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国立大学法人東京魔術大学 ─血継魔術科─  作者: おめがじょん


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30/78

前科30:凡才の矜持。









 血継魔術師の強さに会場は大盛り上がりだった。

 人智を超えた魔術は普通に生活していて早々見れるものではない。派手なアトラクションを見たかのような気持ちで観客たちは談笑していた。その中には無論、色々な勢力の人間も居る。反社会組織。魔術協会。大企業。自身の組織に属する血継魔術師と比べても、今日の二人の強さは群を抜いていた。大人たちが悪だくみをする中、東京魔術大学魔術科の生徒達は学生らしくわいわい騒ぎながらデータを取っていた。


「やば! めっちゃやば! あれだけの魔術なのに発動まで1秒ないですよ!? さくちゃん先輩より全然早い!」


「魔力量の測定もしましたけど、うちらの三倍以上はありますねー。ちゃんと数値化しますか? 多分打ちのめされますけど」


「氷の山を突破しても千ヶ崎ちゃんの風の壁突破するのもキツいっすねー。貫通術式組んでも届くか微妙なとこですよあれ」


 魔術科の三人娘がきゃっきゃはしゃぎながらしてきた報告を久我桜子は紅茶の入ったタンブラーを片手に微笑みながら聞いていた。


「皆が貴女達ぐらいはっきりものを言えたら、日本人はストレス社会から解放されると思うわ」


 それにしても、と桜子は心の中でため息をつく。

 血継魔術師たった二人だけでも勝てるビジョンを持つのが難しいのに、本戦ではこの人数が三倍の六人と考えると頭が痛い。ここ数年有望な血継魔術師が入学し過ぎだろう、と己の運命が恨めしくなる。


「広範囲高威力の魔術師が揃っているから魔剣で対抗するのがセオリーなのだけれど……」


「伊庭君が居るから無理っスねー」


 梢子清春真央の三人は近接戦に強くない。魔剣で斬り裂いて道を作り近接戦に持ち込みたいが、伊庭八代が居る所為でその作戦はできない。伊庭八代を無効化したとしても、近接戦も遠距離戦も両方できる清麻呂が居る上に、今年入学した美鈴も近接戦に特化している為、状況は尚悪かった。


「考えれば考えるほど最強の布陣ですね。普通、まともに戦おうだなんて思わないですよ」


「そうね……。でも、こちらだってそれなりの策はあるのよ」


「"似非血継魔術師"と"神の声"があったとしても五分にはいかないね。そこはまぁ、さくちゃん先輩お得意の"根性"で何とかしてくださいっ!」


 あっけらかんと笑う後輩達に桜子も苦笑を隠せなかった。

 彼女たちの態度の方が普通なのだ。ここは日本の魔術の最高学府、全国から天才が集められた至高の大学だ。入学して一月も経てば、大半の生徒が自分は選ばれた天才ではないのだと自覚する。そして、天才の中の天才とも言える血継魔術師に挑もう等という考えは捨ててしまう。逆に異端なのは自分達の方だった。そんな変わり者の先輩に協力してくれる後輩達の気持ちがとても嬉しくもある。

 

「五月祭の最中なのにごめんなさいね。──ノエルがじゃがバター屋さん出してるみたいだから、遊びにいってあげて」


 財布から紙幣を取り出して渡そうとすると三人娘はニヤリと笑って桜子から距離をとった。


「いらないでーす! もう、颯太先輩から前払いで買って貰ってますからー!」


「研究室に沢山屋台もん買っておいてくれたんスよ。出来る男は違うっスねー!」


「さくちゃん先輩は勝つ事だけ考えててくださーい! あたし達がギリギリまであいつらのデータ集めておきますから!」


 それだけ言うときゃあきゃあ笑いながら駆けて行ってしまった。

 ──負けられないな。と心に活力が湧いてきた。一年生の時からずっと挑み続け、今年で三年目だ。

 四年は就職活動もあるので参戦できるかどうかわからない。これが最後の挑戦だと桜子は決めていた。そして、丁度いい時間に三人娘も去ってくれた。これから桜子はとある人物と待ち合わせをしていたので時間的に都合がよい。


「こんにちは」


「流石、時間通りね」


 人がまばらになってきた観客席。優雅に座る桜子の後ろの音もなく女が一人現れた。

 目立たない外見の女子だ。薄く茶色に染めた髪にこれといって特徴のない顔。服装は流行りのゆるふわガーリーちっくで量産型女子大生ともいえる外見だ。

 

