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第5話「ここに献血バスがあってん!」

「ここに献血バスがあってん! あの時は!」

 目の前に広がる大きな黒い空間を指さして、陽女ひめは叫んだ。

「でも、今は無いですね……」

 りくはそう呟きながらスマートフォンのライトを起動し、同じ空間を照らす。吸血鬼となり暗闇を見通す力を得た陽女と違い、人間である彼には灯りが必要だったのだ。

「でもあってん! この辺にあるんちゃうやろか~って探してみつけてん! でな、赤十字とか病院じゃなくてここへ運び込まれるって事は、たぶんまともな使い道ではないと思うねん……」

 ただの人間ではあるが人並み外れた観察力を持つ中学生は、陽女の説明を聞きながら光源をあちらこちらへ向けた。確かに彼女の言う通り、ここはまともな使い道の為の倉庫ではないようだ。血液を扱う為の医療機器の様な設備は一つもない。

 ただ台車やカーゴ、クーラーボックスが散らばり、ネームプレートのついた大型の業務用冷蔵庫が並んでいるだけであった。

「というか仮説なんやけどたぶんウチのクラブとは別の吸血鬼の団体が、献血て嘘言うて自分らの為に集めた血をここに……」

 そう説明する陽女の声は徐々に小さくなっていった。一つには、陸がこちらを一瞥もせずに周囲を見渡しているからであり、もう一つにはその仮説の物証である献血バスがここに存在しないからである。

 そもそもがかなり飛躍した推理であるだけに、バスの不在は陽女の自信を大いに損なってしまったのだ。

 だが……

「なるほど。それはあるかもしれませんね」

 陸はポツリとそう呟いた。

「そ、そうやろ! りっくん、なんだかんだでウチを信じてくれるんや~。やっぱ好き~」

「これを見て下さい!」

 抱きつきかけた陽女を片手で制止し、陸はスマホをある冷蔵庫へ近づけた。

「え?」

「『F田組様』ってあるでしょう? これはたぶんウチの業界の福田組ふくだぐみの事です。組長さんがかなりタフな人で有名なんですよ。『殺しても死なないジジイだ』って僕の父も言ってました。あちらは『S(サン)トリー様』です。やってみなはれ、の社風で有名ですけど死なないなら幾らでもチャレンジできますよね? そっか飲料メーカーなら血の加工や運搬もお手の物だ。あ、『C()プコン様』もありますよ! こちらの社長の米本さんも年齢不詳なんですけど……よく『ヴァンパイア』シリーズとか作ってましたね」

 陸は次から次へとネームプレートにライトを当ててそう言葉を紡いだ。挙げたのは何れも関西に本社を置く高名な企業だ。どれもそれぞれの業界だけでなく関西の財界に強い影響力を持ち、トップがワンマン社長で有名であり……医療関係ではない。

「ほな集めてきた血を、ここでりっくんの言うた会社に振り替え輸送してたってことかな~」

「振り替え輸送じゃなくて振り分け輸送ですよ。湖西線こせいせんじゃあるまいし」 

 強風ですぐ運休になる隣県の路線への悪口を言いつつ、陸は陽女の台詞を訂正した。とは言え実は両者とも学校へ自転車通学できる距離に住んでおり、それほど電車を利用する身ではない。

「どれも上が吸血鬼っぽい会社なんやね?」

「そういう視点で社長さんを分類した経験は無いんですけど、確かにそうですね」

「ふふふ~! 社長さん、高そうなバスローブ着てワイングラスに血を入れて飲んでそう~」

「いやそっちのイメージはありません」

 架空のワングラスを揺らし髪をふぁさ~と靡かせて笑う陽女に陸は冷たく言う。

「え~。だって、此処に来るんは上物の血ばっかやで?」

「そうなんですか?」

「少なくとも、ウチの学校で集まる血はね~。献血する子はほぼ、聖職者見習いでしかも乙女どすえ?」

「人が善意でくれる血に貴賤は無いと思いますけど」

 陽女は身体を奇妙にくねらせながら言ったが、陸の反応は更に冷たかった。彼は自分の出自や趣味的に『高貴な血や穢れた血がどうこう』といった話題には敏感だったのだ。

「もちろんそうやけど! 妖怪の身になってよう考えんかい~?」

「妖怪ですか……」

「『坊主の肉を喰らえば寿命が100年延びると言うしな、ひひひ!』とか言うイメージあらへん~?」

「あーなるほど」

 陸の脳裏には妖怪・変化たちから矢鱈に狙われる三蔵法師さんぞうほうしの姿が浮かび上がった。彼と言うか彼女と言うか……彼の僧侶も、そんな理由で食べられそうになっていた筈だ。洋の東西や宗派の違いはあるとはいえ、吸血鬼がシスター見習いの血に特別な価値を見いだしても不思議ではないかもしれない。

 だがそれよりも……。

「でも言うほど乙女っていますか? 御西女学院ごせいじょがくいん、高校ですよね?」

 陸はバッサリと切り捨てた。『教会系のお嬢様学校』に対して世間一般が想う程には、彼は幻想を抱いていないのだ。

 御西女学院の女子高生達が立場的に『聖職者見習い』であるのは確かだとしても、()()()()()()()であるとは限らない。陸が言う通り、何だかんだで高校生なのだ。よいお歳である。

「やーん、りっくんシビア~。でもそこも好き~!」

「特別風紀が悪い、って話も無いですけどね」

 陸は再び抱きつきそうになる陽女を片手で止めながら、もう片方の手でスマホを操作した。実際のところ評判の悪い他校であれば例えば

「○○校の女子、やれる」

と言った噂がネットを飛び交うものだ。

「せやろ~? うちんとこ、割と治安がええといというか、芸能人とか先生とかに『素敵ですわ~』ってきゃいきゃい言う程度の子が多いねん~」

「校内で一番、治安が悪いのはボランティア部の映画室かもしれませんよね」

「ふふふ、そやね! なあ? ちなみにウチはまだ乙女やと思う~?」

「たぶんそうでしょう」

「ええっ!?」

 即答した陸の声に、陽女はハッと両手を自分の頬に当てた。

「ウチはいま……も~れつに感動してます! なんとりっくんが、ウチのことをそ~いう目で見てくれていたなんて!」

「乙女か童貞でないと、吸血鬼に血を吸われても吸血鬼に転化しないって設定がよくあるじゃないですか」

「え~そっちで~!? ……ほなりっくんはどっちやろね?」

「なにがですか?」

 陸は冷たい声で言った。正直、この手のイジりにも飽き飽きなのである。何せ彼の洛聖中学校は進学校であり、男子校であり中学校だ。童貞率は非常に高くよくその事をネタにされる。ネタどころかもし同学年の生徒をその後三年間追跡しても、童貞率はほぼ下がらないだろう。

「もちろんあれだけ美味しいんやもん、分かってるけど~。なるべく清さを保ってもろて長く美味しく頂くか、大事なのをさっさと美味しく頂いちゃうか、どっちがええやろね~?」

「先輩!? 陽女先輩!? まさかまたおかしくなって!?」

 陸は近寄る陽女から距離をとりながら叫ぶ。今日、彼女が『性欲と吸血欲の区別がつかない』と言っていたのを思い出したのだ。

 いやこの場合は両方、同時かもしれないが。

「どっちもええよね~」

「よくないです! け、大人を呼びますよ!」

 警察を呼べる訳がない。陸は少し言い直して陽女に警告を放った。

「おーし、開けてくっわ!」

 その時。倉庫の外から大人のそんな大声が聞こえた。

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