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国立大学法人東京魔術大学 ─血継魔術科─  作者: おめがじょん


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20/78

前科20:主人公だって真面目に戦いたくない時ぐらいあるよ。





 



 東京に雪が積もっていた日だった。

 一面の銀世界。建物が跡形もなく崩されているからかどこまでも銀世界が広がっている。そんな銀世界の中に無数の赤い染みがあった。──人の血だ。一人や二人の分ではない。何十人程の量の血。そして死体の数。その中にぽつんと、女が座っていた。透き通る透明な剣を傍らに突き刺し、足の間には小さな子供を抱えていた。


「おかーさん。大丈夫?」


 子供がギュッと自分の身長程もある黒い剣を抱えながらそう聞いた。


「うん。大丈夫。八代が守ってくれたからねぇー。かっこよかったぞ」


 母が子の頭の上に自分の顎を乗せた。温かく子供特有の甘い匂いがする。それももう少しで終わりだ。母の背中には無数の傷があり、今も血が止まっていない。背後から襲撃を許すなんて自分の腕も落ちたものだ、と自嘲気味に笑う。この子が生まれてから随分と弱くなったと自分で思うが、それでも一切の後悔がなかった。


「少し、大人になったかな?」


「うん。妹もできたからね」


「そうだった。八代もおにーちゃんだ。守ってあげなきゃね」


「うん。女の子大好きだから頑張る」


「素直でよろしい」


 頭をぽんと叩いて髪を撫でる。もう少し、あと少し。意識が朦朧としてきたが意地で繋ぐ。自分が死んだら、誰がこの子を守ってやれるのか。純黒の魔剣を恨めしく見る。こんなふざけた運命に我が子を巻き込みたくなかった。この剣が息子を幸せにしてくれる確率は低い。ならば──と最後の力を振り絞る。この先辛い運命が待っている我が子に送れるのは言葉ぐらいだ。


「ねぇ、八代。よく聞いて────」


「うん」


 そして、精一杯。あらんかぎりの気力を振り絞って母はある言葉を囁いた。

 溢れんばかりの愛を込めて。この先この子の指針となるように──

















 ●









「お姉さんと楽しくバトった後の相手がオッサンだと萎えるね……」


 はぁ、と心の底からため息をつくと八代は頭を抱えてしゃがみこんだ。

 さっきは楽しかった。地味な感じだがちょいちょい見えるお腹や鎖骨にときめきながら戦った記憶が懐かしかった。最後の最後にはるばるやってきた結果がオッサンの相手なのは勘弁してほしいと神を恨んだ。


「……伊庭八代君ですね。おひさし──」


「あーっ!? 何だよ千ヶ崎泣いてんじゃん! おいおいおいおい! そんなに僕が来て嬉しかったんだな!? 可愛いとこあるじゃん!」


 課長をガン無視して今度は真央に絡み始める八代。

 犬を撫でるかのように真央の髪をわしゃわしゃやってウザったそうに振りほどかれている。そんな八代の態度に堪忍袋の緒が切れたのか、課長が背後から真央達目掛けて魔術を放った──が、支配の魔剣が全てそれを弾いた。

 

「──それがおじさんの本性でしょ? どんなに取り繕ったって、中々性格って変えられないもんね」


「親子揃って忌々しい……!」


 伊庭八代の母親もそうだったと課長は歯噛みする。

 いつだってヘラヘラ笑っていて、人を小バカにしたような言動を吐き、そして暴れれば正に一騎当千の如き強さを誇った。間違いなく、あの時殺し損ねたあの女の子供だ、と十年ぶりに姿を見たがあの親にしてこの子ありのような典型だった。


