前科51:追いつめられた天才達
魔刀──それはかつて"侍"と呼ばれた血継魔術師達が練り上げた血継魔術である。
主を守る為に一本の刀を召喚し、生涯鍛え続ける事で成長させ、死後も主君を守る兵器として後の世に残り続ける日本特有の血継魔術である。一振り一振りに名前が存在し、名刀と呼ばれる程のものであれば億単位の金が現代でも動く代物だ。
「魔刀はやりにくいな──っ!」
支配の魔剣で支配できない事を八代は知っている。
相手が弁慶だと気づかないまま魔刀の斬撃を捌いているが、相手の方が剣術は上だし何より早い。美鈴を担いでいては分が悪すぎた。
「鈴木ちゃんも、魔剣の家の子なのに魔刀持ってるってのは随分と神経が太いね」
「それはどうも。良いものは良いものなので」
魔剣と魔刀の関係は古より諍いが続いている。
異国の血と混ざった魔剣と日本古来より伝わる魔刀の間には、幾つもの血で血を争うような抗争が絶えなかった。現代日本においても、東日本は東京を中心とした魔剣勢力。西日本は京都を中心とした魔刀勢力の真っ二つに割れているのだ。そんな事を思いだしつつ、軽口を叩いて弁慶と斬り結んでいると、魔刀が妖しく光った。
「真銘展開まで出来るのかよっ!?」
真銘展開とは血継魔術における覚醒と同義の意味を成す。
魔刀も使い手を選ぶのだ。自分を握っている人間を魔刀が使い手と認めた時、真の姿を現すのである。弁慶の魔刀の刀身の形が変わり、鋸のように細かく刃が現れ稲光が纏わりついている。
「──疾れ、"乱伊舎那天"」
弁慶の体が稲光となって消えた瞬間、八代の背後へと出現し斬りつけようとする──。が、
「後ろォ!」
担がれていた美鈴が先に気づいてギリギリの所で回避された。八代は反応が早く兎に角すばしっこい。再び雷光となって消えては攻撃を仕掛けてはいくが、細かい傷は負わせられるものの、致命打には中々ならない。威力は虹の魔剣の方が高いのだ。一発捕まったただけで終わるので、弁慶は連続攻撃の手を緩めない。だが、
「千ヶ崎ィ!」
弁慶が雷と化した瞬間、八代が吼えた。八代の右後方へと移動しようとしていた自身の体がぐぃっと引っ張られ制御不能状態に陥った。直後、鈍い痛みと共に何かに叩きつけられた。鋼色の筋肉が見え、山崎へとぶつかった事を認識する。天候魔術はその空間に気象条件を支配する魔術と認識していたが、雷と化した己すらも操作されてしまうとは予想外だった。
「ナイスだ!」
「そう思うなら早くこっちの支援に入ってよ!」
「アッハイ……」
山崎に押され気味だった真央から怒鳴られて、八代は虹の魔剣を構え魔術を込めていく。近接戦を得意とする山崎との相性は良くない。加えて距離を取って無差別に暴風を起こそうとしても仲間に被害がいってしまうので、真央は一人で戦う方が強いのだ。弁慶も山崎に受け止められてようやく態勢を立て直したが、八代が虹の魔剣に魔術を込める方が早かった。
「山崎君。──まだ諦めてないよね」
「ああ、まだいけるよ」
弁慶は鞘に魔刀を納め、抜刀術の構えを取った。虹の魔剣の光が2人へ迫る最中、言葉も無しにお互いの意図を組み合う。半年ぐらいの付き合いではあるが、それなりに密度の濃い訓練を行ってきた仲である。それを信じるしかない。魔刀も魔剣と一緒で魔術師に対抗するために生まれた魔術だ。魔術から生まれたものを全て斬る事ができる。
「──っふッ!」
真っすぐ正面から突っ込んで、魔刀を振るう。虹色の光が断たれて左右に爆散した。その爆散した煙の中を山崎は突っ込む。己の肉体は既に強化を重ね、ダメージは少なくしている。それでも虹の魔剣の威力は凄まじい。外皮が耐えきれず割れそうになっても正面から突っ込んで、真央を狙う。風の弾丸が襲い掛かるが気にせず走った。
(千ヶ崎さん……!)
入学式の日に一目惚れしてしまった。
大学で出会った仲間達も同様に一目惚れしていた。1年生の頃は千ヶ崎を巡って何度も醜い争いを繰り広げていた。だが、山崎は桜子に出会ってしまった。おっぱい目当てで誘われるがまま研究室に所属したが、久我桜子はカッコよくて泥臭い先輩だった。血継魔術科に挑もうとしている桜子を笑う人間も多かった。だが、それでも愚直に勝つ事を考え真摯に研究に励む姿をいつしか尊敬してしまったのだ。
「山崎くん……っ!」
風の弾丸はしのいだが、今度は瓦礫が恐ろしい速度で迫ってきている。右腕に何重もの身体強化魔術を展開し、その全てを力だけで粉々に砕いた。無論、肉体にかかる負荷は尋常ではない。
(……ずっと、好きでした。好きだったんです……!)
今年、真央と桜子への好意が違うものだと気づいてしまった。千ヶ崎真央非公認ファンクラブの活動よりも、桜子との訓練の方が楽しいとも思ってしまった。ノリと勢いと持って生まれた才能だけで東魔大に入ってしまったが、あんな人になりたいと尊敬してしまった。
(でも、それ以上に俺は──あの人を勝たせたいんです!)
