前科26:男という生き物は何だかんだ妹が好き。
「それでは、今年度の裏五月祭における流星寮の方針は"恵まれない女子中学生のためのセーフハウス"という事にしようか」
流星寮では今日も暴力の嵐が吹き荒れていた。
寮長の独断と私利私欲の満ち溢れた提案に寮生達は怒り狂い、花瓶やら麻雀牌やら果てはディルドが投げつけられている。「大学に女子中学生が居るわけねぇだろボケ」やら「どこがセーフなんだよ。アウトだろ」と普段倫理観に欠ける寮生ですらもまともなツッコミを入れる程であった。嵐のようなツッコミと攻撃により寮長が簀巻きにされて窓の外へ捨てられると、二年生・ヒゲ面の田所が場を仕切り始めた。
「去年、金儲けとネタに走った結果を思い出して欲しい。あの時やった女装喫茶のような愚行は今年は避けるべきだと思う」
「客なんか全く来なかったしなぁ。酔っぱらった菊姫先輩達にバケモンの巣呼ばわりされて寮に火をつけられたよな……」
「千ヶ崎さんも最初は飲みに来てくれるって言ってたのにドン引きして逃げたもんなぁ……」
昨年の傷はまだ癒えていない流星寮の面々であった。
ノリで女装喫茶をやろうとし、周りも面白がったので良い酒を用意し、本気で女装してみたのがいけなかったのだ。笑えないレベルの外見のクリーチャーとも言うべき女装男達がゲラゲラ笑う女装喫茶に誰が客として来るのか。挙句、夜になって泥酔を極めた梢子達にバケモノと勘違いされて寮は焼かれ、酒を奪われ、ストレス解消に殴られと散々な五月祭だったのだ。
「あのドエロギャルの乳は何時か揉みしだいてやるとして。八代。今年はあの人何をする気だ?」
「千ヶ崎とか可愛い子集めてキャバみたいなのやるってさ。清春も一枚噛むから綺麗な子は全員そこに集まると思う」
「在原の奴、復学したのか!? また乙女の貞操の緊急事態宣言でるぞこれ!」
「三原先輩も! 七橋先輩も! 福山さんも全員あの男の毒牙にかかってしまったんだぞ! 殺すしかないだろ!」
「顔も家柄も良くて金持ちなんて、嫉妬で殺してしまっても業務上過失致死ぐらいで済ませて欲しいよな!」
流星寮の面々は異性にモテない。それはもう笑えるぐらいモテないし、何だったら流星寮に住んでいるというだけでモテないのだ。その対極に居るのが在原清春だ。モテない彼らが学校生活の中で恋した女子生徒は大体清春の毒牙にかかってしまったので心象は最悪に近い。
「とりあえず、一つは決まったな。裏五月祭のどさくさに紛れて在原は殺そう」
「んだんだ。女子の独占禁止法違反の罪は重いからな。極刑が妥当だろう」
勝手な罪状で極刑が決まったようだった。そして、清春の話題が終わると田所が神妙な顔で告げた。
「これはまだ未確定だが……。今年の魔導力科の裏オークションに、"ドクター村松"の発明が出品されるって噂があってな」
その場に居た全員が真面目な表情に変わった。ドクター村松は、東京魔術大学のOBであり、魔導力の権威として非常に有名な男であった。ただし、開発した"魔導具の"全てが男の欲望を叶える為のエログッズであった。服が透けて見える眼鏡。惚れ薬。透明になれるスーツ等多岐に渡る。数多くの性犯罪を巻き起こした原因となった彼は現在服役中ではあるが、それでも流星寮の面々にとってはヒーローであった。そして、東魔大ではドクター村松が在学中に作ったエログッズの試作品が稀に魔導力科の生徒によって発見され、裏五月祭で高値で取引されるのは有名な話である。
「しかも、服が透けて見える眼鏡の試作版だって話だ。"五月祭風紀委員会"に漏れると不味いのでここだけの話で頼む」
「今年の流星寮の目標は決まったな。──全員で金稼いで、透視眼鏡を買うしかねぇよな!」
「おお! 五月祭は金が動くからな! 今年はネタ抜きで表ではベビーカステラでも売るか。武闘派連中は、大会で賞金稼ぎだな」
五月祭には二つの顔がある。金曜と月曜日の一般開放日を生徒達は表と呼びその間の土日を裏と呼ぶ。金曜の一般開放終了後、十八時より校内は完全に閉鎖され、生徒が自治する裏五月祭が開催されるのだ。アルコールもそこでようやく解禁となる。かつては学校側と自治権において数多くの対立があったが、近年では学校側が選出した五月祭運営委員会と生徒側で協力し、「楽しく終わる」をモットーに生徒だけの自治が許可されている。金持ちの生徒が昔から多い所為か、数多くの金が動くイベントが生徒主催で開催されており、裏五月祭で一年分の学費を稼ぐ者も少なくはない。
「しかし、透視眼鏡を手に入れても……。この寮に来てくれる女子なんて、美鈴ぐらいじゃないか?」
「ああ……」
「うん……。なんかこう、美鈴ってさ。──妹なんだよな」
バカ軍団がうん、と全員頷いた。なんだかんだ西園寺美鈴はこの寮に来てくれる事が多かった。
同じ授業が休講だったので寮で麻雀を教え込めばすぐに上達し、暇な時間は談話室に長年放置されている古い漫画を読みに来たりする。外見が幼く努力家という事もあり、流星寮においては皆の妹分的な扱いになっているのだ。過去問をあげたり、最近では来れば誰かが美鈴の為にお茶を入れるぐらいには可愛がられていた。その美鈴に、透視眼鏡を使う。バカ軍団からすれば、興奮というよりはどちらかというと罪悪感の方が強かった。
