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転生ごときで逃げられるとでも、兄さん?  作者: 紙城境介
黄金の少年期:才能胎動編

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  結末

 その男は、廃砦の崩れかけた屋根に伏せ、タイミングを見計らっていた。

 ローブを着た少女が身を離した、その瞬間。

 ジャック・リーバーまで、射線が通る。


 男が引き絞った弓弦を解き放つのに、一瞬もいらなかった。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 それが目に入ったのは、たぶん、偶然だ。

 屋根の上に人影があり。

 その人影が、弓らしきものを持っていて。

 そして今まさに――俺に向けて、矢を放った。


 気付いたのは俺だけじゃない。

 フィルも、ラケルも。

 一瞬にして理解した。


 今から、およそ0.3秒後。

 俺が矢に射貫かれて、絶命することを。


 だから――

 彼女たちとしては、咄嗟の判断だったんだろう。

 俺を、庇いに入った。

 フィルもラケルも、身を挺して、俺の盾になろうとした。


 だから――

 俺としては、当然の判断だ。


 俺は、2人を。

 捻挫した両手で、強く突き飛ばす。


 スローモーションになった世界で、2人の驚愕の表情が網膜に焼き付いた。


 矢が迫る。

 俺はおそらく、死ぬだろう。

 このままなら。




 ―――【巣立ちの透翼】!!!




 矢に気付いた瞬間から、ちょうど0.3秒後。

 鋭く尖った鏃が、俺の左胸に到達した。


 しかし、その瞬間。

 俺は、自らの質量を消し去っていた。


 矢の質量に押されて、俺は地面を転がる。

 しかし。

 矢に与えられた推進力はすべて受け流され――

 俺の左胸には、傷一つ付いていなかった。


「じーくん!!」

「ジャック!!」


 2人が慌てて駆け寄ってくる。

 俺は無事をアピールするため身を起こしながら、ラケルのほうを見て笑ってやった。


「今のは、速かっただろ」


 俺の反射的な精霊術発動速度は、0.5秒が最高記録。

 だけど今のは、およそ0.3秒。

 0.2秒の更新だった。


 ラケルは俺の身体を支えながら、安心したように微笑む。


「理想にはまだ足りない」

「きびっしいな……」


 まだまだ学ぶことはあるみたいだ……。


「ししょー! あの人が!」


 フィルが矢が飛んできた方向を指差した。

 盗賊団の奴か? 奇襲が失敗して逃げたのか。

 そう思ってフィルの指の先を見たとき――

 俺は、慄然とした。


 大きく大きく口を開けて。

 鋭く尖った矢を、呑み込もうとしていたのだ。


 そして、直後。

 自らの手で、深々と。

 矢が、口の中に突っ込まれる。


 あの深さ……間違いない。

 脳髄に、達している。


 男はふらりと力を失って、屋根の上から落下した。

 あまりにも異常で、不可解な。

 それは――自殺。


「……なんなんだ……一体……」


 俺たちは呆然と立ち尽くした。

 夜空に浮かぶ月が……俺たちを、逃がすことなく見つめていた。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 その後やってきた『真紅の猫』討伐隊によって、廃砦内が隈なく調査された。

 結果――ヴィッキーを除いて、32体の死体が発見される。

 死因はすべて、自殺。


 ある者は、手持ちの剣で喉笛を掻っ切っていた。

 ある者は、壁に何度も頭を打ちつけていた。

 ある者とある者は、お互いに首をへし折り合っていた。


 物理的に身体を動かすことが不可能になるほど、どの死体も、自分で自分を破壊していた。


 こうして――盗賊団『真紅の猫』は、完全に壊滅したのだ。


 あまりに不審すぎるということで、この自殺死体の山については父さんによって箝口令が敷かれたのだが……。

 その副産物として、こんな噂が巷で流れ始める。


 ――わずか7歳の少年と少女が、『真紅の猫』を壊滅させたらしい。


 そういうわけで。

 俺とフィルの噂が、王都に――

 とりわけ、王立精霊術学院に届くまで、そう時間はかからなかった。






TO BE CONTINUED TO

黄金の少年期:神童集結編

明日は学院編開始記念で2話更新する予定です。


1話目:正午ごろ

2話目:18時ごろ

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― 新着の感想 ―
‥‥‥‥‥ああ、人間も、動物か。
どういうことだ?
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