前科35:未成年の伴侶が欲しかった男が辿り着いた至高の魔術。
「バカめ。私の前で女子中学生を冒涜するとは良い度胸だ!」
バカはお前だ、と心中で呟きながら西園寺美鈴は目の前に光景をジトっとした目で見つめていた。
寮長がマントをはためかせ、セーラー服を着たマッチョ目掛けて魔術を放つ。展開された魔術印の数は50を超えている。四方八方から衝撃波を放つ魔術を撃たれたセーラー服の男が場外へと吹き飛んでいった。
「流石は東魔大ですね。あの方、どこかで見た事ある気がしますが……」
「ロリコンの変態です。存在を覚えるだけ無駄ですよ」
天下一魔道会の会場。美鈴はルイと並んで予選の模様を眺めていた。
不死川を知っているという事は彼女もそれなりの名家なのだろうと美鈴は推測したが、下手に名乗るのも面倒くさい。西園寺の敵である可能性も高いという可能性を考慮しつつ当たり障りのない会話を続けていく。
「そんなわけないでしょう。ここは、由緒正しき東京魔術大学ですよ。兄も常識的な人ばかりだと手紙で言ってましたし」
「お兄様は素敵な学生生活を送っているのですね。羨ましく思います。私なんか全裸の変態と入学早々関わってしまったのが運のツキでしたよ」
「全裸の変態? お洋服を着れない病気にでもかかってるんですか?」
「ある種、脳の病気とも言えますね。仲間達も全員似たような感じですし」
「おねーさん可哀想。その変態と会ったら言って下さい。私が成敗してあげますから!」
ふんと鼻を鳴らしてルイが自信満々にそう言った。
美鈴も予選を突破した時にルイの戦いもみたので、相当の実力者だという事はわかっているが相手が悪い。強いうえに逃げ足も速い。関わらせるのも可哀想なので八代を見かけても黙っておくと決めた。
「ははは。その際は是非お願いします」
正義感の強い子なのだろう。だからこそ余計にあの変態達と関わらせたくなかった。
そう決意した美鈴は話題を変えようと周囲を見渡した。参加者はそこまで多くない。先程大量に辞退者が出たからだ。その原因でもある菊姫梢子は選手控室の隅の方で一升瓶を抱えながら楽しそうに酒に溺れていた。
「おいおい、菊姫。呑み過ぎだぞ。試合出るんだろ?」
「大丈夫だいじょーぶ。アタシめっちゃ強いから。決勝でアタシが酔ってなくてもいいの? ハンデつけなきゃ弱いものイジメになっちゃうじゃん」
梢子がご機嫌な様子で語るのを窘めているのは颯太だ。
2人そろってふらっと現れたと思えば参加者たちはこぞって逃げ出し運営は泣いて観客は盛り上がったのを覚えている。記念参加みたいな人間は菊姫梢子と闘うというふるいにかけられ、ガチでやり合う人間しか既に残っていない。梢子の発言が気にくわないのか、控室の空気が悪くなった。そして、一番燃えたのはルイのようだった。
「随分と自信あり気な方みたいですが、そんなに強い人なんですか?」
「血継魔術科の三年生の方です。一番の優勝候補ですね」
「……ふぅん。あんな人が血継魔術科ですか」
皮肉気な声でそう言ったルイの声は梢子に聞こえたようだ。ふらりと立ち上がってルイを睨みつけた。
「おいコラ聞こえたぞ。アタシが血継魔術科で何か文句あンのかおい!」」
「失礼。兄から血継魔術科は栄光ある東魔大でも最高の学科だと聞いてたもので。まさか酔っぱらいのチンピラが在籍してるとは思いませんでした」
(彼女のお兄様。トチ狂ってるんですかね……)
梢子とルイのガンの飛ばし合いを眺めながらそんな感想を得た美鈴だった。入学前までは最高の学科だと信じて疑っていなかったが、今では反社会勢力の温床ぐらいにまで評価が下がっていた。
「言うじゃねぇか……。てめぇ、途中でコケんなよ。本戦できっちりブチ殺してやっからな」
「上等です」
しばらくメンチ切り合っていたルイと梢子だったがようやくお互い視線を外した。
運営スタッフから本戦を始めるとのアナウンスが流れたからだ。
「それじゃあ本戦第1試合は、鈴木颯太さんと不死川灯さんでお願いしまーす!」
「えっ!? 私もう試合なの!? 今予選終わったばかりなのに!?」
