とことんクズなバニング君
「うん、退却」
彼が下したのは冷静かつ、情け無い判断。
(うーん、火耐性があるみたいだなぁ。ま、しょうがないよね。分が悪いし、こんな趣味パーティじゃ勝てないや。パパに頼んで、もっと強い人達連れたガチパーティで出直すか)
バニングは軽く詠唱し指に炎を宿した後に……。
「と、言う訳で……。えいっ」
纏った炎をルージュの脚に飛ばした。
「えっ……?! キャァァァッ!? 熱ぃぃぃ! 熱いよぉ!」
「あはは、ゴメンね。ルージュ、僕らが逃げるまでの囮になっててよ」
「いやっ! う、嘘っ!? お、置いてかないでぇ!」
膝から下の両脚に酷い火傷を負ったルージュはその場に崩れ……命を乞う。が、それはバニング達には届かなかった。
「もう君の身体は充分楽しんだし、役立たずは要らないや。バイバーイ」
「クスクス。じゃあね、用済みちゃん」
「……。」
ルージュを置いて速やかに走り去るバニング達……。
「グルルル……」
オーガハウンドは両手に握った斧でルージュに襲いかかる。
「い、いゃぁぁぁ!!」
ザシュッ!!
バニングと共に去ったはずのゴリラスがルージュを庇い凶刃の餌食となった。
「うぐぉぉっ……!」
鋼鉄の鎧ごと胸から腹にかけて切り裂かれ深い傷口から鮮血がボタボタと地面に落ちていく。
「ゴ、ゴリちゃん……!? な、なんで……?!」
「わ、分から……ない……。でも……何故か……君を……助けたいと……思ったんだ……」
重傷により膝をつくゴリラス。ルージュは脚の火傷を堪えながら近づいていく。
「うっ……くぅぅ! ……ゴ、ゴリちゃん!? 大丈夫?! ひ、ひどい傷っ……」
「グォォオ!」
再び振り下ろされる斧……!
(もう……ダメっ……!)
……カラン。カランカラン……。
しかし、斧は振り下ろされる事なく地面に落ちていった。
「えっ……?」
唖然として見上げたルージュの見たモノは……切り刻まれ崩れていくオーガハウンドの姿。そして、現れたのは太陽の様な笑顔をした『晴天の剣士』。
「大丈夫? 怪我は無い?」
♦︎
「うわわわっ!? 酷い傷と火傷!? どどど、どーしよっ!」
先行して駆けて行ったサニーが慌てている……。今、倒したモンスターに襲われていたのは、バニングのパーティに居た内の2人……。
「私は、いいの! 私よりゴリちゃんが! 酷い傷でっ!」
とんでもない出血量だ……!僕はすぐに【自然治癒力上昇】をかけたが、もっと早急な回復手段を使った方が良いだろう。
……水色の髪をした術士は何やら唱えている
「私っ……水魔法で回復させてみる……! ……。ああっ! ダメっ! うまくいかないっ! ゴメンなさい、ゴリちゃん! ごめんなさいぃ……!」
ボタボタと涙を流しながらゴリちゃんと呼ばれる重戦士に縋る水色の術士。……僕は近くに行き声をかけた。
「大丈夫、落ち着いて。冷静に唱えれば上手くいくから……【集中力強化】」
「う、うん……【ヒーリングウォーター】」
手から滴り落ちる水が傷を癒やしていく。……これで重戦士は助かるだろう。続けて火傷にも魔法を使い治していく……。
「ふぅ〜……助かって、良かったぁ!」
自分の事の様に安堵するサニーを見て、水色の術士は申し訳無さそうに話しかけてきた。
「た、助けてくれて……ありがとう。それと……酒場で酷い事を言ってゴメンなさい……! あれは、嘘だから気にしないで……臭いなんてしなかったよ、本当に。バニングが適当な事言ったの……本当に、ゴメンなさい……!」
「ううん! もう気にしてないから大丈夫だよ!」
屈託の無い笑顔で返すサニーを見て、水色の術士は唇を噛み締めていた。
「……! 貴方、強い子だね……。それに比べて……私なんて……バニングに媚を売る事しか出来ないダメな女。顔と権力しか取り得がない……あんな最低男に……! 今だって私は….…囮にされて──」
そのまま、水色の術士……ルージュさんの話を聞いた。仲間を囮に逃げるとは……僕も以前同じ目に遭った身として他人事では聞けなかった。
バニングめ……やはり最低のクズだったか。
「許せない!! 今すぐ追いかけるっ!」
話を聞いたサニーが一目散に駆け出していく……。
が……。
ビターン!
