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国立大学法人東京魔術大学 ─血継魔術科─  作者: おめがじょん


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前科54:かつて天才だった私達



「伊庭家の護衛部隊の子も随分と無茶したな。──確かにああまでしないと、本気になった八代は止められないが」


「結局、伊庭君は支配の魔剣の出力を解放しなかったじゃないですか。本気では無いでしょう?」


「樋田先生。──君は、凪朝のようになった八代を見たいのか?」


 嘉納と会話をしていて樋田はしまった、と口を噤んだ。 

 明らかに失言だったと己を恥じる。支配の魔剣と同化した凪朝はまるで別人だった事を思いだす。樋田自身も何があったのかは細部までは知らない。横に居る嘉納は友達であり、最後まで一緒に居たので思い入れが強いのは知っていた。少し気まずくなったのを察したのか、嘉納は話題を変えた。


「青の魔剣のレプリカか。四大魔剣も懐かしいね。支配の魔剣。封印の魔剣。死の魔剣。命の魔剣が当時の四大魔剣だったね」


 この四大魔剣を複製したものが伊庭小次郎の作った四本の魔剣である。

 死の魔剣のレプリカが青の魔剣。封印の魔剣のレプリカが銀の魔剣。支配の魔剣のレプリカが白の魔剣。命の魔剣のレプリカが緋の魔剣だ。青の魔剣と緋の魔剣以外のレプリカ魔剣は前大戦で全て壊れてしまい、この世から無くなっていたと樋田は記憶していた。


「現在では、支配の魔剣。戦争の魔剣。死の魔剣。飢餓の魔剣の四本ですね。──飢餓の魔剣は表に全く出てきませんがね」


「十年前の"京都事変"で存在が確認されて以降、音沙汰無しだからね。大方、京魔大が隠し通しているのだろうけど」


「京魔大が魔剣ですか。時代も変わったものです」

 

 西は圧倒的に魔刀勢力が強い。

 京都魔術大学で魔剣を使う血継魔術師は歴史を振り返ってもいなかった筈であった。そのような事もあって、同じ血継魔術科が存在する東魔大と京魔大は昔から折り合いが悪く、お互いがお互いの情報をあまり知らない。


「時代も変わるさ。魔導力の普及が進み、魔術師の在り方も変わってきた。──まさか、魔闘術を使える子まで出てくるとはね」


 やはり来たか、と樋田は表情から笑みを消した。

 嘉納の魔闘術を学生時代から見て来た樋田は、自分なりの解釈を颯太に教えたのだ。それが気に入らないのであろうと予測していた。


「素晴らしい子だと思う。清麻呂でも出来ない魔力の変換を彼は出来ている。ただ、血継魔術科の誰にも及ばない彼の魔力量では、あまりに継戦能力が無さ過ぎやしないか」


 魔闘術は魔力の消費が普通の魔術に比べて激しい。

 だからこそ嘉納は、膨大な魔力を持つ血継魔術科の生徒にのみ自身で編み出した魔術を伝えているのだ。清麻呂は一時間以上魔闘術を使える魔力量を持っているが、颯太の魔力量では三分持てば御の字といった所だと嘉納は見ている。


「それでも彼はその道を選択しました。三分だけでもいい、"貴方達"と並びたいとね」


「何が彼をそこまで突き動かすんだ。君も教育者なら他の道を──」


「彼なりのプライドですよ。あの子は、私たちが血継魔術師(選ばれた天才)ではないと烙印を押した子供なのですから。貴方が落とした子ですよ? 覚えていましたか?」


「いや……それは……」

 

 血継魔術師は希少ではあるが、それでも微弱ながら使える子供がいる。だが、東魔大が欲しいのは強力な血継魔術師だ。その全てを入学させていてはブランドが保てない。毎年十人程は受験してくるが、在籍している今の面子のような一目で強力な魔術師以外はほぼ合格者は出ないのが現状である。


「彼のプライドを愚かと捉えるかどうかは、この戦いの決着がついてからでも遅くないと思いますよ」







 


 







 菊姫梢子と久我桜子の戦いは、ほぼ一方的であった。

 入り組んだ工場地帯。菊姫梢子は悠然と歩きながら周囲に魔術の嵐を巻き起こしていた。熱線を放つ魔術。衝撃波を放つ魔術。風を起こす魔術。火球を放つ魔術、等々人を攻撃する事に特化した低級魔術ばかりだ。だが、実際の威力は凄まじい。建物家屋は吹き飛び、梢子の周囲は瓦礫の山が築かれ燃え盛っている。