試合も終わって控室の隅の方で「週刊私のお義兄ちゃん」という雑誌を読んでいた不死川が悲鳴のような声を上げた。颯太も髪を掻きあげて「マジかー」等と天を仰いだ。お互い予想外の組み合わせだったらしい。運営も梢子の参戦により参加者が減ってしまったので必死だった。人気の出そうな対戦カードを最初から当てて観客を増やそうとしていた。
「俺、美鈴とやりたかったんだけどなー」
颯太がとても爽やかな笑顔でそう言った。美鈴も颯太の戦いには興味がある。
血継魔術師に勝ちたいと思う魔術師の実力がどれ程のものか、手合わせ願いたくもあった。
「私もです。お互い勝ち抜いて行けば何時か戦えるでしょう」
「でもお前、順当に行くと2回戦の相手菊姫だぞ」
「え……?」
何時の間にかスタッフが壁に手書きで書かれたトーナメント表を張っていた。
梢子の1回戦の相手はルイだ。そして、美鈴も順当に勝ち抜けば2回戦目でどちらかと当たる事となっている。どちらにしても相手は強そうなので少しだけ美鈴もワクワクしてきた。梢子は既に1回戦目でルイを倒す事にしか興味がないのかシャドーボクシングをしている。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
暗い目でブツブツ物騒な事を呟きながら拳を振るう梢子を見て、この人とはやりたくないなぁとげんなりする美鈴であった。
●
天下一魔道会本戦が始まった。
ルールは簡単。気絶したら負け。三十メートル四方のステージから出たら負け。降参したら負け。相手を殺しても負けというか逮捕。その為か、高位の魔術や火雷氷といった相手が一瞬で死んでしまうような魔術を使ってもその場で負けとなる。使えるのは衝撃波を放つ魔術や風を起こす魔術や防御魔術や身体能力強化魔術ぐらいだ。
「私みたいな近接戦闘が得意な魔術師の方が、この大会有利じゃないですか?」
「そーね。アタシも美鈴みたいな前に出てくるタイプ嫌いだし。でも、寮長クラスになると手数でどうにかなっちゃうもんよ」
美鈴と梢子が会場の上の方から眺めながらそんな会話をした。少し離れた所に嫌悪感を露わにしたルイも手摺に手を乗せて眺めている。実際、不死川は予選で防御魔術を展開しても無駄な程の魔術印を展開していたのだ。あんな事が出来る魔術師は梢子や清麻呂ぐらいのものだろう。
「でもあの人、強いです」
ルイの言葉で颯太に視線を向ける。不死川が開始早々無数の魔術印を展開したが、颯太は軽くステップしているだけだ。全く気負いがないリラックスした態勢ともとれる。
「颯太はね。魔術師としては本当に不器用なの。魔術印覚えるのも遅いし、展開も遅い。入学できた事が奇跡って言われてる」
梢子が煙草を口に咥えながら語った。火をつけ、ゆっくりと息を吸い紫煙と共に言葉を吐く。
「──だからあいつ、使う魔術を2つに絞ったのよ」
魔術印から魔術が放たれたと同時、轟音が聞こえて颯太の姿が消えた。ステージの颯太が居た位置には大穴が空いている。尋常じゃない威力で足元を蹴って加速したのだ。虚をつかれた不死川が反応した時には、既に颯太の拳が眼前に迫っていた。前に転がり、自身の背後に魔術印を展開。再び放たれた衝撃波を放つ魔術を、もう一度轟音を立てながら颯太は横に跳んで回避した。
「1つが身体強化魔術ね。あの速さと威力見たでしょ? 1年生の頃から、朝から晩まで身体強化魔術と筋トレやり続けた成果よ」
「山崎先輩よりも凄いですね……」
「山崎はモテたくて筋トレしてるだけだからね。颯太のはガチよ。血継魔術師に勝つためだけに鍛え続けてきたからさ」
どこか嬉しそうに語る梢子を珍しいなと思うが、美鈴はそれどころではなくなった。1回戦を突破したらあのバケモノ2人どちらかを相手した後に、さらに梢子とも戦う事になるのだ。十万円が遠く感じる。2人が話している間も試合は続いている。不死川の魔術印の展開位置が変わった。颯太も一度動きを止め、警戒するようにして印の場所を見ている。
「位置が上手ですね。直線移動の先に展開してます。発射タイミングにあの方も相当の自信があるのでしょう」
「颯太と戦う魔術師はああするしかないのよ。でも、あいつのタチ悪いとこがさぁ……」
