前科42:そして男達は、慎ましやかなおっぱいを守る為に立ち上がった。
その空間は、むさ苦しい連中ばかりだった。
大半の男は服のサイズは合ってない。顔もどこか幼く垢ぬけていない。だが、その目だけは情熱が迸っていた。そんな男達の前に立つのは、今宵のオークションを仕切る男、前原甚之助。彼もまた小太りに眼鏡の適当な服装の男だ。一部服を着ていない連中が酒盛りをしていたり、鼻につくようなイケメンが紛れているがそれもまた一興と前原は笑い飛ばしてマイクを手に取る。
「ようこそ、魔導力科裏オークションへ。今宵は警備網が厳しく、皆様大変だったろうと心中お察し致します」
前原自身も風紀委員に拘束されかけたが何とか脱出してこの会場まで辿り着いた。
仲間も何人か捕まっている。だが、彼らが口を割る事はない。それだけの絆がこの裏オークションには存在している。先代のオークション主催者から引き継いで3年。偉大なOBのドクター村松の研究成果を学内で発見しては同好の士達に提供してきた。学科も何も関係ない。一番エロに対して誠実だった人間にエログッズを引き渡すのだ。
「普段学科同士でいがみ合っている我々だが、この瞬間だけはお互いを同士と思って欲しい。エロに学科も国境も関係ない。──皆、スケベしようぜ!」
うおおおおおおと会場に大きな歓声が響き渡る。
東魔大は学科間の仲があまりよろしくない。だが、今この瞬間だけは心が一つだった。エロは世界を救うと本気で信じている前原の目に涙が浮かぶ。そうして裏オークションはスタートした。まずは、安いものから出品されていく。「キスしたくなるキャンディー」「媚薬ローション」「自動洗浄オナホ」
全て村松が在学中に作成したものだ。当時、学校の検閲から逃れる為に村松は東魔大のあちこちに異空間を作り、作成したエログッズを隠した。このオークションの儲けも大半が調査費用に消えていく。トラップや魔導力製の侵入者撃退装置がある事も珍しくない。探索するにはそれなりの時間と金がかかるのだ。
「──はい。どんどん行きますよ。次はエントリーナンバー9番。【セックスしたくなるお香】の登場です」
モノによってはその場で効果をテストし始める事もある。
香壺にはボタンがついており、ふわりと会場に良い匂いが香った。男達が「ちょっと匂いがエロいな」なんて感想を持っていると、
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「ンっちゅっちゅっちゅっちゅ!!!!!!!!」
お香の近くに居たスタッフの男子生徒2人が突然叫びだし、獣のように絡み合って猛烈なキスをし始めた。慌てて他のスタッフがボタンを押して煙を止め、2人を引きはがして舞台の隅へと追いやっていく。凄まじい効果であった。
「おい、アレも中々イケそうだぞ。どうする?」
「……頭おかしくなりそうだから危険だ。村松製品は良品ばかりじゃない。失敗作も結構あるぞ」
「ウチの寮で突然使い始めたらコトが終わった後、全員自殺しかねんぞ……」
ふとした事でスイッチが押されてしまい、女子が存在しない場所での惨状を想像してしまい流星寮の面々は顔を青くした。酒に酔っていても正気は失っていない。性的な事を考えている時の彼らの脳は平常時の3倍近く稼動しているのだ。それでも男という生き物は愚かなので高額入札が相次ぐ。ちらり、と清春の方の様子を伺ってみるが特に興味はないようでスマホを弄っていた。
「セックスしたくなるお香17万で落札されました! はい、それじゃあ次は目玉商品の登場です。エントリーナンバー10【服が透けて見える眼鏡と精力剤】の登場です」
「何だとおおおおおおおおおおお!?」
壇上に現れた眼鏡と小瓶を見て流星寮の面々は悲鳴のような声を上げた。まさかの抱き合わせのセット品。しかも清春が欲しがっていたものとかぶっている。──これは不味いと彼らの顔に焦燥が宿った。
「はい。6番。5万。17番5万5千」
流石に価格の上がり方も早い。ライバルは7組程いるが、流星寮には100万近くの予算がある。最終的なライバルは清春だけになると予測していた。そうこうしている内に値段がどんどん吊り上がっていき、70万を超えた頃には予想通りに結果となった。
「在原め。一体どれほどの予算が……」
「俺達もちょっとヤバいんじゃないか……? 相手は腐っても大企業の御曹司様だ」
元気な流星寮の面々と言えど流石に意気消沈してきた。
