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過ぎ行く夏

すみませんが話が前後しましたので、割り込み投稿しました。ご容赦願います。

「お前の行方がわからなくなった時、お前にもしものことがあったらどうしようかと、とても心配しました。これからは私がお前を守るから、そばにいてほしい。すぐにこちらへ来てください」


エステル大叔母様からジュベータへの手紙は、そんな調子だった。ジュベータの亡くなった母と、その叔母であるエステル大叔母様は年が近くて、まるで姉妹のように仲良く育ったと聞いている。エステル大叔母様が裕福な商人の娘からトーラスの男爵夫人となってからも、隔てができたものの交流は続き、折に触れてはジュベータのことも気にかけてくださった。母の死後、ジュベータが幼くして王城に勤め始めた年、別祭日をトーラスで過ごすよう招待してくださったことは忘れられない思い出になっている。


 この春にジュベータが王城勤めの契約が切れることで助けを求める手紙を送ったときには、男爵夫妻は公用で外国に出かけておられて、連絡が間に合わなかった。その後、ジュベータが王城を出て、何度か住居を移したせいで、大叔母様にはジュベータの行方がわからなくなり、あちこちに問い合わせてくださったということだ。


「お気持ちはありがたいですが、私は無事ですし、王都でもきちんと働いて一人で暮らしていけますので、ご安心ください」


ジュベータは、謝絶の返事を書いた。今、王都は離れない。だって、もう夏が終わろうとしているのに、あれっきり一度も、あの人に会っていないのだ。

 振り返れば、女主人が青馬亭を離れて以来、本当に忙しい毎日だった。女主人は今でもまだお産婆さんの家で、赤子は生まれたときに比べるとずいぶんしっかりしてきたそうだ。ダニエルが言うには、

「時々<ばあ>(両手を突き出すような動き)ってなって、すごい」

らしい。旦那さんが、ダニエルをそれなりに構ってくれるようになったおかげで、この子の機嫌もよい。旦那さんの厨房の仕事の方でも混乱が減り、従業員みんなが、少しは息がつけるようになってきたと思う。

 お昼過ぎの空き時間に、ジュベータはダニエルと散歩がてら、王立郵便を探しに出かけろことにした。運河沿いの商館のあたりにいることが多いと聞く。それは、つまり河口亭の方だ。厩のヨアキムに声をかけておく。

「あの、きょ、今日はダニエルと河口亭の方へ、参りますが、なにか言伝とか、ありますか」

「お?んじゃ乳の出のよくなるような魚がないか、聞いてみてくれよ」

「あ、それ、はい、わかりました」

ジュベータは思わずにっこりした。これで堂々と河口亭にいく理由が出来た。


「ちぇ、ちっさい舟ばっかだなあ」

運河には帆船が少ないのでダニエルは批判的である。

「ごめんね、下の方で御用だから。あとでお産婆さんの家まで上がろうね。そしたら港もみえるから」

ジュベータはしばらくあたりを見回して、王立郵便の配達人を見つけると、トーラスまでの配達を依頼した。それから、ダニエルと手をつないで歩き、一本奥の道にはいる。日陰で猫が寝ているのをダニエルが指さした。誰かが練習しているのかリュートの爪弾きが聞こえた。河口亭の前には、小僧さんが、今日はランプのほやを磨いていた。

「こんにちは。ご主人か奥さんはお手すきですか」

「あ、はい、お待ちください、お内儀さーん」

お内儀はあいかわらずにこにことジュベータとダニエルを店に迎え入れた。

「こちらは、青馬亭の坊ちゃん?よくいらっさい、梨は好き?」

ダニエルがうなずく。ジュベータはあわてて、

「あの、お構いなく」

と言いかけたが、

「久しぶりだで、積もる話もごぜえますから、まずお茶でも飲んでくだせえ。お急ぎじゃないんでしょ」

「あ、いえ、あのダニエルをお母さんのところまで送っていきますので、あまりのんびりは」

「いいよ、僕、朝も行ったし、梨食べる方がいいよ」

「ダニエル!」

ジュベータは困ったが、お内儀は笑ってくれた。主人が姿を見せたのでジュベータはあらためてささやかな手土産を渡した。

「あの、いいお仕事をご紹介いただきましてありがとうございました。その、気持ちだけですが」

「こりゃかえって申し訳ねえだ。その後、おかわりねえですか」

「はい、おかげさまで、海馬亭の皆さんには親切にしていただいています。ヨアキムさんにも」

「あちらの奥さんのお加減は」

ジュベータはダニエルの肩を抱いて

「はい、もうすぐ赤ちゃんと帰っておいでになります」

「そりゃ、坊ちゃんも楽しみだ」

「そうだ、ヨアキムさんが、何かお乳の出がよくなる魚はないかって、言われてました」

「さあて、私にはあまり」

主人はお内儀の顔を見る。

「私どもの方では、お肉をあまり食べねーだで、魚、魚と言ったもんですが、こちらではなんでもありますで、それにお乳にはいろんなものを食べるがよろしいですだ」

「ヨアキムが奥さんになにか食わしてやりてーだけでねえか」

主人が笑いながら続ける

「一つ、ヨアキムの顔を立ててやらねばならね。奥さんはいつお戻りで?」

「この一日です」

「したら、その朝、中央の魚市場で魚を見繕って持っていくとヨアキムに伝えてくだせー」

「はい、あの、どうもありがとうございます。きっと、皆さん喜ばれます」

「そんで、お嬢さん」

主人が咳払いした。

「最近、テペシの旦那はお元気ですだか」






















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