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制裁と躾

 「はぁ……?!」


 突拍子も無いスクエの発言にザッカスは戸惑う。無理もない、大魔王は御伽話に登場する空想の存在なのだから。


「お前……馬鹿だろ?」


 ザッカスは率直な感想を述べた。おそらく、彼に限らず同じ言葉を返す人間は少なくは無いだろう。


 ダァン!


「ぐぁっ!」


 スクエは掴んでいたザッカスの頭を床に叩きつけた。


「ザッカス君、立場が分っとらんようやな。これは『躾』が必要やね」


 スクエは立ち上がり、指を鳴らす。


「ぐぁぁっ……おえぇ……ぐぅぅ」


 悪霊が再びザッカスの身体を蝕む……頭痛、吐き気、ありとあらゆる不快感が襲いかかる。


「その状態のまま、部屋を綺麗にするんや。隅々まで、ちゃんと……な。ボクが戻るまでに出来てなかったら『制裁』を加えるから、そのつもりで頑張ってや。ほな」


 そう言い残してスクエは部屋を去っていった……。


♦︎


 それから数時間後……ザッカスは部屋の掃除どころか身体を起こすのでさえ精一杯であった。


「あ、あの……ゴミカス……必ず、殺してやる……」


 恨み言を呟きながら部屋のドアを、ゆっくりと目指す。


 すると、ザッカスが到達する前に誰かが部屋へ入ってきた。スクエが帰ってきたと思い、警戒するザッカス……。


「おう……ザッカスか」


 入ってきたのはリンタルとネチカル……今のザッカスにとって彼等はまるで、死地に馳せ参じた聖騎士達であった。逆転の兆しが見えたザッカスの表情は一気に明るくなる。


「お、お前らっ! あのカス……スクエを今すぐ殺しに行くぞ!! とんでもねぇクソ野郎なんだっ!」


「ああ……。そうか……」

「…………」


 いつにも増して気の無い返事をするリンタルと終始無言のネチカル……。


「お、オイ! まさか……お前ら……」


 ザッカスは、勘づいてしまった……彼等も自分と同じ立場にあるのではないかと。


「3人で何話してるん? ボクにも教えてーや」


 音も気配も感じさせず現れたスクエ。彼はリンタルとネチカルの肩に手を回し、両者の間から顔をだす。

 

 リンタルとネチカルは、スクエに肩をポンポンと叩かれても、怒らず反抗せず……只々、下を向いていた。それを見たザッカスは確信してしまう……。

 

「リンタル……ネチカル……う、嘘だろ……オイ」


 彼等2人も、既にスクエによって脅されているのだと。


「……何話してたか聞いてるんやけど……。なぁ?」


 スクエは細い目を開き、ネチカルに圧をかける。


「……ザ、ザッカスがスクエ()()の事を殺すって言ってました」


「ネチカルっ……テメェ……」


 ザッカスはスクエの下僕と成り下がったネチカルに怒りを覚える。


「はぁぁ〜……ザッカス君……キミって奴はホンマに……。うわぁ〜! しかも、部屋全然片付いてないやないか〜い! ……これはキッツイ『制裁』せんとなぁ」


 スクエは、再びネチカルの肩をポンポンと叩く。


「ほな、ネチカル君。まずはキミの電撃魔法をザッカス君に、お見舞いしよか」


 ネチカルは言われるがままにザッカスに手を(かざ)す。


「や、やめろ! ネチカル、目を覚ませ!」


「……悪りぃ、ザッカス」


 ザッカスの制止も虚しく、電撃が放たれる。


「ぐぁぁあっ!」


 電流が身体を巡り、ザッカスは膝をつく。


「ちょっとちょっと! アカンわ、ネチカル君!」


 スクエの発言に、えっ?と返すネチカル。


「そんなショボい電撃でやれなんて、誰が言うたん? こんなん友達同士の『じゃれあい』やん……。ちゃんと、しっかり詠唱したゴツい魔法頼むわ」


「えっ……そ、それは流石に……」


「そっか、言うてええんやな? じゃキミが皇太子の嫁さんに手出して挙句には……」


「わ、わかりました! や、やります! ……雷の獅子よ、我が名に従い──」


 迸る雷撃がネチカルの手に集まり獅子の頭を成していく。


「や、やめてくれ! ネチカル!! ネチカル!! その術は……!!」


「【ライトニングファング】!」


 獅子の形をした稲妻が、ザッカスに飛びかかり全身を焼き尽くし……噛み砕く……!


「ぎゃぁぁぁぁ!! うぎぁぁぁぁ!!」


 黒焦げになったザッカスは、仰向けで倒れる。【金剛虫の守護】が有る為に死ぬ事も出来ず全身のダメージで余計に苦しむ羽目になっている。


「うっわ〜……エグ〜。肉と骨が焼ける匂いが部屋中に広がっとるわ。じゃ、次はリンタル君の番やで。ザッカス君の顔面を床にメリ込むくらいの力で全力パンチや」


「も、もう充分じゃないのか? ザッカスは死体も同然だ」


「ちゅうことは、キミの代わりに()()()がボクの玩具になってくれるんかいな?」


「……い、妹は、妹だけは巻き込まないでくれ」


「じゃあ、さっさと言われた通りせんかい木偶の坊(でくのぼう)。顔の中心、ココ目掛けて頼むわ」


 スクエは自分の鼻をトントンと指し示す。


 リンタルは、倒れるザッカスの真上に立ち……鋼鉄のガントレットに包まれた拳を大きく振り上げて構える。


「リ……リンタ……ル、や……やめてくれ……た、頼む……頼む……」


「……すまん」


 バキャァア!!


「うぶぅぐぅぅぅ!?!」


 ザッカスの顔面と床板が割れる音がした。顔面から、ゆっくりと離れる拳にはベットリと血が付いていた。


「がぱっ……ぐぺぁ……」


 鼻が横向きに曲がり、顔面の骨が砕けるザッカス……【金剛虫の守護】は、完全に死に至る前の最低限までしか治療されない……誰かが回復してくれない限り、延々と苦しむしかないのだ。


「リンタル君、ネチカル君。今のザッカス君を見てどう思う?」


 問いに対して2人は沈黙する。


「惨めやろ? でも逆らったらキミら2人も、こうなんねん。それを覚えといてな。……で、次からは()()()()やから。互いを、しっかり監視するんやで?」


「「……はい」」


 2人は、震えながら返事をする。


「が……ペッ……く……クソがっ……」


「あーあ……。ザッカス君、言うた側から悪態ついて……次は、どう制裁しようか……」


 ガチャ。


 その時、新たな訪問者が現れた。


「こりゃ……どういう状況だ?」


 瞬塵の死神……ラッシュ・スピンアウトである。


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