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国立大学法人東京魔術大学 ─血継魔術科─  作者: おめがじょん


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前科49:ロリコン・フェニックス









 火の粉がぱらぱらと花のように散っていた。

 不死川家の血継魔術"原初の炎"だ。火を操る血継魔術としては日本だけでなく世界最高峰とも言われている。人の知識や文明が発展すると共に魔術という存在が衰退を始めているこの世界で、数少ない古からの威力を保ち続けている血継魔術だ。

 

「不死川が血継魔術を使ったという事は、"アリス"を展開したという事でもある。向こうは短期決戦がお望みらしい」


 不死川は15歳以下の少女の応援がないと血継魔術を発動させる事ができない。

 馬鹿馬鹿しい制約だが、現実にそれは起きてしまっている。だが、それを唯一回避する方法がアリスという少女を召喚する創作魔術だ。天才・不死川灯の全魔力の3分の2を消費してしまう程の魔術であるので、灯の魔力はもう残り少ない。それを知っているが故の結論だ。だが、血継魔術科の面々は油断しない。その事実があっても、不死川灯という魔術師は強敵なのだ。


「美鈴君は下がっていなさい。先頭は伊庭、在原、千ヶ崎君で頼む」


「……別に、私だって戦えますけど」


「君は近接戦の要だ。いかに俺達といえど、颯太や山崎に接近されたら危うい部分もある。不死川を相手しながらなら猶更だ」


 美鈴は清麻呂に成す術もなく敗北したので強く出られない。

 ぐぬぬ、とこれ以上言いたい気持ちを我慢して渋々とだが頷いた。どうしようもないバカな先輩達だが、実力があるのは知っている。そして、自身の実力と大きな差がある事も美鈴は心の奥底で実感していた。


「お喋りの時間は終わりだ」


 清春が言葉と同時に氷を大量展開した。真央が降らせた雨のお陰で周囲は濡れているので一気に建物や地面が凍りついて侵食されていく。このままフィールド全体を清春の領域とする事で相手の位置を探る所存だが、花のように舞っている火の粉がそれを許さない。氷の上に降っただけで何の脈絡もなく燃える。氷やアスファルトがそのまま燃えるという現象が、不死川の魔術の出鱈目さを引き立てていた。


「寮長の方が上かよ」


「イキってる奴ほど大した事ないのよね」


「……っ!」


 真央と八代の評価は散々だった。何時もなら清春がすぐに言い返すが特に返事はなく舌打ちをしただけだ。その態度に訝しむ八代と真央だったが、状況はそうも言ってられないぐらいまで急に変わった。


暴発魔術:超防御魔術(上から来んぞッ!)


 強化された防御魔術が展開された瞬間、何の脈絡もなく空から降って来た巨大な火の玉が炸裂した。

 不死川の血継魔術である。暴発魔術で強化された最上級の防御魔術ですらも完全にその火の勢いを止めるまでには及ばなかった。八代が飛び上がって支配の魔剣で火の玉を斬り裂いて事なきを得るが、次いで炎が地面を突き破って燃え盛る。清春が氷の壁を作って対処するが長くは持ちそうにもない。


「そこかっ!」


 清麻呂が魔銃を構えて近くにあったマンションへと発砲。一発程破壊の魔術を込めた弾丸を撃っただけだが、屋上ごと吹き飛ばされていくような威力であった。その建物の陰に不死川は潜んでいた。何時もの胸元空いたワイシャツとスラックスにマフラー。炎を纏い「人は愚か」とでも言いたげな切ない表情でふわりと空中を漂っている。


暴発魔術:(何かあのツラ、)岩石を放つ魔術(滅茶苦茶ムカつくな)


血継魔術:(オナった後の)氷結魔術(八代っぽくね?)


血継魔術:(わかる。)天候魔術(あの顔超ムカつくよね)


 不死川目掛けて三人の血継魔術が襲い掛かる。人を容易に圧死させる巨大な岩石や氷の塊。その全てが真央の起こした暴風に乗って迫っていく。だが、不死川の炎がその全てを燃やし尽くした。荒れ狂う巨大なエネルギーが彼らの体を容易に吹き飛ばし、不死川は炎を噴出する事で態勢を立て直す。

 くるりと空中で回転すると、その背後に嫌な気配を感じた。


「はい、これでおしまい!」


 何時の間にか八代が不死川の背後へと迫っていた。虹の魔剣は既に魔術が装填されており、何時でも発動状態に持ち込める。防御魔術を張っても今更間に合わないし、何より虹の魔剣の威力に耐えられない。八代が何の躊躇いもなく虹の魔剣を振り切って不死川を斬った時だった。ゆらりと、不死川の体が炎となって揺れて八代の背後へと回った。


