表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国立大学法人東京魔術大学 ─血継魔術科─  作者: おめがじょん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/78

前科40:この大学生達、学生の本分は勉強ではなく喧嘩だと思ってそう。




 魔導力──それは、新しい魔術の体系。

 三十年ほど前に基礎技術が確立され、日本だけでなく世界中に一気に広まった新しい魔術だ。

 首都を破壊された日本という国が未だに世界でかつてと同じような国力を誇っていられるのもこの魔導力の普及が大きい。人類誰もが持つ魔力を導力器と呼ばれる魔術印が刻まれた核に流し込む事により増幅させ、望む魔術を発動させる事ができるのだ。


 一部の魔術師は自身の既得権益が侵される事に良い顔をしなかったが、賢い魔術師達はすぐにその技術を己の魔術と結び付け商売に走った。軍需企業と化した伊庭。資本の力で魔導力界最大手となった複合企業在原。魔導力をスポーツに応用した東山。国の御三家とも言われている。


(私は、お父さんのお仕事をよく見てて──それで、魔導力に興味を持ったんだっけ)


 美晴の実家は在原系列のひ孫請けぐらいの小さな家族経営の会社だ。

 魔導力は人を幸せの為に在る、を信条に山梨県の小さなエリアだが質の高いメンテナンス業者として慎ましく暮らしていた。そんな父の姿に憧れ、甲府の魔術高校の魔導力科で上位の成績だった美晴は記念受験として東京魔術大学を受験した結果、ここにいる。


(魔導力は人の幸せのために、か)


 実家を出る日、父は自分なりの信条を見つけなさいと送り出してくれた。

 父の信条はカッコいいと思ったが、入学して一ヵ月程も立つと世の中そうではないという事に気づいた。魔導力科は少数精鋭の実力主義。同級生達は浪人も多く、懸命に技術の研鑽に打ち込む毎日。遊んでいる人なんかあまり見かけない。

 良い成績をとって良い会社に入る。日本が世界の魔術のトップとなれるよう技術向上に努める。魔術師よりも強くなりたい。同級生達の意識は高かった。人の幸せのために、等とは言い辛いが故に美晴は魔導力科に馴染めずにいたのだ。

 

「失礼します」


 声をかけて魔導力科の専門校舎へと入る。

 十年前に東京魔術大学に開設された魔導力科の歴史は新しい。学内の隅ではあるが、専門の校舎が建てられているのがこの学科ぐらいだ。魔導力は日本で今一番注目されている分野だ。最新鋭の制作設備に、生徒一人一人に研究用の個室が与えられていたりと待遇が厚い。美晴が入った先には、訓練や実験用も兼ねた広大な空間が広がっていた。この空間も、魔術ではなく魔導力科によって広げられている。ここまでは誰でも入れる。この先の製作室や研究室に行くには魔導力科の学生証が必要なぐらいセキュリティも高い。


「ごめんね、美晴。急に呼び出しちゃってさ」


「いえ、大丈夫です。ナツ先輩、五月祭に間に合ってたんですね」


「あんま興味なかったけど、ちょっと用事があってねー。調整に付き合って欲しいんだ」


 その場に居たオレンジ色の髪を短く切りそろえた女──早川夏希に美晴は声をかけた。魔導力科の一学年上の先輩だ。オリエンテーションで会って暫くした後、彼女は企業と組んで魔導力製品のテストにかかりっきりだったので学校に来てなかったのだ。今日も黒い動きやすそうなジャージにオレンジ色がよく映えている。まくった袖からは刺青が見えており、外見は非常に近寄りがたい。

 今日は非常に機嫌が良さそうで美晴はほっと安堵する。だが──


「美晴さー。この前、ウチの二年に絡まれたでしょ?」


「え……アレは。絡まれたというか……」


「何かあったら私に言いなって言っておいたじゃん。──だから、ヤキいれといたから」


 淡々と何事もなかったかのように言う夏希にぞくっとする。

 夏希が指さした先。広い部屋の奥の方ではこの前絡んできた男達が倒れていた。暗くて今ままで気が付かなかったのだ。気絶しているのかうめき声すら上げず転がっていた。これが、魔導力科の現状だ。強さこそ正義。より強い魔導具を扱えるか、はたまた作れるかが学科内での立場を決める。入学当初にも、訓練と称して他の上級生に締め上げられている人を見た。


