稼げない事情 向上する技術
まず1つ、モンスター素材の売却が出来ない。困った事に農村区には素材売却施設が無く、その上『農村区から主要区に行くには許可が必要』だったのだ。……大量に得ている素材は鍛冶場のオヤジさんの好意で倉庫に保管してもらってる状況だ。
次に……『クエスト成功報酬』を貰えていない。村の皆から食料は恵んで貰えているので飢えはしないが、『お金』は貰っていない。
これは村の人達が悪い訳では無い、クエスト斡旋業者は、既に村の代表者から依頼金を受け取っているはずなのだ。だから本来ならば、あの愛想の悪い受付嬢が僕達に成功報酬を渡さなければならない。
なのに、「正確に依頼したクエストでは無いから」とか「色々と事情がある」だの言って渡そうとしない……挙句には先日から所用で離れると書き置きをして村から姿を消した……帰ってきたら、また問い詰めなければ……。
主要区への『往来証明手形』も酒場で発行しないといけないし、サニーのステータスメニューを得るためにも今度こそは何がなんでも絶対に言う事を聞いてもらう……!
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─農村区 酒場『囁き亭』
酒場に顔を出すが、やはり受付嬢は居なかった……。僕はそのまま、厨房へと入る。
「アンソニーさん、野菜持ってきました。今日も、料理お願いしていいですか?」
「……構わない。そこに置いといてくれ」
酒場の厨房を1人で切り盛りする料理人のアンソニーさん。物静かだけど、食材を持ってくれば無償で作ってくれる、人の良い方だ。もちろん、料理の腕もピカイチ。
「……川を綺麗にしてくれたんだな。……これでまた魚が捌ける。……ありがとう」
「いえ、こちらこそ! アンソニーさんの魚料理が楽しみです!」
僕は厨房を出た後、酒場のテーブルにて周辺の地図を広げて思案する……この辺りの『ダンジョン化』は、どうにか防げたな。
今こそ普通の生活が送れている農村区だが来た当初は酷い状況だった……村の周囲がモンスターの巣窟だらけだったのだ。僕達が掃討を行うのが1日遅れていたら間違いなく『災禍』が起きていただろう。
そして、モンスターの発生源たる本命ダンジョンも特定出来た。『ジェラルド鍾乳洞』……明日から本格的に攻略するとしよう。
──そして、夕暮れ時になりサニーも「おなかすいたー」と言いながら酒場へ合流。2人で、瑞々しいサラダと鶏肉のソテーに舌鼓をうつ……サニーは何やら他にもデザートを注文して食べている。
「ねぇ、あっくん。いつも鶏肉とサラダしか食べないの何で?」
「マッソーさんって筋肉先輩に教えて貰った食事なんだ。筋肉がつきやすくなって……」
「もー! ダメダメ! 好き嫌いせず、いっぱい食べなきゃ! はい! 甘いものも食べて!」
「や、やめてくれ! 甘い物は敵なんだ! む、無理矢理は、やめて……あむ……むぐ」
……食事を済ませてからは、食後の運動がてら村の周囲をモンスターがいないか見回り。その後は日課の筋トレを2人で励む……ここ最近のルーティンだ。
「よし、あとは薬の調合を済ませようかな。サニーは先に寝てて」
「わ、私も手伝う! 役に立ちたいの!」
「気持ちは嬉しいよ、ありがとう。でも、サニーは『戦士』なんだ。僕達パーティで身体を張ってくれている……だから、しっかり寝て体力を回復させるのも仕事の内。気を遣う必要は無いんだよ」
「う、うん……分かった! じゃ、おやすみ……また明日ね」
サニーは小さく手を振り酒場の寝床へ向かった。
僕は薬屋の主人から借りた小屋で、集めた薬草を調合……【調合】スキルは持たないものの【集中力強化】と【感覚鋭敏化】の補助で、ポーションを作成していく。……実際の使用前に補助をかけるので効果は店売りに負けないはずだ。
……つくづく、自分の補助魔法は万能だと思う。傲慢では無く……これから出会う魔術士達に負けない熱意を込めた想いだ。
師匠の凄さに恥じない『世界一の魔術士』になってみせる。
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─農村区周辺 小川
全ての用事を済ませた僕は、誰も居ない川へやってきた。そして、川辺に落ちている小石を拾う。
いつも寝る前に必ず行う事……魔力を枯渇させる為の【全開放】の実行をする。
小石に魔力を集中……今だっ!!
