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第13話 四度目のタイムリープ《15歳》①




 結論から言うと、今回のタイムリープでクロードと話すことはできなかった。 



 

 ◇



 

「クロードってば可愛い〜〜〜!猫ちゃんみたい!早く高等部に上がってきてほしいわ!」


 ハッと意識が浮上すると、私は中等部の廊下に立っていた。

 

 少し離れた場所にはクロードと、高等部の白い制服を着た見た目麗しい集団が騒いでいる。

 そしてその中心にいるピンク髪の美少女がクロードにすりすりと抱きついていた。

 

「離してください!聖女エミリア!近いです!」

「やだ〜!恥ずかしがってるの?可愛い〜!!」

 

 聖女エミリア・ローズ。

 白薔薇の髪飾りを付けた華やかなピンク髪に、庇護欲をそそる可愛らしい顔立ち。御伽話に出てくるお姫様のような美少女がクロードをひたすら可愛がっていた。

 

「まーたやってるわ………」

 

 隣を見れば、中等部の制服を纏ったレベッカがいて、聖女エミリアとクロードのやり取りに呆れたようにぼやく。


 この光景に見覚えがあった。

 中等部三年の時、高等部一年に聖女エミリアが編入してきたのだ。ウィリアム殿下や彼の取り巻きを引き連れ、中等部までやって来てはクロードを「可愛い可愛い」と可愛がる。

 そしてそのキラキラグループを遠巻きに眺めながら「すごいなあ」と思っていたものだ。

 

(懐かしい………そういえばクロードって聖女エミリアのお気に入りの後輩だったんだよね)

 

 豊満な胸を押し付けられて焦っているクロードに、何だか複雑な気持ちになる。

 するとその時、クロードとばっちり目が合ってしまった。


「……………ソ、ソフィー、これは、その」


 慌てた様子で何か弁解しようとするクロード。

 しかし聖女エミリアやその取り巻きの男の子達も私の方を見るものだから、ついたじろいでしまう。

 

「行きましょ、ソフィー」

「あ、うん………」


 レベッカに言われ、素直に頷く。

 後ろでクロードの私を呼ぶ声が聞こえたけれど、聖女達の値踏みするような視線を思い出すと振り返ることはできなかった。



 

 ・

 ・

 ・



 

 クロードと結婚しないために彼からの告白を丁寧に断るか、そもそも告白されないようにするしかない。一度告白されないよう「好きな人がいる」と言えば、未来で監禁されてしまったため、その手はもう使えないだろう。

 

 だからもっと別のアプローチをしなくてはならないのだが………

 

(クロードって、私のこと本当に好きなのかな?)

 

 というのもクロードによる監禁ルートで、おそらく彼と聖女エミリアは出会ってない。

 クロードは飛び級制度を利用して中等部を卒業するから、おそらく高等部に聖女エミリアが編入する前に学園を去っただろう。そのせいもあって聖女エミリアに会うこともなく、私を溺愛し続け、監禁まで行った。


 けれど順当に高等部まで進学すると、クロードは聖女エミリアと出会う。

 それまで私のことが好きだったとしても、聖女エミリアと出会ったことでその熱は冷めてしまうのではないだろうか。

 

(告白も別に私のことがすごく好きなわけではなくて、中等部の頃から気になっていた女子に何となく告白しただけで………)


(大したことない女子に告白をこっ酷く断られて、むかついて、プライドが許さなくて、復讐のために結婚したとか………?)

 

「…………………」 

 

 何だか話が飛躍し過ぎている気もする。

 けれどそう思ってしまうほど聖女エミリアが可愛すぎるのだ。こんな可愛い聖女に気に入られているくせに、私みたいなしょぼい女を好きだとか信じられない。

 

(聖女エミリアに魅了の術や呪具が使われている疑惑があるけど………)

 

 タイムリープする前にジェーン様が言っていた言葉を思い出す。

 しかし聖女のあの美しさなら、術や呪具を使わずとも殿下達を魅了するのも不可能ではない気がした。

 


 

 ───学園の人気のない通路にて。

 今回のタイムリープで何をしようかと思い悩む。 

 もしかしたら今回のタイムリープで最後という可能性もあるのだ。それを思うと何かしら動かなくてはと焦り、自然と歩く歩幅も大きくなる。

 

 しかしその時、通路の角から現れた生徒とぶつかってしまった。

 

「あ、ご、ごめんなさい!」


 見ればそこには高等部の制服を着た、かつてクロードの個人研究室をめちゃくちゃにしようとした上級生、ヒース・フロックが眉を寄せて立っていた。


 一気に血の気が引き、再度謝罪しようとする。

 しかしヒース先輩がそれを止めた。


「いや、俺の方こそ悪かった。怪我はないか?」

「い、いえ」

「そうか」

 

 そう言って彼は手に持っていた分厚い本を持ち直す。

 何だろうとじっと見つめれば、ヒース先輩はぽつりと話し出した。

 

「……………この間、魔石鑑定士の資格に合格したんだ。資格に必要な書籍をトレメイン先生から借りていたから、返しに来ただけだ」

 

