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転生ごときで逃げられるとでも、兄さん?  作者: 紙城境介
黄金の少年期:貴族決戦編

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Her love even kills the god's scenario

 異臭に気が付いた。

 いや、異臭なんて生易しいものじゃない。


 これは――死臭。


 むせ返るほどの血の匂いが、部屋中に充満していたのだ。

 その源を、ぼくは否応なく、発見する。

 驚愕と戦慄で、全身が凍りついた。


 大輪だった。

 大きな大きな、輪だった。

 真っ赤な真っ赤な、大輪の花だった。


 部屋の中央。

 そこに。


 大量の(・・・)首のない死体が(・・・・・・・)輪状に倒れ伏している(・・・・・・・・・・)


 ミステリーサークル、というんだったか。

 畑などに突如として現れる、謎の模様。

 あれを、死体を並べて作ったかのようだった。


 血の大輪の傍に、丸いものが転がっている。

 いくつも、いくつも……。

 おそらくは、首なし死体と同じ数だけ。


 それは、頭部だった。

 ミステリーサークルにされた首なし死体の、頭部だった。


 なんだ、これ……?


 血の海と化している貴賓室を前に立ち尽くし、ぼくは混乱する。

 唐突すぎて、処理しきれない。

 まるで、得体の知れない異世界に迷い込んでしまったような――


 輪っか状に並べられた死体は、すべて、手に剣を握っていた。

 もしかして、殺し合ったのか。

 いや、まさか……。

 だとしたら、こんな綺麗に輪っか状になっているはずがない。

 どうにかこの光景を処理しようと、観察を続け――


「……えっ……!?」


 床に転がった頭部の一つが、たまたま目に入る。

 瞬間、ぼくはたまらず声を上げた。

 なぜなら――知っている顔だったからだ。


 それは、ラヴィニア・フィッツヘルベルトの顔だった。


 間違いない。

 臥人館で見た、あの女貴族の顔だ……。


 死んで……いる……?

 疑いようなんてない……首を切られているんだから……!


 続けて、そのすぐ近くに見つけた頭に、ぼくは目眩すら覚えた。


 ……メイジー・サウスオール……?


 その紫色の特徴的な髪は、見間違えようもない。

 どうして優勝候補の、最強に最も近い精霊術師が……。

 こんなところで、首を切られて死んでいるんだ……っ!?


 そのまた近くに転がっていた顔を見て、ぼくはもう、何も考えられなくなった。

 今まで見てきた中で、一番見慣れた顔。

 それは――


 ――実の兄である、エドワーズ・ウィンザーのものだった……。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 開会式の、まだ途中。

 突然、会場が真っ暗になった。


 なんだ……?

 停電……?

 いや、馬鹿な。

 今は昼だぞ?

 それに、この会場には天井がない……!

 真上に太陽があるのに、どういう理屈で真っ暗になる!?


 悲鳴めいたざわめきが周囲から届く。

 どうやら、真っ暗になっているのは俺だけじゃないらしい。

 一寸先も見えない暗闇の中で、


「――おい! なんだ貴様ッ――!」


 学院長の、そんな声が聞こえた。

 直後。

 明るさが戻る。


 なんだったんだ、一体……?

 俺を含め、誰もが周囲を見回していた。

 何も変わったところはない――

 いや。


 会場の真ん中。

 ステージの上。

 学院長の姿が、そこから消えていた。

『サバイバル』と大書された4枚の大きな紙だけが、試着室めいた四角形を形作ったまま佇んでいる……。


「トゥーラ……?」


 そう呟いたのは、すぐ近くの席のラケルだった。

 俺は言うに及ばず、フィルも、アゼレアも、ルビーも、ガウェインも、事態を呑み込めていない。

 一体、何のトラブルなんだ?

 嫌な予感が膨らみ上がった、その瞬間――


『――あー、てすてす。霊王戦にお越しの皆さん、お元気ですかー?』


 場内に、場違いな放送が響き渡った。

 不自然に加工された、若い女の声。

 脳の奥底を掻き乱すような……そんな……気味の悪い、声。


『どうもこんにちは! わたしはですねー、そうだなあ、「悪霊王ビフロンス」とでも名乗りましょうか!

 闇社会のほうで、ちょっとブローカー業などやらせていただいている者でして……名前くらいは知っていらっしゃる方もおられるかもしれませんね?』


 ビフロンス……!?

 それって、あのビフロンスなのか……!?

 まさに今、俺とエルヴィスが追っている、あの……!?


『宣言させていただきます! この霊王戦、わたし率いる「悪霊術師ギルド」が、たった今! 乗っ取らせていただきましたーっ!!』


 誰もを置き去りにしたまま、女の声――『悪霊王ビフロンス』は、陽気に宣言した。

 ――乗っ取り。

 その言葉が出たことで、ようやく理解が追いついてくる。


 攻撃……されているのか?

 国中の貴族が集まっている、この場所が。

 いや……あるいは、すでに。

 陥落している……!?


