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第19話 五回目のタイムリープ《16歳》





 何となくだけれど、あと少しでタイムリープが終わるのを感じていた。

 

 目を覚ますと、目の前には高等部の制服を着たレベッカが不思議そうな顔をして私を見つめている。

 

「───ちょっとソフィー、いきなり固まっちゃってどうしたのよ」

「……………レベッカ」


 辺りを見渡せば、高等部の教室だった。

 

 そしてレベッカを見つめ返す。

 何だかレベッカとこうして会うのも久しぶりなように思えた。それに何より彼女の顔を見た瞬間、張り詰めていた緊張の糸が解けてどっと力が抜ける。

 同時にぼろぼろと涙がこぼれてしまった。

 

「え、ちょっとどうしたのよ!?いきなり泣いて!!」

「ごめん。レベッカの顔を見たら安心して………」

「安心って………授業始まっちゃうけど、医務室行く?」


 そう言ってくれるレベッカに「大丈夫」と首を横に振る。

 そして続々と席につく生徒達に合わせ、私もレベッカから離れて席についた。

 高等部での座席なら覚えている。一番後ろの端に座って教室を眺めていたから。


 するとその時、机の中に手を入れればカサリと何かが指先に当たる感覚がした。

 見れば小さく折りたたまれたメモ用紙で、開けば『放課後、裏庭で待っている』と書かれている。


 クロードの字だった。

 

(そっか。今日なんだ)

 

 高等部1年、16歳の秋。

 私はクロードに告白されたのだ。



 

 ・

 ・

 ・



 

 放課後、クロードが待っているだろう裏庭へ向かう。

 

 その時にふとイザベラ様と彼女の友人であるジェーン様を見かけた。

 高等部の制服を身に纏った、まだ少女の頃であった彼女らが廊下で話しているのをつい目で追ってしまう。

 

「あの聖女がまたイザベラ様に嫌がらせをされたとウィリアム殿下に(うそぶ)いておりましたわ!もう我慢なりません!イザベラ様は嫌がらせなんてするようなお人ではないですし、ずっと生家の用事で学園を休まれていたからそんなことする暇はございませんと私から話します!」

「…………ありがとう、ジェーン。でも、もう良いの。いくら言ってもウィリアム殿下は聖女エミリアの話すことしか信じないわ」

「イザベラ様!」

「これまで聖女エミリアに度々貴族の令嬢たる礼儀というのを教えてきましたが、聞く耳を持つどころかあらぬ悪評を立てられる始末。おまけにそれを何の疑いもなく信じ切る殿下達には…………きっと私が何を言っても、もう響かないんでしょう」

 

 寂しげに話すイザベラ様にジェーン様が声を詰まらせる。

 そして薄暗い廊下でイザベラ様がぽつりとこぼした。

 

「……………中等部の頃が懐かしい。私の愛した殿下は、もうどこにもいないのね」

 

 その声が空気に溶けて消えていく。


 それに踵を返して、私は中庭に足を進めた。

 私がやらなければならないことは、もう決まっているから。


 ───裏庭に着くと、クロードが待っていた。

 どこか緊張した面持ちで佇んでおり、私の姿に気付くとほんの少しだけ笑みを浮かべる。

 

「いきなり呼び出してすまない。だが、来てくれて良かった」 

 

 そんな彼に首を振る。

 そして改めてクロードを見つめた瞬間、あることに気付いた。

 

「あれ………」

「どうしたんだい?」

「あ、いや、身長が私よりも高いと思って………」

 

 中等部にいた頃、私と同じくらいの身長だったのだ。

 けれど彼を前にした時、クロードの方がほんの少し背が高くなっていたことに驚く。

 未来の彼と比べて幼く可愛らしい顔立ちをしているのは同じだが、少しだけ変わった彼の姿に目を丸くした。


 するとクロードの顔が嬉しそうにほころぶ。

 

「昔言ったろう?君に見合う男になると。魔術による探求で新しい魔素の発見はもちろん、身長だって頑張って伸ばしたんだ」

 

 何だかとても都合の良い夢を見ているみたいだった。


 クロードが私を愛おし気に見つめてくれる。

 脳裏に色を失くした未来のクロードの姿が過る。

 