「先輩……。こんな事、私望んでません……」


「美晴は優しいねぇ。下級生に嫉妬して意地悪するゴミの心配なんてしなくて良いんだよ」


「でも、こんなの酷い……」


 早川夏希は優秀で優しい先輩だ。オリエンテーションでも積極的に話しかけてくれたし、寮に日用品を運び込むのも手伝って貰った。美晴の入学時に提出した魔導具の事も非常に高く買っており、一緒に研究をしようと誘ってくれたりもしたのだ。魔導力科の一軍と呼ばれるチームにも所属しており、美晴がそのチームに所属出来たのも全て彼女の推薦があってこそだ。ただ、自分の敵に対しては、苛烈なまでの攻撃を仕掛けてしまう所が美晴には怖いのだ。


「あいつらから聞いたんだけど、血継魔術科の子から喧嘩売ったらしいね」


「違います……。美鈴ちゃんは、おどおどしてる私を助けようとして……」


「それでもさ。言い方ってもんがあるよね。まあ、だから叩きのめすぐらいで勘弁してやったんだけどさ。あんな野蛮な学科とつるんじゃダメだよ」


 魔導力科の大半は血継魔術科の事が嫌いだ。美晴も八代や美鈴と接するまでは怖くて仕方なかった。

 強い魔術師程傲慢なのは美晴もこれまでの人生で多く見てきた。だが、その頂点たる血継魔術師は実際話してみると意外と親しみやすかったのも事実。夏希も血継魔術師が大嫌いなのは今までの言葉の端々からもわかっている。だからこそ板挟みのようで辛かった。


「美晴は可愛い後輩だからさ。何とか守ってあげたい。でも、この事が上級生達に知れたら私だってかばいきれないかもよ」


「はい……すいません」


 三年、四年とはまだあまり話してはいないが雰囲気が更に違う。

 ぱっと見た感じでは普通の大学生にしか見えないが、魔導力へののめり込み具合や魔術師への敵意が違うのだ。夏希の言葉に嘘は感じられない。本当に起こりえる事なのだ。それをわかっていたが、美晴はどうしても美鈴とノエルと離れたくなかった。てんでバラバラな三人だが、楽しかったのだ。だが答えを出すしかない、と心に決めた時だった。


「失礼します」


 ドアが開くと何時ものように愛想のない美鈴とノエルが現れた。

 最悪のタイミングだ。美晴の心が絶望に染まるが、その一方でどこか嬉しくもあった。自分を探しに来てくれた事がわかったから。


「──ごめんね。ここ、魔導力科の敷地だからさ。あんまり他学科の人に入ってほしくないんだけど」


「おや。魔導力科はここまでなら、どの生徒でも立ち入り自由だと学則に記載がありましたけど」


 美鈴の言葉に夏希が苛立つのがわかった。西園寺美鈴は気が強い。

 入った瞬間態度の良くない夏希にも毅然と立ち向かう。美晴だったらすぐに逃げ出してしまう所なので、美鈴のそういう部分に憧れていた。


「美晴。この子達が友達? 血継魔術科唯一の一年生と、魔術科の飛び級の子じゃん。天才ばかりだね。私達凡人とは大違い」


『美晴も天才! ゲームめっちゃ強い!』


 ノエルが不本意とばかりに文字列を展開し抗議を始める。あまりの空気の読めなさに美晴は思わず笑ってしまいそうになった。すると、ため息をついて夏希が二人の方へと歩いて行く。女性にしては背の高い夏希が見下ろすような形になるが、一切動じない二人であった。


「それで、何か用?」


「用事というよりは、美晴さんがここに来るのが嫌そうな顔をしてたので追いかけて来ただけです」


「はァ?」


『めっちゃため息ついてた!』


 勘弁してくれ、と今度は泣きそうになる。火に油を注ぐような事しか言ってくれない。

 夏希の機嫌がとても悪くなったのが後ろ姿だけでわかった。それに気づいているのかわからないが美鈴は尚も続ける。


「というわけで、美晴さん引き取っていってもよろしいですか? 今晩のゲーム大会のレギュレーションも決めたいので」


「……ふぅん。そういう事なんだ美晴」


「いえ……! その……!」


『そうだ! 乾杯の話もしなきゃ!』


「それもそうですね。大丈夫ですよ、美晴さん。ノンアルコールですから法律違反にはなりません」


 我慢の限界だった。三人が三人とも好き勝手を言っているし何を言ってるのかよくわからない。自分だって言いたい事は沢山あるのに。一度噴出した怒りは止まらない。腹を括った美晴はジロリと三人を睨み、普段から出している声と一緒とは思えないぐらいの声量で捲し立てた。