ズガァァアアッ……ダァァン!!
投げた小石は川を裂き、川底を露わにした。ぶつかった先の大岩は粉々に砕け散る……凄い威力だ。
しかし、威力は素晴らしいとは言え……魔力効率から言えばサニーに強化補助をかけた方が成果は上だろう。……そろそろ『数値の向上以外の技術』を研究してみるか。
僕は師匠の前で見て以来のステータスメニューを開いた。さて、農村区での健闘の成果は……?
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魔力 500→700
消費可能量 400→600
【補助の探究者】がレベルアップ。
【補助の探究者】<レベル3>
補助魔法の消費魔力、30パーセント軽減。
補助魔法の効果 30パーセント上昇。
補助魔法の効果時間 30パーセント延長。
『補助魔法ショートカット』習得。現在2つ設定可能。
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うん、ステータスは順調に上がっている!……『補助魔法ショートカット』って何だ……?メニュースクロールに触れると説明が表示された。……凄い。設定した魔法は印を結ばなくとも念じれば発動するのか!
2つか……。可能な範囲での最強補助【重装騎兵】と回復に使える【自然治癒力上昇】をセットしよう。
また強くなった実感を胸に眠りにつこう。……いずれ近い内、サニーにも同じ気持ちを味わわせてやりたいな。
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──そして、2日が過ぎ……僕達は『ジェラルド鍾乳洞』を攻略していった。大量のモンスターが居たものの、村を行き来しながら最奥部近くまで進行する事に成功した。
─農村区 酒場『囁き亭』
昼食を済ませ、サニーと共に僕は最後の攻略を考えながら荷物を整理していた。
「いよいよ大詰めだね! 1番奥の敵……『番人』は今までとはレベルが違うくらい強いよね、多分」
ダンジョンの最奥地に居る異界の門を守りし番人……倒せばモンスターの繁殖は抑えられ農村区に迫る危機が回避できる。
「そうだね。さっきまで戦ってた奥地の敵は相当手強かった……さらに上と考えた方が良い。準備を怠らず万全で挑もう。……僕も番人と戦うのも異界の門を閉じるのも、初めてだから緊張するけどサニーとなら上手くいくはず」
「うん! そうだね! う〜……私も緊張してきた〜……。よーし、頑張るぞ〜!」
本来なら異界の門付きダンジョンは複数パーティで攻略するのが普通だ。俺達2人だけで、ここまで攻略するのは相当に苦労したと言える。
だけど異界の門を閉じたパーティはダンジョンを制覇した証としての名声と共に異界の門消滅の際に発生する『レアアイテム』が手に入ると言う。……頑張った分の報酬を得る為にも必ずクリアしたい。
緊張と期待を胸にサニーと出発しようとした、その時……。
カランカラン。
……ついに、あの受付嬢が帰って来たのだ。しかし、こちらを見ようともせず、入り口の横に立ち神妙な顔をしている。
「バニング様、遠路はるばる御足労感謝致します。相変わらず貧相な酒場に御座いますが、こちらへどうぞ」
受付嬢は、普段の失礼極まり無い態度とは別人の様な丁寧さで誰かを酒場に招き入れた。
現れたのは豪華絢爛なローブを羽織った、容姿端麗な赤い髪の男……。
「ん〜。久々に帰って来たけど、僕には似合わない汚い場所だよねぇホント」
久々……? 一体、何者なんだ……?




