第24話 デジャヴ
結婚式は筒がなく終わり、披露宴会場であるヴァインハルト家の屋敷に馬車で向かう。
その間馬車で二人きりになったものの特に会話もなく、ヴァインハルト家の広い庭で来客対応をひたすらこなした。招待客の顔触れは少々変わったものの、2回目なので慣れたものである。
そして現在。来客への挨拶を一先ず終え、ふとクロードの方を見れば彼はいつの間にか同性の先輩方に囲まれていた。
かつて聖女エミリアに操られ、彼女の取り巻きにされていたドミニク先輩とルシウス先輩。そしてヒース先輩方である。
その様子に私の後ろから二人の令嬢が話しかけてきた。
「ちょっとアレ良いの?花嫁放って男同士でいるとか披露宴の意味わかってる?」
「バチェラーパーティーは昨日の内に済ませておきなさいよね。あ、でもドミニク様の正装は素敵だわ」
レベッカとリリエットだった。
日記を読んだところ、リリエットともそれなりに仲良くなったらしい。学園在学中は相変わらずクラスのキラキラグループに所属していたが、たまに私やレベッカとご飯を食べたり遊びに行ったりしていたみたいだ。
(まさかあのリリエットと仲良くなるなんてね)
中等部の頃の自分が聞いたら泡を吹いて驚きそうだ。
「本当はウィリアム殿下やイザベラ様も結婚式に出たがっていたんでしょう?でも先週王子が御産まれたばかりなんだから仕方ないわよね」
レベッカが残念そうに、けれどどこか嬉しそうに話す。
この時間軸のイザベラ様は今や王妃となっている。
ウィリアム殿下───いやウィリアム陛下の妃となって、ついこの間一人目の王子を御産みになられた。
私達の結婚式よりもそちらを優先するのは当然だし、むしろこのタイミングで式を挙げて申し訳なくも思っている。
(というかウィリアム国王はクロード繋がりとして、イザベラ様も私達の結婚式に来たがっていたのか………)
この世界のクロードも天才魔術師として名を馳せている。多分その繋がりでクロードとイザベラ様は縁があるのかもしれない。
するとその時、私のもとに一人の女性がやって来る。
トレメイン先生だった。
「シモンズ、いえ、ヴァインハルト夫人。先程もお伝えしましたが、この度はご結婚おめでとうございます。…………まさか貴女がクロード・ヴァインハルトと結婚するとは、何だか感慨深いものがありますね」
トレメイン先生が微笑ましそうに話す。
先生からしてみれば、中等部の頃の───私とクロードの仲が良かった期間しか知らないため、そう言ってくれるのだろう。
今私達は微妙に気まずい中であるが、それをわざわざ言うのも憚られ素直に礼を言う。
するとトレメイン先生がくすりと笑った。
始めて見る笑みだった。
「クロード・ヴァインハルトは近年稀にみる厄介な男に成長しましたが、昔と同じ一途な性質は変わらないようですね。それに耐えることが難しい時もあるでしょう。その時はまた、私の研究室にいらっしゃい」
トレメイン先生の穏やかな声音に私も笑みが浮かぶ。
けれどふと見れば肝心のクロードの姿がなかった。
もうすぐ披露宴が終わる予定だ。
最後の挨拶をしなければならない。
私は改めてトレメイン先生に礼を言い、レベッカとリリエットに「クロードを探す」と踵を返した。
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ヴァインハルト家の中庭は巨大迷路のように広い。
青々と生い茂る形の整った植え込みがいくつも並び、同じところをぐるぐると回っているような気になる。
けれどしばらくして、どこからか話し声が聞こえてきた。
「でもよ、クロード。お前本当に良かったのか?ソフィー嬢と結婚なんかして」
それにぴたりと体が硬直する。
ん?クロード?