「それはお互い様でしょ。僕だって、鬼神商会はまいまいしく思ってるよ」


「忌々しい、だ」


「…………よし! かかってこい!」


 少しだけ八代の顔が赤くなった。状況を見ている真央達面々としては「締まらねぇ」という感情しか出てこない。だが、それも一瞬の内に変わった。八代を守るようにして魔剣が空中を漂っている。一本だけでも凶悪なのに、それが二十本以上あるのは脅威でしかない。滅多に見れない八代の本気で戦った時の力に、空気が張り詰めていった。

 

「社長の紛い物風情が、よく吼える!」


「わんわん!」


 八代が更に煽ると課長が怒りと共に両腕を爪を立てて引っかき血が流れだす。直後、課長の体は大きく変化した。上半身が大きく膨れ上がり、服が破れていく。頭からは角が生え、鬼のような姿へと変貌した。


「血継魔術っ!?」


「しかも、美鈴と同じか……」


 肉体を異形へと変化させる血継魔術──【狂化】。ただでさえ凶悪なまでの課長の存在感が更に強くなった。美鈴より肉体の変化具合も進んでいる。完全に能力を引き出しているようだ。


「前々から思ってたんだけど、こういう時絶対ズボンは破けないよね……!」


 八代の言葉と共に魔剣が襲い掛かった。燃え盛る魔剣。剣身が凍った魔剣。高速振動している魔剣。数々の魔剣達が課長の体に触れては吹き飛ばされていく。魔剣ですら貫けない硬い外皮。これが課長の血継魔術の極致のようだった。


「あの方に匹敵する能力があってこその幹部だ!」


 二メートル近くにまで膨れ上がった課長だがスピードは全く落ちていない。八代目掛けて弾丸のように飛び出し、接近する。無数の拳が繰り出されるが、素手で受け止めた時点で負けだという事は八代にもわかっていた。身体強化魔術で肉体を強化し、拳を避けて相手の懐に潜り込む。


「でも、"あの魔術師"には負けたんでしょ?」


 股下をくぐり、背後から支配の魔剣を思い切り叩きつける。が、あまりに外皮が固く簡単に支配の魔剣は弾かれて吹き飛んで行ってしまう。


「あ……」


 おかしい、と八代は頭を抱えたくなった。どう考えても"あの魔術師"は支配の魔剣を使って課長を倒した事がある筈だった。他の魔剣が弾かれても、支配の魔剣なら斬れるのではないかと予想したが、現実は厳しかった。実際に支配の魔剣の切れ味を試した事はない。魚を捌くのに何回か使った事があるぐらいだった。これは不味い、と冷や汗が出てくる。


「おじさん。"あの魔術師"って実は弱かったとか?」


 返答替わりに恐ろしい勢いの拳が来た。防御魔術を張って受け止めたがそれでも突き破られてしまい、腕に鈍い痛みが走り地面に叩きつけられた。

 

「あの方は最強だった! 私ですら敵わなかった! お前のような紛い物と一緒にするなァ!」


 感情露わにして課長が叫ぶ。課長はあの魔術師の事を今でも尊敬していた。美しく冷徹で無慈悲なまでの強さを誇った人だった。結果的に鬼神商会は敗北して地下に潜る日々だったが、今でもついてきた事は後悔していない。八代はあの魔術師にまだ遠く及んでいないと課長は評価している。彼の死後から三十と数年。研鑽を積んできたが未だに勝てる気がしない。

 

「ここで終いだ。部長達はお前を高く評価していたが、関係ない。ここで殺す。お前の母のようにな!」


「……母ちゃんは、負けてねぇよ。僕が今日も生きてるからな!」


「だがあの女は死んだ! お前を守って! くだらん愛のためにな!」

 

 課長が思い切り拳を振りかぶった。八代は手をかざして魔剣を呼ぶ。吹き飛ばされた支配の魔剣は指示通りに宙に浮くと猛スピードで八代へと迫り、


「ぬおおおおおおおっ!?」


 途中、背後の下側から柄が課長の股間に命中した。あまりの痛みに悶絶した課長を起き上がり様に蹴飛ばして八代は立ち上がる。


「成程……。こうやって勝ったのか……」


「ふ、ふ、ふざけ……やがって! あの方がそんな事──っ!」


「同じ狂化使いの美鈴と闘う時だけ困るな。あいつ、チンコついてないからなぁ……」

 