「もぉぉぉぉ限界っ! 別にナツ先輩の所来るのそんなに嫌だったわけじゃないし! どうせ美鈴ちゃん達と仲良くしてた事注意されるんだろうなーって嫌になってただけ!三人とも私の事思ってくれるのは嬉しいけど、身勝手過ぎるよ! 研究棟来ればナツ先輩は他の先輩ボコボコにしてるし! 企業と仕事してるって自覚無さ過ぎ!美鈴ちゃん達だってそう! あんな言い方したらナツ先輩だって怒るよ! 前々から思ってたけど、二人とも滅茶苦茶空気読めないよね!? 私なんかずっと空気しか読んでないのに!伊庭先輩の事二人ともめっちゃバカにしてるけど、あの人そういうとこ空気読めるよ!? でも来てくれたの嬉しかったありがとう! ナツ先輩もありがとう!」」


 あまりの剣幕に気圧され「ご、ごめんなさい……」と強気な三人は謝罪する事しかできなかった。

 美晴が肩で息をする最中、最初に立ち直ったのは夏希だった。笑っているわけでもなく、怒っているわけでもない曖昧な表情を作ると、


「……まぁ、別に美晴連れてっても良いけどさ。その代わり、血継魔術科の一年さ。ちょっと私の訓練に付き合えよ」


「良いですよ。私も、魔導力科の上級生の実力を見たいですし」


「んじゃ、美晴。そういうわけだから」


 夏希はそう言うと美鈴から距離を取り始めた。本気で闘る気だという事はもう既に分かっている。何も言えないが──


「ナツ先輩……。ごめんなさい」


「別に良いさ。後輩に対して過保護だなって私も少し反省している」


 美晴から目を逸らしていた夏希だが、最後に真剣な目で見据え、


「天才と友達で居続けるのは、美晴が想像しているよりずっと大変な事だよ。近い将来、()()()()()()()()()()()()()()。きちんと考えておきなさい」

 

 優しく美晴の頭を撫でると完全に戦闘モードへ入った。

 夏希が履いていたブーツへと魔力を込める。流された魔力は導力器に蓄積されると増幅され、少ない魔力でも大きな魔術を発動させる事ができる。ブーツの形状が変化し、膝までを囲う鎧と化す。夏樹の研究している軽装の試作品だ。複数の導力器が設置されており、様々な魔術が絡んだ魔導具となっている。

 

「それが貴方の魔導具ですか。では、こちらも」


 美鈴が指輪に力を込めて血を流す。同時、美鈴の頭から角が飛び出した。腕の大きさも変わり肌が赤銅色に染まる。血継魔術【狂化】だ。誰もが羨む至高の魔術でもある。あまりの魔力量に夏希は羨望と嫉妬を覚えた。──あの力が自分にもあれば、と。

 

「かかってこい、後輩」


「では遠慮なく、先輩」


 美鈴の姿がふっと消えた後、目の前にはもう既に拳が迫っていた。──入学時の一年戦争で見た時よりも更に早い。寸前の所で首を振って回避し、耳の横を轟音が掠めていく。一撃くらっただけでひとたまりもなさそうな威力だった。美鈴の腕を掴んで体をくるんと入れ替えさせた夏希は大きく後ろへ跳ぶ。人類の限界以上の跳躍力だ。だが、着地した時には、またも美鈴の姿はもう目前であった。腰を捻って上段から落とすような蹴り。──は、硬い腕に阻まれダメージはなさそうだ。


「甘いな」


 蹴りがヒットした瞬間。夏希のブーツから魔術が発動した。増幅された衝撃波が蹴りの威力ごと美鈴の体に叩きつけられ転がっていく。防御無視の魔術と格闘の複合伎だ。魔導力の一番恐ろしい所でもある。普通の魔術と違い、魔術発動のタイミングが目視で確認できない。そして、夏希のような魔術の才能を持たない凡人であっても高位の魔術で攻撃できるのだ。