「ソフィー、良かったら僕を君の恋人にしてくれないだろうか」


 そう告げる彼に満たされた心地となる。


 しかし視線をクロードから外せば、裏庭を一望できる2階の窓から聖女エミリアがこちらの様子を伺っているのが見えた。美しい顔なはずなのに、まるで悪鬼のような形相で私を睨みつけている。


(未来の彼女が言っていた通り、私はいない方が良い)

 

 今から私は、自分の身を犠牲にしてまで守ってくれた人を傷付ける。


 そして告白の返事を待つ彼に向って、私は言い放った。

 

「……───恋人になんて絶対にならないわ。だって私は、貴方のことが大っ嫌いだもの」


 一瞬、時が止まったようだった。


 クロードが目を見開く。

 茫然とする彼に私は声が震えるのを抑えながら続けた。

 

「ずっと、ずっと嫌いだった。少し魔術が得意っていうだけで、自分が特別な存在だと勘違いして、偉そうにしているところが本当に嫌いだった」

「そんな、偉そうにした覚えは………」

「大した成果も出してない研究を『探求』だなんて大仰な言葉で誤魔化して、研究室に引きこもっているだけのくせに。貴方がいくら成果を上げたって、そんなの知らないわよ。

 それで私が好きになると思った?本気で言ってるなら傲慢にも程があるわ」


 クロードの顔が強張る。

 

 彼が二度と私と関わりたくないと思うように。

 私なんかと復讐と称して結婚するのも本気で嫌がるように、完膚なきまでに非道な言葉を連ねる。

 

「私は貴方のことが嫌い。そんな薄っぺらい努力で好かれても迷惑なだけ。むしろ調子に乗ってる姿を見るたびに軽蔑する」

「…………ソフィー」

「なよなよして芯もなくて、魔術がなければ驚くほど弱い。魔術を取り上げたら何も残らない、空っぽの人間。そんな貴方が、私は嫌い」


 ───最低だ。


 私はもうきっと二度と彼と話すことはできないだろう。


 そして私は気力を振り絞って、クロードのそばに近付いた。

 彼の耳元でささやく。

 

「聖女エミリアに呪具の所持の疑いがあるのは知っているわ。魔術ギルドから依頼されたんでしょう」

 

 それにクロードが弾かれたように後ずさる。

 まだこの時は聖女エミリアが本当に呪具を所持しているか、疑いは半々だったと聞いていた。

 けれどそんな悠長なことも言ってられない。


「女に現を抜かして随分と余裕なのね」

「そんなつもりは………!監視を怠ったことは一度もない」

「じゃあ、どうして見つけられないの?もしかして本当は聖女エミリアのことが好きで、彼女の味方だったりして」

 

 クロードの顔が怒りで歪む。


 いい。それでいい。

 ここまで言えば流石にクロードも私のことを諦めるだろう。


 しかし彼はしばらく黙り込んだ後、腑に落ちない表情をして口を開いた。

 

「君の言いたいことはよく分かったが…………君の気持ちが分からない。どうしてそんな泣きそうな顔をしているんだ」

「え?」

 

 思わず顔を触れてみる。

 自分が今どんな表情をしているかまでは分からない。

 

 けれどこれ以上クロードの前にいれば泣いてしまうのは事実だった。

 そのまま踵を返し、彼の前は走り去ろうとする。

 

 そして私と入れ替わるように中庭に聖女エミリアが現れた。

 

「クロード!大丈夫?さっき上から話をこっそり聞いてたの。あの子本当に最低ね!もう関わらない方が良いわ!」


 本当にその通りだと思う。

 私は最低で、クロードをずっと傷付けてきた。


 これでクロードが私への想いを断ち、聖女エミリアの監視に集中すれば、もしかしたら呪具を早期に発見できるかもしれない。

 イザベラ様は断罪されず、クロードも死ななくて済むかもしれない。

 

 そのためだったらどんなに嫌われたって良い。

 自分勝手だけれど、もうどうしようもない。


 お願い。クロード。

 どうか聖女エミリアの呪具を見つけて。


 ───それから私は寮の自室へ戻り、ベッドに伏せた。

 もう気力ともに疲れ切っていて、言いようのない睡魔が襲ってくる。


 そして私は意識を手放した。




 




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