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転生ごときで逃げられるとでも、兄さん?  作者: 紙城境介
真実の輪廻期:奪い取られた初恋を

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因果境界線/解脱者ブリーフィング


 ……よお。

 突然悪いな、同胞諸君。

 アタシはティーナ・クリーズ。あんたたちと同じように、この因果を外側から眺めていた者だぜ。


 すでに因果の内側に戻ったアタシが、あんたたちに直接話しかけるのは酷い無粋だと思う。

 だが、それを承知の上で、ここらで情報のすりあわせが必要だと判断した。


 あんたたちが知っている情報。

 アタシが知っている情報。

 そして、姉ちゃん――ラケルが知っている情報。

 それらにどれほどの食い違いがあるのか、あるいはどれほどが共通しているのか。

 その辺をはっきりさせておく機会が、いい加減必要だとは思わないかい?

 ……まあ残念ながら、因果の内側に戻ったアタシにはあんたたちの返事は聞こえねぇんだが、同意を得たものとして話を進めさせてもらうぜ。


 まず、アタシが知っている情報から行こうか。

 基本はあんたたちと同じさ。

 結城京也がジャック・リーバーに転生し、フィリーネ・ポスフォードを殺しちまうまで――ここまでは基本的に、ジャック視点で世界を観測している。

 それから7年が経ち、1回目の人類滅亡が起こるまでを、エルヴィス、サミジーナ、ジャックの3人を中心に観測した。

 で、そこからはラケルの視点だ。

 たまーに別視点も混じったが、ラケルが知り得たこと以上のことは大して知らない。


 そこに、ティーナ・クリーズとして持っていた情報が加わる。

 まあ、これについては大したもんじゃない。

 ただの小娘の、何の変哲もねぇ人生についての情報さ――あんたたちだってそれぞれ、自分の人生についての情報を持ってんだろう?


 だから、重要なのはここから。

 アタシたちが知っていて、ラケルが知らないこと。

 つまり、ジャックを通して世界を見ていた頃に得た情報のことだ。


 アタシが思うに、このカテゴリーに入る情報の中で、最も重要なのは三つ。

 一つ、ジャックとあのストーカー女が異世界からの転生者だってこと。

 二つ、あの女が死ぬたびに転生を繰り返しているってこと。

 そして三つ――あの女が転生する際、()()()()()()()()ってこと。


 なんでそうなるんだ、って思う奴もいるかもな。

 オーケイ。懇切丁寧に行こう。

 これは、事実関係を整理すれば一発でわかることだ。


 最初、あの女が転生したのは、アネリっていうリーバー家のメイドだった。

 本性を表し、返り討ちに遭ったのがジャックが1歳のとき。

 それから転生してフィリーネになったんだとすれば……もちろん、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 さて。

 ここで記憶を掘り起こすなり、因果を遡るなりして確認してほしい。

 フィリーネの父親が自分の娘を紹介したときの言葉だ。

 彼はこう言った。


 ――私にもジャック君と同い年(・・・)の娘がおるのですが


 アネリが死んだとき、ジャックは1歳だった。

 その後に転生して生まれたフィリーネは、だからジャックの1歳年下でなければならない。

 だが――現実には、ジャックとフィリーネは同い年なんだ。


 ゆえに、導き出される結論はひとつ。

 あの女は、過去に生まれた人間にも転生することができる。


 これはいわば、他人へのタイムリープだ。

 セーブポイントは生まれた瞬間。時間効率は馬鹿みたいに悪いが、そもそもあの女は初手からして、生まれたばかりのジャックに接触するためだけに15年もの時間を費やしている。

 ヤツの『タイムリープ対策』とやらが、この仕様――『転生タイムリープ』を利用したものであることは、ほぼほぼ確定的だと思っていいだろう。


 ただし。

 ここでひとつ、疑問が生じる。


 ラケルが使うタイムリープは過去の自分に移動するものだ。

 だから、タイムリープ前のラケル自身はなかったことになって消え去り、当人の記憶の中にのみ残る。

 変装してダイムクルドに乗り込み、サミジーナを人質に取ってジャックと戦った1周目のラケルは、ラケル本人の記憶を除く世界のすべてから、完全に消去されているはずだ。


 しかし、あの女の転生タイムリープは他人に移動するもの。

 だから、転生前のヤツ自身が上書きされることはない。

 それこそアネリが好例だ。

 フィリーネに転生することで過去に遡っても、アネリがジャックを連れ去ろうとした事実は消えることがなかった。


 だとしたら、2周目のアゼレアは?


 あの女がタイムリープしているとして、想定される因果の流れはこうだ。

 まず、1周目の結果を受けてタイムリープしてきたラケルが、アゼレア(あの女)を放逐する。

 それから、その結果を受けてあの女がルビーに転生タイムリープ。3周目の世界で、ラケルの歴史改変攻撃を躱した。


 実は一度、ラケルは勝利してたんじゃねぇかってことだ。

 だが、あの女のさらなる歴史改変によって、その勝利の記憶はなかったことになった。

 ラケルが2周目だと思っている世界は、本当の2周目を忘れてしまったせいでそう感じられるだけで、実は3周目だということだ。


 こう考えると、やっぱりおかしいのだ。

 ラケルの記憶にある2周目の世界(実は覚えてないだけで3周目)でも、アゼレアの中にあの女が残っていなければおかしい。

 転生タイムリープは転生前の自分を消し去ることはできないんだから。


 だがそうじゃなかった。

 アゼレアの中にもあの女がいたのなら、邪神の元へ行こうとするジャックを逃がそうとはしなかったはずだ。

 何せ、これ以上なくずっぽりと、ジャックを手に入れた状態だったんだからな。

 なのにアゼレアはジャックをみすみす逃がし……そのうえ、あの女に転生されたルビーによって、むごたらしく殺された……。


 1周目には確かにアゼレアの中にいたはずのあの女は、一体どこに消えたのか?


 この謎を氷解させる仕掛けが、きっとある。

 よく覚えておいてほしい。


 現状、あの女と対等に対峙できるのは、因果を俯瞰できるアタシたちだけなんだ。


 たとえ天の星のように、ただ見守ることしかできないのだとしても――

 彼らが、彼女たちが、アタシたちの存在にこれっぽっちも気付いていないとしても――


 アタシたちさえ、あの女に屈しなければ。

 ラケルたちは、ジャックたちは……きっと、ハッピーエンドに辿り着くはずだから。


 ……ちょいと野暮が過ぎたな。

 忘れてくれ。少し感傷的な気分なんだ。


 さあ、因果を続行しよう――


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― 新着の感想 ―
改めて考えると妹が転生する前にはフィルは実在したってことになるのか。 妹はフィルの真似をしてたみたいだし。
[一言] スゲ〜
[良い点] 粋な演出
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