銃口を大量に向けられている気分だが、不思議と怖くはなかった。高速で追尾してくる炎の攻撃を空を飛んでかわしていく。


(動き方は、間違っていない……)


 移動の速度にも限界がある。身体強化魔術を使ってもかかる負荷の軽減には限界がある。

 なら次にすべきは、防御。避け切れない分をどうするか。雨で消えない。風で消えない。ならば──


(来ないで──っ!)


 道を断つ。先程不死川を風の層で飛べなくしたように。層を作って消すのではなく推進力を無くす。

 魔力が抜けて世界が意のままに変わっていく感覚。出鱈目な自然現象は、これまでも起こしてきた。最後は、攻撃するだけ。雷も水も風も焼き尽くされてしまう。どうすればいいのだろう。また違和感が襲ってくる。そこで、初めて魔術を使った時の事が脳裏をよぎった。

 


 ──どうか、雨がやみますように──



 ただ祈った。両親の為に。集中しきった真央の口から無意識に言葉が漏れた。


「──()()()()()()!」 


 ごそっと魔力が抜け落ちた感覚と共に、不死川の纏っていた全ての炎が何の前触れもなく消えた。

 真央自身も何故そうなったのかが理解できなかったし、風の制御も失ってしまい不死川と共に落下していく。何が起きたかの把握よりも制御を取り戻す事を優先とし、地上寸前の所で何とか風を起こして着地する。不死川もギリギリで炎を取り戻したようだ。一瞬、お互い驚きの目で見つめ合い。先に動揺から抜け出した不死川が再び炎の拳を振り上げた。


()()()()()。──まだ、完全な覚醒には至っていない)


 不死川が予想した真央の魔術の正体がその通りであるなら負けていただろう。これで終わりだと、拳を振り上げた時だった。銃声と共に、己の拳が凍らされた。清麻呂と清春の氷結魔術の弾丸である。炎を繰り出すが、弾丸以外にも清春の氷の浸食が始まり動きが止められていく。

 

「──ッ!」


「やっと捕まえたぜ!」


 一瞬の油断を突かれて動きを止められてしまった。これはもう勝てない──不死川が諦めかけた時だった。【菊姫梢子、脱落】の文字が見えた。諦めかけていた心に、再び炎のような激情が灯る。久我桜子は、自分を貫いたのだと。仲間達も、それに応えたのだと。凡才が策を用いて菊姫梢子に勝ったという事実に、とても高揚し、感動し、灯の心が震えあがる。

 

「おおおおおおおおおおッッ!」


 不死川灯は吼えた。大学入学して以来叫ぶ事なんかなかった。

 誰もが自分を騙して利用しようとする中、正々堂々と如月ノエルを入学させてまで向かって来た久我桜子へ敬意を込めて、あらん限りの炎を噴出する。

 

「──見事だッ!」


 血継魔術科の誰でもない、ただ一人の凡才に向けて、最大級の賛辞を異質な天才は口に出して送った。全ての炎を唯一動く右拳に集中させる。自身の身を守る為でなく、最大の敵を排除する為に。


「真央ッ! 避けろ──ッ!」


 異変に気が付いた清春が叫んだ時にはもう遅く、不死川灯は全身全霊の力と魔力を込めて、莫大な炎が発現した右拳を真央目掛けて振り抜いた。

 

 

 




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大学アンソロ仕上げて燃え尽きていました。

8月は投稿頑張りたいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 八代ーーーー
[気になる点] 血継魔術科って一人足りないんだよな... いたらもうちょい有利でしたか? [一言] みんな熱いな...! しかしこれで学生レベルってプロは一体....
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