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国立大学法人東京魔術大学 ─血継魔術科─  作者: おめがじょん


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15/78

前科15:地味なお姉さんと派手なギャルのどっちが好きかと聞かれたらどっちも好きまである。






 東京の道路を黒のSUVが高速で駆け抜けていく。

 先行する有坂のバイクへと肉薄し、車体を近づけようとしたところで一度距離をとった。


「あっぶね! これマロ先輩の車だった!」


 どうやら車体を叩きつけようとしていたらしい。「どう捕まえよっかなー」なんてぼやきながら再び梢子はアクセルを踏む。愛車に傷がつけられるのは梢子も好きではない。高そうな車なので修理費も高くつきそうだった。魔術で撃ち落とそうかななんて考えていると、


「穏便にいきましょう。車を近づけて頂いたら私が説得してみます」


 美鈴の言う事も一理あった。

 ただでさえ「がさつ」「粗暴」「反社」とよく説教されている梢子も後輩が増えて考える機会が多くなった。いつもだったら魔術でブチのめして終了だが、三年生になったので少しは大人になる必要があるかもしれない。 美鈴の言葉に頷き、ゆっくりと速度を上げて近づくと窓をあけてやる。



「な、何なんだよぉ! お前ら! 俺の事利用するだけ利用しやがって!」


「まぁまぁ、落ち着いてください。私は西園寺美鈴と申します。伊庭八代さんの後輩です」


「伊庭八代……? あっ! 思い出したぞ! 新宿店の変態だろ!? 会社まで俺の事探してんのかよ! クソが!」


「バイク停めてお話しませんか? ジュース奢りますから」


「バッカじゃねぇの! こっちは命狙われてんだよ! さてはお前さっきの奴らの仲間だな!?」


「さっきの奴ら……?」


「新宿で俺を追い回したアホ共だよ! 俺を殺せば彼女ができるってどういう理屈だよ!? お前あいつらの女か!? 男見る目ねーよバカメガネ!」


 メキッ、と何かが割れる音が聞こえた。梢子がちらっと横目で視線を送ると有坂のバイクが吹き飛んでガードレールに当たっていた。火花が散り、ブレーキをかけて減速し始めた頃にはバランスを崩して滑るように道路へと倒れ込んだ。


「……正当防衛ですね。言葉も暴力になるんですよ」


「アンタもだいぶ血継魔術科に馴染んできたね……」


 ハザードをつけて梢子が車を停めた。幸いな事に軽傷のようだった。

 暴力を振った事に自己嫌悪していた美鈴だが、梢子が有坂の腹に蹴りを入れて生きてるかどうか確かめているのを見て、自分はまだマシだな、なんて事を思う。


「痛っ……! くっそ! もう殺すなら殺してくれよ」


「だーから。別にアンタ殺しにきたわけじゃないってば。さっきからごちゃごちゃうるせぇな」

 

 もう一撃蹴りをぶち込む梢子。まさに人でなしの極致であった。

 周囲の目もあるのでとりあえず美鈴はバイクを起こして歩道に立ててやる。そこまでやると有坂も観念したのかため息をついて俯いた。美鈴もこれからどうするべきか、一先ずどこか落ち着ける場所にでも行こうと考えていると、


「姫先輩!」


「わーってる!」


 防御魔術を展開。その数瞬後に道路標識がすっ飛んできた。はじき返され周囲に飛ぶと同時、有坂が再び悲鳴を上げる。飛んできた先を見ると、地味な女が立っていた。黒のパンツに灰色のニット。眠そうな目に天パ気味の栗色の髪。「外したぁ」と舌打ちした後にのそのそと美鈴達目掛けて歩いてくる。


「えっとぉー。そこの男の子。始末しなきゃいけないので渡してくださいー」


 気だるげな声。年齢は三十半ばぐらいだろうか。弱そうな風貌ではあるが、只者ではない事はわかっている。魔術が普及した現代では標識や公共物には破損や悪戯等を防ぐために強力な防御魔術が刻まれている。それを簡単にへし折って猛スピードで投げつけてきたのだ。普通の人間ではできない。