 物憂げな顔をしてそうぼやく八代を課長は心底殺したくなった。親子そろって真面目に戦う気が無くて怒りに震える。伊庭小夜子もこういうふざけた戦いを好んだ。魔剣使いなのに、ふざけて肉弾戦で幹部達と闘っていたのもよく覚えている。バイクで敵を撥ねてはケラケラ笑っていた。許さない。許せない。絶対に──とまで思った所で、


「じゃあ、この中で一番強い魔剣でぶん殴ってみようかな」


 にやりと笑った八代の手に虹の魔剣が収まる。同時、八代は魔剣に七種類の魔術を送り込んだ。

 虹の魔剣がその全ての魔術を増幅させ剣身や光として周囲に展開する魔剣だ。燃焼。衝撃。切断。強風。氷結。振動。破壊。七つの魔術の光が収束し、思い切り課長に叩きつけた。轟音と共に課長の体が吹き飛ばされていく。そして、壁に衝突してようやく動きが停まった。強化された肉体であっても耐えられる威力ではなかった。腕は千切れかけ、体の至る部分から出血している。だが、それでも課長は立ち上がった。


「真面目にやらんかああああああ!」


「──嫌だね。平気で母親襲う奴なんかと、まともに戦ってやる義理なんかないよ!」


 課長と八代が肉薄し、打撃戦が始まった。課長の拳を虹の魔剣で受け止め弾く。それでも課長の拳は止まらない。何発か肩や手に当たり骨が嫌な音を立てるが、それでも八代は魔剣を振るい続け、


「こんにゃろっ!」


 八代の背後から複数の魔剣が飛んでいく。先程までは固い外皮によって阻まれたが、虹の魔剣の攻撃によって裂傷部分があった。ピンポイントで傷口に魔剣が刺さり、課長が痛みに絶叫を上げる。そこに虹の魔剣の斬撃が入った。胸部を大きく斬り裂かれ、夥しい量の血が流れた。

 ──決着がついたとばかりに八代が虹の魔剣を下に降ろした。


「まだだ! まだ! 絶対にお前を殺して──っ! あの女みたいに──っ!」


 課長は止まる気はない。生き残った所で他の勢力に殺されるだけだと知っている。

 命ある限り伊庭八代を殺すと決めた。八代も課長の感情を感じたのか、もう一度虹の魔剣を振って課長の胸を斬り裂いた。意識が途切れそうな激痛。課長が最後に見たのは、八代の後ろに浮かぶ支配の魔剣だった。あの頃と変わらず、純黒の美しい剣だ。


「死ぬなら、せめて──」


 あの剣で命を絶たれるなら本望だった。気に入らない者は殺し、戦い続けた人生の中で屈服したのはあの魔剣ぐらいだ。

 

「縋るなよ、クソ野郎」


 八代は吐き捨てるようにそう言うと足元に落ちていたディルドを拾った。山田が戦いに使ったものだ。──嫌な予感が課長を襲う。嫌だ。辞めてくれ。戦いに明け暮れた最後の攻撃が"アレ"だなんて嫌だと言いたいが、言葉は出ずに血だけが口から零れ落ちた。魔術印が展開。燃え盛るディルドが課長の方向を向いた。次いで続々と攻撃魔術が展開し集中していく。


「まともに戦ってほしかったら、あの鴉のねーちゃんみたいに正々堂々向かってこい!」


「嫌だああああああああァァァァァ!」


 高速で男性器を模した燃え盛る性器具が課長に命中し、その後爆散した。




タイトルの通りです。

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[一言] 闘魂ディルド爆散!ケツに剣を指されて中からウェルダンとどちらがマシかな。
[良い点] 課長の最後サイコーです!
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