「うぇ〜ん……転んじゃったよ〜……」
「あ〜あ……急に走り出すから……。あ〜擦りむいちゃってる。えっとルージュさん、回復お願いできるかな?」
「え、ええ……良いけど……」
(なんだか緊張感ない2人だなぁ……。でも、さっきの敵を一瞬で倒してたから強いんだよね……。アレ……そういえば、この2人……私達より奥の道からやってきたから……)
「……もしかして、貴方達番人を倒した……の?」
「バッチリだよっ!」
「いやぁ死闘でした」
「……俺達の、負けだな」
「そうだね、ゴリちゃん……完敗だね。とんでもない人達を下に見てたなんて、恥ずかしいよ……」
こうして、僕達2人はゴリラスさんとルージュさんを連れて鍾乳洞の入り口へ戻って行く……モンスターは居なかったが出血の酷かったゴリラスさんは血が足りないため、途中まで肩を借りて歩いていた。
♦︎
─ジェノの森
バニングを、とっちめる為に農村区への帰路を行く途中……再び叫び声が聞こえた。今度は……幼い少女の声だ!
僕らは現場へ急行した。
「きゃぁあっ! お、お兄ちゃん! こわいよぉ!」
「だ、だいじょうぶだ! ポーラ! お兄ちゃんが守ってやるからな! こ、来い、化け物っ」
木の棒を震わせながら妹を守ろうとする少年……彼は農村区の子、ジョアだ!
対峙するモンスターは、胸にゴブリンが結合してる4本腕のオーク……。な、なんだ?初めて見るぞ、あんなの……。
とにかく、一刻も早く助けなければ!!
「早く助けないとっ! てりゃぁぁぁっ!!」
サニーは、まだ距離があると言うのに晴天の宝剣を地面に擦って切り上げた……一体何を……!?
ズババババ!!
列を成した水柱が、モンスター目掛けて放たれる……!それが直撃し、敵は一瞬にしてバラバラに散って消滅した。
「サ、サニー……い、今のは……?!」
「う、うん……助けなきゃって、必死になったら……出来た」
「す、凄い! 【水】属性に目覚めたんだ! こんなの初めて見たけど、凄いや! おめでとうサニー!」
「ありがとう!あっくん! でも、まずは子供が優先!」
その通りだ。驚きの余り、周りを見失ってた。僕らはジョア達に声をかけた……良かった、怪我は無いようだ。
「アライズ兄ちゃん、サニー姉ちゃん! ありがとう! 赤い髪の人が妹をモンスターの前に投げたんだ!」
「なんだって……!?」
自分達を守る為に、幼い子供まで囮に……?!あいつら……もう、土下座じゃ済まないぞ……!
僕はジョアの頭を撫でた。
「……それで、妹を助けたんだな。カッコ良かったぞ、ジョア。君は勇敢で優しい、お兄ちゃんだ」
「えへへ……。あっ! その赤い髪の人、モンスターに追っかけられてたから村が危ないかも!」
「この子達は、私達が村に連れて行くから貴方達は早く向かった方が良いわ!」
「分かりました! よろしくお願いします!」
ルージュさん達の提案通り、僕らは農村区へと急いだ。
ジョアの言った通り、村の畑までモンスターが侵攻していたので全て片付けた。
人間の死体は見当たらない……不幸中の幸いか、犠牲者は出ていない。ちゃんと居住区内まで避難出来てるみたいだ。
♦︎
─ジェノバース農村区 広場
居住区の中央広場へ向かうと、人集りが出来ていた。
そこには、バニング達2人も居た……。村長がバニングに何やら詰めよっている。
「ど、どういう事ですかな!? モンスターが村に侵入するなんて……カンパニーには、多額の課金をしているのです! い、いけませんぞ、これは!」
「あー……はいはい」
気怠そうに対応するバニングは、戻って来た僕らに気付いたようで……目が合うとニヤッと気持ち悪い表情を浮かべた後に、こちらを指差して叫んできた。
「ぜーーんぶ、アイツら2人の責任なんだよねぇぇぇ!」
…………はぁ?




