表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/41

王城側では

 リーリアのもとにジュベータから、青馬亭に働くことになった報告が王立郵便で届いたのは、初夏が盛夏に変わるころだった。職場でジュベータの話をすることは、彼女を知らない新人に配慮して避け、夕食前の空き時間に、リーリアは手紙を見せにミカエラの大部屋まで赴いた。ミカエラは下着姿で揚げ菓子を齧っていたが、リーリアを見てブラウスを羽織ると、手紙に目を通した。


「ミカエラ、これ、どうしましょう」

「えー、どうって、お仕事見つかってよかったですね、って言うしかないじゃないですか。あ、なにかお祝い送ったりとか?」

「そうじゃなくって、その、前はテペシさんに様子を見に行っていただいたじゃない」

「ああ、そちらですか。またお知らせするかって?」

「あの時のジュベータの返事が、素っ気なかったじゃない?私たち、テペシさんとジュベータがたまたま都内で出会うなんて、もう運命だ!って盛り上がって、彼を推そうと計画したけど、ジュベータにその気がなかったら、迷惑だったかもしれない。今度は知らせない方がいいのかしら」

「うーん、どうなんでしょうねえ、手紙だけじゃジュベータさんの本心までは、わからないです」

ミカエラは首筋を掻いた。

「それに、もっといい相手と知り合っちゃったかも」


「まあ絶対ないとは言えないわね」

「あの、テペシさんの方はどうです?知らせてほしいと思います?」

「わからないけど、普通ここまでかかわったら、その後をお知らせしないと、嫌われているとお考えになるかも」

「あ、でもジュベータさんの手紙には、『コルム様テペシ様にもご放念いただけますようにお伝えください』ってありますよ。とりあえずはお知らせじゃないですか」

「ご放念って、お伝えしたらご放念できないじゃないよ」

「リーリアさんは嫌いな人の名前出したら怒るんですよね。手紙ぐらいは許してあげましょうよ。でもほんと、テペシさんのことなら、この人に相談したらどうですかね」


とたんにリーリアは無表情になったので、ミカエラは肩をすくめた。

「じゃあ、ジュベータさんの手紙どおりに、普通にお知らせするだけでしょ。本人同士の気持ちがわからないのに、私たちがあれこれ考えてもしかたないです」

「そうね、じゃあ、機会があれば、淡々とお知らせいたしましょう」

リーリアは手紙を引き取って自分の大部屋へ戻っていった。ミカエラは声に出さずに

「わ、面倒くさ」

とつぶやいた。



 アルブレヒト・コルムは、リーリアに謝罪する機会を伺っていた。今となっては友人と呼ぶのもはばかられる、昔の同級生の話を真に受けて、リーリアの行状を詰ったことについてだ。そいつをを問い詰めたところ、実は自慢のために膨らましたいいかげんなものだったのだ。そいつには軽く軍隊的に指導しておいたが、リーリアに対してはアルブレヒト自身が謝らなくてはいけない。しかし女性と二人きりで話せる折を王城で見つけるのは、相手にその気がなければ、非常に難しかった。


 ある日、アルブレヒトが裏庭で一休みしていると、侍女の制服が通りかかった。リーリアではなかった。ミカエラだ。

「あ、コルムさん、ごきげんよう」

ミカエラに会釈されて立ち上がり、にこやかに礼を返す。

「コルムさん、ジュベータのこと、お話してもいいですか?」

「もちろん。彼女になにか?」

「住み込みで働き口が見つかったって、手紙が来たんです」

「ああよかったねえ。一安心ってとこかな。どこかの屋敷?」

「えっと、海軍の近くの、青馬亭っていう宿屋さんです」

「そこなら聞いたことあるよ。小さいけど昔からあるいい宿だ」

「はい、じゃあテペシさんにも伝えてくださいます?」

「うん、きっと安心するよ」

「では失礼しまーす」


ミカエラが通り過ぎようとするので、

「ごめん、ミカエラ、ちょっと聞いてくれる?」

「いいですよ、どうしたんですか」

「あ、あのリーリアはまだ怒ってるかな、僕のこと」

ミカエラはアルブレヒトの恥じ入った顔をまじまじと見上げた。

「何したんですか?」

「うーん、僕がリーリアのことを誤解して、失礼なことを言っちゃって。詳しくは勘弁してくれる?」

「へえ、そうなんですか。リーリアさんはコルムさんの名前を出すだけで怒りますよ」

「本当に僕が悪かったから、謝りたいんだけど、リーリアから避けられてるからね。話すに話せなくて」

ミカエラは少し考えた。

「明日なら、リーリアさんは当番で、早朝から一人でリネン室にいますから、汚れたシーツ持っていったら話せますよ。まあ、いつだれが訪ねてくるかわかりませんけど」

「明日の朝」

「コルムさんが悪いなら早く謝っちゃってください。あの人が不機嫌だと、こちらもいろいろ困るんですから」

ミカエラは冗談っぽく言い捨てて、会釈して足早に通りすぎながら、

「本当、面倒くさい」

と口の中でまたつぶやいた。


翌日ミカエラが出勤すると、リーリアの目や鼻の周りが赤くなっていたので、ちょっと身構えた。しかしリーリアが、笑顔を見せて、

「おはよう、ミカエラ」

と声をかけてきたので、どうやらこちらは大丈夫そうだ、と見当をつけたのだった。














 


 


 


















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