前科50:支配の魔剣の倒し方
天才という言葉は彼らの為にあるのだろう、
意表をついた筈の不死川の血継魔術があれば、一人ぐらいは沈められると思ったがそれは敵わなかった。久我桜子は改めて強大な敵に挑んでいるのだと認識を強めた。
「偵察終わったっすよ。──向こうさんも本気っすね。迂闊に近づけねーっすわ」
音もなくふらりとビルの陰から鈴木真子──弁慶が現れた。
外見は鈴木のままだが、面倒くさいのか喋り方は弁慶のままだ。山崎が目をぱちくりさせて驚いている。女を使うのが上手い弁慶は、お淑やかなふりをして女性に弱い山崎を便利に使っていたのだ。
「千ヶ崎さんの風ね。去年は、あれを破るために魔剣使って負けたのよ」
血継魔術科は逃げも隠れもしていない。ただ、不死川の接近には気づけるよう千ヶ崎真央が周囲に大嵐を展開している。あれを魔術で破るのは非常に難しい。天然の防御魔術だ。昨年も桜子達はあの風を破れず仕方なく魔剣を使った所で、八代と清春に敗北したのだ。
「でも、如月ちゃんは切り札。不死川先輩に余分なリソースを使わせるわけにはいかないので、結局は魔剣で対抗するしかないんスよね」
「その為の貴女よ。魔剣の専門家としての活躍に期待するわ」
弁慶は便宜上、伊庭の下請け企業の役員の娘という事になっている。
それなら魔剣に詳しくてもおかしくはないし、伊庭八代に興味を持っていてもおかしくないという事にしている。一度「ふぅ」とため息つき、桜子から目線を逸らすと魔術印を展開。印からは複数の魔剣の柄が飛び出していた。
「支配の魔剣の特性は、概ね1キロ圏内の魔剣を全て支配下に置く事が出来るんすよ。ただ、条件も幾つかあって。伊庭君に支配する意思がなければ今みたいに奪われる事がありません。この時点で今彼が完全に油断してるか、エロい事考えてるかの2択まで絞り込めます」
「それ、絞り込む必要あるのか?」
「支配の魔剣と戦う上で気を付けなくてはならないのは、接近戦はあまりに分が悪いという事です。
四方八方から魔剣が飛んでくるわ。正面火力は防御魔術すら意味を成さないので、基本的に一撃離脱か連携攻撃が望ましいです」
颯太の尤もなツッコミを完全に黙殺して語る弁慶。返事の代わりに身体強化魔術を体中に展開した。
「皆様準備はよろしいですか? これより私、本気で戦うので手筈通りにお願いしますね」
魔術科の作戦通りに現状は進んでいる。
作戦フェーズ1からフェーズ2へ。フェーズ2からは実際に1名ずつ血継魔術科にダメージを与えていくのが目標だ。弁慶を中心とし、厄介な八代を狙うのが目標だ。支配の魔剣さえ無効化してしまえば、魔剣が使えるようになって戦いが楽になる。先頭を弁慶が走り、その横に桜子で後の面々は少し後方からついていっている。すると、周りに聞こえないようこそっと桜子が近づき弁慶に話し始めた。
「伊庭君はあれで本気なのかしら? 支配の魔剣にこれ以上があると話も変わってくると思うの」
「上はありますよ。ただ、断言します。八代様はこれ以上の出力を出す事は確実にないっすね」
「理由は聞かせて貰えるのかしら?」
「……話せる部分だけ言いますと、支配の魔剣の出力が40%を超えた事が観測された場合、伊庭家は八代様の殺害に本腰を入れ始めます。それ以上は言えません」
そして、弁慶自身が八代を殺す手筈になっている。
子供の頃からその為にずっと八代の傍におかれ、支配の魔剣との戦い方を叩きこまれて来たのだ。願わくば戦いたくはない。"課長"の時は肝を冷やしたが、学生同士の戦いで八代が出力を上げる事等ない。その代償として八代の身に何が降りかかるかを弁慶はよく知っているからだ。