「残念ながら、私の勝ちだ」


 不死川が拳を突き出した。膨大な炎があふれ出し巨大な質量ある炎の拳と化すと八代目掛けて炎の拳が叩きつけられた。咄嗟に虹の魔剣を完全開放し防御魔術と破壊のエネルギーで炎を相殺しようとするも、勢いが止まらず八代の体が炎と共にビルへと叩きつけられた。歴代最強血継魔術科が総力で挑んでも尚、圧倒する不死川の力を見た観衆達の興奮が熱狂へと変わっていく。


創作魔術:(調子くれてン)泥洲燐寸(じゃねェぞ!)


 怒声と共に鎖が不死川の腕へと巻き付いた。炎となってまた避けようとしたが、


「逃がすかよ!」


 上手く魔術が発動しない。捕縛魔術と創造魔術を組み合わせた梢子オリジナルの魔術だ。

 その隙だけで十分だったので、そのまま鎖を引っ張って不死川の態勢を崩す。後は、態勢を立て直した血継魔術科の面々が同時攻撃の態勢を取っていた。清春の氷柱の連射。真央の大気の塊。梢子の暴発魔術。清麻呂の魔銃。八代の虹の魔剣。美鈴だけは圧倒されていて動けていなかった。遅れて隠れていた魔術科の面々が飛び出してきた。不死川さえ倒してしまえばもはや詰みだ。それをわかっている清麻呂は大きな声を上げた。


「全力で不死川を攻撃しろ! 他は俺が撃ち落とす!」


 清麻呂の両手に拳銃が握られた。強化された破壊魔術が桜子達が展開しようとしていた魔術印を片っ端から撃ちぬいて行く。一撃の威力が高すぎて余波ですら命の危険があるのが清麻呂の魔銃の特性だ。桜子達も身を隠す以外に選択肢はなかった。その隙に魔力を大量に込めた血継魔術師達の攻撃準備は整っていた。


「「「「じゃあな、ロリコン」」」」」


 別れの言葉と共に各々の必殺の一撃が炸裂しようとしていた時、それでも不死川は余裕を崩さず笑った。


「流石だ。──ならば、私の炎の真の姿をお見せしよう」


 不死川の纏っていた炎の色が変わった。真っ白な温かみのある色だ。

 燃え盛るというよりは暖かで穏やかな勢いとなった炎は一気に周囲を満たし、血継魔術師達をも一瞬で呑み込んだ。突然の攻撃に焦った面々だが、ダメージはない。それどころか、安らかな気持ちになってきた。


「──なんだこれっ!?」


 そう思った時だった。彼らは気づいてしまった──己の発動すべきだった魔術の一部が止まっている事に。そして、不死川の背後には巨大な白い炎の形をした鳥の姿があった。炎で作られた翼をはためかせ、暖かな炎で出来た白い羽を周囲に展開している。


「これぞ我が覚醒の炎。──"ロリコン・フェニックス"。少し態勢を立て直させて貰うよ」 


 その言葉の直後。炎の鳥──不死鳥の炎の色が再び元の炎の色へと変わった。

 これは不味いと全員が防御魔術を張った瞬間、炎の大爆発が起きた。各自衝撃に耐えたが、不死川の姿はもうそこにはない。完全にやられた、と全員が歯噛みする。


「魔術のキャンセルか? 何なんだあの炎」


「いや、違う。現に伊庭と俺の魔剣と魔銃は顕現したままだ。あれはきっと──」


「血が止まってますね……」


 美鈴が力なくぼやいた。各々魔術を発動させるにあたって傷をつけた部分を見てみる。

 傷口も流れ出る血も全て消えてなくなっていた。


「癒しの炎……」


 血継魔術師の要である出血を封じられた彼らは、しばらく呆然と立ち尽くしていた。

  

 

 











 ブルーホールの教員待機室にある巨大なモニターの前に二人の男女が立っていた。

 高いスーツを細身の引き締まった体で着こなしているのは、血継魔術科担当教員、嘉納桃李。

 きっちり七三にわけた髪がその性格を物語っている。その横に後ろ手を組んでジャケットスタイルで立っているのは魔術科の担当教員、樋田透子だ。白髪の混じった髪を一部黒く染めた加齢を活かしたお洒落な髪型であった。


