When the Blue Flame Blooms - Part2
◆アデラ◆
アゼレア・オースティンとフィリーネ・ポスフォードは、鍾乳洞から地続きにある廃坑に逃げ込んだらしい。
貴族然としたドレスを纏った少女――アデラ・エイトキンはほくそ笑む。
「そっちは出口はありませんわよ……?」
くすくすくす……。
嘲りを含んだ密かな笑い声は、誰に届くこともない。
わざわざ声を出して追い立てた甲斐があった。
これで鬼ごっこをする必要もない。
(汗水垂らして追いかけっこなんて、淑女がすることではありませんものね……?)
優雅に。
スマートに。
獲物を狩るのが、高貴なる者として当然の姿。
彼女は幼い頃、両親にそう教えられた。
アデラ・エイトキンは元貴族である。
生まれたときから、大きな屋敷で綺麗なドレスを着て、豪華なご馳走を食べて過ごしてきた。
自分も両親のように、煌びやかな社交界で立ち回りながら、贅沢を暮らしをして、金銭的な苦労など一度として知ることなく死ぬのだと、幼心に確信していた。
その運命が変わったのは、6歳の頃のこと。
父親が不正を暴かれて失脚した。
よくは覚えていないが、父はそうとうマズいことに手を染めていたらしく、爵位は返還、領地は没収、一族はいきなり路頭に迷うことになった。
さらに――悪いことは重なるものだ。
着るものも食べるものも住む場所も、何もかもを欠いた矢先、盗賊に襲われた。
両親は有無を言わさず殺害され、アデラを含む子供たちは『戦利品』として回収される。
盗賊団のアジトの寒々しい牢屋に放り込まれ、『商品』として売り飛ばされることを待つばかりの身となった。
奴隷になることを避けられたのは、アデラの売買を仲介した悪霊術師ギルドに、精霊術の才能を見いだされたからだ。
盗賊団からギルドに買い上げられたアデラは、以降、ギルド所属の術師として研鑽すると共に仕事をこなしてきた。
ギルドの仕事は、優雅さともスマートさとも無縁。
むしろ泥臭く不格好。
着実に功績を積み上げながらも、アデラの心は屈辱に震えた……。
裏社会に身を落として以降も、貴族の姿が視界に入ることは多々あった。
本来ならば、自分が生きていた世界。
本来ならば、自分が生きるべき世界。
……あいつらとわたくしで、一体何が違ったと言うの?
親が不正に手を染めていた?
そんなのどうせみんなやっている。
何も違わない。
何も違わない。
何も違わないッ!
わたくしがこんな目に遭っているのに、どうしてあいつらも同じ目に遭わない?
地面を這いずれよ。
泥水を啜れよ。
わたくしがやったんだから、お前らもやれよッッ……!!!
屈辱と、憎悪と、……嫉妬。
身を焦がすようなそれらに衝き動かされて……彼女は、これまで生きてきた。
だから……今日は、祝福の日だ。
アゼレア・オースティン。
彼女のことは、貴族だった頃から知っていた。
オースティン家の神童。
精霊術の天才。
周りの大人たちが、口々に彼女を褒めていたのを覚えている……。
きっと、ちやほやされて生きてきたんだろう。
ぬくぬくと、大きな屋敷で綺麗なドレスを着て、豪華なご馳走を食べて過ごしてきたんだろう。
そいつが……今。
わたくしを恐れて。
わたくしに怯えて。
まるで、野犬に襲われたウサギのように――
無様に、逃げ回っているのだ。
「あ……はぁ……♪」
吐息がこぼれる。
お尻のほうからぞくぞくとした感覚が這い上って、頭の上まで貫いた。
神様、ありがとうございます。
これは、ご褒美なんですよね?
これまで耐えてきたわたくしへの、ご褒美なんですよね?
遠慮なく、いただきます。
何の遠慮も容赦も躊躇もなく――
嬲って。
貶めて。
辱めて。
――最後には、盗賊団のアジトの前に裸で放り出してやります。
「ふふっ……あはは♪」
我知らず、笑みがこぼれた。
「ありがとうございます、神様……本当にありがとうっ!」
アデラ・エイトキンは、心から感謝する。
全身を満たす愉悦を心ゆくまで楽しみながら、優雅に、スマートに、アゼレアとフィリーネを追い詰めていく。
やがて、道の先に、ついにアゼレア・オースティンの姿を捉えた。
彼女の行く先は、瓦礫に塞がれている。
袋小路だ。
行き止まりを背にして彼女が振り返ったので、アデラもまた足を止めた。
アゼレアは肩を上下させて、荒く息をしていた。
着ている学院の制服もずいぶんと汚れている。
なんて無様……。
あまりに楽しくて、優雅な微笑が崩れそうになってしまう。
「鬼ごっこはお終いですか?」
アゼレアは歯噛みして、アデラを睨みつけた。
そのはしたない目つきすら、こうなっては愛おしい。
……裸に剥いて放り出すときも、同じ目をしてくれるのかしら……?
