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転生ごときで逃げられるとでも、兄さん?  作者: 紙城境介
黄金の少年期:貴族決戦編

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Return of Nightmare



「♪ せっせっせーのよいよいよい ♪」


「♪ 来る前よーりも 綺麗にしなくちゃ ♪」


「♪ 斬って千切って潰して ゴミ箱へ ♪」


「♪ ラーラランランランランランラン ♪」


「♪ ラーラランランランランラン ♪」


「♪ ラーラランランランランランラン ♪」


「♪ ランランランランラ…… ♪」




 歌が。

 聞こえた。


 もう、二度と聞くはずのない、歌が。


「なにこれ……? 歌……?」


 幻聴じゃ――ない。

 フィルも、アゼレアも、エルヴィスも、ルビーも、ガウェインも。

 歌の出所を探して、周囲を見回している。


「そんな……はず……」


 そんなはず、ない。

 そんなはずない。

 そんなはずないッ!


 あいつは……。

 あいつは……!

 あいつは、あいつは、あいつは!!



「…………あいつは、もう死んだんだ…………ッ!!!!!」



「えっ、ちょっと! ジャック!?」


 俺は走る。

 廊下に点々と残る血の跡を辿っていく。


 あいつは死んだんだ。

 俺が殺したんだ!!

 間違いない!

 死体も確認した!!

 生きてるはずがないんだッ……!!!


 血の跡を追って、角を曲がって。

 そうして、少し行ったところで、血痕は途切れていた。

 さっきの教師が、そこにいたのだ。


 足が少し、床から浮いていた。

 靴の爪先から、血がぽたぽたと滴って、真下に血だまりを作っていた。


 太腿の傷、なんて、もはや意識にも入らない。

 さっきまで、エミリー・オハラの人質になっていた女性教師は。

 自分の不甲斐なさを、俺に謝った女性は。



 壁に掛けられた燭台に、深々と延髄を貫かれて、ぶら下がっていた。



 まるで巨大なタペストリー。

 インテリア用の、熊の毛皮のようだ。

 そう思えてしまうくらい、人間としての意味を、喪失し切っていた……。


 アゼレアたちが追いついてきて、ひっと短く悲鳴を漏らす。

 これもやっぱり、幻覚じゃない。

 現実なのだ。

 悪夢のような……現実なのだ。


 あの5年間。

 俺の目の前で次々と殺された人たちの姿が、タペストリーのようにぶら下がった教師に重なる。


「……ああ……」


 悪夢は――

 まだ、終わってはいなかった……。


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