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第7話 二度目のタイムリープ《13歳》①




 このタイムリープを利用すれば、クロードと結婚する未来も回避できるんじゃないか……? 

 

 ヴァインハルト邸の寝室にて。

 今日も一人で広大なベッドに寝転がりながらそんなことを考えてしまう。


 神話レベルの現象に巻き込まれているとはいえ、ちょっと自分でも暢気すぎると思うが死活問題なのだ。このままだと私は一生クロードの奴隷である。

 

(まあ、でも偶然タイムリープをしただけであれっきりかもしれないしな………)

 

 もしかしたら昨夜のタイムリープが人生を変える一回きりのチャンスだったかも。そんな都合よく二度目のタイムリープなんて起こらないだろう。


 そう残念に思いながら、私は眠りについた。

 

 

 

 ◇



 

「………ソフィー、ちょっとソフィー!聞いてるの?」

「………………………え?」


 ふと気が付けば、目の前には中等部の制服を纏ったレベッカが立っていた。

 不思議そうな顔をして私を覗き込んでおり「大丈夫?」と声をかけてくれる。

 

「へ?レベッカ?あれ?私、寝ていたはずじゃ………」

「ちょっともう、まさか立ったまま眠ってたとか言うんじゃないでしょうね?」

 

 ハッと辺りを見渡せば、そこは中等部の教室だった。

 いつの間にか私も中等部の制服を着ている。

 ふと髪を触れれば、胸元くらいの長さだった。

 

「あの、レベッカ。私達って今何歳?」

「13歳よ。この間私の誕生日パーティーに来たでしょ?」


 呆れながらも教えてくれるレベッカに私は衝撃を受ける。


 タイムリープしてる!

 前回は12歳だったけど、今回は13歳!

 中等部2年生の頃にタイムリープしたんだ!

 

「す、すごい!いや、でも何で!?」

「いきなりどうしたのよ。それより早く席に着きましょ。次の授業が始まっちゃう」

 

 奇声を発する私をレベッカが軽くあしらう。


 それもそうだ。

 とりあえず今は大人しく過ごすことに決める。

 そしてレベッカに言われた通り席に着こうと、教室にいるクロードの姿を探した。

 

(あ、いたいた)

 

 中等部の三年間、私はクロードの隣の席だったのだ。

 窓際の席に座る彼の、その隣の空席に「よいしょ」と座る。

 何故かクロード(13歳)がそんな私に目を丸くしているが、どうしたんだろう。

 

「ちょっと」

「へ?」

 

 けれどその時、上から声をかけられる。

 見上げれば気の強そうな女子生徒が苛立った表情で私を見下ろしていた。

 

 あれ、この子って確か………

 

「そこ、私の席なんだけど。早くどいてちょうだい」

「は、はい」

 

 慌てて立ち上がれば、その子はクロードに「席横取りされちゃって最悪」と親し気に話しかける。


 そして私は戸惑いながらも、とりあえず空いている席(おそらく私の自席)に座った。



 

 ・

 ・

 ・



 

 中等部の頃、同級生に目立つ女の子がいた。

 

 リリエット・ミュラー。

 可愛くて男友達も多く、周囲からの人気もあった。

 彼女のグループに属すれば、男子との距離も自然と縮まるため参加する女子は後を絶たない。

 そして高等部進学後、聖女エミリアに近付き聖女様に懐く唯一の女の子として、彼女の取り巻き達からも可愛がられていたのだ。


 けれどそんなリリエットは確か中等部の頃、一つ上の学年にいる騎士団長の御子息ドミニク先輩の追っかけをしていたような気がする。


 なのにどうしてクロードと仲が良いんだろう?