梢子が話してる途中、颯太が再び地を蹴った。魔術の波状攻撃の第一波が躱され、次ぐ第二波はぴたりと颯太の止まった先だ。第二波をステップで再び躱した先に第三波の魔術印。不死川との距離が近い。衝撃波が放たれ颯太に触れようとした時、防御魔術が展開された。最低限。掌ぐらいのサイズの防御魔術が4つ。無駄のない完璧な防御。不死川が目を見開いた時には、颯太の腰が大きく沈み腹に掌底が撃ち込まれた。
「──っふぉ!?」
息が詰まったような声と共に不死川の体が吹き飛んでいき悲鳴と歓声が上がった。
「加えて防御魔術も1流なのよ。アンタがマロ先輩にやられたのと同じ事が、アイツにも出来るのよ」
「確かにアレは嫌ですね……」
「ま、レベルが高い魔術師程、防御魔術は1点集中できるからね……」
防御魔術は大きく展開すればするほど魔力消費も多いし脆くなりやすい。
1点集中が使う事がベストとされているが扱いはかなりの修練が必要となる。そして、颯太にも出来るという事は不死川にもできるという事だ。しばし咳込んでいた不死川だったがゆっくりと立ち上がる。その表情に何時ものような余裕はない。あんなに真面目な顔をしている不死川なんて、お気に入りのイメージビデオを見ている時ぐらいしか見た事がなかった。
「流石だね……。桜子君から話は聞いていたが、相当なものだ」
「アンタだってバケモンかよ。あのタイミングで防御魔術発動出来た奴なんて、見た事ねーっすよ」
「私には負けられない理由があるからね……」
「へぇ。意外ですね。もっとドライな先輩かと思ってました」
「少しばかり本気を出させて貰おう。私の全魔力の3分の2程の魔力を使ってしまうのでね。あまり出したくはないんだが……」
「上等!」
颯太が構えた。不死川の横に複雑な魔術印が展開され魔力が流し込まれていく。
どれ程の魔術が出てくるのか、攻撃するかどうか迷った颯太は静観を決めた。どちらにせよ。この魔術だけは見ておきたかったのだ。膨大な魔力が流れた魔術印から展開されたのは、人形のような少女だ。金色でふわっとした髪の貴族のお嬢様のような風体だ。
「創作魔術:イマジナリー伴侶」
「完全な趣味じゃないっすか……」
どんな能力があるか不明だ。近づいた瞬間攻撃が襲ってくるのか。
はたまた防御系なのか。傀儡を召喚する魔術師は少なくない。まず一発攻撃を当ててみようかと考え、
「君は、こんなに可愛い少女に攻撃をしようとするのか?」
「召喚したアンタがそれ言う!?」
「少女の扱い方を教えてあげよう」
不死川は少女を抱っこするような形で担ぎ上げた。少女は不死川の首に手を回すと首筋をがぶりと噛んだ。首筋から血が流れ、不死川の胸元に流れる。外見の美しい不死川がやると本当に絵になるような光景だ。そして、首筋から口を話した少女が一言。
「灯君。頑張って」
少女は儚く笑ってそう言うと粒子と化して消えていく。不死川は黙って目を瞑りそれを見送る。
完全に2人の世界だ。颯太も観客もスタッフも全て置いてきぼりにされている。
「アイツ、バカだな」
「同感です」
「あの方、何をしたいんですかね?」
梢子美鈴ルイからの評価も散々だった。だが──次の瞬間、炎が吹き荒れた。膨大な荒れ狂う炎が不死川を守るようにして展開する。
「これが不死川家の血継魔術、"原初の炎"……」
ルイが目を見開き口にした。不死川家の血継魔術なんて滅多に見れない為興奮気味だ。
前に少女の応援が無いと発動できないと語られた記憶がある美鈴は、変態が条件付きで能力を使えるようにした事に対し、神に感謝した。そして、目の前で対峙している颯太は楽しそうに笑った。随分と手間がかかるという事実は気にしない事とした。
「行くぜ──っ!」
颯太が再び大地を蹴ろうとした瞬間、大きな笛の音が響き渡った。
旗を持ったスタッフが大慌てて乱入してきて、一瞬時間が止まった。何事かと颯太も魔術の展開を止める。
「バカ野郎! 血継魔術は禁止だって言っただろうが! 不死川は失格! 勝者、鈴木颯太!」
あまりの結末にその場に居た全員の空いた口が塞がらなかった。
更新しました。
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