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国立大学法人東京魔術大学 ─血継魔術科─  作者: おめがじょん


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22/78

前科22:オッサンのオッサンによるオッサンの為のお話。














 薄暗い部屋の中に爆音が響き渡っている。

 部屋の前面に設置された巨大なスクリーンには鬼のような風貌をした大男と、金髪の男が戦っている風景が映し出されている。無数の剣を操る金髪の男の一挙一動に対し、それを見ていた者達の何人かはごくり、と様々な感情を乗せた生唾を呑み込んだ。災厄の血継魔術──"支配の魔剣"。三十と数年ぶりにその威力を感じた者達の雰囲気は暗い。この場に居た大半があの"魔術師"の恐ろしさを思い出していたからだ。


「これが、先日撮影された支配の魔剣の最新映像になります」


 司会役の男がため息と共にそう呟いた。

 音声が切られ、映像だけが流れるようになった。ようやく本題に入るのだと、それぞれが居住まいを正す。離れた五つのテーブルで区切られている空間だった。そのテーブルに一人ずつ男が座り、護衛の人間が立って周囲を威嚇している。

 かつての仲間であった彼らでも時間が過ぎれば付き合い方も変わる。五人が五人とも互いに会っている所を嗅ぎつけられれば、その日の話題のニュースとしてお茶の間に届けられる者達であった。


「この件についてはもう矛の収め方は決まっている。千ヶ崎真央は被害者。首謀者は道明寺。鬼神商会の件は削除。報道に関しての流れも事前に送った手筈でやらせて貰う」


「こちらとしての異論はねぇよ。今回は最終的に西園寺の一人勝ちみてぇなもんだ。お前らが引いた図面の通りにやってくれ」


 発言した男──現総理、西園寺恭一郎の発言にガラの悪そうな男が反応した。

 どう見ても堅気の人間ではない。現に男の正体はヤクザであった。東京都最大の暴力団。関東銀泉会会長代行、遠野健剛(とおのけんごう)。一緒に居るだけでスキャンダルは必至だ。互いにそんなリスクを背負ってでも彼らはこうした有事の際には連絡を取り合い、お互いの利益の為に協力関係を結んでいる。


「東魔大としても異論はありません。──ただ、真央に対してあまり執着するようであれば、今度は私も動きますよ」


 ニコニコ笑いながら血継魔術科科長、嘉納桃李(かのうとうり)が西園寺に釘を刺す。笑ってはいるが、殺意と敵意は全開。西園寺だけではなく、他の面子にも今後手を出せばタダでは済ませないという警告を発していた。それを薄く笑って西園寺はいなした。

 

「息子にはそう伝えておく。ただ、千ヶ崎君が息子に惚れたのなら仕方ないとは思うがね」


「──確かに、可愛い子だもんなぁ」


 西園寺の言葉に続いたのは、伊庭家当主、伊庭小次郎(いばこじろう)だ。会議の内容には興味なさげにずっとスマートフォンを弄っていたが、真央の話には乗ってきた。

 それを聞いて全員が嫌な顔をする。またか、と。


「この腐れチンポ。息子の同級生まで狙うのかよ……!」


「そもそも、お前の息子がやらかした事への会議の為に集まってる事を真面目に考えてくれ……」


「いやさ。さっき、次男坊にマッチングアプリ入れて貰ったら楽しくてな。可愛い子ばっかで夢しかないぞこれ」


「小夜子さんに浮気バレた時、全身の骨へし折られて泣いて土下座してたくせに未だに懲りてないんですね……」


 伊庭小次郎は無類の女好きであり好色漢だ。バツ三であり数多くの恋人たちが今でも居る。

 伊庭家の運営については実直であり、手堅い運営をしているが私生活は乱れに乱れている。そんな会話に嫌気がさしたのか、一人の男がドンと机を叩いた。


「数年ぶりに集まったが、くだらん話は後でしてくれ。──それよりも、支配の魔剣をどうするんだ? 今まではこれといって大きな事件もなかった。だが、今回の件でハッキリしただろう? あの魔剣は危険過ぎる。あの魔術師のようになる前に処分するべきだろう?」


 大仰に語る男は魔術協会会長、如月徹郎(きさらぎてつろう)。この国の魔術の管理団体だ。主な役目は管理と発展。近年魔導力が普及してきた事により、かつてのような絶対的な権威は無くなってきてはいるが、それでもまだこの会議に参加できるぐらいの力はある。


