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第21話 最後のタイムリープ《17歳》①





 今回のタイムリープできっと最後だろう。


 そんな予感を感じながら、意識が浮上する。

 そして目を開くと、そこには鮮やかなドレスを纏ったレベッカが不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。

 

「───ちょっと、ソフィー。もうすぐ入場よ?大丈夫?」


 辺りを見渡せば、そこは小宮殿の中だった。学園主催の舞踏会の会場であり、どうやら私はその待機室にいるらしい。レベッカ以外にも正装に身を包んだ生徒達がたくさんいる。

 

「今日の舞踏会でウィリアム殿下が最後の参加になるから、皆浮足立っているわねえ。最後くらい殿下と踊れないかって。婚約者であるイザベラ様だって、高等部に上がってから踊れていないのに」


 そんなことを溜め息を吐きながらぼやくレベッカを横に、状況を理解する。


 ウィリアム殿下の最後の舞踏会。ということはウィリアム殿下は最高学年で、私は2年生。


 そして今日の舞踏会でイザベラ様は断罪され、クロードは聖女エミリアによって捕らえられる。


(イザベラ様がこれをきっかけに幽閉、クロードも捕えられて処刑される)

 

 ───やるべきことは決まっている。

 今日の舞踏会で聖女エミリアの正体を暴く。


 しかし私自身もドレスを身に纏っており、杖を携帯していなかった。

 

「ごめん、レベッカ。先に入場していて」

「え、ちょっと」

「やらなきゃいけないことがあるの」


 そう言って踵を返す。


 ドレスの重たい裾を持ち上げ、私は杖が保管されている学園の金庫室に走った。



 

 ・

 ・

 ・

 


 

 舞踏会では通常杖を携帯しない。舞踏会において杖を使う場面なんて無いし、会場は城から派遣された衛兵によって厳重に守られているため必要ない。


 金庫室から自分の杖を持ち出し、再び小宮殿へ急ぐ。

 こんな時《転移(テレポート)》が使えたら良いのだが、あれはごく一部の者でしか使用できない代物であるため仕方がない。


 そして学園の校舎から小宮殿の間、その道のりの途中で───ドレス姿の女子生徒がぽつんと佇んでいるのに気付いた。

 

 よく見ればそれはリリエット・ミュラーだった。

 いつも同じクラスの目立つ生徒達に囲まれているか、聖女エミリアに付き従っているかのどちらかであるため、彼女がこんな所で一人とは珍しい。


「……………あら、ソフィー・シモンズじゃない。こんな所で何をしてるの?もしかしてエスコート相手がいないからって、恥ずかしくて舞踏会から逃げ出しちゃったとか?」


 しかし、リリエットが私の姿に気付いた瞬間、猫のように目を細めて嫌味を言ってきた。人によって態度を変える彼女のそれに中等部の頃から変わらないなと思う。


 そしてリリエットから踵を返そうとした時、ふと思い出した。


 聖女エミリアの白薔薇の髪飾りに赤い宝玉が隠されている。そのことをクロードに証言したのはリリエット・ミュラーだ。


 それが脳裏を過った途端、私の中である仮説が立った。

 

「……………リリエット・ミュラー。貴女は聖女エミリアの髪飾りに、宝玉が隠されていることをクロードに話したわよね?」

「は?何言って───」

「貴女はその宝玉が《魅了の魔石》だと気付いていて、クロードに話したんじゃないの?」


 聖女エミリアの一番近くにいたのは彼女だ。

 あれだけ近くにいたのだ。

 魅了されている殿下達の様子がおかしいことにも気付くだろう。

 けれどそれを告発せず、あえて術のかかっていなさそうなクロードに打ち明けた。


 リリエット・ミュラーにとって、対処できない程の事案だったから。


「聖女エミリアだけが単独で起こしたことだったら、貴女はこのことを告発して王家に貸しを作るかもしれない」

「は、何を言って」

「けれどそうしなかったということは今回の件は聖女エミリアだけでなく、もっと大きな力が背後にあると確信していたからじゃないかしら。……───例えば、神殿とか」

 

 リリエットの生家、ミュラー伯爵家は代々啓蒙な聖教徒である。

 神殿が聖女エミリアを使ってウィリアム殿下を魅了させていたとすれば、ミュラー家であるリリエットが告発すれば神殿を裏切ったのかと糾弾されてしまうかもしれない。

 告発が成功すれば良いが、もし失敗すればリリエットの立場はない。


 それを言えば、リリエットはぐっと言葉を詰まらせた。

 いつも人を小馬鹿にした表情をする彼女の珍しい顔だ。

 

 けれど彼女はすぐさま表情を取り繕った。

 そして自嘲した様子で吐き捨てる。

 

「…………だったら何?自分は安全なところにいて、クロードに問題を解決させようとしている悪女だと言いたいの?」


 そんなリリエットに首を横に振る。


 そんなわけない。むしろ逆だ。

 

「…………リリエット・ミュラーは悪女なんかじゃない。この状況を何とかしたくて、自分に出来得る手段で、クロードに助けを求めただけでしょう?」

 

