98/262
第ΑΩ話 "彼女"
――――――早く、助けないと。
いつからなのかはわからない。
わたしはずっと、何かに衝き動かされてきた。
早く、助けないと。
いったい、誰を?
わからない。
でも、早く助けないと。
答えはわたしの中にはない。
ただ、衝動と焦燥だけが、ぐるぐると渦を巻いていた。
わたしの中には、いつもとある世界がある。
真っ白な。
純白の。
何にもない、世界が。
わたしはそこを、ずっとずっと走っていた。
目印になるものもなくて、地平線もなくて、どれだけ走ったかわからない。
それでも、ずっとずっと走っていた。
目指すべき場所は知っている。
この先に"彼"がいることを知っている。
わたしは、一刻も早く、"彼"の手を取ってあげなきゃいけないんだ。
わたしは走る。
わたしは走る。
わたしは走る。
そして―――
―――ああ、まただ。
真っ白な世界に、真っ黒な染みが滲んだ。
わたしはそれに包まれて―――
――――――早く、助けないと。




