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第11話「人質ならぬひとじ血って訳か~」

「人質ならぬひとじ血って訳か~」

 翌日の放課後。ボランティア部の部室で映画を観終わった陽女ひめは、りくから作戦の概要を聞いていた。

「ええ。奪った血液の半分に何かの装置をつけた上で何処かへ残して、脅迫するんです」

「それが『全て失うか半分取り戻すか選べ』って訳やね?」

 彼女はそう言いながら壁の方を指す。そちらにはハリウッド切っての美形俳優ブラット・ピットが今の台詞を言うシーンが映し出されていた。

「ええ。僕らが安全な所へ逃げ切るまで追って来ないなら、残した半分は無事に返す。でも追跡するなら、バスにある分も含めて全て駄目にする、という風にです」

 陸は手元のノートの概念図を示しながら言う。この手の説明となると、スマホのメモよりは手書きの紙の方が良い。またノートであれば何かを書き加えるのも容易だ。

「ただ今は叩き台というかワンアイデアの思いつきに過ぎないので……何か疑問点があれば仰って下さい」

 言いながら彼はペンを手にした。それを観た陽女は、何時も二人で座るソファの上で大きく仰け反って腕を組む。

「せやね~。あ、脅迫って言ったけど誰とどうやって話すん? ブラピみたいに携帯、誰かに渡す~?」

「それはたぶん運転手さんの、須貝(すがい)さんのスマホを借りる事になると思います。偉い吸血鬼の電話番号が登録されていてこちらからかけるか、或いは向こうから電話がかかってくるかになるかは分かりませんが」

「ほなえっと駄目にするって具体的にどう~? 箱ごとばーん! って爆破するとか!?」

 陽女はソファの上で実際に声と胸を弾ませて訊ねる。基本的に爆発シーンが好きな女子である。

「いえ、そこまでは。残す方には簡単な遠隔発火装置を付けるくらいですね。交渉が決裂した場合は、バスの中から定期的に投げ捨てる……みたいな」

 男であれば身体の一部が発火しそうな光景を見ても、陸は変わらず冷静な声で応える。考えたくはないが相手が要求を拒否して追ってくる可能性もあり、その場合は少しづつ方々に血液を投げ捨て、追っ手の足を鈍らせる事になるだろう。

「そっか~。逆に交渉が成功して安全な所まで逃げたら、その後は~?」

「市外の人気の無い所でリアカーか何かに血液を積み替えて、先輩に運んで貰って余所に隠す事になります。隠し場所には心当たりがありますので」

「バスと哀れな須貝さんは?」

「哀れな須貝さんは縛られてバスの中に放置ですね」

 陽女につられて陸も容赦ない言い方になる。しかし、少し考えた陽女は更に容赦ない提案を語り出した。

「どうせならもう少し働いて貰わへん~?」

「どう働くんですか?」

「ウチらが降りた後も、まだいるみたいに走り続けて貰うとか~?」

「どうやってですか?」

「嘘やけど何か注射してさ~。『毒を注入した。解毒剤が欲しかったら、どこどこまで運転を続けるんやで!』とか」

「えっ、酷い!」

 陸は思わず素直な反応を返したが、すぐに考え込む。彼女の言う事はもっともである。幸い、そんな偽装をする為の医療器具は車内にあるし、引き続きバスが動き続けた方が自分たちが逃げる時間も稼げる。

「分かりました。それも採用しましょう。解毒剤については、その目的地にあるという事にして」

 陸がそう言ってノートに書き足すと、陽女は嬉しそうに手を叩いて喜んだ。須貝は確かに女子高生にナンパをしかけようとする男性で吸血鬼の手下でもあるが、そこまで喜ぶものか? 女性はやはり怖いな……と陸は心のノートの方に書き記す。

 実は、陽女が喜んだのは陸が自分の思いつきを採用してくれたからなのだが。

「ほなこの勢いで、例の検証の方もやって行こうか~」

「どの勢いなんですか!?」

 当然の疑問を口にする陸だが、陽女はそれには応えず鞄から三つの巾着袋を取り出してきた。

「じゃじゃーん! これにはウチがクラスのツレから借りてきた、シルバーのアクセサリーが入ってまーす!」

「ああ!」

 その説明を聞いて陸も納得が行く。シルバーとはつまり銀。伝説において、しばしば吸血鬼の弱点とされるものだ。それに触れた吸血鬼は、焼けたり溶けたり苦しんだり……とにかく酷い目に会うのだ。が、実際はどうなのか? 検証する必要がった。

「でも何で三つも?」

「それがなー。これって全部、彼氏からのプレゼントらしいんやけど、シルバーって偽物も多いねん。実は真鍮やったり銀メッキやったり」

「そうなんですか?」

「うん。柔らかくて加工もし易いからアクセサリーとしてはええねん。でも値段もするし、彼氏は『シルバーやで』って言ってても、本当は違うかもしれへんねん」

 だから念の為に三個も借りてきたのか、と陸は納得した。偽物で実験してしまっては銀が吸血鬼に効くかどうかも判明しない。

「本物か調べる方法は無いんですか?」

「磁石とか氷とか使ってやるらしいけど、借りたその場で試すんは無理でな~。で、ここまで持ってきたんやから、先に身体で試そうかな? って」

 言われてみればそうだった。わざわざ借りておいて、目の前でその真贋を調べるようなふりはできまい。

「でも何か……責任重大というか他人の秘密を知ってしまうというか」

「計らずともそれぞれの彼氏さんの愛の重さを知ってしまう事になるんやね~!」

 陸が遠回しにほのめかした事を陽女は直球で言った。しかし彼女の言う通りだ。彼氏さんが彼女さんに真剣であればあるほど、本物の銀のアクセサリーをプレゼントしている可能性が高いであろう。

「ほなさっそく行ってみよう~」

 唾を呑む陸の前で、陽女は右手だけ毛糸の手袋をはめて、一つ目の巾着の中からあるアクセサリーを取り出した。

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