第23話 未来は変わらない?
目を覚まし、ベッドからゆっくりと起き上がる。
辺りを見渡せば私の生家である屋敷の自室だった。
それにほんの少しだけ嫌な予感がするものの、本棚から恒例の日記を見つける。そして古いものから順に読み進めた。
───結論から言うと、あの後聖女エミリアは投獄されたらしい。あの舞踏会の後、トレメイン先生とヒース先輩は調査機関を設けた後、聖女エミリアの宝玉が魅了の魔石であると正式に証明したたようだ。
その事実によって聖女エミリアを尋問したところ、もう随分と前から女神の神託を聞き取る力は失われていたそうで。
神殿は神殿の影響力を失くすまいと聖女エミリアに魅了の魔石を持たせ、政治的影響力の大きい令息達を操ろうとし、聖女エミリアもそれを利用して好き勝手振舞っていたとのことだった。
そういったこともあり、神殿には政治的介入が入り人員は一掃。聖女エミリアは投獄され、その数か月後処刑されたようだ。
ちなみにリリエットだが、啓蒙な聖教徒であるミュラー家からは何のお咎めもなく、むしろ反対に「よく証言した」と。そしてイザベラ様もクロードも、無事に学園を卒業できたと書かれていてほっと胸を撫でおろす。
(良かった)
けれどその後私自身がめちゃくちゃ大変だったようで。
聖女エミリアの正体を暴くためとはいえ、人に魔術を放った私はこってりとトレメイン先生に絞られて、反省枚を30枚も書いたらしい。さらに城や魔術ギルドからの聞き取りもあり、それに対してしどろもどろ答えながら何とか乗り切ったそうだ。
しかしレベッカに「なんて無茶したの!!」と泣かれたのが一番大変だったらしい。
そして現在、自分は今どんな状況なのだろうと日記を読み進めていく。
けれど次の瞬間、自室の扉がけたたましくノックされた。
「───お嬢様!もう起きておいでですか!?今日は結婚式ですよ!?早く準備されないと間に合いません!!」
「…………結婚式?」
一体誰の?
…………いや、誰と!?
そう思い慌てて扉を開ける。
そこには何人ものメイドが集まっていて、私と同じように焦った表情をしていた。
そしてその内の一人がわっと叫ぶ。
「今日はクロード・ヴァインハルト様とお嬢様の結婚式ですよ!早く準備いたしましょう!」
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アレンスティア王国王都───その中央に聳えたつ荘厳な教会にて。私は人生で二回目となるウェディングドレスを纏い、クロード・ヴァインハルトの前に立っている。
もしかしてこの時間軸ではクロードと恋仲なのかも?と一瞬浮かれたが、別にそういうわけでもなかった。
メイド達に準備されながら読んだ日記によると、クロードと私は相変わらず疎遠なようで。
あの舞踏会後、クロードはウィリアム殿下達の精神汚染を解くべく治療薬の開発に集中しなければならなかったみたいで、学園に籍を置きつつもほとんど宮廷や魔術ギルドの方にいたらしい。
そのせいで学園在学中はクロードとゆっくり話している間もなく、16歳の頃にこっぴどく振った件もあって、私達はずっと距離を置いていたそうだ。
けれど今回の時間軸でも、再びクロードと結婚する運びになったらしい。
トレメイン先生らによって改良されたシモンズ家の魔石封じの匣(《静謐の匣》とかお洒落な名前になっていた)をより市場で売りやすくするため、その援助の申し出とヴァインハルト家との今後の関係性の継続を踏まえ、私とクロードが結婚することになったそうだ。
生家であるシモンズ家が没落していないことに安堵したものの「今回は流石にちゃんとした政略結婚だな」と内心苦笑する。
“ ただこれだけは誤解しないでほしい。その君の生家を没落させかけてしまったのは、俺も想定外で……… ”
“ ……………ソフィーと結婚したくて、元々君を娶るつもりだった家に取引をしたんだ。ソフィーとの結婚を白紙にしたら、その分金銭は支払うと ”
別の時間軸でそう謝ってきた彼が懐かしい。
けれどもう、クロードは私のことなんて好きではないだろう。
なんて言ったってタイムリープする前よりも、もっと酷い物言いで彼を振ってしまったのだ。あんなことがあって、それでも好きで結婚するとか絶対にありえないし、今回は政治的な意図でしかない。
「───では、新婦ソフィー・シモンズ。汝は生涯にかけて新郎クロード・ヴァインハルトと共にすることを誓いますか?」
教会の司祭の言葉に「はい」と頷く。
ふと教会の席を見れば、親族や友人のレベッカはもちろん。タイムリープする前にはいなかったリリエットやヒース先輩の姿があった。
「では、誓いのキスを」
神父の言葉にクロードが私からヴェールを上げ、顔を寄せる。
その時ふと思った。
この結婚は政略的な意味合いでしかないが、クロードは確実に私を憎んでいる。
憎んでいる相手と結婚するのだ。もしかしたら今度こそ、娶った私を一生苦しめようとしてくるかもしれない。
そんなことを考えながら、彼の口付けを受け止めた。
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