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キュベルス~人類滅亡とたたかう者たちの笑うしかないデス・ループ~  作者: 泊波佳壱
第1章 キュベルス計画 始動

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第2話(1章-2)~つれさられる 滝 龍馬~

2116年 秋  大雪山系に僅かに残る居住区の龍馬の部屋

 ドンドン、ドンドンドン……そんな音で目が覚めた、俺。


 無遠慮にしばらく前から、ずっと誰かがドアをたたき続けている。



「おーい、起きろー。まだいるんだろ、龍馬。 起きたらとりあえず返事してここ開けてくれよ」


「は、はい」起き抜けなのと、二日酔いの痛い頭と、かれた喉で、しわがれ声になっている。


 誰だ? 突然ここまで訪ねてくるなど、仕事関係者の声ではない。


 昨日は、職場の先輩とひともんちゃくあって、ムシャクシャして、つい深酒して部屋に帰るなり眠ってしまった。


 多少寝過ごした感はあるが、時計を見ると出勤時間にはまだ少し余裕がある。こんな時間に昨日の今日とはいえ、会社関係者が訪ねてくるとは思い難い。




「久しぶりだな、龍馬。重大な話しだ、ここを開けてくれ」


 意識もはっきりしてきて、声の主が「しげ爺」こと重富(しげとみ)博士(はかせ)だとわかる。


 重富博士はたぶん70歳くらい、未だ現役で、この街では彼を知らない人はいない政府関係者で有り、科学分野の大家(たいか)としても知られている。


 俺の父の叔父だから、大叔父である。親戚筋ということもあって、何かと俺の事を気にかけてくれているのだが、最近では半年前にちらっとあいさつした程度だ。


 そんな人物にこんな朝から突然来られても……というのが正直な感想だ。


「すぐ出かけるぞ。一番いい服を着て準備してくれ」


「え? なにを……」


「あ、おまえの職場には『退職』を申し入れておいたから、安心してくれ」


「いやいや、おかしいでしょ。しかもそんなもの受け入れられるはずが……」


「それができるんだ、ワシの立場は知っとるだろ、「事は緊急だ、国の任務に就く」と言ったらすぐ理解してくれたぞ」


「どういうことか、全くわからないし、本人の承諾も何も……」


 といいかけて、この人の立場でなら、冗談ではなくそんな無茶もできてしまうのだろうと納得しかけるが、いや、でもなぜ? と、そんなことを考えていると、


「気持ちはわかるが、お前にしか頼めん事なのだ。Yesだろ、Yesと言ってくれ、ここで」


「どうしたのしげ爺、いつもならこんな変なこと言わないよね。しかも何をしてくれってことも言わないで、受けろって、それは無茶でしょ」


「まあ、驚くじゃろうな。とにかく、移動しながら詳しく話す、出かける準備を! どうしても納得がいかない、やらないというのなら、それはこの後で言ってもらうとして、とにかく時間が無い、さあ、準備してくれ」


 無茶苦茶な誘われ方に驚きはしたものの、昨日、職場で感じた苛立ちからすれば、ざまを見ろと口元が緩む。


 それに、さっきちらっと聞こえた「国の任務」というキーワードに、やっと自分が今やるべき価値のある事が有る気がしている。


 しげ爺に伴われて、俺、滝 龍馬は自室を後にする。


 山岳地帯の複雑な傾斜に建てられた建物たちは、いずれも極寒の暴風雪にも耐えられるように、厚い壁に覆われている。


 だが、昨今では、寒さよりも、この海抜1300m地点でさえ、「暑さ」が問題となっている。




 はるか眼下を見下ろすと、霧にかすんで見えないが、そこには「広大な、今となっては人の住めない街」が広がっている。


 2110年の夏、モニター越しに見た、倒れ込む人々の映像が思い起こされる。

 日本だけに限っても、その国土に暮らしていた8000万人を超える人々のうち、7年後の今では、たったの100数十名がこの居住区に残るばかりだ。




ビークル(小型電気自動車)に乗り込んでからも、しばらく無言だったしげ爺がボソリと話し始めた。


「龍馬は『キュベルス計画』の事は聞いたことが有るか?」


「この難しい時代に、膨大なエネルギーを無駄遣いしようとしている」って、うちの社長が言ってた。


「なんと、一般にはそんな受け止められ方なのか」随分と憤慨している様子だ。


「実際には?」


「人類は一年半以内に滅亡する」


「……」


 返す言葉が無いが、ここ数年で親しかった友や大勢の人々が死んだ、今や生き残っているのが100数十人という状況だけに、もはや否定できない。


「その状況下で、人類を救う唯一の方法が『キュベルス計画』だ」


「なるほど、残った人たちを救うのならば、電力消費がどれだけ膨大でも、問題じゃないね」


「そうだ。ただ、残った人たちではなく数十億人なのだが、それは後で詳しく話す。とにかく、龍馬、人類を救ってくれ。」


 今既に、この地上に一万人生き残っているかすら怪しい状態で、数十億人? しげ爺おかしくなったのか? とも思ったが、そこに口をはさむよりも、

「救ってくれ? って? は? 俺に?」


「そうだ、本来わしが出かけたいところだが、そうすると政府の反対派を抑える奴がおらん。それと、この年だしな」


「出かけるって、どこの事を言ってるのさ? もはや海抜800m以下の場所には人は降りられないよ」


「そうだな、いろいろと正しい数値がわかっておるな、安心じゃな」


「いや、そんなことも……」


「では、数十億人とは、どこにいる人類だ?」


「いやいや21世紀初頭の世界人口ならそのくらいだけど、その後は戦争や温暖化や新たなウイルスや……って、え?」


「そう、察しがいいな、その21世紀だ」


 そんなことを言い合っている間に、ビークルは目的地に着いた。




 政府機関・全ての行政や自衛隊や警察や消防やとにかく公的な全ての入ったたった一つのビルの前に乱暴に車を停めて、係員に鍵を投げ渡しながら、しげ爺はどんどんと建物の中に歩き始めた。




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