異常事態
「そ、そんな……間に合わなかったなんて……」
バチャリと水面に膝をつき落胆するサニー……。
バニング達に先を越された……!
僕も、全く同じ絶望感に包まれた。
……。いや、待て何かが……おかしい。
「……! サニー、このモンスター……何か違和感が無い?」
「えっ? うーん……大きいワニさんで……鱗が剣みたいに長くて鋭いね」
剣の様な鱗のワニ……コイツは確かソードメイル・クロコダイルと言う名のモンスター……僕の知りえる情報の中では番人クラスに間違いない敵だ。
僕は、その亡骸に近づいて観察してみた。
「……バニングは自分の事を『炎帝の申し子』って言ってたよね? 炎系の魔術士に違いない。……なのに死体には火傷の跡ひとつ見当たらない」
「! 確かに! よ、よく見たら傷跡も大きいし……あの人達が持ってた武器の、どれとも当てはまらないよ!」
バニングと青い髪の女性は術士、もう1人の女性は弓師、黒いスキンヘッドの重戦士は戦鎚……。
目の前の亡骸は首筋には、槍で貫かれた様な痕……胴体には大剣による強烈な斬撃が数カ所……そして、よく見れば傷跡からの流血は止まっている。……つまり、討伐されてから結構な時間が経っている事が分かった。
しかし、一体……誰が……? バニング達が来るまで他にパーティなんて居なかったはずだ。
「ねぇ! あっくん! あの滝の間にあるのって……!」
サニーが指差す方を見ると『黒い円』が空間を歪め、滝を裂いていた……。
「僕も、初めて見るけど……おそらくアレが異界の門だ……!」
「「グルァァァァァァア!!!」」
大気が振動し、鼓膜が破裂しそうな程の轟音が響く……!
「うっ……!?」
「なっ、なんの声っ!?」
黒い円の中から、巨大な爪が見え……そして尖鋭な牙を持つ双頭の大狼が姿を現した……!
まさに異形……!こんなモンスター、見た事も聞いた事も無い……!
そして、僕は分かった……ソードメイル・クロコダイルを仕留めたのはコイツだと。この鋭利な牙で喉元に食らいつき、凶悪な爪で引き裂いたのだ。
番人を喰らう番人……?そんな事が有り得るのか……?!
……バニング達が言っていた……「こんな場所で災禍が起きるはずが無い」と……。あれが本人達の言い訳では無く、本当にそう思っていたのだとしたら……。
それならば鍾乳洞奥地にて現れ始めた格段に強い敵にも説明がつく。……つまり農村区に現れたモンスター達は、ダンジョン内で繁殖したんじゃない。〝新たに現れた、より強力なモンスター達により住処を追われて噴出してきた〟んだ。
「「ガァァアッ!!」」
飛びかかってくる、双頭の大狼。僕は瞬時に指示を出した。
「! ワニを盾にして後退!!」
ソードメイル・クロコダイルを壁にしつつ、僕とサニーはバックステップで素早く後ろへ跳ぶ。その一瞬の間に魔法ショートカットによる【重装騎兵】の攻防速の三重強化と【自然治癒力上昇】を互いに付与完了する。
グシャァアッ!!
双頭の大狼の突撃によりソードメイル・クロコダイルの亡骸は真っ二つに引き裂かれ、剣状の鱗がバラバラと宙を舞い水面に突き立てられていく……一瞬でワニの巨体を破壊するなんて……凄まじい攻撃力だ。
僕はサニーに、「二手に分かれて挟撃する」と指でサインを送り彼女は頷いた。
左右に分かれた、次の瞬間……。
バギャァ!!
双頭の大狼の爪撃により打ち上げられ、僕は空中に身を置いていた……。全く迷う事なく僕を狙って来たな……まさか、術士から潰すという戦術的判断をしたのか?……それは僕の杞憂だと思いたい。
いつぞやのマンティコアに打ち上げられた時とは違い、僕の身体に爪痕は無い。出来得る限りの最高防御補助は伊達では無いという事だ。
自身の成長を実感しつつ、鍛練棒を力強く握りしめて……目標の脳天に全力で叩きつけた!!
ゴッッ!!
「グルァァ?!」
片方の頭が地面に沈み、水飛沫が上がる。僕は深追いはせずに、距離を置きながら棒を構えた。
「グル、グルル……グルァ」
「グ……。ゴガァ、ガァァ!」
双頭の大狼は、頭同士何かを話し合っているように見えた。……最初の攻撃で、僕を仕留め切れなかったのが意外と言った感じの会話をしている……何となくだが、そう感じた。
「「グルァァァァ!」」
疾風の如きスピードで迫り来る大狼。
は、速いっ!……防御も反撃もする事が出来ずに、僕は繰り出される攻撃を食らい水飛沫を上げバウンドしながら吹き飛ばされる。
更に追撃を仕掛けてくる双頭の大狼……しかし、ほぼダメージを受けていない僕は突撃に合わせて鍛練棒による反撃を食らわせる!
ブゥン!!
しかし、大狼の急旋回により反撃は空振りに終わる……!この巨体で、何ていう身のこなしを……?!
ガブゥゥ!!
大狼の『噛みつき』が僕に食らいつく……!締まっていく牙によりローブが少しずつ悲鳴をあげている様に感じる……、これは……ちょっとヤバいかも……!
「グルァ!! グァア!!」
「う、くぉぉ……!」
双頭の大狼は全身の力を顎に集中させ始めたのか、ローブからビリビリと不吉な音が聞こえてくる……何がなんでも僕を噛み砕くという強い意志を感じる攻撃だ……!
でも……相手を倒すという、強い意志を持つのは……こちらも同じ……!
「晴天の剣技──【陽炎の舞】」
瞬く間に双頭の大狼の両首が斬り落とされ、僕は噛みつきから解放される……。
僕が地面に降りるまでの数秒で『晴天の剣士』の舞いにより次々と切り裂かれていく大狼の身体……。そして最後の一閃……半月の刃が巨体を真っ二つに両断する。
「……ふぅ……。ごめんね、あっくん! お母さんから教えてもらった技はイメージと溜めが必要だから助けるの遅くなっちゃった……!」
申し訳なさそうに目を瞑りゴメンのポーズをするサニー。この可憐な美少女が今の技を放ったなんて、素性を知らない者なら信じられないだろう。
「いや、とんでもない。狼が完全に僕にしか意識が向いていない瞬間を狙った大技……見事だよサニー。君は僕が知っている中で最高の剣士だ」
「えへへ……褒めすぎだよぉ」
僕の言葉に照れるサニー……でも、褒めすぎなどでは無い。未曾有の強敵を即死させる見事な技……初めて会った時に大猪を葬った時以上の技を使えるようになっているのは彼女の成長そのものだ。
僕が補助で補えない才能をサニーは持っている。いずれは師匠と同じ……いや、師匠を超える人物になるかもしれない。……僕も頑張らないとな。
「よし、じゃあ……倒した証を剥ぎ取ろ……。 ?!」
双頭の大狼の死体が……消えている?!
「いやぁ……ビビったぜぇ。まさか、たった2人に『第一形態』が負けるとはなぁ」
「だから術士ばっかに構うなって言っただろーが。まぁ、次からは2対2だから関係ねーけど」
僕達は声のした方角を向き再び戦闘態勢に入る……そこに居たのは、二足歩行の狼……『人狼』の2人組。……死闘は、ここからって事か……!