「それについては僕に任せろ」
八代が手を上げて田所の隣に立った。
「──五月祭で、美鈴に友達を作る。そして、友達を連れてきて貰って流星寮で一緒に飲む。こうすれば全部解決するじゃんかよ」
「……天才か!?」
「お前、ただのバカじゃなかったんだな……っ!?」
「女子も入れてわいわい飲んで酒でも撒いとけば、姫先輩も匂いに釣られてその内寄ってくるだろ。あの女になら何しても一切の罪悪感が湧かん」
「確かに。褒める事が出来る部分が乳と尻と顔しかないからな」
「やる気が漲って来たぜ!」
そして全員が立ち上がり持っていた酒のグラスを掲げた。
「お前ら、気合入れていくぞ! 目指せ! 美鈴の友達100人だ!」
●
おかしな一日だったと西園寺美鈴は振り返りながら学内を走る。
朝から誰かに監視されているかのような視線を感じた。それも、朝一番の授業から。違和感はそれだけではない。流星寮の面々がきちんと午前の授業に出ている点もおかしかった。普段なら昼から夕方にかけてしか見かけないのに、今日はほぼ全員居た。転移魔術も指輪に魔力を込めようとすると調子が悪く発動しなくなっていた。結論からいえば──厄日である。
「──っふ!」
狂化を使っているので一度跳躍するだけで、上り階段を無視できる。
美鈴は現在、一年生のみに対してのみ行われる五月祭の説明会へと向かっている。急いでいるのは遅刻しているからだ。授業が終わり会場に向かおうとした所で、急に流星寮の面々に取り囲まれ絡まれたのだ。何とか振り切った頃には、もう開始時間。特にやる気もないが、与えられた役目に手を抜くのは好きではない。その一心で会場まで辿り着いた。
(もう終わり……?)
講堂のドアを開けると随分と盛況だった。ざっとみた限りでは各グループに別れて何やら話しているようだった。こういう時、どういう振る舞いをしていいか美鈴はわからずこの空気が苦手だった。地元を離れて以来、友達もろくに居なかったので気まずい。高校生の頃は西園寺家の威光があったので、上位グループのアクセサリーのような感じでグループに組み込まれていたが、流石に大学生でそういう事はない。居心地が悪いので帰りたくなってきた。だが──
「よー! やっと来たな美鈴! ぼっちのお前の為に僕がきちんと仲間を集めといてあげたぞ!」
イラつく声が聞こえた。案の定、顔を向けると伊庭八代が立っていた。珍しくきちんと服を着ていた。八代から少し距離をおいて二人の女子の姿も見える。一人は同年代ぐらいで、ぶかぶかのパーカーにジーンズ。陰キャの極みのような恰好でおどおどしている。もう一人はどう見ても同級生に見えなかった。美鈴自身も自分の外見を幼いと感じているが、更に輪をかけて幼い。ハーフのような顔立ちで妖精のような外見だが服装は妙に大人っぽい。ハイブランドの仕立ての良さそうなワンピースを着ている。
「……こんなとこで、何をなさっているのですか?」
「僕、今年の五月祭運営委員に入ったんだ。役職は一年生のサポートが主なので早速仕事をしてるってわけよ」
「サポート? 伊庭先輩が? トラブルしか起こさないのに?」
「ぼっちを今一人救ってやったじゃないか」
「ぐっ……」
「詳しい説明は後でするとして、まずは自己紹介しなよ。この二人と一緒に、五月祭に参加するんだからさ」
バカに正論を言われると悔しいのは何故なのだろうか。そう自問自答しながら美鈴は二人の姿を見た。パーカーは緊張しているのか目を合わせてくれない。ワンピースは無表情で美鈴の事をジっと見ている。
「ええと、血継魔術科一年。西園寺美鈴です。よろしくお願いします」
八代がニコニコ笑いながらパーカーに促した。「へっ!?」という過剰なリアクションをとった後、
「辻本美晴……です。魔導力科の一年です……」
魔導力科も魔術の才能がそこまで必要でない分、選ばれた人間しか入る事ができない。面接が非常に重要視され、この受け答えでは受かった事が奇跡に近い。裏を返せばそれを凌駕する程の才能がある事でもある。それを表には出さず八代はニコニコ笑いながら今度は美晴の胸に注目していた。
(Eはあるな……)
美鈴が陽キャと上手くやれる筈がなく陰キャで同じような属性の女の子を探していたら、会場の隅にぽつんと座っていた美晴を見つけた。自分の肉体に対し無頓着なのか服装も少しばかり隙が多い。これは飲み会が楽しみだと心の中でほくそ笑む。そして、これまた会場の隅でぽつんと座っていたもう一人の少女に目を向けた。美鈴よりも外見が幼く、妖精のような雰囲気がある。寮長や山崎が喜びそうな外見だが、無表情なので何も読めない。意思疎通も八代の要求に対し頷く事しかしなかった。
美晴が自己紹介を終えたのを見ると、指を流暢に動かし、魔術で空中に文字を展開させた。
「ちょりーっす。まじ卍。魔術科一年の如月ノエルだょん。五月祭あげあげでいっちゃおうね~」
──あまりの衝撃に暫く誰も何も言えなかった。
お久しぶりです。
仕事バチクソ忙しくて更新間隔長いですが
12月には元に戻したいです。
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