 

「アンタ忘れちゃったの?クロードが結晶病の特効薬の開発を成功させて注目され始めたでしょ?そしたら急にあの子がクロードに擦り寄って行ったんじゃない」


 授業後、話を聞きに行けばレベッカが呆れた様子で教えてくれた。

 レベッカを呆れさせるのは何回目だろうと思いながらも、こちらも必死であるため尋ねる。

 

「でもリリエットって一個上のドミニク先輩のことが好きだったんだよね?もしかしてリリエットの身内に結晶病で苦しむ方がいたとか………」

「違う違う!あの子の本命はドミニク先輩だけど、クロードが注目されてから自分のグループに率いれたいとかで声をかけてんのよ。

 あのキラキラ男女グループに世紀の薬を開発した注目の男子が入れば箔がつくでしょ?そういうことよ」

「な、なるほど」

 

 何だかとても嫌なことを聞いてしまった気がする。

 するとレベッカは溜め息を吐いた。

 

「……………他人事みたいに聞いてるけど、アンタだってそれで大変な思いをしたじゃない」

「私?」

「アンタがクロードの隣の席にいたから目を付けられたでしょ?それもあってリリエットとアンタが席を渋々入れ替えることになったじゃない」


 レベッカの話を詳しく聞くと、結晶病の特効薬の開発に成功したクロードは度々学園を休み、王宮にある研究所と行き来する忙しい生活を過ごしていたらしい。

 それもあってクロードと中々話すことのできないリリエットは、彼と隣の席になれば話す時間も増えるのではと私に目を付けたそうだ。


「リリエットのグループに詰め寄られて、教室の隅で怖くて泣いていたのにね」

「我ながらなんて情けない…………」


 それで私はクロードの隣の席じゃなくなったらしい。

 しかしそこでふと思う。


 別にそれならそれで良いんじゃない?

 だって将来私はクロードと結婚する羽目になるのだ。

 それなら中等部の頃からこうやって距離を取っていれば、彼から告白されることもないし、結婚なんてすることもなくなる。

 

(…………いや、違う。ここで距離を置いたとしても、私がクロードと結婚する未来は変わらなかった)

 

 クロードが新薬を開発したとして、未来は変わっていなかったのだ。

 ということはここで距離を置いたままでは意味が無いんだと思う。もっと違うアプローチをしなければならない。


(クロードが私を好きにならない未来にする。そのためには何をしたら良いんだろう)

 

 とてつもなく贅沢な悩みであるのは自覚している、が。

 そうでもしないと私は一生苦しめられるために結婚しなければならない。

 運が良ければ裁判を起こして離縁できるが、もし認められなかったら一生奴隷だ。何としてでも阻止したい。

 

「レベッカ、クロードって今どこにいるか知ってる?」

「さあ?」


 レベッカが首を振る。

 尋ねれば何でも教えてくれるレベッカに甘え過ぎだなと反省した。

 

「色々教えてくれてありがとう。クロードに用事があるから今から探しに行くね」

「あ、うん。いってらっしゃい」

 

 そう言ってあっさり手を振るレベッカに踵を返す。


 もしかしたらもう帰ってしまっているかもしれない。

 けれど一応彼のいそうな個人研究室や図書館へ向かおうと思った。



 

 ・

 ・

 ・



 

「―――なあ、リリエット。いつになったらヴァインハルトの奴、懐くんだよ」

「しょうがないじゃない。アイツ、話しても全然答えてくれないんだもの。本当に生意気なんだけど!」


 クロードの個人研究室へ向かっている途中、ふと空き教室から声が聞こえてきた。

 

 気になって扉の隙間から中を伺えば、リリエットを含む男女グループが談笑している。

 彼らはクロードについて話をしているようだった。

 

「あーあ、このままじゃ来月のパーティーに呼べないわよ。あの子がいれば他の子達に自慢できるのに」

「大人連中からの覚えも良いだろうしなあ。アイツがお前に懐いたら次は俺に貸してくれよ。パーティーに呼んで『親友だ』って自慢する」

「あは!親友って!利用する気満々じゃない!」

「そりゃそうだろ?メリットがなきゃ、あんな根暗と仲良くするかよ」

 

 そう言って笑いあう声がやけに遠くに聞こえた。


 ───貴族同士の関わりは多少の利害関係が含まれたりする。

 そういった側面があって、それは決して否定されるべきではない。

 だってそうしないと魑魅魍魎蔓延る社交界でやっていけないからだ。

 

 けれど何だかとても物寂しい気持ちになってしまう。

 

 私はクロードがいるだろう研究室へ足を進めた。



 




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