表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/28

第10話 三度目のタイムリープ《14歳》①




 

 これまで私はクロードの気持ちを蔑ろにしてきた。


 だから平気な顔して「好きな人がいる」とか言えるのだ。

 そのせいでクロードを傷付け、私を監禁するというとち狂った暴挙を犯させてしまう程追い詰めてしまった。

 

 なのでもう彼に誠意のない態度を取るのは止めようと思う。

 そうした方が良いだろうし、そうしなければ私自身の首を絞める予感がひしひしとするのだ。

 

「………───ちょっと、ソフィー?ぼうとして大丈夫?」

「レベッカ……………レベッカ!?」


 意識が浮上し目を開くと、レベッカが不思議そうな顔をして私を見つめていた。


 そしてそんなレベッカの姿を見て、目を丸くする。

 何故なら彼女は夜会用のドレスを身に纏っていたからだ。

 

「かわいい………どうしてそんな恰好をしているの?」

「どうしたもこうしたも今日は学園主催の舞踏会よ?だからこんな格好をしているんじゃない」

 

 学園主催の舞踏会。

 高等部に進学すると毎年行われる行事で、冬のホリデーに入る前に学園の小宮殿にて開かれる。

 中等部の生徒達もパートナーがいれば参加できる催しで、私が中等部の頃はパートナーのいる女の子達を見ては「いいなあ」と羨ましがっていたものだ。

 

 それじゃあ、今回のタイムリープは高等部以降の時間軸か?と思ったが、中等部の制服を着ているため違うだろう。

 けれど中等部時代、私もレベッカも一度も舞踏会に参加したことがなかったはずだ。

 

「レベッカ、舞踏会に行くの?」

「そうよ?可愛いドレスも手に入れたことだし、ちょっと気になっていた男の子を誘ったの。ソフィーもおめでとうって喜んでくれたじゃない」

 

 袖のない可愛らしい真紅のドレスをくるくると翻す。


 そういえばレベッカは自分の右腕に傷跡があることで、あまりこういった行事に積極的ではなかった。

 けれどレベッカの右腕から傷跡が消え、彼女の心境が良い方向へ動いていた結果、未来が改変されたのかもしれない。

 

「…………おめでとう、レベッカ」

「ふふ!ありがと!それじゃあソフィーにドレス姿を見せれたことだし、舞踏会に行ってくるわね。帰ってきたら話聞いてね!」

「ええ、もちろん!」


 嬉しそうに去っていくレベッカにこちらもほっこりする。

 そして彼女が去った後、私もクロードを探そうと踵を返す。

 

 クロードも確か私と同じように中等部の頃は舞踏会に出席していなかったはずだ。

 とりあえず彼の個人研究室に行ってみて、もしそこにクロードがいたら「ドミニク先輩のことが好きではなくなった」と言わなければならない。

 

 私が頑なにドミニク先輩のことを好きと言ってしまったせいで監禁ルートに進んでしまうのだ。

 早いところ否定しなければならない。


 しかしその時、中等部の中庭を突っ切ろうとしたところで、誰かが池の前で立ち尽くしているのに気付いた。

 しとしとと降る雪の中、コートを羽織っているものの薄手のドレスで寒そうにする令嬢が茫然と池の中を覗き込んでいる。

 

 よく見ればその人は第一王子ウィリアム殿下の婚約者、イザベラ・モンフォールだった。


 輝く銀の髪に菫色の瞳。

 整った顔立ちをした美しい令嬢で、どこか近寄りがたい雰囲気を放っている。


 そんな彼女は高等部時代、編入してきた聖女エミリアと殿下を巡ってバチバチにバトっていた。

 遠目からでしか見たことがないけれど「婚約者のいる殿方と距離が近すぎます!」と注意するイザベラ様に対し、殿下やその取り巻きの後ろに隠れながら「みんな私のお友達なんです!」と聖女エミリアが言い合っていたのを覚えている。


 そんな彼女が困った様子で池の前をうろうろとしていた。


「…………あの、イザベラ様?どうかされたんですか?」

「貴女は………」

「中等部2年のソフィー・シモンズです。いきなりお声がけしてしまい、申し訳ありません。困っておいでのようでしたので、何かあったのかと………」


 イザベラ様に話しかけるのは非常にハードルが高いが、そのまま素通りすることもできない。

 きっとイザベラ様もこんな木っ端貴族の令嬢なんて知らないだろう。

 

 けれどそんな思いに反して彼女は「ああ」と頷いた。

 

「魔道具事業で有名なシモンズ子爵家の。大したことではないのだけれど………」

 

 そう言ってイザベラ様が池の水面に視線を落とす。

 

「実は手袋(グローブ)を外した時に、指輪を池に落としてしまって」

「指輪?」

「……………殿下から賜ったシグネットリングよ。次期王妃に贈られるはずの」


 イザベラ様が言いずらそうにするのに対し、私の顔も真っ青になる。


 シグネットリングとは、その国の王家の紋章の入った指輪のことを指す。数種類しか作られないそれを紛失したとなると流石にまずい。


「でも大丈夫よ。これだけ探しても見つからなかったし、また日を改めて探してみるわ」

 

 後輩の私を安心させるように微笑むものの、彼女は一向にその場から動こうとしない。


 その時ふと思い出した。

 私が高等部2年生の頃。

 学園主催の舞踏会にて、イザベラ様が聖女エミリアとウィリアム殿下達に断罪された時のことを。


 ウィリアム殿下と仲の良い聖女エミリアに嫉妬したイザベラ様は陰で度々彼女に嫌がらせをしていたらしい。

 その時に殿下が言っていたのだ。

 お前は王妃にふさわしくない。私の渡した指輪だって失くしただろうと。

 

(そういえば中等部の頃、大掛かりな池の水の入れ替えをしていた)

 

 おそらくイザベラ様が指輪を探そうとした直後、池の工事と始まってしまい、そのまま紛失してしまったのだろう。

 

「…………ソフィーさん?」


 イザベラ様の格好を見る。

 舞踏会へ行くためのドレスを纏っていて、その恰好で池の中には入れない。

 私も本当は今すぐにでもクロードのもとへ行かなければならないけど………


「ソフィーさん!?」


 靴と靴下を脱いで、そのまま池の中へ入る。


 めちゃくちゃ冷たい!寒すぎる!

 

「だ、大丈夫ですよ!私は舞踏会に参加しませんし、この後は暇なので!それに池の工事がそろそろ始まる時期だと思うので、今探しちゃった方が良いと思います!」

「でも、貴女───!」

「ウィリアム殿下から頂いた大切なものなんでしょう?だからそれを付けて、今日の舞踏会に参加しようと思ったんですよね?」


 そう言えばイザベラ様は言葉が詰まったように口を噤む。

 

(うう、寒い………!)

 

 貴族の令嬢としてあるまじき姿だが、腕まくりをして冬の池に腕を突っ込む。


 イザベラ様がどんな人なのかは分からない。

 聖女エミリアの言う通り、陰で誰かに嫌がらせをする酷い人なのかもしれない。

 

 けれど大切なものを失くして途方に暮れる女の子を、そのまま無視するなんてことはできなかった。





 


読んでいただき、ありがとうございました!

もし良ければブクマや評価をつけていただけると、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