「何だよ。貴族様にそう言えって言われて来たのか? 今回もお使いご苦労さんだな」


「そもそも俺達は一度あいつを倒している。──それに、映像よく見てみろよ」


 遠野の言葉の後、伊庭が視線をスクリーンへと投げかけた。そこに映っていたのはディルドをぶん投げて敵を倒した後、野球拳をしている金髪の男の姿があった。


「菊姫君も良い体をしているな……。これ、後で映像貰える?」


「お前、話の途中で性欲に忠実になるのやめろよ……」


「失敬。──見ての通りバカ息子だ。あいつが凪朝(なぎさ)のような冷徹で、強い魔術師だと思うか? あの程度なら、まだ始末がつけられる」


 久しぶりに先代支配の魔剣の使い手の名前を伊庭が投げかけた。三十年という月日は皆が忘れ去るには十分な期間だ。誰も彼もが"あの魔術師"と呼ぶようになった時代だ。ありとあらゆる情報が秘匿され、インターネットにおいてもその正体は謎に包まれている。

 

「それもそうだな。それとも、権威だけの存在になり下がった今の魔術協会様じゃ、あの小僧一人始末できないのか?」


「ぐっ…………っ!」


 遠野と伊庭はイケイケだ。この国最大戦力を有す二大勢力だ。魔術協会は魔術師を多く抱えているものの、味方をする血継魔術士は殆どおらず戦力は高くない。魔術貴族が裏で実権を握っており、会長といえどそこまでの権力すらない。この場に居るのは、三十年前に共に戦ったという理由だけであった。

 如月は顔を赤くし黙ってしまう。そして、西園寺が再び話を始めた。


「その件はもういい。伊庭八代は当面、嘉納君に一任する」


「かしこまりました。お孫さんの件も含めて、ね」


「何か言いたげだな?」


「"課長"が美鈴君をわざわざ殺そうとした意図が疑問なのでね。あの中で、一番弱い美鈴君を最初に攻撃した理由が引っかかるのです」


「……その件も含めて君に任せる。私もできる限り協力するつもりだ」


 西園寺と嘉納の会話が終わると、今度は伊庭が手を上げた。


「それと俺から一つ言わせてもらう。──今回、課長が十年ぶりぐらいに現れたけどよぉ。他の幹部の詳細は掴めてるのか?」


「恥ずかしい話だが。内閣も西園寺も課長の部隊以外の詳細は掴めていない。小夜子君が殺された日以降、奴らは忽然と姿を消した」


「魔術協会も同じだ。あの日、小夜子さんに全員殺されたのでは?」


「俺達筋モンの世界でも鬼神商会の名は過去の伝説みたいになってるな。ただ、最近若い半グレ見たいな奴らが出張ってきてな。正直、そっち所じゃねぇよ」


 伊庭が嘉納に目線を送る。東魔大は教育機関なので情報集めはしているが他の面子には遠く及ばない。嘉納は肩を竦めるだけしかできない。


「伊庭も同じようなモンだ。──って事は、奴らはもう俺達のすぐ近くに潜伏している。これだけ調べて出てこないんだ。もう身内に居るとしか考えられねぇよ」


 伊庭の言葉に衝撃が走る。鬼神商会の幹部は残り四人。伊庭小夜子襲撃事件以降、本当にこの世から消えたかのように存在がなくなっている。顔も体つきすらもきっともう変えているのだろう。それ程までに長い月日が経っている。全員薄々感づいていた事だが、それを口にしたのは伊庭が初めてだった。


「嘉納以外の全員が覚えているな? あの日、俺達で凪朝(なぎさ)を殺した時。あいつのあのツラを忘れてる奴は居ないだろう?」


()()()()()()()()


「子供のようでしたね……」


「イカれポンチにしては、綺麗な笑顔だったな……」


 四人の脳裏に最終決戦の時の光景が蘇った。酷い戦いだった。敵も味方もわからない沢山の死体が転がっていたのを覚えている。伊庭が改造した魔剣で心臓を貫いた時、確かに笑っていたのだったと。嘉納も過去を思い出し、唇を嚙みしめて何かを堪えるかのような表情になった。

 

「あいつは確かに死んだ。()()()()()()。ありゃ、諦めた奴の顔じゃねぇ。きっとあいつは──自分の手下に何かを託した筈だ」


「それが小夜子君の死を経て十年、再び動き出したと?」


「そう考えるしかねぇだろ。課長の下っ端が偶にテロの真似事やってたのに。今回だけは課長本人までわざわざ出てきたんだ。何かあるって考えるのが自然だろう」


「──全員、一度褌を締めてかかれって事だな」


 遠野の言葉に全員が強く頷いた。鬼神商会はもう自分達の傘下に居て良い様に情報操作を行っている可能性が出てきたのだ。全てを疑うのは非常に億劫だがやるしかない。己の利益の為に。だが、五人の中に一つだけ共有している理念があった。性格も何も全てが合わない集団ではあるが、三十年前の大戦をもう一度引き起こすような事は、言葉にはしないがその思いは一緒であった。







次回で千ヶ崎編も終わります。

その後は大学日常回に戻ります。

評価ブクマ等よければよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 裏でズブズブなのいいですね……でも痛い目に遭うかもなんだよな
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