第34話 わたしがそれを、否定するッ!!!
鎖が粉々に砕け散った。
それと同時。
散らばった鎖の破片が光となって、爆発的に世界に広がった。
星の輝きで、世界が満ちる。
暗黒は拭われて、美しい夜空が広がった。
その中心で、鎖から解放されたジャックの右足がぶらりと揺れる。
痛々しい束縛の跡は、見る間に癒えていった。
「…………な……ん、で…………?」
このときになって。
わたしは初めて、背後に振り返る。
そこには、一人の女の子がいた。
「……あなた、ね?」
女の子の明確な姿かたちはわからない。
髪が長いのか短いのか、それすらもわからなかった。
それでも。
わたしは告げる。
「あなたが、ジャックを苦しめていたのね……!?」
ついに、見つけた。
こいつが。
お前が―――!!
「…………何よ、それ…………」
『そいつ』は、わたしの詰問なんてまるで無視して、怒りを込めた表情で、わたしの背後を指差した。
「どうして、あんたに…………精霊のアバターが出てるのよッ!!!」
わたしの背後に陽炎のように揺らめき立つ、異形の影。
振り返らなくてもわかる。
それはきっと、コウノトリの姿をしているはずだ。
その名前だって、わたしは始めから知っていた。
精霊序列第44位。
〈忠実なる影法師のシャックス〉。
「あんたは、ルーストじゃなかったはずでしょう……!? なのにどうしてっ―――」
「わたしは、最初からルーストだったの。ただ、それを忘れていただけ」
「忘れてっ……!?」
封じられていた、100年前より昔の記憶。
その記憶は語っていた。
わたしが〈シャックス〉のルーストであることを。
そして、その力によって初めて再現できる、とある精霊術を!
「わたしはあなたを認めない」
わたしは、宣戦を布告する。
「あなたの語る運命を。あなたが縛ったジャックの人生を。
何もかも認めない。
一つ残らず――否定する」
気圧されたように見えた彼女は、けれど、すぐに笑みを取り戻した。
それは嘲笑だ。
できもしないことを壮語する者を嘲った笑みだ。
「は……ははは! どうやって!? ねえ、どうやって!?
もう全部終わったの!! わたしと兄さんの飛びっきり素敵なハッピーエンド!! それで終わっちゃったのよ!?
ねえ教えてよ! ここから! 何を! どうやって否定するってッ!?」
「こうやって」
思念を送る。
それだけで充分だった。
わたしの背後に揺らめき立つ〈シャックス〉のアバターが、その姿を一瞬で変える。
新たな姿は、ワニに乗った老人だった。
その姿を見た彼女が、驚愕に目を見開かせる。
「序列第2位……〈立ち向かう因果のアガレス〉……」
その通り。
それが、このワニに乗った老人の姿の精霊の名前だった。
「そ……ん、な……。なんで……!? そいつは、その精霊は、わたし、ちゃんと、始末したはずっ―――!!」
「だとしたら、一足遅かったわね。
その前に、術者本人から、わたしが教わって模倣した」
精霊にはそれぞれ、司る概念がある。
精霊序列第2位〈立ち向かう因果のアガレス〉。
この精霊が司るのは―――
「じゃあね。きっとあなたは、ここでのことを覚えてはいないでしょう」
「まっ、待てっ……!! 待てぇえぇえええええええッッ!!!」
激しく狼狽えた彼女の叫びを、わたしは微笑で受けた。
待ちはしない。
今更そんな、虫のいい話があるものか。
〈アガレス〉が司る概念。
それは――――
――――『時間』だ。
「時を戻せ―――〈シャックス・アズ・アガレス〉!!」
「待てぇぇえぇええええええええええええええええええええええええええええええぇぇ――――――――――――――っっっ!!!!!!!!」