「痛っ」


 無論、鍛錬も必要となる。夏樹がどれ程努力してもかけられる身体強化魔術は低級だ。東魔大に所属する普通の生徒の最底辺のレベルである。魔導力の技術によって、ようやく美鈴達と互角に勝負が出来るレベルであった。夏希は吹き飛んだ後も攻撃を緩めない。真上に高く跳び、体を回転させながら全力の蹴りを放った。衝撃波が勢いに乗って美鈴目掛けて飛んでいく。


「バケモンめ……っ!」


 夏希の放った衝撃波が黄色い光と共に吹き飛ばされた。

 美鈴の右手から三本の魔力が凝縮された爪が見える。夏希が一年戦争の時に見たものより更に長い。地面に着地した後、美鈴の様子を伺う。あれだけの威力で蹴ったというのに血の一つすら流していなかった。


「やっぱ、試作品じゃダメか。──強ェな」


「そちらも中々。私以外の血継魔術師では耐えられなかったと思います」


 夏希が魔力を今度は右手に送り込んだ。腕にはめていたグローブが手甲へと変化する。こちらは完成品である。少し手合わせするだけのつもりだったが、気が変わったのだ。美鈴の魔力量は夏希と比較した時には無尽蔵に等しい。長期戦になれば圧倒的に夏希が不利なのだ。だから、全力で。手甲を構え、ありったけの魔力を送り込む。美鈴の目から見ても夏希の手甲はかなりの脅威だった。血継魔術に等しい威力だと予想し、構えをとる。


「決着つけようぜ」


「ええ、望むところです」


 お互い全力で大地を蹴った。相手よりも先に拳を叩きこむ。その一心だけで──。


「その辺にしておきなさい」


 声が響き渡った瞬間、足元で魔術印が光るのが見えた。加速していた二人の世界がぐるん、と一回転する。天地が急にひっくり返ったような感覚の後に受け身もとれず美鈴と夏希は地面に叩きつけられた。何の魔術か見当もつかない。目を白黒させた後に、久我桜子が立っているのが見えた。


「ノエルが集合時間になっても来ないから探してみれば……。大怪我するところだったじゃない」


 桜子が横目でノエルを身ながら言うと『てへ』と文字を掲げて可愛い子ぶり始めた。実際かなり可愛いので桜子には許すしかできない。すると、体中の痛みに耐えながら先に起き上がったのは夏希だ。三半規管がやられたのか足取りがふらついている。


「まためんどくせぇ魔術師が来やがった……」


「相変わらずね、早川さん。()()()()()()()には同情するけど……。こういう乱暴なやり方は何も生まないわ」


「うるせぇ。てめぇには関係ねぇだろうが。──大人しく魔導科の支援を受けときゃぁ、血継魔術科なんか倒せるのに断りやがって」


「それは、東山さんの思想と私達の思想が合わなかっただけよ。私達には私達の矜持があるの」


「相変わらず言葉遊びが上手いね。──もういいや。さっさとこいつら連れて出てってくれ」

 

 そういうと夏希がばたんと倒れた。

 疲れただけかと思いきや恐る恐る美晴が覗いてみると白目を剥いている。


「ちょっ! ナツ先輩白目剥いてますよ! これヤバいんじゃぁ……」


「あら、ちょっとやり過ぎたかしら」


「……そうですね。狂化状態の私でもまだ起き上がれませんし」


 美鈴も宙を見たままぼやく。加速していたタイミングでひっくり返されては何もできない。普通なら頭がぱっくり割れている所だ。桜子はふぅ、と息をつくと気絶した夏希の体をお姫様だっこの形で持ち上げた。夏希も女性にしては背が高いが、桜子は更にその上を行く。心配そうに夏希を見つめる美晴の姿を見て、桜子は口元を綻ばすと、


「何時かこの子が自分の事を話してくれたら聞いてあげて。──この子なりに傷ついて考えて、こんなになっちゃったのだから」




面白かったらブクマ評価等お願いします。

次回からまた下品な男達の話が始まります。

服が透けて見える眼鏡争奪戦です。ただただ下品です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 血継魔術科とどっこいどっこいじゃんね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