言葉にはしない。代わりに渾身の一撃を真央目掛けて振り下ろす。大気の壁が阻もうと、筋繊維がブチ切れる音がしようと構わず振り下ろした最強の一撃は真央の左肩へと触れた。あまりの威力にクリーンヒットではないにも関わらず真央の体が吹き飛んだ。
「嘘だろ……!」
「一度下がりましょう! 向こう側も何かおかしいです!」
美鈴の声に八代がもう一度虹の魔剣を振った。地面へと虹の斬撃を叩きつけて瓦礫や石を吹き飛ばして弾幕を作る。持ち前の素早さですぐに真央の近くまで移動する。意識は失っていないようだが、痛みが強そうだった。左肩もだらんとしている。
「飛ばせるか?」
「……うん!」
暴風が吹き荒れ、真央と八代の体が上空まで一気に飛ばされる。3人が上から見た景色は、血継魔術科が押されていて清麻呂達も撤退するような態勢をとっている所だった。
●
強敵は不死川だけの筈だった。
あの炎さえ止めてしまえば、何時ものように圧倒的な魔術で蹂躙するだけの筈だったが、血継魔術科は追いつめられていた。
「颯太を近づけさせンなよ、清春!」
「わかってるって!」
向こう側の近接戦の要は鈴木颯太だが、近づけさせなければどうという事は無い。
山崎がいないので、氷柱の山を展開し続ければ現在の所脅威ではない。清麻呂と不死川はほぼ互角に戦っている。だが、梢子の相手が厄介だった。──如月ノエル。全くのノーマークだったが、梢子にとっては最悪の敵であった。
「クッソが!!!!!」
清麻呂と不死川が戦っている所目掛けて魔術印を梢子が展開しようとするが、その瞬間歌声が何処からか響き渡る。次の瞬間、梢子の展開した魔術印のノイズが走り空中へと霧散してしまった。さっきからずっとこの調子だ。
「清春! さっさと探し出せ!」
「やってるっての! でも──っ!」
氷で周囲一帯を覆うとするも、不死川の火の玉が飛んできて焼き尽くされてしまうのだ。清麻呂との闘いの片手間でやってくるのが腹立たしい。梢子は瞬間火力だけなら清麻呂を超えるが、暴発魔術の性質上どうしても魔術印を展開しなければならないのが弱点だ。まさかそこを封じられるとは思わなかった血継魔術科は現状耐えるしかないのだ。
「八代達も何やってんだか……」
これだけ時間がかかっても八代達が来ない。──向こうもハメられている可能性が高い。
不死川だけでなくノエルのような対梢子に特化した魔術師が居るのだ。向こうにそのレベルの魔術師が居ても不思議ではない。ここは一旦撤退する必要があるか、とまで考えた所で急に歌が聞こえなくなった。
「よっしゃー!」
ノエルの不調か、はたまた持続時間でもあるのか。真意はわからないまま梢子が魔術印を展開し、強大な魔術を次々に放っていく。流石の不死川も清麻呂と魔術の撃ち合いをやめ、白い炎を梢子目掛けて放つが、清春の展開した氷の壁によって阻まれる。そのままの勢いで押そうとした梢子だったが、清麻呂が一度魔銃の弾丸を足元に撃ち込んだ事で止まった。
「何だマロ先輩コラァッ!? ブッ殺すぞ!?」
「少し落ちつけ。──何かおかしい。不死川の魔力が持ち過ぎている」
「──はァ?」
梢子も違和感を持っていたのかそれ以上の反論はしなかった。
清麻呂は「一度引くぞ」と言い放つと魔銃を連射して不死川へと攻撃を再開する。清麻呂の弾丸は一撃が致命的である。防御態勢に移行して、一度奥へと引いた。これにも清麻呂は違和感を感じた。だが、考えている時間はなかった。丁度上空を真央達が飛んでいるのが見えたからだ。向こうも撤退したという事は相当追いつめられているようだった。
「菊姫。俺達も行くぞ」
「あいよっ」
梢子が大嵐を起こす魔術印を展開し始めた。大規模で強力な魔術印ではあるが、梢子の展開速度は常人の倍以上だ。印が完成しようとした瞬間、またノエルの歌声が響き始めた。逃がさないつもりか、と展開を早めようとしたが違った。魔術印が完成し、発動しようとした瞬間印の白く光り始めた。
「姫先輩どうなって──!」
「やべぇ! 乗っ取られた!?」
梢子の制御を離れた大嵐を起こす魔術が発動した。成す術もなく上空へと三人は吹き飛ばされその上に更に魔術印が展開しているのが見えた。
「貴方達なら、きっとこうすると思ったわ」
梢子は少し離れたビルの屋上で桜子とノエルの姿を視認した。血継魔術科は全員梢子の起こした魔術で空中に吹き飛ばされている。真央は負傷の痛みで意識が集中できていないのか、全員の制御はできないようだった。そこに桜子の展開した魔術印が発動した。そして、美鈴だけはその魔術の正体に気づいた。少し前に魔導力科で桜子が使った魔術と同じ印だったからだ。その正体は──
「──回転魔術ッ!」
「そう。流石ね、西園寺さん」
魔術が発動し風の渦が出鱈目に回転し始めた。真央が何とか制御を取り戻そうとするも全員分は不可能だった。そして、散り散りになって吹き飛ばされていく血継魔術科達。この程度で死ぬタマではないのは大いにわかっている。だが、ここまで作戦通りだ。血継魔術科の分断。これが桜子達の作戦の第3フェーズである。
「──もう少しよ。最後まで、油断せずにね」
作戦は上手く行きすぎている。だが慢心はしない。ノエルの頭を優しく撫でると桜子は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
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