楽しい楽しい、甘美なる会話は、霊力切れにしてからでもできる。
アデラは青い炎を生み出した。
天才、神童と謳われたアゼレア・オースティンも、今のアデラには手も足も出ないのだ。
(ああ……こんなに楽しいことって、あっていいのかしら?)
盗賊団に売りつけてやろうと思っていたけれど……。
自分で飼うほうがいいかしら?
そんな思考が、アデラの脳裏を過ぎる。
(ああ、いい……♪ それもいいですわ。部屋の隅っこで手足を縛ったままにしておきましょう。そうして、犬みたいに這いつくばって餌を食べさせるのですわ……。最初は言うことを聞かないでしょう。餌も食べないかもしれません。……けれど、本物の空腹の前では、プライドなんてあまりに脆い……。それを思い知ったとき、彼女は自ら、わたくしに媚びを売るのですっ……! アデラさま、アデラさま、お願いします、餌をくださいっ、なんでもしますからぁあぁぁっ……! ――でもダメー! 貴族としてのプライドをすべて投げ捨てた懇願をあっさり切り捨てられたとき、彼女はどんな顔をするのでしょうっ! ああ、だめ。もうだめ。飼う。絶対飼う。もうそれしか考えられないっ……!!)
抑えきれない興奮を青炎に込め。
アゼレアに向けて解き放とうとした、寸前。
視界が粉塵に塞がれた。
「――けほっけほっ! なにこれっ……!?」
黒っぽい粉でいっぱいで何も見えない。
なんでいきなり!?
そう思ったアデラの脳裏に、フィリーネが胸に抱いていた魔物の姿が思い出される。
あのモグラみたいなやつの仕業か……!
(こんなものっ……!!)
炎で吹き飛ばしてやろうとしたアデラだったが、寸前に思い留まった。
確か……この廃坑は、炭鉱だったはずだ。
だとしたら、この粉塵はまさか……炭塵!?
粉塵爆発、という現象がある。
可燃性の粒子が一定空間内に一定以上の濃度で存在するとき、炎は通常の何倍もの速度で広がるのだ。
炎を扱う【黎明の灯火】使いなら誰もが知っている現象。
だからわかる。
今、この状況で炎を出せば、霊力切れどころか、天井が大崩落して生き埋めになる――!
【黎明の灯火】使いとして当然の用心が、アデラの手を止めた。
その瞬間。
粉塵の中から、アゼレアが躍り出てくる。
肉弾戦をする気か!?
そう思って身構えるアデラの目の前で――
アゼレアは、紅蓮の炎を生み出した。
◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆
◆アゼレア◆
爆発――は、起きなかった。
それも当然のこと。
この粉塵は、炭塵じゃないんだもの。
これは、鍾乳石だ。
そう……焚き火で身体を温めていたとき、モグラ魔物のウィーちゃんががじがじと齧っていた、鍾乳石だ。
粉塵爆発は、可燃性の粒子が一定濃度存在することで起こる現象。
けれど――炎神天照流の道場で勉強を重ねた私は知っている。
鍾乳石は不燃性である。
粉塵爆発は起こらない!
そして、この瞬間!
この粉塵が不燃性だと知っているのは、私だけ――!!
万全を期すため、アデラ・エイトキンの姿が見えるまで近付いてから、炎を放つ。
一撃必殺。
反撃の余地なんか残さない。
私の策に気付いたときには、とっくに黒こげだ!
紅蓮の炎が、アデラの全身を覆った。
豪奢なドレスを纏った少女が、黒い人影に変わった。
その。
影が。
にたあ――と。
笑った気がした。
「あ・さ・ぢ・え♪」
青い炎が渦巻く。
私の炎は、一瞬にして掻き消された。
なんで――
そう思った瞬間、青い炎の向こうから腕が伸びてきて、私の顔を鷲掴みにした。
「あぁうッ……!?」
そのまま押し倒され、後頭部を地面に叩きつけられる。
意識がくらくらと揺れた。
揺れる視界の中心で、アデラが微笑みながら私を見下ろしている。
「うふふ……わけがわからない、って顔をしていますわね?」
その微笑は、人の顔を鷲掴みにして押さえつけている、という格好にもかかわらず、優雅だった。
「何のことはありませんわ。貴女の火力が足りなかっただけ。こんな弱火では、霊力が切れるまでの間に欠伸ができてしまいますわよ?」
火力が……足りなかった……?
霊力がゼロになるまでの時間が長すぎて……反撃を、許してしまった……?