「おーい。とっとと終わらせようや」


 梢子の声が響く。桜子はずっと防戦一方で逃げ回っているだけだ。

 瓦礫の隙間で息をひそめて梢子の動きを観察する。──顎を突き上げた傲岸不遜な態度だが、これ程の実力ならば正しい姿である。暴発魔術の恐ろしい部分は、低級魔術でも上級魔術並みの威力が出てしまう所だ。梢子が一発「火球を放つ魔術」を撃てば、桜子は「劫火を放つ魔術」クラスで応戦しなければならないのだ。


(まともにやっても勝ち目はない……)


 耐えるしかない。ノエルが来てくれたらまだ勝機はある。

 不死川はきっと耐えられないかもしれない。本気になった血継魔術師三人相手は彼でも厳しいだろう。伊庭八代が本気を出した時点で負けも確定する。勝とうだなんて夢のような話だが、それでも桜子は諦めていない。1%でも勝ちがあるのならそれに縋ってやるつもりだ。


「出てこいっつってんだよッ!」


 地面が急に競り上がった。地面が大きく動き隆起していく。大地震のような衝撃と空中への浮遊感。受け身をとって態勢を立て直した時、遠くにいる梢子と目が合った。


「みーっけ!」


 嵐のような数の火球が桜子目掛けて飛んできた。魔術印の展開数が常人の比ではない。

 咄嗟に回転魔術の印を組んで火球を全て弾き飛ばした。火球達は弧を描くように回転してあらぬ方向へと吹き飛んでいく。


「概念魔術かッ! 面白ぇじゃん!」


 梢子が笑いながら叫ぶのが聞こえた。まだ十回も見せていないのに見破られてしまった。回転魔術は少し特殊な魔術だ。印に触れた全ての物体を回転させる概念的な魔術である。桜子が海外実習へ行った時に見つけた古の魔術印を、三年間かけて実用的にしたとっておきの魔術だった。


「数学の式は覚えられないくせに、そういう事だけはわかるのね」


「そもそも数字の計算の癖に、英語が出てくる時点であの教科は気に入らねぇんだ」


「それが算数と数学の違いよ」


 こんな馬鹿ではあるが、無数の魔術印を記憶できる脳はあるのがとても腹立たしい。口喧嘩では勝てても魔術としてはボロ負けなのも気に入らない。桜子の軽口に梢子はイラっと来たようで嗜虐的に口を歪めた。


「……ま、その軽口もこれで終わりだ。じゃあな」


 梢子の背後に複数の魔術印が展開し、火や風の攻撃が再び飛んできた。身を守る瓦礫は近くにない。ここは正面から戦うしかないと桜子は複数の回転魔術印を展開した。

 

「逃げてるだけじゃ終わらねぇぞォ!」


 再度追撃の魔術印を展開しようとした梢子だが、桜子の回転魔術に吹き飛ばされた炎や風の塊が回転しながらこちらへ向かってくるのが見えた。弧を描く軌道で梢子目掛けて飛んでくる魔術を寸前の所で防御魔術を展開して防ぐ。


「うぉっ!?」


 ダメージでも入れば儲けものだったが、そう上手くはいかない。桜子は梢子の虚をついて近くにあったまだ壊されていない工場へと走り出す。そしてその途中「西園寺美鈴:脱落」のメッセージが流れた。颯太達がやってくれたと気づいた桜子は拳を強く握った。


「嘘だろ!? 美鈴が負けンのかよ……!」


 梢子の目が本気になった。身体強化魔術を使って桜子に追いつかんと迫る。──ノエルと合流されるのが厄介なのだ。先程の歌でノエルが梢子にとっての天敵だと認識した。魔術をジャミングされるだけでなく、最後は完全に制御を奪われていたのだ。自身の強力過ぎる魔術が制御を奪われてはひとたまりもない。工場へ逃げ込んだ桜子を建物ごと吹っ飛ばしても良かったが、流石にそれ程の威力の魔術の制御を奪われては梢子も敵わないのだ。


「出てこいやコラァ!」


 工場内に入ると静けさが空間を満たした。薄暗く機材が多くあって桜子の姿は視認できない。梢子も流石に警戒しながら歩いて行く。そして、周囲に魔術印が展開された。回転魔術だ。鉄パイプやら工業機材が梢子目掛けて回転しながら飛んできた。


