臥人館の謎その3【解答編】
・些か当たり前な話をしよう。
・魔物は無数で、脅威で、不明なる存在であり、ゆえにこそ魔物と呼ばれた。
・だが名前がある。つまり誰かが名付けた。
・そんな難行を、さて、何の道標もなくこなせるものだろうか?
なんなんだろう、この文は。
意味があるようでないような、ないようであるような……。
いや、意味はあるはずだ。
正解の道を、この文が指し示しているはずなのだ。
「エルヴィス、何か気付くことはないか?」
「うーん……まあ確かに、ゴブリンだのオークだの、そういう名前は一体誰が考えたんだろう、とは思うけど」
「そりゃ、神話だの伝説だの伝承だのを考えた奴だろ? 魔物なんて、実際にはいないんだから。動物だったら、最初に発見した奴が名付けたんだろうけど」
魔物の名前ねえ……。
「……そういえば、ここに来るまでにあった銅像も、全部、魔物と言えば魔物だったな」
「ああ、うん。顔が7つある鳥とかね。妖精は微妙なところだと思うけど……」
「台座にはわざわざ名前が書いてあった……それがヒントか?」
ミュータントゴブリン。
七面魔鳥。
バンシーリリー。
大ガルーダ。
サレコウベ。
……どこだ?
どこにヒントがある?
「……ジャック君。一つ思ったんだけど」
「ん? なんだ?」
「この、最後の、『何の道標もなくこなせるものだろうか?』ってところ、反語なんじゃないかな。本来は『いや、こなせない』って続くけど、省略されてるんだ」
「まあ、そうだろうな。それが?」
「だからさ、『道標』が必要だってことなんじゃないかい?」
……道標?
「具体的にはわからないけど、『道標』がどこかにあるんだ、きっと。それを見つけない限り、解けないようになってるんだよ」
道標か……。
み……み、ち……。
「――あ」
みゅーたんとごぶりん。
しちめんまちょう。
ばんしーりりー。
だいがるーだ。
されこうべ。
「見つけた……」
「え? どこに?」
「銅像の名前を見つけた順に並べて、斜め読みだ」
「斜め読み? ……あっ!」
みゅーたんとごぶりん。
しちめんまちょう。
ばんしーりりー。
だいがるーだ。
されこうべ。
――みちしるべ。
「ほんとだ……。そのまま『みちしるべ』だ」
「これが本命の謎を――つまりこの文章を読み解く鍵なんだとしたら」
「こっちも斜め読みすればいいってこと?」
「そのはずだと思うんだが……」
・いささかあたりまえなはなしをしよう。
・まものはむすうで、きょういで、ふめいなるそんざいであり、ゆえにこそまものとよばれた。
・だがなまえがある。つまりだれかがなづけた。
・そんななんぎょうを、さて、なんのみちしるべもなくこなせるものだろうか?
「『い』……『も』……『な』……『な』……。全然それっぽくならないんだよな……」
「もうひと捻り必要ってことだね……」
そう。
そのために示されたヒントを、まだ使っていないはずだ。
「……そういえば、最初から微妙に気になってるところがあるんだよな……」
「どこ?」
「段落の最初にある点。なんでこんな、箇条書きみたいにしてあるんだろう、って……」
「確かに……。本当に箇条書きなら、1、2、3、4でも良さそうなものだけどね。わざわざ点じゃないといけない理由があるのかな?」
数字じゃない理由……。
序列がない、ということ?
すべてが並列だということか?
「……並び替えられる?」
「え?」
「文章を並び替えれば、斜め読みしたときに出てくる言葉も変わる」
「あっ、なるほど……」
問題はその順番。
どう並び替える?
「でも、『みちしるべ』は並び替えなんてしなかったよね?」
「は?」
「いや、あの『みちしるべ』の斜め読みが、これに倣って謎を解け、ってものだったなら、あっちも魔物の名前を並び替える工程があったはずじゃないのかな、って……」
……一理ある。
俺が間違っているのか?
やっぱり文章はそのままの順番で……。
いや、待て。
結論を出す前に、逆から考えてみよう。
つまり、『みちしるべ』のときは並び替えなかったから、本命でも並び替えない、ではなく。
本命で並び替える必要があるということは、『みちしるべ』のほうでも並び替える必要があった。
それをせずに済んだということは――
「――最初から完成状態?」
自分の口からこぼれた言葉で、俺は確信を得た。
すぐに頭の中に銅像の名前を並べる。
みゅーたんとごぶりん。
しちめんまちょう。
ばんしーりりー。
だいがるーだ。
されこうべ。
この順番には法則がある。
こうして並べてみれば、それは一目瞭然だ。
「文字の多い順だ」
銅像は文字の多い順に並んでいた。
つまり。
「この文章も、文字の多い順に並べ替えるんだ!」
・まものはむすうで、きょういで、ふめいなるそんざいであり、ゆえにこそまものとよばれた。
・そんななんぎょうを、さて、なんのみちしるべもなくこなせるものだろうか?
・だがなまえがある。つまりだれかがなづけた。
・いささかあたりまえなはなしをしよう。
「『まんなか』? ……真ん中だって!?」
エルヴィスが驚嘆の声を漏らした。
俺たちの前にある分かれ道は、右と左の2本だけ。
真ん中にあるのは道ではなく、壁と問題文だけだ。
「勘で進むのも許さないってわけだ。徹底してるな」
俺は真ん中の壁に向かって一歩進み、両腕で思いっきり押した。
すると、壁が重々しく、扉のように開いていく。
闇へとまっすぐ伸びる道が、真ん中に現れたのだった。
「行くぞ、エルヴィス。目的地はすぐそこだ」
「うん。これからが本番だね」
俺は臥人館の最深奥を目指し、闇の中へと歩を進めるのだった……。
今日はもう1話あります。