「ちなみに、伊庭君は今どれ程の出力を出しているのかしら?」
「ほぼゼロですね。八代様はずっと、支配の魔剣を起動した状態だけで戦っています」
化物め、と桜子は心の中で歯噛みしたが弁慶はそれに動じた様子もない。本当に伊庭八代は使わないのだろうと信じるほかなかった。いつも冷静で飄々としているが、信用できる人間だと桜子は思っている。
「それでも、勝ち筋はあるのでしょう?」
「無論です。──支配の魔剣の倒し方をお見せしましょう」
●
「来る──。北西側!」
真央の感覚に北西側の嵐が破られた違和感が伝わると同時、声を発した。
自身の魔術が生半可な魔術では破られない事を知っている。相手は魔剣を展開しているかもしれない、と八代を見る。ぼっこぼこに殴られただけでなく、両頬が真っ赤に腫れていて面白い。本人も何か感づいたものがあるらしく、地面に突き刺していた虹の魔剣と支配の魔剣を手に持った。
「またあの炎かよ──っ!」
白い炎がビルを突き破って血継魔術科目掛けて展開してきた。咄嗟に左右に避けて3人同士で分断される。炎の勢いは弱まる事なく、真央は八代と美鈴の姿しか視認できていない。美鈴の反応が少しだけ遅れているのが気になった。
「八代。美鈴ちゃんのフォローお願いね!」
「おっ。なんだ美鈴! 緊張しているのか!? 深呼吸しよう! ひっひっ──ぶべっ!」
美鈴の蹴りが八代の頬に突き刺さった瞬間、白い炎を突っ切って大きな人影が見えた。
視覚の阻害だけでなくあの炎の効力も厳しい。血継魔術師のみ触れた瞬間に、魔術が使えなくなってしまうのだ。更に普通の魔術師には癒しの炎でしかないのがタチが悪い。炎の中から山崎ともう1人、あまり知らない女子生徒──弁慶が出てきた。
「鈴木ちゃんじゃん!?」
「八代知ってるの?」
「僕とよく目が合う子! 多分僕の事が好き!」
短く妄想をたれ流すと八代が走り出した。まずは恨みがあり尚且つ邪魔な山崎を片付けようと虹の魔剣と支配の魔剣を構えている。遅れて美鈴も飛び出した。八代が山崎に向かったのを見て弁慶の方へと向かった、が。
「速っ──!」
大きく地面を蹴る音がした瞬間、弁慶が真央の眼前にまで迫っていた。空間から魔剣を抜いてそのまま真央目掛けて振るう。
「千ヶ崎──っ!」
弁慶の振った魔剣がぐいっと無理矢理軌道を変えられた。支配の魔剣の支配下に入ったと判断した弁慶はすぐに魔剣を手放す。だんっと地面を蹴る瞬間もう足元に魔術印を展開。再び高速移動して真央の反撃と魔剣の攻撃から逃れ、今度は美鈴へと襲い掛かった。
「余所見してんなっ──!」
山崎の拳が八代目掛けて振り下ろされたが、ひらりとそれをかわして振り返り様に支配の魔剣を叩きつけた。
「硬っ!」
「お前。あのオッサンに随分と手こずってたもんな」
山崎の体が鈍色に変化しており傷一つない。魔術で体を金属のように硬化させたのだ。真央の大気の弾丸も遅れて山崎に直撃するがダメージはないようだった。課長との戦いに際に見抜いた八代の弱い点を的確に狙ってきている。去年までとは違い、今年の魔術科は自分達の事を徹底的に研究しているようだと真央は判断した。八代もすぐに切り替え、虹の魔剣で攻撃しようと振ったが軽快なステップで山崎は距離をとる。接近戦主体だが、正面きって八代と戦う気はないようだ。視界の端では美鈴が別の魔剣を抜いた弁慶に襲われており、防戦一方であった。
「仕方ねぇ」
