『新たなる可能性』
どの道、サニーと合流しなければ勝機は開けない。
「オラオラぁ! どうした諦めムードかぁ?!」
オルトロスの連撃が身体中にダメージを与えてくる……!【不壊の鎧】と【重装騎兵】の最大強化状態にもかかわらず骨が軋む程の激痛が全身を駆け巡る……!
迷っている暇は無い!【不壊の鎧】の効果時間が切れれば僕は瞬く間に殺される……攻撃をガードをしながら懐から、あるアイテムを取り出して握りしめる。
「死ねオラァ!」
オルトロスの渾身のストレートが僕に当たる直前……その拳に向けて小袋をぶつけて破裂させた。
「なっ!? な……ん……だ……コレ」
当てたのは『パラマッシュ』を調合した『特製痺れ粉』。効果は自分で実証済みさ……!『新たなる可能性』を試すなら、動きが止まった……今しかない!
「【疾風疾走】!」
極めて短い時間のみに限定する事で、超常的な速さを得る術を使いオルトロスから逃走……サニーの元へ向かう。
「この〜〜……!! 斬ってダメならっ……キーック!!」
「ごはっ!?」
完全に不意を突いたサニーの蹴りがヒットし、彼女と戦闘中だったオルトロスは吹き飛んでいった。
好機逸すべからず……!僕は風の様な速さのままサニーの手を取り、奴等から距離を置いた場所へと移動を開始した。
「! あっくん! 何か作戦があるんだね?!」
「ある! ……でも、試した事の無い術を使うんだ。……未知の領域……そしてサニー自身もどうなるか……」
「迷ってる暇は無いよっ! このままだと村の人達が危ない! 私は大丈夫! あっくんの事、『最高の魔法使い』って信じてるから……絶対上手くいくからっ!」
サニーは僕と同じ想い、同じ覚悟で戦っていた。……野暮なやりとりをしてしまったな。そして『最高の魔法使い』と言われてしまったならば……それに応える為にも絶対に失敗する訳にはいかなくなった。
高速で印を結び『新たな術』を構築していく……!
サニーの蹴りによって吹き飛んだオルトロスを、もう1体のオルトロスが受け止める。
「おっと、悪りぃな『俺』。あの嬢ちゃん、中々やりやがる」
「いいって事よ、『俺』。こっちも油断して少々シビれちまった」
……僕が半日痺れていた『パラマッシュ』を数秒で完治か……嫌になるくらいの化け物だ。……そんな化け物でも、この術が成功すれば……絶対に勝てる。
構築は終了……これが『新たなる可能性』であり、『数値以外の可能性を見出す、補助魔法の真髄』……今、発動する!
「【晴天の双剣士】!」
舞い上がる水飛沫とオーラが混ざり合い、サニーが丸ごと包まれる……。
バシュゥ!
オーラを払い、現れたのは──もう1人のサニー。
2人のサニーは互いを見合う。
「「えっ? 私が、もう1人いる!?」」
「僕の『新たな補助魔法』さ……! これで人数の不利は無くなった!」
「「うん! 分かった! とりゃぁぁーー!」」
「オイオイ。俺達みたいに、なんか増えたぞ……」
「焦んな『俺』。分裂して能力も半分になってるオチだろ」
ザシュッ!!
「なっ!?」
「うおおっ!?」
2体の胴に十文字の斬撃が刻まれる。……残念だけど、サニーの能力は2人になっても低下はしていない。更に補助強化も万全のフルスペックだ!
「くそがぁぁっ!」
激昂したオルトロス達とサニー達の攻撃がぶつかり合い火花が散る。
(生命を、そっくりそのまま複製しやがったってのか……?! クソッタレな神に勝る所業じゃねーか! 魔法の範疇を超えてやがる! やっぱり……あの術士は危険だ……!)
まずは1体仕留める……! 印を結びながら片方のサニーに近づいていく。
「よし、決めよう……サニー!」
「させるかぁ!!」
(もう1人増やさせるかよっ!)
オルトロスはサニーを掻い潜り、印を結ぶ僕の手を狙い飛びかかる……しかし、僕は印を中断し、鍛練棒を振りかぶる。
「なっ!?」
「悪いな……今の印は『ブラフ』。……来る場所が分かってるならば、当ててみせる!!」
ドゴォッ!
「ぐおぁっ?!」
鈍い音と共にオルトロスの側頭部に鋼鉄の棒が炸裂する。
この攻撃で仕留めれるなんて思わない……少しでも、動きが止まれば良かったんだ。本命は──
「ナイス……あっくん。これならイメージと……溜めは完璧……!」
晴天の宝剣が全ての光を乱反射し眩い光を放つ。
「【日輪斬】!」
抉る様な一閃でオルトロスの首、手、胴体が切断されていく。
「がっ……! くっ……! ウォォォン!!」
首が地面に落ちる寸前、オルトロスの身体は黒い霧と化して、もう一方のオルトロスに吸い込まれていく。
「【融合! ……おらぁっ!」
「キャッ!」
融合した個体が、サニーを吹き飛ばす。……やつの身体は頭が2つ、手が4つになっていた….これが『第三形態』か?
「チィッ!」
オルトロスは、跳躍して僕らから距離をとった……これは『第三形態』では無さそうだ。多分、奴は追い込まれている。
「サニー! 包囲して『挟み撃ち』だ!」
「「ガッテン招致!」」
水飛沫をあげながら2人のサニーは弧を描くように移動してオルトロスを包囲する……しかしオルトロスは、じっと構えたまま動かない。
(悪い……しくじっちまった……)
(気にすんな。この融合形態でしか無い技……【絶壊崩爪】で仕留めてやるよ)
「いくよっ! 私っ! せーので合わせてっ!」
「わかった私っ! オリジナル技で倒すよっ! ダブル──」
(そうだ……近づけ……最高の攻撃を俺に繰り出してみろ……。100の鋼鉄兵を仕留め、銀色目玉のレジェンダリ防具をも貫通した……最強のカウンター技、【絶壊崩爪】でブッ殺す)
「嬢ちゃん……アンタが『カヴァーチャ』よりも硬いのか……試してみるかい……!」
サニーの両刃が交わる刹那──
ブシャァァッ!!
──鮮血が、辺りの水面を朱に染めた。




