表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ごときで逃げられるとでも、兄さん?  作者: 紙城境介
黄金の少年期:貴族決戦編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/262

臥人館の謎その1【出題編・上】

 あのデュラハンみたいな怪物がそこら中を歩いているのだとしたら、武器がナイフ1本ではあまりにも心許ない。

 ゴブリンが遺した棍棒を、ひとまず借りておくことにした。


「エルヴィス、これはお前が持っとけよ」

「え? ジャック君は?」

「徒手空拳なら俺のほうがマシだ。お前はこういう狭いところじゃ全然精霊術使えねえんだから武器くらい持っとけ」

「……威力ばっかり求めてきたツケかな……」


 術が強すぎるってのも考え物だ。

 さっきのデュラハンみたいに、武器を持っているモンスターは他にもいるだろう。

 そういう奴から奪っていけば、武器問題はいずれ解決するはずだ。


「それより、『王眼』のほうはどうだ?」

「……ダメだね」


 エルヴィスは苦々しげに首を振った。


「子供たちの存在を感知できなかった時点からおかしいとは思ってたけど……視れる範囲がかなり狭くなっちゃってる。たぶんこのダンジョンの影響だ……」

「『王眼』がフルスペックで使えたらダンジョンが成り立たないだろうからな。そういうのは制限されるのか……」


 とんでもねえ精霊術だ。

 規格外と言うほかない。

 他者の精霊術を直接制限できるなんて……。


「ジャック君、術師は誰だと思う?」

「たぶん、あいつだろ。仮面の」

「うん、ぼくもそう思う。見たことない術師だったけど……一体どこから連れてきたんだろう……?」


 ともあれ、俺たちの目的は変わらない。

 屋敷がダンジョン化しても、コレクションルームがそのままだったのだから、執務室もそのまま残されている可能性はある。

 人身売買に関する書類を見つけ出し、この屋敷を脱出するのだ。


「行くぞ」

「うん」


 俺たちは覚悟を決め、不気味に脈動する廊下に足を踏み出した。




◎◎◎―――――――◎◎◎―――――――◎◎◎




ダンジョンをクリアしたことにして物語を進めますか?

 → http://book1.adouzi.eu.org/n7437dj/46/




◎◎◎―――――――◎◎◎―――――――◎◎◎




 ゴブリンが持っていたカンテラの光と、範囲を制限されたエルヴィスの『王眼』を頼りに進んでいく。

 見通しは極めて悪く、そのせいでそこらを闊歩するモンスターと何度もニアミスした。

 限定的であれ『王眼』が使えなかったらと思うとぞっとしない。


 ニアミスしたモンスターは3種類。


 棍棒を持ったゴブリン。

 鎖付きトゲ鉄球(モーニングスター)を持ったデュラハン。

 槍を持った石人形。


 この中で今の俺たちが対処できるのはゴブリンくらいだ。

 他の2種類は鉄と石でできているもんだから、粗末な棍棒一つでは手を出せない。


 だから俺たちは、ゴブリンから2本目の棍棒を奪い取るのに留めて、できるだけ戦わないようにしながら先に進んだ。


 ダンジョン化しても、基本的な構造は変わらないようだ。

 昼間、執務室に連れていかれたときのことを思い出せば、迷うことはない。


 ――はずだったのだが。


「……えーと……」

「こんなところに壁なんてあったっけか……?」


 覚えのない壁が、俺たちの前に立ちふさがっていた。

 のっぺりとした、石なんだか煉瓦なんだか鉄なんだかまったくわからない材質の壁だ。

 コレクションルームから逃げ出したときのように、壁を解体して進むことはできそうにない。


「あからさまな通せんぼだね……」


 先には行かせませんという態度がわかりやすいほど出ている壁だ。

 しかし……。

 俺は左に目を向けた。


「こっちに行けってことか」


 すぐ左に、扉がある。

 扉の上にプレートがあり、『愛の間』と刻まれていた。


「『愛の間』……こんなプレートがある部屋も覚えてないなあ」

「なら、つまり、ダンジョンのために新しく用意された部屋ってことだ」


 危険な匂いしかしない。

 だが、行くしかないのだ。


 ドアノブを握る。


「……開いてる」


 俺はエルヴィスを見た。


「行くぞ。いいか?」

「うん。……行こう」


 息を整えてから、ゆっくりと扉を開けた。


 広い部屋だ。

 修学旅行で夕食を食べるときの大広間みたいな、だだっ広い部屋だった。


 その真ん中に。

 ぽつん、と。

 1匹のゴブリンが突っ立っている。


「……?」

「1匹だけ……?」


 廊下にいたゴブリンとは少し違う。

 具体的には、棍棒ではなく剣を持っていた。

 脇差しくらいの長さの、短めの剣だ。

 ゴブリンや俺たち子供みたいな体格にはちょうどいい大きさだろう。


 とはいえ、さほどの脅威は感じない。

 何かの罠か……?


 そう思って、周囲に目を向けようとしたとき。

 きぃぃいあぁぁーッッ!!

 と甲高い声を上げ、ゴブリンが猛スピードで襲いかかってきた!


「くッ……!」


 反応したエルヴィスが、棍棒で振り下ろされた剣を受け止めた。

 だが、木でできた粗末な棍棒は、スパッと野菜のように真っ二つになる。


「うわっ!?」


 エルヴィスは身を仰け反らせて剣をギリギリ避けた。

 まずい……さっさと引き離さないと!