『すでにこの学院は完全封鎖されております! 皆様は誰一人! この学院を出ることはできませんっ!! ――空をご覧ください!!』


 言われるままに、空を見上げた。

 喉の奥から、呻きが漏れる。

 それは、押し殺した恐怖の残滓だった。


 空が、真っ暗だ。

 真っ黒な、ドーム状の闇みたいなものに、空が包まれている。


「……待て……あれって……」


 見覚えがあった。

 あれは――そう。

 臥人館に潜入したときの――ダンジョンの……!


『あの闇はこの闘術場をすっぽりと覆い、すべての出入り口を封じています! 無駄なことは決してなさらないよう、ご協力お願い申し上げます!』


「なんだよ……これ……」


 ルビーが呻くように呟いた。

 それは、この場の全員の代弁だった。

 意味がわからない。

 何もかもが唐突。

 いきなり世界が切り替わってしまったかのようだ。

 まるで、乱丁でめちゃくちゃになった小説のような――

 ――まるで、悪い夢のような。


『ここで悪霊王よりお知らせでーっす!』


 妙に癪に障る声が。

 最悪の現実を立て続けに突きつける。


『この闘術場内限定で! 現在、殺傷無効化結界がオフになっておりまーっす!! お早めにお死に求めくださーいっ!!』


 は?

 結界がオフに……?


『というわけでっ!

 ……これから皆殺しにしますけど、いいですよね?』


 しん、と会場が静まり返った。

 ……皆殺し……?

 そう言ったのか、今……?


『抵抗は無意味です! 間もなく担当の者がブチ殺しに参りますので、今しばらくそのままでお待ちください! それではっ!!』


 そう告げて、放送は終わった。

 瞬間。

 声が爆発する。


 怒号。

 悲鳴。

 泣き声。


 しかし、割合としては怒号が一番多かった。

 姿なき声に向けて、やり場のない怒りをぶつけていた。


「ナメてんじゃねえええええッ!!」

「今日ここにどれだけの精霊術師がいると思ってんだあああッ!!!」

「永世霊王だっているんだぞッ!! そう簡単に―――」


『―――あ、一つ忘れてました』


 狙い澄ましたように戻ってきた声が、何でもないことのように言った。


『ステージ中央にございます予選ルールの紙をご覧ください!!』


 再び放送が消え――直後。

 絹を裂くような悲鳴が響き渡った。

 声に従い、ステージ中央に試着室のように配置された紙を見ることで、その理由を知る。


 紙の下のほうが……赤く染まっていた。

 4枚の大きな紙に囲われた、その内側から。

 真っ赤な血だまりが……じわじわと、広がってきているのだ。


 ばさっと、紙がすべて、唐突に倒れた。

 内側に隠されていたものが、衆目へと晒される。


 それは――長い銀髪の少女だった。

 否、少女の姿をした、女性。

 ハーフリングとエルフとのハーフ。

 学院長。

 永世霊王。

 最強の精霊術師。

 トゥーラ・クリーズ――



 ――が、床から生え伸びた長い杭によって、胸を串刺しにされていた。



 胸から滾々と湧き出す血が、杭を伝い、床の上に丸く広がっている……。

 不意にどこからかやってきたカラスが、血に濡れた小さな身体に群がった。

 嘴が無遠慮に、暴力的に肉をついばんでも――


 ――最強の精霊術師の身体は、微動だにすることはなかった。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 待ちました?

 待ちかねました?


 お・待・た・せ、しましたっ!!

 全人類待望のっ―――


 ―――ザ★妹タ~イムっ!!


 いやあ、ずいぶん時間かかっちゃいました。

 ですけど、おかげで仕込みはばっちり!

 安心安全なリセットをお約束します!


 え?

 リセットって何の話だって?


 それがですねー。

 今回の人生ではきっちり、兄さんとの愛を育んでいくつもりでいたんですけどー。

 ちょっとね、気に喰わないことがあったんですよ。

 しかも、今さら修正も利かなくてー……。


 なので、全員ぶっ殺してやり直すことにしたんです!


 ほら、ゲームのネット対戦で負けそうになったら、回線を切断してなかったことにするでしょう?

 あの感じ、あの感じ!

 みんなやってることですし、わたしもやったっていいですよね?


 ……あ、すいません。

 もしかして期待してました?


 様々な思惑を持つ貴族たちのパワーゲームとか。

 ラヴィニア・フィッツヘルベルトとの対決とか。

 最強級の精霊術師たちによる超絶バトルとか。

 エルヴィスの王太子への下剋上とか。


 そういうの、期待しちゃったりしてました?


 ごめんなさーい!

 わたし、兄さん以外のことにはまったく興味ないんで☆


 あっ、そうだ!

 章題もちゃんと直しておかないとですね!

 貴族決戦編なんてダッサいのじゃなくてー……。




挿絵(By みてみん)




 よし、できた!

 ふふふ、こっちのがずっとカワイイです。


 それでは、改めまして!

 余計なキャストを一掃するめくるめく後片付け!

 学院鏖殺編、はじまりはじまりー☆




TO BE REVISED TO

黄金の少年期最終章:学院鏖殺編


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お、来た来た
ついに来たか妹
終わった、、、
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