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国立大学法人東京魔術大学 ─血継魔術科─  作者: おめがじょん


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32/78

前科32:食らえ、呑み干せ、ぶっ飛ばせ!








 東魔大が完全閉鎖した後、巨大な結界魔術が張られ外界と完全に隔離された。その中に残るは大学関係者と紛れ込んだ一般人ぐらいである。正門付近では事情により取り残された人を救済する措置が取られているが数時間後にはそれも無くなる。

 東京魔術大学創立当初から存在する裏五月祭は、歴代の在学生達によって守られてきた聖域だ。



 ──食らえ、呑み干せ、ぶっ飛ばせ!



 今年度の裏五月祭のスローガンが美しい文字で描かれていた。書いている内容は原始的だが、名言とすら思えてきそうな勢いだけがある。無数の巨大な幟に描かれたそれを半眼で見つつ、織田清麻呂はため息をつく。東魔大学生自治会室(臨時:五月祭運営委員会)と表札がぶら下げられた部屋に清麻呂は居た。部屋の中には清麻呂だけでなく十人程の学生達の姿がある。一般生徒と一線を画すような一筋縄ではいかない雰囲気をもった生徒達だ。


「織田先輩。風紀委員会の方の準備はよろしいですか?」


 栗色の長い髪をさすりながら久我桜子が清麻呂にそう問う。落ちぶれたとはいえ、久我家はまだ魔術貴族としてはそれなりの地位がある。美人でスタイルも良く誰とでも分け隔てなく接する桜子は魔術科だけでなく全学科の生徒からも評判が良い。

 彼女の「お願い」だけで数百人の人間を動かす事が出来るので一年次からスカウトされてこの五月祭運営委員会に所属している。


「ああ、問題ない」


「今年も先輩にご協力頂けて嬉しい限りです。やはり、"東魔大最強"が風紀委員側に居るとスムーズに話が進む事が多いので」


 裏五月祭は生徒だけの自治で行われる。それ故に犯罪も非常に起こりやすい。強姦、強盗、傷害等数えれば際限ない。生徒達誰もがこの裏五月祭を愛しているわけではない。だが、大きなトラブルが表沙汰になる事もなく、現代までこの学祭が生き残れたのは単に運営委員会の尽力によるものだ。

 桜子のような貴族の子。他にも関東銀泉会若頭の子や政財界の御曹司等、ジャンルが多岐に渡りそして誰もが権力を持ち、この裏五月祭を愛していた。


「俺は姉達が愛した五月祭を守れと命じられてやってきただけだ。そんな褒めて貰うような事じゃない」


 卒業した清麻呂の姉達も五月祭実行委員に名を連ねており、今回の運営にも外部から協力している。清麻呂の姉だけではなく、歴代のOBOGも何らかの形で協力しているのでこのお祭りは毎年大学側からも認可されているのだ。

 そんな話をしていると、自治会室の扉が勢いよく開かれ半泣きの女生徒が入って来るや大きな声を上げた。


「早速クレームが来ました! 第一女子寮からです! 流星寮の人達が全裸で相撲大会やってるの何とかしろって怒ってます!」


「廻しをきちんと着用するよう言っておいてくれ」


「私もそうお願いしたんですけど、これは我々の神事なので信教の自由の観点から要求を拒否するって言われちゃって……!」


「何が神事だバカ共め……っ! ──わかったありがとう。俺が蹴散らしてくる」


 怒りに顔を赤くした清麻呂が出て行こうとすると桜子が手元に置いてあった紙を渡した。東京都公安委員会の判が推してあり、鉄砲所持許可証とある。


「これ、お持ちになって下さいな。申請しておきましたので」


「月曜の分しか申請していなかったので助かるよ」


 織田清麻呂の血継魔術【魔銃】は銃を召喚する魔術だ。この魔術が発展したご時世、銃の価値は著しく下がっている。名ばかりの法律。防御魔術の発達により武器としての価値はほぼ無い。そんな時代においても警察官を目指す清麻呂は法令順守を貫き魔銃の使用を厳禁としていた。

 紆余曲折あり、様々な政治家や官僚が「めんどくせぇ奴だな」と思いながら「許可制」という特例が作られ、申請し許可の下りた日時と場所においてのみ清麻呂は魔銃を解禁する。清麻呂がはめている指輪に力を込めて血を流すと同時、右手にリボルバー式の拳銃が握られた。それを忌々しそうに見つめ、

 

「それでは諸君。裏五月祭を始めよう。来年もこのイカれた祭典が続いて行くよう、全ての悪に鉄槌を──!」


 

 


 


 










「ありがとー。今日は第一講堂でガールズバーやってるから遊び来てねー」


 凝り固まった笑顔でこの台詞吐くの何度目だろうと思いながら千ヶ崎真央は大学内を歩いていた。ハイブランドのワンピースにヒールの高い靴が歩きにくいし、髪も何時も後ろで結んでいるだけなのにごてごてと装飾されて違和感が凄かった。