「おねーさん。どちら様? アタシらが先約なんだけどさ」


「そんなの知りませんー。……はぁ、もういいですぅー。皆さんやっちゃってくださいー!」



 地味女の声が響き渡ったと同時、五人の男が現れた。手には虹色に光る剣──魔剣を持っているようだった。一斉に剣を振るうと同時、虹色の光が美鈴達目掛けて襲い掛かる──が、美鈴は指輪に力を込め、突起部を肌に食い込ませ出血。既に血継魔術を発動させていた。有坂を抱え、大きく跳躍すると光を避ける。梢子は防御魔術を展開し、その場から動かない。

 虹色の魔力を帯びた光が周囲を蹂躙し破壊する。家の外壁。ガードレール。電柱がお構いなしに破壊され、吹き飛んでいく。


「この人達……違う」


 裏稼業の人間は証拠を残す事を嫌う。痕跡が残れば残る程仕事がし難くなるからだ。

 だが、この女達は違う。そんな事はお構いなしに壊したいから壊す。殺したいから殺す。そんな印象を美鈴は受けた。始末屋でも誘拐屋とは決定的に違う。頭の中に浮かんだ単語は──テロリスト。その表現が一番しっくりきた。


「──アンタ達、鬼神商会ね?」


「あらぁ。あなたみたいな若い子でも知ってるのねぇー。光栄ですぅー」


 鬼神商会──かつてこの国を崩壊に追い込んだ魔術師が作り上げた組織だ。

 魔術師が死んで時間が経過した近年でもテロ行為を行っており、名前こそニュースには出ないものの世間を騒がせている。偶にニュースになったのを見た事があったが現実で見るのは初めてだった。ニュースよりも圧倒的に生々しく物々しい。

 梢子は知っていたのか先程の攻撃によって吹き飛んだ看板に目をやり、



「ここ、通学路なんだけどさ。こんなにしちゃったら通れないじゃない」


「そぉですねぇ」


「──アタシもまぁまぁ悪党だと思うけどさ。このやり方とはちょっと合わないね」

「……じゃあ、どうするって言うんです?」


炎が暴れまわる魔術(テメェら全員ぶっ殺す)


 言葉と共に魔術印が展開。圧倒的な熱量を持つ炎が地味女達を襲うが、魔剣の虹色の光によって斬り裂かれた。これが魔剣の恐ろしさだ。魔術だろうが物体だろうが何でも斬り裂いてしまう。梢子はそれを知っていたがこの威力の魔術まで斬り裂かれるとは思っていなかったので舌打ちは隠せない。

 

「仕方ねぇ。──使うか」


 指輪をした指に力を込めて血を流す。彼女の血継魔術──【暴発魔術】の発動だ。

 再度魔術印を展開。魔剣使い達は印の形から先程と同じ魔術だと判断し、突っ込んでくる。

 印の形からどんな魔術が出てくるのかは経験と知識が必要であり、魔術師同士の戦いにおける生命線ともいえる。先ほど斬り裂けた。ならばもう一度斬り裂いてその間に突っ込んで相手を仕留める。それが戦術。


炎が暴れまわる魔術(もう一発くらえ!)


 再び魔術印から放たれた炎。だがその威力と展開力は先程と比較にならなかった。

 魔剣を振るう前に炎が魔剣使い達を吞み込んだ。圧倒的な熱量に一人がすぐさま消し炭になり、他の四人も爆発の勢いに吹き飛ばされた。これが梢子の血継魔術だ。血を流している時のみ魔術の威力が通常の何倍にもなる。印の形から威力の予想が大事な魔術師同士の戦闘で圧倒的なアドバンテージを誇る力だ。

