農村区奮闘戦記〜万能補助魔法【戦闘編】〜
大猪を倒してから数日、あれから僕とサニーは順調に農村区のクエストを熟していった。
今日は農村区に流れる川を汚染しているモンスターを駆除する為、森を進み水源へ到達……僕達は二手に分かれて戦闘を開始していた。
─ジェノの森 滝の流れる湖畔
「グギェ!」「グギギ!」
川を挟んだ対岸から武装したゴブリン達が弓矢と投石を一斉に放ってくる。……この数は避け切れないな。
「【不壊の衣】!」
強烈な速度で向かってきた投石と鋭利な矢は全て魔術士のローブが防ぎ、その場に落ちていく。
補助魔法によりローブを強化、さらに持続時間を『10秒』と限定する事により防御力を爆発的に上げる事が出来た。僕自身はもちろん、ローブにさえも傷が付いていない。
僕は、日々の鍛練による魔術のコントロール上達を実感しながらフードを脱ぎ次の呪文を発動する。
「【跳躍力強化】」
助走をつけたジャンプ、脚力のみの限定強化により大跳躍し川を飛び越していく……そして空中で印を結び……。
「【重装形態】」
呪文を発動しつつ着地。
「ゲギャァ!」
すかさず飛びかかってくるダガー二刀装備のゴブリン。
バキャァ!
だが、それは鍛練棒による薙ぎ払い一撃によりゴブリンごと砕き落とす。
味方を瞬殺されたゴブリン達は、僕を囲み始めた。
「ゲギ!」「ゲゲッ!」「ギギッ!」「グゲッ!」
残り4体……同時に来るつもりだな……!
「来るなら来い! うりゃぁぁっ!」
【棒術】を含む戦闘スキルが無い僕には、華麗な棒捌きによる効果的な攻撃も技も無いが、【重装形態】による攻防重視強化によるゴリ押し戦法でゴブリン達を圧倒。
砕く、吹き飛ばす、叩き潰す……あっという間に戦闘終了。……上流のサニーは順調だろうか、【走力強化】で助太刀に向かう。
♦︎
「とぉりゃぁぁっ!」
上流の湖畔に着くと、そこには戦闘中のサニー。……だがそれ以上に目を引いたのは、そこら中に転がり浮かぶ『ポイズンフロッグ』の死体群。10体以上の数をサニー1人で倒している……。
【突撃形態】で強化してるとはいえ、毒液にも当たらず完全勝利しているのは流石としか言いようがない。彼女は数日の間にも関わらず、目まぐるしい成長をしている。晴天の宝剣を補助無しで抜ける日も近いだろう。
ちなみに今サニーに、かけている【突撃形態】の能力強化倍率は平均して『約5倍』で効果時間は『1日』。
……あの大猪で発動した補助魔法は、おそらく『30倍』は強化していた……現在のサニーに再び使用したら、どれほどの強さになるのだろう……恐ろしいな。
「ぬぬぬ〜……! コイツ硬いよ〜っ!」
サニーが相対してるのは頑強な甲殻を持つモンスター『アロウヘッド・キャンサー』……見た目からして、湖畔を汚染している元締めかな。斬撃は相性が悪そうだ。
「サニー!! これを使って!」
僕は鍛練棒をサニーへ投げる。
「あっ! あっくん! ありがとーっ! 使わせて貰う……よっ!」
回転する鍛練棒を見事キャッチしたサニーは、受け取った勢いに乗せたまま攻撃を仕掛ける……同時に俺もサニーへ【重装形態】を『重ねがけ』する。
「とーりゃとりゃとりゃとりゃぁぁっ!!」
目にも留まらぬ重撃の嵐でアロウヘッド・キャンサーの甲殻を瞬く間に破壊。
「ギチギチ……!!」
追い込まれたアロウヘッド・キャンサーは巨大な爪を開き捨て身の攻撃を仕掛ける……!
