循環因果/解脱者ナビゲーション
……そこは、とある少女が見ていた世界を模していた。
前後無限に続く本棚のトンネル。
永遠をかけても読み切れはすまい無数の本。
『因果図書館』と彼女が呼んだ因果次元の僻地に、とてもよく似た空間だった……。
無限の書架に並ぶ本たちは、そのすべてが、世界の因果を記した記録である。
背表紙には、多種多様なタイトルが付されているかのように見えた。
しかし、順番に目で追っていくうち、すぐに気付く。
それは一定の周期で、同じ内容を繰り返していた……。
本は、今もまさに、書架の中に増え続けている。
しかしそれらは、どれも見たことのあるタイトルばかり。
あるいはこれが、本来は終わるはずのない因果の、終焉なのかもしれない。
その様はちょうど、同じ数列を繰り返して終わらない、循環小数のようだった。
と。
書架の下のほうの段に、1冊の本があった。
無限に循環し、永遠にリセットされ続ける因果の外。
まるで循環という名の終わりから避難させられたかのように、その本はぽつんと置いてあった。
タイトルはない。
中に何が書かれているのか検討もつかない。
しかし……その本には、驚くべき特徴があった。
ページが、増えている。
本の厚みが少しずつ、しかし刻一刻と、増し続けているのだった。
そしてそのペースは、因果が循環する速度と、ほぼ同期していた。
誰かが、記していると言うのだろうか。
因果が繰り返すごとに。
たとえ何度忘れても、消えてしまわないように、と。
―――過去を変えることはできても、あったことをなかったことにすることはできない。
さあ、その本を手に取るか。
それとも、書架の前を立ち去るか。
選択は、その手に委ねられている。