 俺はゴブリンが二撃目に入る前に肉迫した。

 棍棒は使わず、素手で、突き飛ばすようにして掌底を叩き込む。

【巣立ちの透翼】で重さを消されたゴブリンは、勢い良く吹っ飛んで反対側の壁に叩きつけられた。


 その際に、剣がゴブリンの手からぽろりとこぼれ落ちる。

 チャンスだ!


 俺は慣性消去機動で瞬く間に距離を詰め、床に転がった剣を拾った。

 そしてその先端を、立ち上がろうとしていたゴブリンの喉元に突き刺す。

 それで、ゴブリンはかくりと力尽きた。


「ふー……」


 剣を引き抜くと、ゴブリンは横倒しになった。

 程なくして、床に染み込むように消えていく。

 前の2匹と同じか――


「ん?」


 いや、違う。

 今度のゴブリンは完全には消滅しなかった。

 首だ。

 生首だけが、その場に残されていた。


 さらに、胴体があった場所には血の染みが残っている。

 それは文字の形をしていた。


『ゴブリン』。


 そんな血文字が、生首に添えられているのだ。


「ごめん、ジャック君。助かったよ――ん? どうしたの?」


 俺は無言で床の生首と血文字を指さした。

「うえっ」と呻くエルヴィス。


「不気味だなあ……」

「悪趣味だな、このダンジョンを作った奴は……」


 あまり友達にはなりたくない。

 二人揃って顔をしかめていると、ズズズ、と石がこすれるような音が背後から聞こえた。


 部屋の真ん中――最初にゴブリンが佇んでいた辺りに、台座のようなものが出現していた。


「台座……? 何も乗ってないけど……」

「……とりあえずあっちを確認してみないか?」


 嫌な予感がしたので、俺はそう提案した。

 入口のちょうど向かい側に、もう一つ扉がある。

 普通に考えれば、そこが出口のはずだ。


 扉の前まで移動して、ドアノブを握る。


「鍵……かかってるな」

「じゃあ鍵を探さないと……」

「いや、たぶん、あるんだ、この部屋に。鍵に当たる仕掛けが」


 前世でのゲーム経験を元に考えると、そうなる。

 俺は中央に現れた空白の台座を見た。

 何か置けと言わんばかりだ。

 そして、あの台座の上にちょうど置けそうなものと言ったら……。


 俺はゴブリンの生首を見た。

 うげえ……。


 文句を言ってもいられない。

 正直気持ち悪いが、やるしかないのだ。


 俺はゴブリンの生首を持ち運び、台座の上に置いた。

 すると出口の扉のほうからカチッと音がした。

 扉の前で待機していたエルヴィスがノブを回す。


「あ! 開いたよ!」

「マジかよ……」


 俺はげんなりした。

 これって、この先も同じような仕掛けの部屋があるってことなんじゃないの?

 そのたびに生首運ぶのかよ……。


「……エルヴィス。いくつこういう部屋があるかわからないけど、首運ぶときは代わりばんこな」

「うえっ!? ……わ、わかった……」


 士気を削がれたが、油断してはいけない。

 この先の部屋にはおそらく、もっと強いモンスターがいるはずなんだから。


 とりあえず、真っ二つになった棍棒の代わりに、ゴブリンが持っていた剣をエルヴィスに持たせた。

 これで戦力はだいぶマシになったと言えるが、さて、どこまでやれるか。


 鍵が開いた扉から、俺たちは先へと進んだ。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 扉を抜けた先は、また廊下だった。

 扉から見て右に伸びるそれを進んでいくと、また壁があり、右側には扉。

 プレートには『壊死の間』とあった。

 扉を開ける。


 またしても大広間だった。

 そして今度も、真ん中に影が一つ。


 二足歩行の豚のような化け物だった。

 その手には、極太の金属バットのような、鉄の棍棒が握られている。


「オーク……か?」


 オーク(仮)は俺たちに気付くや、鉄の棍棒を血気盛んにぶんぶん振り回す。

 さっさとやろうぜかかってこいや、ってことだろう。


「……相手は打撃武器だ。防御は俺がやる。エルヴィス、お前が隙を見て攻撃しろ」


 エルヴィスが頷いた。

 そうして、戦いが始まった。


 オークの鉄棍棒の威力はかなりのもののように思えた。

 しかし、ほとんどの物理武器は俺の【巣立ちの透翼】には通用しない。

 受け止めた瞬間に鉄棍棒の質量をなくしてやれば、痛くも痒くもない。


 そうやって俺が受け止めているうちに、エルヴィスが死角に回って剣を振り下ろした。

 ぴぎっ、とオークが苦鳴を漏らす。

 頸動脈から大量の血しぶきをまき散らし、オークはその場に倒れ伏した。

 直前に距離を取っていたおかげで、返り血を浴びずに済んだのが幸いだ。


 それから、ゴブリンのときと同じことが起こった。

 オークの死体は完全には消滅せず、生首だけが残されて、胴体があった場所には『オーク』の血文字。

 さらに、やはり空白の台座が部屋の中央に出現した。


「次お前な」

「わかったよ……」


 不承不承といった様子で、エルヴィスがオークの生首を運ぶ。

 台座に置くと、出口の鍵が開いた。


「結構精神に来るよ、これ……」

「できるだけ早く終わってくれることを祈るばかりだな……」


 俺はオークが持っていた鉄の棍棒に武器を取り替える。

 かなり重かったが、【巣立ちの透翼】を使えば問題ない。

 これでかなり攻撃力が増強されたな。

 最初のほうにいた石人形、もう倒せるんじゃないか?


 しかし、今は先を急ごう。

 俺たちは『壊死の間』を後にする。


 ……そういえば、前の部屋もそうだったが、どこら辺が『壊死の間』だったんだろう?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