「ふふ、ふふふふ。もしかして今の、本気でしたの? 今のが貴女の一撃必殺? ふふ、ふふふふふ! だとしたら――ええ、とても言いにくいのですけれど――」
アデラは、私の耳元に唇を近づけ。
哀れみのこもった声で、そっと囁いた。
「――貴女、才能ありませんわよ?」
才能。
才能ない。
凡才。
普通。
どこにでもいる。
ありふれた。
いくらでも替えの利くような。
十把一絡げの。
何者でもない。
何者にもなれない。
一般人。
落ちこぼれ。
劣等生。
私は――
――天才ではない?
「…………ぁ」
違う。
違う違う違う。
「ぁあぁぁぁあぁぁぁ、あぁあああぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うッッッ!!!!!
「ふふっ、あはは♪ 何を怒っていらっしゃるのかしら? まるで駄々をこねる子供みたい。あら失礼、子供でしたわね。どこにでもいる、何も特別じゃない、ただの単なる子供でしたわね?」
違う違う違う違う違う違う!
黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!
「現実逃避はおやめになったら? 自分でも薄々気付いておられたんでしょう? 本物の天才とはジャック・リーバーやエルヴィス=クンツ・ウィンザーのような人間のことを言うのですわ。アゼレアさん、貴女くらいの才能なんて、世界には掃いて捨てるほどいるのですわよ?」
そんなこと。
そんなこと!
そんな……こと……。
「分不相応な夢を見るのはやめて、身の丈に合った将来を目指したほうがよろしいのではなくって? ええ、これは忠告です。人生の先輩からの忠告。本物の天才と張り合うのはやめて、凡才は凡才同士、だらだらぐだぐだ意識低く、傷を舐め合いながら下ばかり見て中身のない安心に浸っていればよいのです。その間に天才たちは――恵まれた人間たちは上へ上へと進むでしょうけれど、そんなの貴女たち凡才には関係のないこと。安全なところからアイツは調子に乗ってるとかどうせ性格悪いとかすぐに消えるに決まってるとか、無責任に貶めてあざ笑っていればよいのです。ええ、貴女にはその権利があります。だって、才能に恵まれた彼らなんかより、貴女のほうがずっと努力してますもんね? 才能がないぶん苦労してますもんね? だから貴女には才能ある人間を貶める権利がある。だって苦労してるんですもの! 苦労してない天才を貶すのは当たり前! 苦労してるほうが偉いんですもんね!? 大した才能も家柄もなく地べたを這いずり回るように苦労している凡人のほうがずっと偉い! 世間を知っている! ま、天才がどれほど苦労してるかなんて存じませんけどっ!! でもきっと自分よりは苦労してない!! 自分が成功できないのはたまたま才能と運が足りなかったから!! 努力はちゃんとしてたし!! 自分のせいじゃない!! 運が悪かっただけ!! はあー、やれやれ。理不尽だけど仕方がないか。だって、人生ってそういうもんだし―――」
「―――なんて風に思ってるから、貴女は凡人止まりなんですわ」
左の耳から流し込まれたアデラの言葉が、胸の中に次々と突き刺さった。
……抜けない。
刺さった言葉が、ぜんぜん抜けない。
視界がぼやけている。
泣きたくて泣きたくて仕方がないのに、涙は一滴も流れない。
特別なことは何も起こらず、ただ静かに、世界が遠ざかっていく。
「あら、図星? 図星でしたぁ!? あはっ! これは失礼、オースティン家の神童さん! いえ、そうじゃありませんでしたわね――オースティン家の元神童さん!!」
私の上で、アデラが楽しそうに笑う。
何か、楽しいことがあったのかしら……。
笑ってるってことは、そうなのよね……。
だったら、私も笑わなきゃ……。
何が楽しいのかわからなくても、周りが笑ってるんだから、私も笑わなきゃ……。
唇を、ぎこちなく、動かしていく。
それは、儀式のようだった。
自分は特別ではないと認め、有象無象に迎合するための、儀式……。
抵抗はあった。
けれど同時に、安らぎもあった。
これで、解放されるのだ。
この苦しみから……これで、私……ようやく……。
「――――アゼレア!!」
…………え?
今、呼んだの……誰?
知っている声だった。
でも、彼女は、私のことを名前では呼ばない。
髪の赤い人、と。
あだ名ですらない呼び方をするのに――
疑問に思った瞬間、視界が黒っぽい粉塵に包まれた。
これ……鍾乳石じゃない。
もしかして……今度は、本当に炭塵!?