 真央の恰好への不満とは裏腹に傍から見ればその外見はとても美しく見えるようで、写真を頼まれたり話しかけられたりと忙しない。梢子と清春の命令によって「宣伝してこい」と言われ散歩がてら外に出た真央だが、その効果は十二分に発揮されていた。


「わ。千ヶ崎先輩」


「美鈴ちゃんだ! 裏五月祭に残ってるなんて意外だね。帰らなかったんだ」


「伊庭先輩に騙されてようやく事情が呑み込めてきた所です。まぁ、こうなってしまえば適当に楽しみますよ」


「いいじゃんいいじゃん。あたし姫先輩の手伝いあるから夜中まで忙しいけど、何か困った事があったら第一講堂までおいで」


「ありがとうございます。この辺り歩いてるという事は、流星寮に向かう予定ですか?」


「……あーうん。八代の奴、寮に居るの?」


「ええ、ボコボコにぶん殴った後で部屋に投げ込んでおきました。あの人達、今全裸で相撲やってるから近づかない方が良いですよ」


「大丈夫だよ。もう慣れたしね。流星寮の人達は基本気の良い人達だけど、五月祭は色んな人が居るからね。なるべくお友達と一緒に動いて、人から貰った飲み物には気を付けてね」


「わかりました。気を付けます」


「強くて女癖の悪い魔術師も居るからね。そういう時はマロ先輩とか姫先輩呼べば何とかしてくれるから。去年あたしがヤられそうになった時なんか、姫先輩達がギロチン作って公開処刑とか始めちゃってね……」


「想像に容易い光景ですね……。では、私も先約があるのでこれで失礼します。また後程」


 そう言うと美鈴は走り去っていった。

 その後ろ姿を見送り、良かったなと表には出さず笑う。学校で一人で居る事が多かったので楽しいのだろうか?と疑問を常々持っていたがどことなく楽しそうだった。美鈴と別れて流星寮の近くまでやってくると、男達が全裸で酒を飲みながら相撲をやっていた。常日頃から奇行を目撃している真央にとっては既に心すら動かない。

 それどころか──


「なっ──!? 千ヶ崎さんだ!?」


「おおおお!! 千ヶ崎さんが来てくれたぞォーーー!!」


 逆に全裸の男達が照れ始めて服を着始めるほどであった。

 流星寮において真央がどれ程神格化されているのか非常にわかりやすい光景である。着飾った真央を見てあまりの尊さに気絶する者まで居た。聖母でも見たかのような対応をされていては話もできないので、真央は外に置いてあるソファーに座っている寮長へと声をかけた。


「どーも。八代まだ居ますか?」


「いらっしゃい。西園寺君に殴られてから見てないので部屋に居ると思うよ」


「あざまーっす。そういえば聞きましたよ。天下一魔道会に出るんですってね」


「ああ、優勝したら皆がお祝いに女子中学生キャバクラに連れてってくれるらしいからね」


 地球上にそんな店が存在するわけがないだろう、と一瞬頭をよぎったが黙殺して「頑張って下さい」と一礼すると寮内へと向かった。寮内に入っても騒ぎは続く。真央の姿を見ただけで涙を流す者、何故か慌てて歯磨きを始める者。個性的な面々ばかりで相変わらず面白いなと笑う。

 階段を使って二階へ上がる。八代の部屋は何回か来た事があるので場所は知っている。部屋の前で立ち止まり前髪を直すと深呼吸。そこまで考えて何でバカの部屋に入るのに緊張などしているのか、と自身に疑問が湧いた。


(今日は飲み過ぎないようにしよ……)


 何もかも酒が悪い。先程まで八代に意味もなく怒っていたのも酒が悪い。そう念じるように心の中で呟くと、真央は八代の部屋のドアを開けた。















 


 





「ん……。ノーパン漫画喫茶……」


「どういう寝言ですか……」


 裏五月祭が始まり八代と一度話をするべく流星寮に忍び込んだ弁慶は全裸で寝ている八代の寝言にツッコミを入れた。伊庭家の動きがわからない。八代の妹は他の兄弟とも隔離されて育てられているし、当主側勢力の子でもないので情報が殆どない。

 弁慶や八代達が高校生ぐらいまで一緒の家で数年暮らした記憶があるぐらいだ。あの頃は慕ってくれては居たが、数年やり取りをしていないのでどんな思惑があるかわからない。ここ数年程八代とも疎遠といえば疎遠だったので兎に角情報が欲しい弁慶は八代のおでこをぺチンと引っぱたいた。


「うおっ!?」


「おはようございます。八代様」


「えっ!? 何で弁慶がここに!? 何で僕裸なの!? もしかして弁慶ってば僕を──」


「それ以上言ったら殺します」


 貴様は裸がデフォだろうがというツッコミすらなく首筋に爪を突き立てた。幼馴染と言えどその誤解はあんまりだった。そこでようやく八代も目が覚めて来たのか目の焦点が合って来た。気付けに近くにあった煙草の缶から一本取り出した。


「あ、私も一本下さい」


 八代から一本受け取ると意識を集中し魔術印を切っ先に展開。軽く弾けるような音と共に火がつき二人して紫煙を吸い込んだ。一服つけるとお互い落ち着いてきたので弁慶から話題を切り出す事にした。