「ぶっ飛べ!」


 衝撃波を放つ魔術と物体を斬り裂く魔術を展開し全てを斬り飛ばした。

 それでも波状攻撃のように魔術印が展開し、機材が梢子目掛けて飛んでいくが致命打はない。梢子の魔術はそれ程までに攻撃力が高い。周囲のものを吹き飛ばし、一瞬の静寂の後に背後で物音が聞こえた。振り向こうとした時に桜子の姿が目の前を横切ってまた機材の陰へと消えた。そして


「──────!」


 背後からノエルの歌が聞こえた。一瞬で反応した梢子は背後を振り返り、衝撃波を放つ魔術を全集中で展開した。強化された複数の魔術が周囲を破壊して気づいた。ジャミングも、制御も奪われていないと。そして、奥の方では吹き飛ばされた衝撃でスマホが浮き上がっているのが見えた。


「──そう。ノエルの歌の録音よ」


 梢子が振り返った時には桜子がもう既に眼前まで迫っていた。録画したノエルの歌を再生しながら、どさくさ紛れにスマホを梢子の背後に投げたのだ。ノエルを一番警戒していた梢子の虚をついた形である。

 

()った──!)


 回転魔術を拳に展開。梢子のボディーに叩きつけぐるんと高速で一回転して吹き飛んでいく。今まで入った事のない会心の一撃。高校時代から挑んで一度も与えられなかった致命的な一撃を、六年の歳月を経てようやく当てる事が出来た。梢子に勝てる──と、桜子が選択したのは追撃。もう一発叩きこめば勝てると踏み込んだ瞬間、倒れた梢子の右手に魔術印が見えた。


「────ッッ!?」


 呼吸が止まる程の衝撃。骨が嫌な音を立てたのが聞こえた。梢子から放たれたのは「衝撃波を放つ魔術」だ。基礎的な魔術であるが、暴発魔術となった状態で撃たれたそれは桜子の体を容易に破壊した。桜子もまた体を吹っ飛ばされて痛みに身を丸くし、荒い呼吸をする。何とか視線だけは梢子に向けていると、ゆっくりと立ち上がったのが見えた。


「……痛ってぇ。マジで死ぬかと思った」


 手入れされた金髪が赤い血に染まっていた。額がぱっくりと割れたらしく出血量も酷い。桜子もやせ我慢で立ち上がって咳をする。手に血がついていた。内臓をやられてしまったようだと認識した。改めて梢子を見据える。傲岸不遜な態度は消え、真剣な目つきだった。だが、ガクンと膝が折れて転びそうになってもいた。


「満身創痍じゃない。強がりさんね」


「お互い様だろ。立ってるのだってやっとの癖に」


 お互い得意とする魔術印が同時に展開した。回転魔術と火球がせめぎ合い吹き飛んでいく。

 同時に梢子は背後に巨大な魔術印を、桜子は足元に魔術印を展開し始めた。お互いそれを描きつつも牽制の攻撃魔術の展開も忘れない。これが古から続く魔術師同士の基本的な戦い方だ。相手の邪魔をしつつ、どちらが先に必殺の魔術印を展開するかが勝負の決め手である。


「──でもっ!」


 梢子が攻撃魔術の展開を辞めた。桜子が地面に展開した魔術印に被せるように見た事のない魔術印を展開していく。何が起きるのかがわからない。魔術印の完成を急ぎ発動させる、が──地面が一瞬ブれただけで終わった。不発ではない。確かに発動した感覚があった。だとすれば──


「逆回転……っ!」


「アタシに見せすぎだぜ。構成さえわかっちまえばこっちのもんだ」


 この短時間で桜子が三年間鍛え続けた魔術が完全に対策を施されてしまった。桜子が必死に最適化をかけて短時間展開で高威力に磨きをかけてきた回転魔術。梢子が新たに作った逆回転の簡素な魔術印でその全てが無効化されたのだ。暴発魔術の威力の高さと梢子の魔術への理解の高さと発動タイミングの完璧さが成せる正に"選ばれた天才"にしかできない対策だった。桜子自身も真似できない。


(あんなに頑張ったのに……)


 三年間の努力が易々と天才によって崩される感覚。絶対に勝てないという絶望感。桜子の心がへし折れそうになった。どれだけ策を練ろうとも天才の前では無意味という感情が心を埋め尽くしていく。絶望に膝をつきかけそうになった時、桜子と梢子の少しだけ上の空間に表示枠が現れた。