「半分社会人みたいなもんなので。性分っすね」


「ええ、流石は伊庭家の護衛部隊の方だわ。その偽の外見含めて全てが一流ね」


「今は鈴木真子って名前っす。この騒ぎの中とはいえあんま伊庭家とか言わないで欲しいとこっすね」


 女の正体は弁慶だった。八代の護衛と監視の為に偽名を使って東京魔術大学の学籍を取得しているのだ。弁慶本人の実力でも入学は可能だったが、自身の魔術をあまり外部に漏らしたくない事もあり、伊庭家と大学側の裏取引によって生徒となっている。

 

「それは失礼。──それで、貴女の目に血継魔術科はどう映ったの?」


「別に……。戦うなら策を練って倒すまでです。二対一なら厳しいですが、一対一なら勝ち目はあるかなって所感です」


 その言葉に桜子は頼もしさを覚えた。

 伊庭家の護衛部隊ともなれば血継魔術師と戦うなんて日常茶飯事である。そこらの学生よりもずっと強い。プロの戦闘集団だ。昨年、弁慶が一瞬油断して変装を解いた所を目撃して以来、家の力を使って素性を調べ上げた。それからこうして雑談する程度の付き合いになる。そして、今年は打倒血継魔術科の為に力を貸してほしいと交渉してきたのであった。

 

「それで、私の条件は飲んでくれるのかしら? 貴女も伊庭君に正体バレるかもしれないってリスクがあるのは承知の上よ」


「いえ、別にバレてもいいっす。八代様の護衛と監視、時給750円なのでやる気でねーんすよ。偶に意味ありげな視線送って、あの子俺に気があるって勘違いさせて遊ぶ楽しみがなくなるぐらいっすから」


「貴女の性格も大概よね……」


 そんな話をしていると弁慶が「失礼」とスマホを取り出して操作し始めた。相変わらず無表情なので何が起きたのかはわかりにくい。ただ少しだけ口元が厳しくなったようにも見える。ため息をついて、スマホをしまうと一度咳払いをした。


「めんどくせー事が起きました。私に協力してくれるなら学科決戦、もう少しやる気出してもいいです」


「ええ、勿論よ。ただ、情報が欲しいところね。私だって、殺人の片棒を担ぐのは主義に反するから」


「……まぁ、伊庭家内部の話っす。私は当主様の勢力に所属してますが、何せでかい家なもんで。長男派とか先代派とか色々な派閥がありましてね。八代様の処遇だ何だでよく喧嘩してるんすけど、今回五月祭に乗じて八代様に一人刺客が送り込まれたようなんですわ」


「あら、それは大変ね。殺めるというなら、残念だけど他を当たって頂戴」


「発想が物騒すぎません? それが、恐れ多い方でしてね。──簡潔に言うと、伊庭家の長女がこの大学に送り込まれたみたいです」


 そして弁慶は一度言葉を切り、ため息と共に言葉を吐きだした。


「もっと詳しく言うなら、八代様の"妹"に当たる方です」





















 早朝からじゃがバターの準備を始めてはいたが、そこまでの売れ行きではなかった。

 美鈴達のスペースは位置もそこまで悪くはなく、それなりに忙しいかと思われたがあまりに店が地味過ぎた。周囲の店は「魔力が回復するかき氷」や「入試解説つきフランクフルト」等とブランディングが非常に上手く客が流れてしまっている。その中でも圧巻だったのは流星寮の面々が運営しているベビーカステラの屋台だった。


「はいはーい! ここでしか食べれないカステラだよー! これ食べたら来年から君も東魔大生だ!」


 ここまでは普通のカステラ屋なのだが、魔術で空気中に子供に人気のキャラクターを投影したりカステラの形も猫の手のような可愛い形になっている。SNS映えを意識した撮影スポットまで用意してあり、尚且つ生クリームのトッピングを豪快に盛る事で写真を撮っている客も多かった。もはや学生団体というよりは業者であった。先進国の魔術師というよりは発展途上国の的屋に近い連中だな、と美鈴は呆れ半分尊敬半分といった感じで眺めていた。


「大学祭の公式アカウントも宣伝してて、かなりバズってるみたいですよ」


 調理は全て美晴が担当していたが、あまり客もこないので手持無沙汰なのかスマホの画面を美鈴に見せた。八代が五月祭の運営委員会に所属している事を思い出した美鈴は、裏で色々と動いているのだろうと予測する。


