炎帝の申し子よ、なんと情け無い。
村長を始めとする人々が、僕達2人に注目する。
「おお……これはアライズさん、サニーさん……貴方達もカンパニーの人ですよね? 何があったのですか」
……農村区の人々は受付嬢による情報操作により僕ら2人がカンパニーの人間だと思っている。
まずは、誤解を解かなければ。
「村長さん。僕らはカンパニーの人間では有りません……ギルドには所属してないフリーランスなんです。今まで聞かれなかったので本当の事を言わず申し訳ありませんでした」
「な、なんと……それならば無償で農村区を助けていたのですか……?! こちらこそ申し訳な……」
村長さんの言葉を遮り叫ぶバニング。
「嘘だね! 騙されてはいけないよ! 無償で働いてくれる虫のいい者など居ない! 君達を信用させる方便だねぇ!」
「バニング様の言う通りよ。私達が不在の間に手柄を独り占めしようとしたの。あまつさえ、足を引っ張って村にモンスターを呼び寄せたのはソイツらなのよ!」
よくもまぁ、2人揃ってベラベラと嘘を並べれるものだ。
しかし、真実を知らない村の人達は混乱し始めた。
「ど、どっちを信用すれば良いんだ?」
「サニーちゃん達が、そんな事するなんて信じられないよ……」
「みんな、そのバニングという男を信用しないで!」
遅れてやってきたルージュさんがバニングを指差して叫ぶ。
「そいつは、私達を見捨てた挙句……モンスターから逃げて村を危機に晒したの! 本当よ!」
「その、赤い髪の人が妹をモンスターの前に投げたんだ!」
ルージュさんとジョアの証言に人集りが、ザワザワとどよめく。
僕はバニングを追い込む様に話す。
「これでも、まだシラを切るつもりか? バニング!」
「ふぅ……。仮に、仮にだよ。君達の言ってる事が事実だとしよう。それでも、この農村区は未だ異界の門の番人による災禍の恐怖に晒されているんだよ! 僕ならばカンパニーの精鋭を集めて村人を恐怖から救えるんだ! それでも、僕を糾弾するのかい!? いいのか?! あぁっ?!」
僕達が番人を倒したとは微塵も思ってないらしい。じゃあ、証拠を見せよう。
「番人なら僕らが倒した。ホラ、これ」
オルトロスの首をバッグから出して見せる。
「……。ふっ、嘘はやめたまえ。そんなコボルトが番人なんて……有り得ないだろう。わざわざ、そんなものまで用意するなんて手が凝ってるねぇ」
「じゃあ、これも……。異界の門が閉じた時に現れた『玉』。これが噂のドロップ品ってやつだよ」
「ぷっ……! 馬鹿かい!? そんなチンケな玉がドロップ品!?」
「アハハ! バニング様! ホント、こいつら笑えますね〜」
嘲笑う2人とは対照的に、受付嬢の顔は青ざめていた。
(えっ……。この人達……異界の門閉じた事、無いの? アレは間違い無くドロップ品の『宝玉』……今は玉だけど時間が経てばアイテムに変化するんだけど……あの黄金色は、相当なレア度……。あ、アイツら本当に倒したんだ……番人を……!)
そして、村の人達は白けた目でバニング達を見ていた。
「何だい君達? その目は!? こんな弱そうな奴等の妄言を信じているのかい?! 僕は『炎帝の申し子』! Sランクの魔術士でカンパニー幹部候補なんだよ?! その辺の雑魚とは格が違うんだ! 分かってるの……痛っ!!」
村の人達が投げた石がバニングに命中。
「これ以上、アライズさん達を馬鹿にするな!」
「嘘つきはお前らだ! 俺達を舐めるな!」
「アライズ君とサニーちゃんに謝れ!」
僕達を信じてくれて、本当に有り難い……!非難轟々のバニングはワナワナと震えている。
「……もういい……! 主要区から見放された、こんなチンケな村……災禍の前に僕が滅してやるよ」
そう言ってバニングは天に手を掲げながら詠唱を始めた……何をする気だ?! 止めなくては!僕とサニーが駆け出そうと前へ出ると……。
「おっと。動かない方が良いわよ。私のボウガンが、その辺にいる子供の頭撃ち抜いちゃうかも……」
連れの女……確かアロアと言ったか。バニングと揃って最低のコンビだな。
バニングの頭上に大きな火球が現れる
「ハーッハッハ! 見たまえ、この火球を……もうすぐ村を焼き尽くす業火と化すよ! ハーッハッハ!」
村の人達の悲鳴が聞こえる……。僕はバニングに質問した。
「なぁ、『炎帝の申し子』さん。偉大なSランク魔術士様の魔力数値を教えてくれないか?」
「ハハハ……! 良いだろう……! 聞いて震えるがいい、僕の魔力数値は『250』! 常人では到達出来ない領域さ! どうだ? 何も言えないだろ?」
確かに何も言えない。思った以上に低すぎて……。『250』なら……これくらいでいいか。
「【魔法強化】」
バニングが出現させた火球が突如、暴れるように燃え盛り出した。
「あっ?! なんだっ!? 火球のコントロールがっ!?」
補助魔法により、バニングが使った術の力を何倍にも上げた……奴の魔力では使い熟せない程に。
「バ、バニング様? どうされたのですか? 火球が下がってきてますが……?」
「わ、分からないっ! だ、ダメだっ! もう、持ち切れないっ! 解除も出来な……」
ボォオォッ!!