「もうっ……!!」
真っ黒な視界の向こうで、アデラがイライラした声を発した。
炭塵の中では、彼女は炎を使えない。
動揺からか、彼女の拘束が緩んだ。
その瞬間を見計らったように、私の両脇に腕が差し込まれた。
「(逃げるよ……!)」
耳元でフィルの声がした。
アデラから引き剥がすようにして、フィルは私の身体を引きずっていく。
「あっ……!? このっ、逃がさな――」
「動かないで!! 動いたら爆発させるよ!!」
アデラとしても、生き埋めになるわけにはいかないのか。
フィルの脅しは、意外なほどすんなりと効いた。
「(立って……!)」
アデラが動きを止めているうちに、私は立ち上がらされる。
そして、彼女に腕を引っ張られて、炭塵の牢に囚われたアデラから逃げ出した。
◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆
しばらく走り、坑道から鍾乳洞に戻ってきた。
ひとまず安全だと思える場所まで走りきると、私の全身から力が抜けた。
フィルの手を離し、湿った壁に背中を預けて、ずりずりと座り込む。
「うーん……失敗しちゃったねー」
フィルが立ったまま、困った風に言った。
「次はどうしよっか。このまま逃げられればいいけど、道がわからないしねー」
「……無理よ」
私は、ほとんど無意識に呟いていた。
「無理よ、無理。勝てっこない。これ以上は何したって無駄よ」
「……どうしたの?」
「どうしたもこうしたもないわ。無理だから無理って言ってるの。無駄なことはやめましょう。私たちとあいつとではものが違う。根本的に。相手にならない。さっさと諦めたほうが賢明だわ」
もう何もしたくない。
疲れた……。
早く部屋に帰って、ベッドに倒れ込みたい。
「そんなことないよ! 精霊術で負けてたって何とかなるよ! わたしもいるし、力を合わせて工夫すれば――」
「……諜報科のくせに」
「………………え?」
ムカついた。
フィルの顔が、言葉が、癪に障って仕方がなくて、私は考える前に言葉を連ねた。
「級位戦で戦ったこともないくせに、いい加減なこと言わないで」
「な、なにそれ……。私はただ、諦めるにはまだ早いよって――」
「あんたに何がわかるのよッ!?」
自分の声が、驚くほどの大きさで、鍾乳洞に響き渡った。
「あんたなんて、いつもジャックの傍でニコニコ笑ってるだけでしょッ!? いいわよね、楽で! 天才の旦那様に媚び売ってるだけでいいんだから!! 私は違うの!! あのわけわかんない天才どもと正面から戦ってるのよ!! 男に愛嬌振りまいてるだけのあんたに何がわかるってッ…………」
私の叫びは、尻すぼみに消えていった。
フィルの表情が、どんどん悲しそうなそれになっていったから。
あ、……ああ……。
違う……違うの。
私、こんなことを言おうと思ったんじゃ……。
なんで?
私……なんでこんな、ひどいこと……。
「アゼレア、口開けて」
え……?
俯きかけた顔を上げた、その瞬間。
フィルの顔が目の前に迫っていた。
そのまま、唇に柔らかな感触が触れる。
「んっ……!? ん~~~~~っ!?」
唇を唇で塞がれていた。
いわゆるキスだった。
ちょっ……私初めてっ……。
逃げようとしたけど、フィルに頭を捕まえられた。
そして、唇の隙間から温かくて柔らかいものが口の中にねじ込まれてくる。
こっ、これ、舌!?
舌入れられてるの!?
ばたばた暴れる私を強引に壁に押さえつけながら、フィルは自分の舌を私の舌に絡ませてくる。
背筋に痺れのようなものが走った。
な、なにこれ……。
脳みそ溶けちゃいそう……。
これ、もしかして、すごく上手くない?
フィルって、いつもジャックとこんなことしてるのっ……!?
まだ11歳なのに……!
破廉恥だわ、破廉恥!
……ああ、でも、なんか、どうでもよくなってきた……。
思考さえもどろどろに溶けようとしたとき、するっと喉を何かが通っていくのを感じた。
何か飲まされた!?
そう理解した瞬間、口の中が解放されて、フィルの唇が離れた。
私とフィルの唇の間に、透明な糸がつーっと伸びる。
「……けほっ! けほっけほっ! なっ、何を飲ませたのっ!?」
「睡眠薬だよ。即効性」
そう言われた瞬間。
ふーっと、意識が遠のくのを感じた。
だめ……。
瞼が……。
「こういうときはね、とりあえず寝ちゃうのが一番だから。しばらく休んでて」
フィルは、いつものように笑っていた。
「時間は、わたしが稼いでおくから」
そう言って、フィルは私に背を向ける。
ちょっと待って……。
一人で行くつもり……!?
あの青い炎を相手に……!?
そんなの……。
待って……。
走り去るフィルの背中を見ながら――
私の意識は、眠りの中に落ちていった。