 聖女奉祝祭で悔しそうに顔を歪ませるリリエットの姿を覚えている。

 聖女エミリアが、リリエットの想い人であるドミニク先輩を夫にすると言った時かすかに目を潤ませていた。

 自分の好きな人がずっと魅了されて、それを言えないのは辛いはずだから。

 

「リリエット、ありがとう。貴女が聖女エミリアの魅了の魔石を見つけてくれたから何とかすることができるよ」

「何とかって………クロードじゃなくて、アンタが何とかするの?」

「うん。もちろんリリエットが証言したとは絶対に言わない。ただ、貴女にお礼を言いたくて話しかけたの」


 そうはっきりと言えば、リリエットはぽかんとする。


 もう時間がないだろう。

 私はリリエットに「それじゃあ行くね」と言って駆け出した。



 

 ・

 ・

 ・



 

 聖女エミリアによるイザベラ様への断罪は舞踏会の中盤で行われる。


 舞踏会の最中、イザベラ様が聖女エミリアとの仲を改善するためにシャンパンを渡したことがきっかけだ。

 しかしシャンパンの中には毒が入っており、それを一口飲んだ聖女エミリアは騒ぎ出す。


 イザベラ・モンフォールは私を殺す気だ、と。


 これまでの嫌がらせや今回の殺人未遂によりイザベラ様はウィリアム殿下に婚約破棄を告げられ、衛兵達によって捕えられるのだ。

 

 ───シャンパンの中に本当に毒が入っていたのか、ろくに調べもされず。


 会場に辿り着けば、すでに舞踏会は始まっていた。

 辺りをきょろきょろと見渡せば、聖女エミリアは相変わらずウィリアム殿下や取り巻きの男子達を引き連れて談笑している。

 その中にクロードの姿もあった。

 

(クロード………)


 しかしその時、その輪の中へ一人の令嬢が進んでいく。


 イザベラ様だ。

 イザベラ様が2杯のグラスを持って、聖女エミリアに話しかけている。

 

 それに私は真っ直ぐ近付いた。



 

 ◇



 

 ウィリアム殿下の心はとうに聖女エミリアのものなのだろう。


 聖女エミリアが私に数々の嫌がらせをされたという虚言も、何の疑いもなく信じてしまう。

 もう私が何を言ったって無駄であるのなら、政治的混乱を起こさぬよう聖女エミリアと良好な関係を築いた方が良い。

 

 それにもし仮に私と殿下の婚約が白紙となり、聖女エミリアが王妃となるのなら我がモンフォール家の立ち位置も危ぶまれる。

 家族にも迷惑をかけてしまう。

 

「───きゃあ!イザベラ様じゃないですか!一体何の御用で?また私をいじめるの?」


 ウィリアム殿下の後ろに隠れながら、いけしゃあしゃあと宣う聖女エミリア。

 その瞳は愉悦に滲んでいて、醜悪な内面がはっきりと感じ取れた。

 それに吐き気がこみ上げるものの、ぐっと飲み込む。


「貴女とはこれまで色々と行き違いもあったけれど………私は今一度この関係をやり直したいと考えているわ。同じアレンスティア王国に仕える貴族として、これからは互いに力を合わせ、国を盛り立ててまいりましょう」


 そう言ってシャンパンのグラスを差し出せば、聖女エミリアがおずおずとそれを手に取る。


 そして乾杯し、聖女エミリアがグラスに口を付けた瞬間───彼女は気が狂ったように叫び出した。


「これ、毒が入っている!!イザベラ様がついに私を殺そうとしているわ!!」

 

 わざとらしく咳き込み、よく通るその声が会場に響き渡る。

 

「誰か助けて!イザベラ様が私に毒を盛ったわ!!」

 

 それに周囲が何事かと私に視線を向けた。


 謀られた。奴とうまく関係を結んでいくだなんて最初から無理だったのだ。

 

「何を言って………!毒など入っておりません!そのグラスを返しなさい!」


 グラスを回収し、シャンパンに毒が入っていないと証明しなければまずい。

 しかし聖女エミリアの口元がわずかに歪め、私から距離を取った。

 

「やだ!放して!!」


 そして聖女エミリアがグラスを床に叩き付けようとした、その時。どこからともなく現れた何者かの手によって、ひょいっとグラスが奪われる。

 どこか見覚えのある令嬢が勢いよくグラスを飲み干した。


 周囲がどよめく。

 聖女エミリアの取り巻きの一人、クロード・ヴァインハルトが血相を変えて、こちらにやって来ようとする。


 しかし次の瞬間、彼女ははっきりと言い放った。

 

「これに毒なんて入っておりません!聖女エミリアは虚偽の申告をしています!」


 そしてその時、はっきりと思い出した。


 ソフィー・シモンズ。

 彼女が中等部の頃、真冬の池からシグレットリングを見つけ出してくれた───あの令嬢だと気付く。


 そしてソフィー・シモンズは、あろうことか聖女エミリアに向けて杖を構えた。


 

「───《ウィンドショット》!!」




 






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