■は言われた
一転して、真っ白な世界だった。
白紙のキャンバスの中に入ったかのような、見渡す限り純白の空間。
眩しく感じないのが不思議だった。
ここが、死後の世界?
思ったより寂しい場所だ。
しかし、死の後にあるのが『無』だとすれば、これほど相応しい場所はないかもしれなかった。
むやみに広く、やけに白い世界で、ただ一人―――
『――――――――――て――』
え?
声が、聞こえた気がした。
『―――を――――――て――』
走馬燈は終わったはず。
幼少期に至るまで、すべての記憶を見終えた。
だったら、この声は……?
『―――を――け――げて――』
目の前に。
人影が、徐々に像を結び始めた。
『―――を、助け――げて――』
だんだんとはっきりしてくる、声の主。
これは……。
女の子?
詳しい姿は、曖昧として見て取れない。
でも……女の子のように見えた。
そして、声もまた、明確な姿を現す。
はっきりと、女の子はこう言ったのだ。
『――彼を、助けてあげて――』
彼。
それが、誰のことを指しているのか。
……わたしにとっては、たった一人でしか有り得ない。
「わたしだって、そうしたい」
声……のようなものが出た。
「けど、今更どうしようもない……! 終わっちゃった……。終わっちゃったの、何もかも……」
女の子は、ゆるゆるとかぶりを振った。
そして、ほのかに微笑んで―――
―――告げる。
『――大丈夫――』
『――これから始まるの――』
『――彼が、待ってるよ――』
真っ白な世界が。
再び、真っ黒に染められていった。