このまま見果てぬ夢と終えてしまうのか。今まで散々殴られたり寮に火をつけられたり酷い事を沢山されてきた。少し裸を見るぐらい許されるのではないか。菊姫梢子のおっぱい。死んでもいいから一度拝みたかった。やがて、山崎がため息をついて履いていたパンツの中から封筒を取り出した。表には「教科書代」と書いてある。
「──使ってくれ。最後のヘソクリだ」
「山崎、お前! 教科書無しで後期の授業どうするんだよ!?」
「表紙だけ複製して何とか誤魔化すから使ってくれ! どうせ読んでもよくわからん!」
山崎の漢気を感じた流星寮の面々は、その意気に恥じぬよう各々最後のヒトカケラまで全財産を取り出した。総額、追加予算20万円程。彼らは明日からどう生活していけばわからなかった。ただ一つ言えるのは、おっぱいを見たい。それだけで十分なのだ。
「これで、最後だああああああああ!」
「俺達の希望を!」
「俺達の夢を!」
「全部持っていけええええええええ!」
涼しい顔をしていた清春も90万を超えると顔から笑みが消えた。そもそも精力剤だけが目当てなのだ。相場が出しても10万なところを、流星寮のしつこさでこの値段まで戦っているだけだ。そして、値段が100万を超えた所で、清春が手を上げた。
「もうめんどくせぇから、150万出すよ。それでどうだ?」
──勝敗が決してしまった。流星寮が皆で一生懸命作った120万だが、流石に追加で30万は出せない。
「斎藤! 腎臓1個売るわ! 摘出してくれ!」
「俺もだ! 腸だって何メートルもあるんだろ? そんないらねぇから買い取ってくれ」
「設備も買い手もいねぇ……。俺達の負けだ」
悔しそうに斎藤が歯噛みすると同時、涙が零れ落ちた。男達は膝から崩れべしょべしょになって泣き出すがオークションは続く。壇上で鞄から取り出した札束を渡し、精力剤と眼鏡を受け取った清春はニコニコ笑いながら流星寮の面々へと近寄っていく。
「よぉ、童貞軍団残念だったな。──こんな眼鏡いらねぇけど、真央にでも使って見るかな」
そう言うとケラケラ笑いながら会場を出て行った。
清春は気づいていない。最後に虎の尾を踏んでしまった事を。──争奪戦に負けたぐらいまでならまだ許せた。だが、真央に対象を向けるのであれば別だった。在原清春許すまじ。地球上に存在する事すら許せない。男達の仄暗い本気の殺意が膨れ上がった。
●
夜の森を在原清春は一人で歩いていた。
落札した眼鏡に度は入っていない。一見普通の伊達眼鏡だが、魔力を流し込むと透けて見える眼鏡に変わった。視界に自分の股間が見える。これは偽乳を見分ける良い判断材料になりそうだ、とほくそ笑む。その後、メッセージアプリで今晩過ごす女の子に「少し遅れそう」とメッセージを送る。
「よぉ、そろそろ出て来いよ」
己が囲まれている事はわかっていた。
返事はない。無言で相手の動きを待つも返事の代わり木々をなぎ倒しながら衝撃波が襲ってきた。
「血継魔術:氷結魔術」
時間がなかったので清春は爪で皮膚を毟った。直後、氷の壁が清春の前に現れて衝撃波と枝や石から守る。そのまま氷は周囲を侵食し続け、清春から30メートル程の距離一帯氷に覆われていく。清春の氷結魔術は触れたものを凍らせたり、相手がどの辺りで氷に触れているのかを探知できるがその感覚がない。森の木も氷で侵食しつつあるが──とまで考えた所だった。
「墳ッッ!」
「怒ッッ!」
清春が見上げた先、空からマッチョと黒人が降って来た。山田と山崎の前衛コンビだ。
山崎の拳が魔術によって巨大化し、清春目掛けて降ってくるのを氷の壁を張って迎える。が、山田の持っていたバイブで一瞬で壁が崩された。身体強化魔術の最高レベルの山崎。物質強化したり属性付与できる変質魔術の最高レベルの山田。この2人を同時に相手するのは清春でも骨が折れる。
すぅっと、氷の上に足を滑らすと、清春の体が高速で氷の上を滑り始めた。
「逃がすかァッ!」
移動しながら山崎達の足を凍らせようとした清春だが、地面を蹴る勢いで氷と共に吹き飛ばされてしまった。山崎の方が移動速度が速い為、牽制として氷柱の嵐を山田に向けて放った後、山崎を迎え撃つ。大気中の水分すら全て清春の支配領域にある。ふわっと飛んだだけで、水分が氷となって清春の足場を作ってくれる。
「上等だ!」
山崎の拳をひらりと浮く事でかわし、蹴りを見舞う。山崎も避けようとするがヒットする瞬間に清春の靴に氷塊が纏わりついた。急に伸びたリーチに対応しきれず山崎の体が吹き飛ばされていく。
「まず一人っ!」
流星寮は手練れの魔術師が何人も居る。だが近接戦メインの二人さえ潰してしまえばだいぶ楽になるのだ。山崎が暫く動けない事を確認すると、清春は山田に視線をやる。氷柱の嵐は仕留める力は、山田の振った異様に長いディルドによって全て吹き飛ばされていた。