 そんな彼の言葉に「なるほど」と納得する。

 どうして中等部の校舎にいるんだろうとも思っていたため疑問が解けた。

 するとヒース先輩はしばらく黙り込んだ後、口を開く。


「ソフィー・シモンズ。中等部の頃は悪かった」

「え?」

「お前達が一年の時、俺が研究室の鍵を奪ってお前達をいじめただろう。クロードには謝罪したが、シモンズにはまだだったから………」


 そしてどこか申し訳なさそうな顔をして続ける。

 

「別にお前が俺を許す必要はない。だが、謝罪するべきではあると思っていたんだ。本当に申し訳なかった」


 そう言って頭を下げるヒース先輩を私は慌てて止めた。


「いえ!むしろ私の方こそ申し訳ありませんでした!誰かに向かって魔術を放つなど、今考えればやり過ぎでしたし………!」

「あれは痛かったな」

「ああああ、ごめんなさい!!!」

 

 わたわたと謝れば、ヒース先輩がくすりと笑う。

 その時、少し離れた通路から聖女エミリアのグループが現れた。


 休み時間になると何度も中等部の校舎に現れては、クロードに構う彼ら。そのせいでクロードに話しかけるタイミングがない。

 そんな彼らの姿にヒース先輩が顔を顰めた。


「騒がしい奴らだな。アイツら中等部の校舎でもあんなにうるさいのか?」

「クロードに用事があるようで………。私もクロードに話しかけたいんですが、中々タイミングがないんですよね」

 

 そう返せばヒース先輩は溜め息を吐く。


「急ぎの用じゃなければ手紙でも書いたらどうだ?アイツらに囲まれているヴァインハルトに話しかけるのは無理だろう」


 彼の言葉に「確かに!」と頷く。

 そうだ!話しかけるのが無理なら手紙を書けば良いのか!


「ありがとうございます!ヒース先輩!」


 思った以上に大きな声が出て、自分でもびっくりして顔が赤くなる。

 それにヒース先輩はまるで小さな子供にやるように私の頭をポンと撫で………ではなく、掴み上げた。


「うるさい。静かにしろ」

「はい…………」

 

 昔はあんなにヤンチャだったのに、こんなにも優等生になっちゃって………。


 私は彼に大人しく謝罪した。

 すると、ヒース先輩が思い出したように口を開く。

 

「そういえばお前の生家、魔道具事業をやっているんだよな?」

「え、ええ」

「廃版になっている《魔石封じの匣》はもうないのか?」


 魔石封じの匣。様々な魔術的な効果を持つ魔石の力を物理的に遮断させる魔道具(マジックボックス)のことだ。

 

 しかしそれは効果が大きく、魔石の力を遮断させるどころか強い反発を生んで、内部の魔石を破壊してしまうことから結局売れなかった代物。

 それならば魔道具(マジックボックス)よりも、効果の薄い護符を魔石に張り厳重に管理した方が良い。魔石なんて高価なものを壊す箱なんて需要が無かった。

 

「トレメイン先生が今後魔石研究をしていくなら護符ではなく魔道具(マジックボックス)の方が良いだろうと仰っているんだ。こちらで改良してみるから、もし使わなくなった魔石封じの匣があれば代金を支払うので譲ってほしいとのことだ」

「あ、そうなんですね。確かうちに何個かありますので、また生家に手紙を送ります」


 一応我がシモンズ子爵家でも改良を重ねてみたが、中に入れた魔石はどうしても破壊されてしまう。

 トレメイン先生がどのように手を加えるかは分からないけれど、もううちでは使われないし構わないだろう。

 

「感謝する。ソフィー・シモンズ」

「いえ」

 

 薄く微笑むヒース先輩に丸くなったなあと感慨深くなる。

 これも一重にトレメイン先生のおかげだろう。


 そしてその様子を、クロード達が見ているのを私は知る由もなかった。


 


 ・

 ・

 ・



 

「あそこにいるのはヒース・フロックか」


 休みになる度に中等部にやって来る聖女軍団にクロードは辟易としていた。

 

 逃げようにも目敏く自分を見つけるし、彼女らの軍団には第一王子のウィリアムもいるのだ。

 おまけに取り巻きの一人には魔術担当大臣の甥もいるため、将来宮廷魔術師を目指す身としてはあからさまに敵対することはできない。そのためクロードは半ば投げやりな気持ちになりつつ、聖女軍団の玩具として可愛がられていた。

 

 そんな折、ウィリアム殿下が離れた通路で何かを見つける。

 見ればそこにはソフィーとヒースが仲睦まじそうに話していた。


「ヒースと、中等部の後輩かしら?」

「あれだけ仲が良さそうなんだ。もしかしたら恋人同士かもしれないな」

 

 ヒースがソフィーの頭に触れている。

 その様子に胸の内にざらりとした不快感が押し寄せた。

 

 中等部の頃から体格も良く上背のあるヒースに華奢なソフィーがよく映える。

 自分と並んでもそうはならないだろう。


 そして、そういえば彼女が昔ドミニクのことを好きだったと言っていたのを思い出す。

 結局あれば異性として見ていなかったと教わったが、もしかしてソフィーは無意識にああいった男に惹かれるのだろうか。

 

「クロード、どうしたの?」

「いえ………」

「…………ふーん」

 

 聖女エミリアが不思議そうな顔をして聞いてくる。


 聖女エミリアがじっとソフィーを睨みつけていたことに気付く余裕もなかった。





 


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