 梢子自身も暴発魔術というだけあって完全に制御できていない。何度も自身の魔術の威力の余波で命を落としかけた事もあったぐらいだ。それ故に──


「成程。血継魔術師だったんですねぇー」


 圧倒的な威力は範囲が広く視界が悪くなりがちだ。

 爆発と炎の隙間を縫って地味女が梢子の近くにまでいつの間にか接近していた。

 動きが早い。相当な手練れだと思った瞬間には地味女が持っていたナイフが首筋に迫っていた。


「っ──!?」


 梢子への接近を視認した瞬間、走り出していた美鈴の拳が地味女の肩に当たる。


「重っ──!」


 岩のように固い。と思った時には位置をずらされて衝撃がいなされた。

 そのまま地味女の攻撃対象が美鈴に変わったようだ。蹴りが腹部に炸裂。狂化している肉体なのにダメージが入った。我慢してもう一撃左拳を振りぬくも、相手の拳の方が早い。美鈴の小さな体が一撃で吹き飛ばされた。


大嵐を起こす魔術(どけぇ!)


 地味女の目の前に魔術印が展開。暴風が吹き荒れ流石の地味女も吹き飛ばされていくが、驚異的なバランスで受け身をとると何事もなかったかのように立ち上がった。


「わぁー。凄いー! わたしとここまでやりあえた人って久しぶりぃー!」


 ケラケラと子供みたいに地味女が笑った。対照的に美鈴は少し恐怖を覚えていた。

 血継魔術師が二人も居てまだ一度も有効な攻撃を当てられていない。相手は化け物に近い。魔剣使いを戦闘不能にした所で全く優位になっていないどころか、ようやく命が繋がりそうといった感じだった。


「その年でここまでの上級魔術使えるって凄いねぇー! ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、にやりと気怠げだが獰猛に笑う。それと共に夥しい数の黒い魔術印が飛び出した。見た事のない魔術印だ。既存の教科書や参考書に載っているような魔術ではない。


「──"創作魔術"か!」


 魔術印に魔力が流し込まれようとした時、間抜けな着信音が鳴り響いた。

 地味女の電話のようで「ちょっとタンマ」と手で制すると電話に出始める。


「もっしもーし "主任"でーす! ええ、はいー。はい。えっ!? マジですかぁー? 千ヶ崎夫婦がねぇ……。はーい。わかりました。"課長"がお喜びになるかなーって思いますー。はいはい。ではではー」

 

 地味女が電話を切ると魔術印も消えた。戦闘をやめるという事なのだろうかと少し力を抜く。

 

「他のお仕事入っちゃったのでそこの子は諦めますねぇー」


「そこまで重要そうな奴でもないしね……」


「部下の尻ぬぐいですし、この後わたしの上司が来るので生かしておいても問題ないかなーって」


「アンタより強いんだ?」


「……ですねぇ。ま、一応忠告してあげますけどここらで手を引いた方が良いですよぉー。千ヶ崎家のご令嬢だって殺されるわけでもないしねぇー。これ以上わたし達の邪魔するなら、うちの課長は容赦なく貴女達殺しますからぁ」


 にやりと地味女が笑う。ここが引き際だと、見逃してやるといった感じだった。真央が死なないとも甘い誘惑までついている。それだけ言い終わると、遠くの方からサイレンが聞こえた。もはや梢子と美鈴には興味ないとばかりに地味女は踵を返すと何事もなかったように、一般人であるかのように軽快に歩いていった。

 

「姫先輩……」


「美鈴。引くかどうかはアンタが決めな。これ以上は命に関わるからさ」


「姫先輩はどうされるんですか?」


 美鈴の言葉に梢子は苦々しげに煙草を取り出し、口に咥えて火をつけ、清麻呂の車を指さす。


「あいつらの所為で傷だらけになっちゃったじゃん! あいつら締め上げて慰謝料とるまでアタシは引く気はないよ!」


 強い人だなと美鈴は感心した。あれだけ力の差を見せつけられても尚引く気は無いようだ。

 敵は強大。道明寺のような小さな小金持ちがこれだけの事をしでかした理由もよくわかる。実家が大騒ぎにもなるわけだった。ならば、と息をつき、


「ここで逃げ出しては西園寺家の名が廃ります。最後まで私も付き合いますよ」


 そう力強く宣言した。







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