「双頭ディルドか。──前、3Pする時に先輩に借りたっけね」
山田との距離は10メートル程。次はどの手で来る──と構えた瞬間、山田がディルドを振った。
ぎゅいん、と鞭のように伸びて亀頭部分が清春の眼前に迫っていた。すんでの所で顎を捻ってかわすがすぐに追撃が来る。
「ゴムゴムのォォォォ!!!!!」
「その技はやべぇぞ!?」
両手に構え伸びきったディルドが破壊力を伴って清春目掛けて叩きつけられた。防御として展開した氷の壁どころではない。大地まで抉られ吹き飛ばされていく威力だ。山田の魔術の中でも最高の威力であろう。何とか氷の上を滑って回避したが、山田もそれは予測していた。四方八方に投げられたオナホ爆弾が今度は眼前に迫る。
「調子に乗るんじゃねェッ!」
血継魔術の恐ろしさはその威力の高さと展開速度だ。魔術を後出ししても相手よりも早く強く発動する事が出来る。清春はその身にある膨大な魔力を放出し、空間ごと全ての爆弾を凍らせて粉々に砕くと同時に山田も凍らせた。対象を失った山田の魔術が霧散していく。そして、清春は気づいた。遠く離れた場所で流星寮の面々が全裸で円陣を組んで何かを祈っている事を。
「まさか──っ!?」
「一つ、ヤリチンは死すべし」
「二つ、童貞を笑う者は死すべし」
「三つ、好きな女の為なら殺人を躊躇うなかれ」
男達の詠唱が終わり、遥か上空に異様な魔術印や魔術が複数展開した。
清春も見た事がない未知の魔術だ。それは、簡易な声楽魔術。魔術印。海外の少数民族が使う未知の魔術の集合体だった。流星寮が造られて数十年。歴代数多くの問題のある魔術師達が後輩に遺したそれは──流星寮魔術と呼ばれ、彼らに受け継がれてきた。
「流星寮魔術:エクスカリバー」
滅茶苦茶なそれぞれの魔術が混ざり合い神話の剣が展開しようとした。が、所詮出鱈目の集合体。すぐに暴走し破壊のエネルギーを纏った小さな光の剣と化し、発動した流星寮の面々目掛けて降り注ぎ始めた。「ひぇぇ」や「ぎぇぇ」と悲鳴を上げながらも、防御や回避だけは出来ている点は素直に清春も凄いと思った。
「これは流石に、オレの所為じゃねぇからな」
綺麗にあちこち焼け焦げたりボロボロになったりしている流星寮の面々に声をかける。
それでも、彼らは立ち上がった。どうしても譲れないものがあるのだ。
「ここは通さん……。俺達は、千ヶ崎さんのおっぱいだけは守る……!」
「慎ましやかだが、彼女の意志で見せる相手は選ぶべきだ……!」
「そういう事をするなら、姫先輩にやれ……!」
菊姫梢子ならいいのか、と清春は思ったが人でなしなので守る気にはならないなと心の中で同意した。しかし梢子もガードが硬いし、バレた時には清春自身の命すら危うい。死ぬまで相手を潰す人間だという事はわかっている。手を出す気にはならない。
「そのクソみたいな主張は嫌いじゃねぇけど教えてやる。──弱い奴は何も守れねぇんだよ」
何処か誰かに思い知らせるように清春は言う。
それに加え、流星寮の面々にこれ以上邪魔されると夜の体力に差し支える。凍らせてしばらく反省して貰おうと氷の嵐を起こそうとした時だった。清春の展開した氷が全て破壊されていく。探知魔術を展開すると膨大な魔力が近くに迫っていた。
「よぉ、清春。こうやってちゃんと話すの久しぶりだな」
虹色の光が周囲に吹き荒れ、清春の氷結魔術が全て吹き飛ばされていく。破壊された森林の奥地から虹色と黒い光と共に現れたのは八代だった。両手には支配の魔剣と虹の魔剣を持っている。支配の魔剣──。八代が使っているのを見るのは実に半年ぶりぐらいだ。血継魔術師の清春でも気圧されるぐらいの迫力はある。
「お前……。妹はどうした?」
「カクテルにテキーラ仕込んで夢の世界に送りこんだ。──これで朝まで遊べるぜ!」
「クズだ……!」
「クズ過ぎる……!」
クズコールが歓喜の声と共に沸き起こり、貶されているのに八代は嬉しそうに笑い、支配の魔剣を清春に向けた。
「弱い奴は何も守れないんだっけ? なら、大人しく渡せよその眼鏡。──姫先輩のおっぱいを最初に見るのは、僕だ!」
「ハッ。言うじゃんかよ八代。丁度いい機会だ。どっちが強いのか決めるのも悪くねぇ」
清春も不敵に笑い氷結魔術を再び発動させる。
かつて日本を震撼させた支配の魔剣と、過去に例がない希少な氷結魔術の対決が今、始まる。
面白かったらブクマ評価等お願いします。
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