急転直下。火球はバニングに直撃し炎上……紅蓮の炎が彼の身体全てを包み込む……。
「ぐぁぁぁあ!? 熱ッ!! アッ!! アツィィ!! ギャァァァッ!」
相当に熱いらしい。魔法を強化し過ぎたか?バニングは【火】属性持ちだから耐性により強烈な火炎の中でも死なないはず……多分。
暴れ狂う火だるまのバニングにより隣に居たアロアも引火する。
「ち、ちょっ!? バニング様っ?! わ、私にも火がっ!? ギャァァァッ!! ル、ルージュ!! 早く、水魔法で消火しなさいよ!!」
「えっ? ごめんなさ〜い♪ 私、貴方達から追放されたので無理で〜す♡」
「あ、あんたねぇ……!? あっ?! 熱っ!? 弓矢が燃えてるぅぅ!」
ルージュさんはウィンクしながら水魔法を拒否。なす術の無いバニング達は、のたうち回る……仲間を大事にしなかった因果だ。
「ギャァァァッ!! み、水っ! みずぅぅ!! あ、アロア!! 川へっ! 川へ案内しろぉぉぉ!!」
「わ、分かりましたっ! アンタ達っ! 覚えてなさいよっ!」
月並みな台詞を吐いて消えていくバニング達。……寧ろ、アイツらこそ覚えていて欲しいな……『土下座』の約束を。
臨戦態勢だったサニーは、予想外の結末にポカンとする。
「な、何だったの……あの人達……」
「うーん、カンパニー辞めて大道芸人にでもなるのかも」
アハハと笑う僕らのところへ村長さんが近づいてきた。
「お2人とも……! 農村区の為に、色々と……ありがとうございます……! その上、異界の門まで閉じる偉業まで……! 貴方達は主要区からの救援も無い我々を救ってくださった救世主です!」
「そ、そんな……。僕らは成り行きで行動してただけで……」
「村長の言う通りだ! アンタ達は英雄だ!」
「お兄ちゃん! おねぇちゃん! ありがとう!」
「宴だ! 英雄2人を皆で持て成すんだ!」
僕の謙遜を他所に、村の人達は盛り上がる。
「よぅし! 皆の者! ありったけの酒と、ご馳走を用意せい! 今日は大盤振る舞いじゃ!!」
村長の号令に、村の人達は「おおーっ!!」っと威勢よく叫ぶ。
「ご馳走……た、食べたい……じゅるり」
サニーも涎を垂らし、ご覧の有り様だ。ま……いいか。
♦︎
村の広場で飲めや歌えの、大騒ぎ……。宴は夕暮れを過ぎ、夜になっても続いていた。騒がしい陽気な場を遠目にして僕は星空を見上げてベンチにて佇んでいた。
「隣空いてますか?」
サニーがニコニコしながら、わざとらしい敬語で話しかけてきた。
「ええ、どうぞ」
僕も、同じく敬語で返す……なんとなく。
「じゃ、お言葉に甘えて……おじゃましますっ」
「どうぞどうぞ……狭いところですが……って、何でさっきから敬語なんだっ」
「えへへ……なんとなく」
はにかんで、可愛らしい表情をするサニー……ちょっとドキッとしてしまった僕は、恥ずかしさを隠す様に再び夜空を見上げた。
「あっくん、何で夜空みてるの? 考え事?」
……正直に言える筈が無い。ああ、サニーが来るまで考えてた事を言えば良いか。
「うん。僕の目標が1つ叶っちゃったなって考えてた」
「どんな目標?」
「養成所の同級生を、超える事。僕は皆に馬鹿にされながら卒業した、あの日が忘れられなかった。……あの時の悔しい気持ちにケリがついたんだ」
「そっか……いいなぁ……私も……」
下を俯き、小さな声で喋るサニー……僕と同じ境遇を味わったんだろう。彼女は分かりやすくて良い。
「サニーも見返したい相手がいるんでしょ?」
「えっ?! なんで分かったの!?」
「なんとなく」
「う〜……。そ、そうだよ。私も養成所の同級生の男の子を見返したいんだ。私が女神の加護を持たずに卒業したのは、その男の子に騙された所為なの……」
宿命の相手は男……なんだろう、このモヤモヤした気持ちは……!ジェラシー? も、もしかして、サニーとソイツが付き合ってたとか……?