一度態勢を立て直すべく、支配の魔剣を振るう。弁慶の握っていた魔剣がまた奪われたが、特に動じてないのが気になった。そして魔剣が飛んでくるのを確認し、美鈴から弁慶が距離をとろうとした時に目が合う。──ぞくっと、嫌な予感が八代の脳裏をよぎった。弁慶はニヤリと笑って指で銃の形を作り、八代にそれを向け、
「ばん」
言葉と同時、魔剣が割れて中から無数の細かいワイヤーが飛び出した。
伊庭家が支配の魔剣と戦った時のデータを使って作った魔導力製の魔剣の一つである。捕縛魔術が仕込まれており、ワイヤーで体の自由が効かなくなるだけでなく、魔術印を展開する事すら難しくなる逸品だ。
「伊庭先輩っ!」
美鈴が全力で大地を蹴って弾丸のように八代へと突っ込んだ。体当たりするように八代を吹き飛ばし、美鈴の体がワイヤーに絡まっていく。虹の魔剣を振って山崎と弁慶に距離を取らせ、ぐるぐる巻きになって動けない美鈴を守るように立つ。真央も嵐を起こして更に距離を取ろうとしたが、美鈴が万全の態勢でないので巻き込んでしまう可能性があるので大雑把には展開できない。目線の合図で山崎が拳を構えてじりじりと真央へ距離を詰めていく。白い炎の壁の反対側では魔術がぶつかる音が強く響いている。向こうは相当激しい戦いのようだと把握する。
「よぉ、山崎。お前に千ヶ崎を殴れるのか?」
「それとこれとは話が別だ。俺は桜子先輩に勝利を捧げる為にここに立っている」
「よくやるぜ。桜子先輩にフられたくせに! 頑張ったってもうワンチャンすらねーんだぞ!」
状況はこちらの方が分が悪い。まさか魔術科がここまでやるとは八代にも予想外だった。これで激高して襲い掛かってくればまだ勝機はあるが、山崎はハンと鼻で笑った。
「本当に人を愛した事がない奴に限って、そういう寒い事言うんだよな」
「ぐぬぬ……」
「レスバ弱っ……」
縛られた状態の美鈴にも煽られて逆に八代が冷静さをかきそうであった。
会話が終わると同時、山崎と弁慶が同時に駆け出す。八代は支配の魔剣以外の魔剣を宙に浮かせ、転がっていた美鈴を担いで迎撃態勢をとる。弁慶から奪った魔剣を射出するも、合図一つで爆散してしまう。最初からそのつもりの魔剣だったようだと気づく。残るは虹の魔剣と支配の魔剣の2本だ。後は弁慶からまた奪うしかない、と。現に弁慶はまた魔術印から魔剣を抜こうとしている。
「はい、ちょーだい!」
支配の魔剣が呼応する──が、そのまま弁慶は引き抜いた剣を八代目掛けて振りぬいた。支配下におけると思っていた八代だったが、寸での所で体を捻ってかわした。
「──魔刀かっ!」
かわしたと思いきやあまりの切れ味の鋭さに躱し切れていなかったようで八代の胸から鮮血が垂れる。傷がそこまで深くないのが幸いだった。弁慶は弁慶で確実に仕留めたとかんじていたが、やはり八代は一筋縄ではいかないと認識を改める。 対支配の魔剣用の魔剣に加え、隠し玉でもある魔刀まで使ってしまったが倒し切れていない。これが本番だったら、負けていたのは己だろうという自覚があった。支配の魔剣を解放状態にした八代は今の比にならないぐらい強いのを弁慶は知っているのだ。
「魔刀は支配の魔剣じゃ制御できないの、よく知ってたね」
「ええ、私魔剣メーカーの社員の子供なので」
「親戚みたいなもんじゃん……」
「ええ、これからもよろしくね。伊庭君」
そういえば今の姿は鈴木真子だったと思いだした弁慶は取り繕うようにそう言うと、再び八代へ襲い掛かった。
2か月ぐらい放置してごめんなさい。メンタル復活しました。
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