「単刀直入に言います。──どうやら、妹の(るい)様が五月祭にいらっしゃっているようです」


「……マジで!?」


「本家筋からの情報なので確かかと。八代様は、累様と最近連絡とっていらっしゃるのですか?」


「やべぇ……。ここ数年、伊庭家に内緒で手紙でやり取りしてたんだけどさ。累ちゃん僕の事、清廉潔白なエリート大学生だと思ってるぞ」


「何をどうしたら八代様がそうなるんですか。人類と類人猿ぐらい違いますよ」


「失礼過ぎるでしょ! いや、手紙って中々嘘バレないじゃん。毎日勉強が大変とか部活が忙しいとかつい嘘を書いてしまって……」


「ちなみにどんな嘘ですか?」


「僕は血継魔術科の二年生で専攻は血継魔術の遺伝。成績優秀者しか入れない寮で日夜仲間達と研究に明け暮れ、神楽坂の喫茶店でアルバイトをしていて、彼女は奥ゆかしくて清楚な医療魔術科の女の子。出会いは毎週三回活動しているボランティアサークル」


「血継魔術科二年以外全部嘘って……」


「だから不味いんじゃん! 累ちゃん下ネタとか不良とか大嫌いだったじゃんね!? 今の僕見たらどう思う!?」


「金髪全裸の変態ゴミカス」


「そこまで言う!?」


「見たままを述べただけです」


 八代もかなり取り乱している。その反応を見て兄妹仲はそこまで悪くはないのだと弁慶は判断した。当時を思い返してみると兄達にはやりたい放題振舞っていた八代だが、妹には特段優しかったような覚えがなくもなかった。

 後はこの時期にわざわざ現れた真意だけだ。現在の伊庭家は絶妙なバランスで保たれているので、それが崩れるような事態だけは避けたい弁慶であった。


「とりあえず、金髪何とかしましょうか。黒染めとか持ってらっしゃいます?」


「うーん。確かあったような……」


 ごそごそと八代が部屋を漁り始めた。一般的な大学生らしく八代の部屋には物が多い。謎の魚拓のようなもの。人体模型。雑然と並べられた漫画と教科書。所々にペットボトルやら整髪料やらが整理もなく転がっている。あまり触りたくはなかったが意を決して弁慶も一緒に黒染めを探す事にした。


「こちらの容器は何でしょうか?」


「ああ、それローション」


「それではこちらは?」


「それもローション」


「あっ。これ黒染めじゃないですか?」


「惜しいな。ローションだ!」


「──いい加減にしろ!」


 怒りと共に弁慶の蹴りが八代に炸裂し部屋の隅まで吹き飛んでいった。ランダムに掴んだ容器が全てローションだなんて信じ難い。弁慶とてまだ二十歳の女性だ。男の性器を見た事がないような初心ではないが、同年代の部屋にあるローションは流石に気持ち悪かった。すると、八代が蹴り飛ばされた衝撃で棚の上から黒い箱が落ちてきた。それを見た八代は、歓喜の声を上げる。


「おっ。出て来たぞ黒染め。これ探してたんだよ」


「表に大きな字で()()と書いてありますが正気ですか?」


「僕の中ではギリセーフ。本当に紙一重」


「そうですか。──それにしても八代様、習字なんかなさるんですね。少しだけ見直しました」


「いやこれさ。寮の皆で魚拓ならぬチン拓取った時に使った余り。そこに飾ってあるだろ?」


「本当に救いようがないバカですね……」

  

「うるさいなぁ。よし、早速毛染めするか。何時累ちゃんが現れるかわからんし手伝ってくれよ」


「仕方ないですね……」


 手近にあった灰皿の灰をゴミ箱に捨ててその中に墨汁をなみなみと注ぐ。手が汚れるのが嫌だったので箱の中にあった筆に墨汁をつけこむ。櫛も欲しいなと近くを探してみたら床に転がっていた。清潔感はこの際考えずに櫛も同じく墨汁に浸した。

 

「はい。八代様。頭下げて下さい。土下座得意でしょう」


「勝手に特技を追加するな。まだ100回もしてないもん」


「普通の人間は生涯しないので」


 前世でどれ程の業を積み上げれば全裸男の髪を墨汁で染めるような事になるのだろうかと、弁慶の頭の中を考えがよぎった。こんなの人に見られたら末代までの恥だとも。土下座スタイルで頭を垂れる八代の頭に慎重に墨汁を塗っていると、


「おーっす。八代居る?」


 ドアが開いて着飾った可愛い女の子が目に入った瞬間、弁慶は自分の人生を諦めた。 

 






お久しぶりです。

体調不良&激務でお休みしていました。

再び社内ニートに戻れそうなので更新頑張っていきたいです

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― 新着の感想 ―
[良い点] 八代の部屋の絵面想像してちょっと笑ってしまいました。 "流星寮の"一般的な大学生の部屋ですねw [一言] 更新ありがとうございます!!
[良い点] 更新待ってましたよ!
[一言] いつもニヤニヤしながら読んでます。 お仕事頑張ってください
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