「今年もよろしくお願いしますね。嘉納先輩」


「樋田先生……。お互い教員ですし、もう流石に先輩は呼びは……」


「二人っきりだからいいじゃないですか。それにこのやり取り、もう3年目ですよ?」


 嘉納はむぅ……と黙った。

 嘉納と樋田は学生時代からの付き合いだ。嘉納が血継魔術科。樋田が魔術科に所属していて飲み仲間でもあった。当時から上から可愛がられ子供っぽい部分があったが、大人になった今でもプライベートで見せる顔にはその面影がある。彼女には己のこの堅物な性格を何度もからかわれてきたので、この年になっても押し黙るしかなかったので話題を変える事にした。


「今年も君の所の生徒は面白いね。──我々にきちんと勝とうとしている。君の学生時代を思い出すよ」


「結局、先輩達の足元にも及びませんでしたけどね。でも、あの子達は勝ちが見える所までようやく辿り着きました」


「まさか不死川君があんな隠し玉を持ってるなんてね。あの気難しい子から、どうやって引き出したんだい?」


「ああ、癒しの炎ですか。いやでも私、さっきまで知らなかったんですよ。確かにあれなら血継魔術師は苦しいですね。伊庭君と織田君の魔術が消えないのが意外でしたが」


「──は?」


「アレは、あの子達が不死川君の心を開いて作戦を練っただけです。今までの子達は不死川君と向き合わなかったけど、今年の魔術科はそういうチームなんですよ」


 飄々という樋田に相変わらずだな、と嘉納は心の中で称賛を送った。

 学生時代から嫌味のない明るい彼女の周りには人が集まった。人の長所に気づかせるのも上手かった。彼女の言葉でどれ程の人間が上に上がっていったかわからない。彼女の仲間はこの国において重要なポジションを就いているし、教え子達も社会においてそれなりの役職に多く就いている。嘉納も彼女のその部分には敵わないと一目を置いていた。嘉納もまた最強クラスの血継魔術師だ。だが、指導者としてはまだまだ樋田には及んでいないと自覚している。


「あれは、担当教員の君も知らないと?」


「ええ。戦うのはあの子達なので細かい所までは。私はどういう魔術師でありたいか、そこの指導に重点を置いてますので」


 嘉納は樋田を「秀才」と評していた。それが彼女に対する最大級の賛辞だとも思っている。

 魔術師としての素養は中の上程度だ。鬼才と呼べる才能もなかった。だが、彼女はありとあらゆる現代魔術に精通していた。勤勉に努力を重ね、どんな小さな魔術にも貪欲に学んでいた学生だった彼女の辿り着いた姿は嘉納にも引けを取らない。


「流石だ。何年経っても君には尊敬の念を忘れられない」


「先輩だって凄いじゃないですか。流石の私だって、血継魔術科の子達は指導なんかできませんよ。完成された魔術師に対して、寄り添えるのは同じ天才だけですから」


「寄り添えているのかな。……俺はずっとそれを問いながら血継魔術師達を見送ってきたからな……」


「……私が今でも一番憧れているのは、嘉納先輩。小夜子先輩。凪朝先輩の居たあの頃のチームですよ。凪朝先輩にあんな事さえ起こらなければ……今もきっと……」


 先代支配の魔剣の事を二人で思い出す。続きは言葉にしなかった。何を言っても意味がないと2人は知っていた。意味のない事をつい口走ってしまったと、今度は樋田が言葉に詰まって話題を変えた。


「嘉納先輩があんなに寄り添っているのですもの。今の血継魔術科の子だって、きっと素晴らしいチームな筈ですよ」


 画面を切り変えて血継魔術科付近の映像を流し始めた。

 最初は呆然としていた彼らだったが、今は集まって会話をしている。とても珍しい光景だった。


「1対1であの炎に触れたら負けだ。確実に防御魔術で止めるか、距離をとるかしかないな」


「最悪、攻撃前に自分で傷をつける事も大事かもね」


「ずっと出血状態で居るのも中々厳しいですが、何かいい方法ありませんかね?」


「女の子達は今日は生理じゃないの? それならワンチャン──」


 八代の無神経な発言の後は暴力の嵐が吹き荒れた。美鈴にビンタされて倒れた八代を更に真央が大気の塊で叩き潰す。半泣きで「ごめんなさあああい」と謝る八代の頭を更に梢子がゲシゲシと踏み続けた。その後もリンチは続き、ボロ雑巾のようになった男が1名出来上がった。普段飄々としている樋田も流石にこれには表情が引きつってしまった。


「その……きっと素晴らしいチームが…………」


「君の優しさは有難いが、今は少し黙っていてくれると嬉しいな……」


 悲しそうな顔で嘉納はチームワークのカケラもない生徒達にため息をついた。

 




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