「見切ったぁ! 【カウンタースラッシュ】!」
だが、渾身の攻撃はサニーの見事な返し刃により先制をとられ……アロウヘッド・キャンサーは〝三枚おろし〟にされる。
すると、濁った湖畔は徐々に美しさを取り戻していき繋がる川に清らかな流れが戻っていく。
「やったね! サニー、お疲れ様っ!」
「うん! あっくんも、お疲れ様っ!」
互いに成功を喜びハイタッチをする。
「これで村の人達も、安心して作物が作れるね! ……これで、お腹いっぱい食べても大丈夫……じゅる」
ヨダレを垂らして彼方を見るサニー。彼女は見た目からは想像つかないくらい食べる、中々の食いしん坊さんなのだ。こないだ倒した大猪の肉も、相当な量を1人で平らげてたな……。
「そ、そーだね。……じゃ、念の為に湖畔の周囲にモンスター避けの薬草を生やしておこう……【成長促進】」
主にゴブリン等が嫌う匂いを放つ草へ補助をかけて自生範囲を拡大させた。効果時間は『3日』あれば充分な量に成長するだろう。
「サニー、まだ戦えるかい? まだ昼過ぎだから、このまま森のモンスターも掃討しよう」
「オッケー♪ 全然疲れてないから、まだまだいけるよー」
「うん、【スタミナ回復上昇】が効いてるみたいで良かった」
「えっ! あっくんの魔法のお陰だったんだ!? どーりで汗いっぱいかいても元気なんだね」
「非戦闘状態になると急速回復するように設定した魔法なんだ。栄養のある食事とか睡眠をしっかり取ってないと効果が薄いんだ。だから、まだまだ改良の余地あるけどね……。今、【嗅覚強化】を使って敵の住処の方角が分かった。あっちへ行こう」
「了解っ」
サニーは可愛らしく敬礼して、僕と共に森へ進行開始した。
♦︎
補助魔法により『五感』を強化する事により、モンスター達に奇襲をかける事に成功。俺とサニーは挟撃によりオークとゴブリンの集団を殲滅した。
「よっし。これで、また村への脅威が減ったな」
「……あっくんってさ、魔術士だけど戦士みたいにガンガン戦うの凄いよね〜」
「うん、敵をワンパンKOできる魔術士目指してるからね」
「あははっ! もうそれ魔術士じゃないよ〜!」
サニーは笑いながら、まさに僕が師匠に思った事と同じツッコミをする。
魔術の鍛練も続けてはいるが……僕の戦闘スタイルは、どんどん魔術士から離れていってる気がする。
「ち、近づかれたらオシマイの魔術士は三流、一流の魔術士はパワフルじゃないといけないんだよ……って、師匠が言ってた!」
「そうなんだ! 魔術って深いね!」
満面の笑みで納得してくれるサニー。ああ、サニーがサニーで良かった。
……ふと、師匠の事を思い出す。今、どんな旅をしているのだろうか……。
♦︎
──とある峠でアライズの師匠は、凶悪なモンスター『キマイラ』と対峙していた。
「【串刺しの槍】」
虚空より現れし巨大な3本の槍がキマイラを貫く。
「ギャオォッ!!」
「【爆破】」
女性が指を鳴らすと全ての槍が爆発を起こし、キマイラの身体を内外同時に破壊し、バラバラにした。
「はぁ〜……マンティコアといい、キマイラといい物騒なのが闊歩する世界になったのねぇ……」
女性が溜息をついていると、地面に落ちたキマイラの首の1つ、山羊頭が喋り始めた……。
「……その顔……その強さ……その胸……! 貴様、ウルティマかっ!? まさか蘇るとは……!? いや、それより! 妾の作品を殺しおって! 大魔王とて容赦はせん! このリリィ・カ……」
ドゥン!
『ウルティマ』と呼ばれた女性は、話を遮る様に山羊頭に光弾を放ち破壊する。
(……はぁ〜。せっかく、ゆっくりと旅を楽しみたかったのに、メンドクサイ奴に見つかっちゃったわね……)
頭を抱えるウルティマに中年の男性が話しかける。
「あ、あの〜……オラを助けてくれてありがとなぁ。ホント助かっただぁ。オラ、この近くで民宿レストランやってんだが、良かったら来ねえか? お礼に安……」
「えっ?! 助けた御礼にタダでご飯つきの宿泊させてくれるの!?」
「えっ……? いや、安く……」
「あ〜ん♡ お兄さん、ありがと〜♡」
「えっと、ああ……タ、タダで良いだよ……///」
「やったぁ〜♡ さっ、案内して〜♡」
デレデレと鼻の下を伸ばす中年男性に寄り添うウルティマ……。民宿へと歩いていく彼女は一抹の不安を感じていた。
(アイツが生きてるって事は……四天王も生きてるかも……よね。う〜ん……もし、誰か1人でも暴れ出したら……世界、滅びちゃうわね)
ウルティマは空を見上げる。
「アライ君……頑張って生き残るのよ。貴方なら大丈夫って、信じてるわ」