「しかし、このまま在庫を抱えるわけにもいきませんね。どうしましょうか?」


「伊庭先輩が持ってきたえっちな水着……。やっぱり着なきゃダメかな?」


「まだ燃やしてなかったんですか!?」


「いや、人のモノだし……」


 八代がふざけて持ってきたマイクロビキニを美晴からひったくると荷物置き場に投げつけた。

 すると、奥の方で何やら作業をしていたノエルが無表情のまま現れた。手には廃材で作った看板を持っている。


「ノエルさん。天使のじゃがバターって何ですか?」


『まぁ、見てな』


 親指を上げノエルが無表情のまま己の体に魔術印を展開した。ノエルの体が一瞬ブれた後に、もう一人看板を掲げたノエルが現れる。分身魔術だ。流星寮の面々がやっている投影ではなく、実体ありきで自身の複製体を作る高度な魔術である。ノエルは五人にまで分身すると、露天の前に立つ。人形のような外見の五つ子が居るようにしか傍からは見えない。それだけで多くの人が足を止めた。


「────────」


 ノエルの歌が始まった。ベートーヴェンの交響曲第9番歓喜の歌だ。

 五人のノエルによるパートの歌い分けが凄まじい。人を魅了させる歌だ。楽器もないのに、ただただ声の圧力に圧倒される。前と違って声楽魔術は使っていない。歌の力のみで人を引寄せている。すると、一人。また一人と店の前に並んだ。


「二つください」


「……ああ、はい。少々お待ちを」


 美鈴と美晴ですら魅了されてしまうような歌声だった。

 お祭りともなれば一番大事なのが味よりも話題性だ。列ができてれば並びたくなってしまうのが人間というもの。瞬く間に美鈴達のじゃがバター屋も繁盛し始めた。ノエルの歌が終わると、万雷のような拍手が起きる。しかも競合相手が居なかった為、そのまま客足が途切れる事は無く、そのまま一時間ほど美鈴は機械のようにレジ係に徹し、美晴も無心でじゃがバターを作り続けた。ノエルは列が途切れれば調理のサポートにまわりと、何だかんだ良い組み合わせになりじゃが芋の在庫がほぼ無くなったぐらいでようやく一息ついた。


「……疲れましたね」


「うん……。でも、余ったりしなくて良かったです」


『乙!』


 ノエルの出した簡素な文字にふふっと美鈴と美晴は笑った。ノエルも疲れたようでぐったりと椅子に座っている。時刻を見ればもう昼過ぎを回っていた。真央ともう一人、学校に復帰した先輩のイベントを見に来いと言われていたが忘れていた。どうせ会ってもロクな人間でないという確信が何故かあった。店を閉めて挨拶にでも行こうかと考えていると、


「まだやってますか?」


 店の前に音もなく高校らしき装飾の丁寧な制服を着た女の子が立っていた。

 特に緊張した面持ちもなく余裕すら感じる笑みを浮かべている。気の強そうな子だな、と第一印象で美鈴はそう思った。ミディアムボブの黒髪を後ろで少し括っている。美鈴よりも背が高く健康的に引き締まっていた。


「すいません。少々お待ちを」


 美晴が準備をしている途中、先に美鈴が代金を受け取る。小銭を落とす事もなく、美鈴の手を握るように渡してきた。年に似合わず手触りがゴツゴツしている。マメではなくタコにまでなっているようだった。剣道でもやっているのかな、と思った瞬間ぞわっと身の毛がよだつ。ばっと手を放してしまい、硬貨が零れた。


「ああ、すいません」


「……いえ。こちらこそごめんなさい。強そうだったからつい」


 女子生徒が快活に笑い、美晴からじゃがバターを受け取ると一礼して群衆の中に消えて行った。

 発言から察するに相手は美鈴を見て戦える人間だと判断して威嚇したらしい。そして、後ろに居たノエルがちょんと美鈴の肩を叩いた。


『パネェ魔力量だった。多分、美鈴よりもどちゃクソ爆盛り』


 ノエルも警戒したような顔をしていたが何を言っているのかわかり辛い。

 何が目的かはわからなかったが、何事もなく平和に終わって欲しいと願いながら美鈴は警戒の色を強くする。そして、どこかで見たような顔だな、とそんな事も思ったりした。





もしよければブクマ評価等お願いします。


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