 そこには「伊庭八代:脱落」「山崎軍司:脱落」と表示されている。


「八代もかよ!?」


「山崎君……ッ!」


 とても懐いてくれた後輩だった。愛の告白も受けた。

 自分にはやる事があるので想いには答えられなかったが、それでも彼は戦い抜いてくれた。最高の結果を伴ってくれた。諦めかけていた己を恥じる。仲間達がやってくれたのだ。自身がやりたくて始めた事だ。勝負から降りる事なんて許さない。


「諦めない……っ!」


 梢子も余裕がなくなったのか攻撃が再開された。それを回転魔術ではじき返すが、すぐに魔術印に逆回転魔術を重ね掛けされ無効化されてしまう。ならば防御魔術。だが、梢子の魔術の前では致命傷を避けるのが関の山だ。衝撃と共に吹き飛ばされ、それでも桜子は立ち上がった。


「貴女みたいにはなれない」


 天才のままで在りたかった。梢子に出会うまでは自分も天才だと思っていた。

 何時か肩を並べてやると思っていた。だが、差は開いて行くばかり。そして、今日。菊姫梢子には一生勝てないと理解した。だからあがいてやる。一人でダメなら皆で。仲間が来るまで耐え続けてやると腹を括った。


「桜子……っ!」


 倒し切れない事に梢子も焦っていた。いたぶるのは趣味じゃない。だから心をへし折った筈だった。それでも久我桜子は諦めない。先程から何度吹き飛ばしても立ち上がっては攻撃を仕掛けてくる。魔術の精度が下がってるとはいえ、桜子を仕留めきれなかった事なんかなかった。──執念。それは梢子が今までの戦いで経験してこなかった事。誰もが暴発魔術の威力にひれ伏して来たからこそ、梢子は桜子に恐怖すら感じていた。


「──殺すしかねェか」


 舌打ちと共に確実に仕留める魔術印を展開し始めた。「大破壊魔術」およそ人に撃つ事を考慮されていない古の魔術だ。暴発状態でこんなものを撃てばくらった人間は欠片すら残らないだろう。だが、桜子を止めるにはこれしかないと梢子は覚悟を決めた。回転魔術といえど止められるものではない。破壊のエネルギーが魔術印から放たれた時だ。


「貴女の粘り勝ちです。桜子先輩」


 声と共に「大破壊魔術」が真っ二つに断たれ、左右に広がって破壊の限りを尽くしていく。

 断たれた地点に立っているのは魔剣を構えた女だ。その傍らには颯太の姿も見える。どうやら合流されてしまったようだと梢子は判断した。負けがほぼ確定してしまった。だけど、菊姫梢子は引かない。そういう女ではない。最後まで諦めの悪い桜子と似た性格の女だった。


「梢子さん……っ!」


 全員倒すべく全力で魔術印を展開する。ただひたすら相手を壊すだけの魔術だ。そこに美しい歌声が響き渡り、梢子の魔術印にノイズが走った。上手く展開できいない。だが、それでも梢子は諦めない。桜子達に向けて魔術印を展開し続けた。今回は完全に魔術科の策にまんまとはめられている。だが、実力はこちらが上なので、残った面子の為にギリギリまで相手の体力や魔術を削る気だ。


「まだこんな力がっ──!」


 全て発動できなくても、不完全な展開だったとしても数百の魔術印を展開したが、魔術が発動したのは数発のみだった。だが、暴発魔術の威力は凄まじい。桜子達も防御はとらなければならない。ノエルの歌の効果が更に強くなる。弁慶の魔剣が魔術を斬り裂く。颯太と桜子が距離を詰めてくる。それでも梢子は魔術印を展開し続け──


「やるじゃん」


 そういえば桜子が何時か自分をブッ倒すなんて言ってたなと、ふと思いだし力尽きた梢子は相手からの魔術による攻撃を正面から受け止め散っていった。




面白かったらブクマ評価等お願いします。

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※大学アンソロという企画に参加します。今月末が締め切りなので次回の更新は少しお待ちください。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >支配の魔剣は、四大魔剣のような、同じタイプの魔剣は支配できない 八代って普通に総長の魔剣(オリジナルの死の魔剣)を「前科3:魔術師は風俗にいけない」で支配していませんか? [一言] …
[良い点] おー勝ったか? 油断もあったと思うけどよくやるな。 それでも八代が本気を出したら勝てないのは共通認識なんだな
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