「そいつの名前は?」
怒りを露わにしながら聞いてしまう……。何を、イライラしながら聞いているんだ僕は。
「ルシフル・ドレスフェザー……すっごく強い剣士なの」
「その名前……聞いた事がある。100年に1人といわれる超天才剣士か」
養成所卒業後、わずか半年で『国軍騎士団長』の座についたという天才とサニーが同級生だったとは……。
「そう。だから、私の目標は……流石に無理かな」
「そんな事無い。サニーの成長ぶりも充分、天才さ。……これから成り上がろうよ、2人で。そのルシフルって奴を超えるくらいに。僕も大魔道の師匠に負けないくらいの肩書きを得たいしさ」
「……うん。私達2人なら……出来る気がする……」
夜空の下、村の明かりにほんのりと照らされたサニーの顔は赤らんでいる様に見えた……何だか僕も恥ずかしくなってきた……。
「……その、ルシフルって奴は……サニーと……その、付き合っ……」
「あっ!! 見てっ! 猪の丸焼きだよっ! あっくん、一緒に食べよっ!」
広場で焼き上げられた猪を指差して駆け出すサニー……ってか、さっきまでゴリラスと大食いバトルしてなかったか?
……聞きたい事を聞きそびれてしまった。まぁ……知ったところで、どうしようもないし……そんな事を知ってなんだっていうんだ。
僕とサニーは仲間。それで良いじゃないか。今は……目の前の目標に向かって突き進んでいこう。このジェノバースで1番の英雄になる……見てて下さいよ、師匠。
──こうして、アライズ達は決意を共有し目標に向かって進み出した……。一方で、『双頭のオルトロス』を倒した余波は2人が知らぬ所に影響を与えていた。
♦︎
─魔界 『第六層』
次元の壁により隔たれた『別世界』、魔界……赤色の空と漆黒の木々、奇怪な植物が犇く異様な世界。
異界の門の向こう側でありモンスターの巣窟である魔界にて、魍魎跋扈する凶獣達の死体の山の上に佇む1人の幼い少女が居た……彼女の下へ、金色の髪の美少年が膝を突き申し立てる。
「リリィ様……。『実験用干渉転移ゲート』、4つ全てが誤作動を起こし起動……同時に消失しました事を、御報告に参りました」
「はぁあっ?! 何じゃと!?」
リリィと呼ばれた少女は、幼い声と見た目に似合わぬ口調で驚き、死体の山から下り美少年の前に仁王立ちする。
「どういう事じゃ、ガブリエル! 原因は分かっておるのじゃろう……なっ!」
リリィはガブリエルと呼ばれた美少年の綺麗に切り揃えられた前髪をぐしゃぐしゃにするように踏みつける。
ガブリエルは顔色ひとつ変えずに現状報告を始めた。
「はい。オルトロスが死に、干渉用ゲートの1つが崩壊。連鎖反応により誤作動が起きたと思われます。同時に実験体のキメラが数体、『あちら側』に逃亡しました。現状の詳細は、このスクロールを御覧ください」
ガブリエルが差し出したスクロールを、リリィは奪い取り広げて刮目する。
「ぐぬぬ……! 妾が作ったゲートを、オシャカにしおってオルトロスの恩知らず共が……! ……待て。オルトロスが、あちら側に行ってから経った時間を申せ」
「5日と15時間38分42秒に御座います」
「……早すぎる。妾の作品達による調査では、『突然変異』のブレイブ・ソードレイ以外でオルトロスを倒せる戦力など……それに奴は今、ファフナ天宮であろう」
リリィは、顔を顰めて考え始めた……。
(ウルティマか……? いや、奴がオルトロスを殺す理由が分からん。それとも妾の知らぬ間に『何か』が目覚め動き出したか……?)
リリィは、指を鳴らしガブリエルの顔を上げさせる。
「……ガブリエル。あちら側へ行くぞ……残るゲートは第一層にある。そこまでの露払いは貴様がやれ。妾の手を煩わせるでないぞ」
起立したガブリエルは、右手を自分の胸に添えて深い御辞儀をする。
「御意」
リリィは、再び考える様なポーズをとり……ガブリエルを見上げて質問をした。
「……誤作動したゲートの数は『4つ』で間違い無いのだな?」
「はい。私の命に賭けて間違いありません」
「……なら良い」
(……スクロールの次元干渉グラフには、1つ気になる『異物』があった。……何かまた『別の何か』が、『世界』に入り込んだのだろう。フン……ウルティマを潰すファクターは多いに越したことは無い。それが正体不明でもな……)
──動き出す、大きな力を持つ者達……それは世界と、アライズ達に静かに、確実に迫ってきているのであった──