何だかデジャヴを感じながらも、植木の茂みからこっそりと窺う。
そこにはクロードと見覚えのある赤髪の青年が佇んでいた。
「ギルドで散々愚痴を吐いてたじゃねえか。初恋の女がとんでもねえ悪女だったとか。16歳の頃に告白して何て断られたんだっけ?」
「…………『ずっと嫌いだった。少し魔術が得意っていうだけで、自分が特別な存在だと勘違いして、偉そうにしているところが本当に嫌いだった』」
「すげえ言い様だな」
「『大した成果も出してない研究を『探求』だなんて大仰な言葉で誤魔化して、研究室に引きこもっているだけのくせに。貴方がいくら成果を上げたって、そんなの知らないわよ』と」
「めちゃくちゃ覚えてんじゃねえか」
クロードが淡々と言うのに対し、赤髪の青年がドン引きした様子で突っ込む。
こうやって傍から聞くと私はクロードに対して本当に最低な言葉を言ってしまった。
確実に嫌われているだろう。もう彼との平穏な結婚生活は間違いなく送れない。
けれど、絶対に許してもらえないだろうが、まず人として謝罪をしなくては。
「あいつは俺のことを『なよなよしていて芯がなくて、魔術がなければ驚く程弱い空っぽの人間』だと評したんだ。
…………俺は彼女に好意を抱いていたが、彼女からはずっと嫌われていたんだよ」
「じゃあ何で結婚したんだよ。そこまで手酷く振られたんなら、もう関わらない方が良いだろ」
するとクロードが虚ろな目をして吐き捨てる。
「復讐だ」
「は?」
「天使のような笑みを浮かべて散々俺の心を弄んだんだ。俺のことが嫌いだったら、最初からそういった態度を取れば良かっただろう?
だがアイツは幼い俺の心を弄び、何とでもない顔をして俺の脳に存在を焼き付けた。その気がなかったなんて言い訳が通用するか」
そして彼は忌々しそうに続ける。
「あの善人面した腹黒女が今後社交界で化けの皮が剥がれるのを最前席で見てやる。せいぜい嫌いな男の横で後悔するんだな」
「…………じゃあもしソフィー嬢の気持ちが変わって、お前のことを好きになったらどうするんだよ」
「万が一ないと思うが、もしそうなったら迷惑だ。昔アイツがしたように手酷く罵ってやる」
そんなクロードに、やっぱりすごく恨まれているなあと実感する。
うん。もうしょうがないよね。
全部私が巻いた種なのだから、彼にここまで言われても文句は言えないだろう。
やっぱり彼に嫌われていたことに、自業自得ながら傷付く。そんな彼らに話しかけるのは流石に憚られた。
そして踵を返そうとしたその時、私の背後から怒りに震えた声がゆっくりと聞こえてくる。
「……………確かに?ソフィーの振り方は良くなかったとは思うけど、それはそれとして復讐のために結婚するなんてどうかしているんじゃないの?」
「相手も自分のことが好きだと思ってたのに、振られたからって逆恨み?大魔術師様も器が小さいわねえ」
レベッカとリリエットが杖を構えて、植え込みから姿を現す。それを見たクロード達がぴしりと硬直した。
あ、やばいかもしれない。
タイムリープする前はレベッカが怒って、クロードに向けて火炎魔法を放ったのだ。
しかも今はリリエットまでいる。一人から二人に増えた上に、二人とも杖を持っているものだから、私は慌てて彼女達の前に飛び出した。
そんな私の姿に赤毛の青年が「ソフィー嬢!?」と驚く。
「い、いつからそこに?どこまで聞いていたとか………?」
「ええと、ほぼ最初からだけど…………今はそれどころじゃなくて、レベッカもリリエットも怒ってくれてありがとう。でも私が最初にクロードに対して酷い言葉を言ったのが良くなかったから、クロードを責めないでほしいというか………」
もうこの場に出てしまったのだ。
本当はもっと日を改めて言うつもりだったが仕方がないと、クロードに向き直る。クロードは何故か灰のように真っ白だった。
「学園在学中貴方に対して酷い中傷をしてしまったこと、心よりお詫び申し上げます。過去に仕出かした私の愚行は許されるべきではございません。此度は縁あって、こうして婚姻を結ぶ形になりましたが、今後私はどのような罰でもお受けいたします」
頭を垂れれば、辺りがしんと静まり返る。
ふと何も言わないクロードが気になって、ほんの少しだけ顔を上げれば、彼はひどく傷付いた顔をしていた。
すると赤髪の青年が空気を変えるかのように口を開く。
「そろそろ会場に戻るか!ソフィー嬢もクロードも今日の夜にでもゆっくり話し合え!な?」
そんな彼にレベッカもリリエットも「は?」と凄む。
けれど確かにその通りだろう。
彼女達の背を押しながら、会場への道へ戻ろうとする。
立ち尽くしているクロードが心配であるが、私はそそくさとその場を離れた。
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