悪人喰らいの悪霊
その言葉が耳に入ったと同時に激怒したザッカスの拳がスクエの顔面めがけて飛んでくる……が、拳は顔には当たらず何も無い壁を殴っていた。
「……っ!?」
「いきなり掴むなや〜……。手にクソが付いてると思てビックリするやないか、クソ漏らし」
つい先程まで自分が掴んでいた相手が悠々とソファーに座り喋っている。
その状況が理解出来ないザッカスは困惑した……が、スクエの馬鹿にしたような態度に怒りが収まらず猛り叫ぶ。
「テメェ……! 誰がクソ漏らしだぁ?!」
「いや、キミ以外に誰がおんねん。アホちゃう? あー……そうか。お得意の火消し工作が成功してると思てんの? あんだけ衆人環視の中やらかしたら、キミお抱えの偉いさんが頑張っても無理やで。フツーに考えーや」
何もかも、お見通しなスクエの言い方に驚き、言葉が止まるザッカス。……スクエは立て続けに語った。
「ちなみに君らを汚物まみれにしたんは、ボクの力なんやけどね」
その発言にザッカスは戸惑う。
「はぁ……? テメェみたいなゴミカスに何が出来るって……」
「ボクは【悪霊使い】の力がある……ボクの持つ能力の一端やけどな。で、キミら3人には『復讐の怨霊』を憑けさせてもらったわ。あらゆるトコから怨み買ってるキミらには最適の悪霊……」
「殺す!!」
スクエの自供を言い終わる前にザッカスは剣を抜き、襲いかかる。
パチン。
が、しかし……スクエが指を鳴らすとザッカスは、その場に手をついて跪いた。
「う……ぐぉぉっ……き、気持ち悪ぃ……」
「話は最後まで聞きーや。…… その憑き物が怨みを食い尽くし、満足するまでキミらはずっと苦しみ続ける。『復讐の怨霊』は怨みがデカい程、凶悪な悪霊と化すねんけど……ここまで巨大なんは初めて見たで。キミ嫌われ過ぎやろ」
「く、くそがぁぁ! う、うぐぇぇ……!」
「おいおい、吐かんといてや……。後で自分が掃除すんの大変になるだけやで? しゃーない、少し悪霊を抑えてやるわ。ボクに感謝せーよ」
スクエが指を動かすとザッカスに憑いた悪霊の力が、弱まっていく……。
「て、テメェ……こんな事して、タダで済むと思うなよ……!? 兄貴に頼んで殺してもらうからな……!」
「はぁ……ええ歳こいて、お兄ちゃん助けて〜……とか……。キミ、正直ダサいで?」
「強がっても無駄なんだよ! テメェみたいなゴミカスは歯向かった時点で詰んでんだ! 身の程を弁えろ!!」
「あーそうですか。別にエエよ。お兄ちゃんにボクの事、話しても。その代わり……キミがコソコソ使ってる〝おクスリ〟の事も、大々的に公表させて貰いますわ」
スクエの発言を聞き……ザッカスの表情は凍りつき冷や汗をかいた……。
「なんで、知ってやがる……?!」
「ボクを、下層に住むタダの兄ちゃんやと思た? 違うんよなぁ……結構ボク顔広いし、情報通やねん。『マインドキル』を下層の売人から買ってるんやろ? しまいには売人の指示通り、わざわざガラヒゴ山まで原料採りにいって……立派な依存者やな」
マインドキル……強い興奮作用と精神肉体両方に高い依存性を持つ薬……いわゆる『麻薬』である。庶民の間で流行してしまい、最後には滅んでしまった国も存在するほど危険な代物であり大陸全土で製造と売買が禁止されている。
その違法薬物にザッカスはハマってしまっていた。ガラヒゴ山のクエストも……下層へ行き、アライズやスクエをパーティに引き入れるのも全て、マインドキルを得る為の『ついで』だったのだ。
ザッカスは、格下だと思っていた相手が自分を追い込んでいることに対し、心が煮えたぎるほどの怒りを……そして、スクエの得体の知れなさに焦りを感じつつあった。
(俺が、こんなゴミ雑魚に負けるわけがねぇ……! 落ち着け……毅然とした態度で対処すればローエンド家に刃向かえる奴なんて居ねぇんだ。弱みを見せなきゃ、こんな奴……!)
「マインドキルをキメてるからなんだってんだよ、ゴミカス。俺はな、殺人だって犯してきたが、罪に問われねーんだ。わかるか? テメェらゴミとは存在そのものが違うんだよ! 俺に脅しは通用しねぇ!」
ザッカスの啖呵を聞いて、スクエはキョトンとした顔をする。
「何、黙ってんだコラァ! ああっ?! 俺の持つ規格外の権力に平伏せ、ゴミカス!!」
「……ッ。ププ……ナハハハ!!」
スクエは天を仰ぐほど爆笑してしまう。
「何笑ってんだ、オイ! 頭おかしくなったか?」
「ナハハ! ゲホッ。ゲホッ……。あー……オモロ。頭おかしいのはキミやろ。何故〝マインドキルがローエンド家にとってタブー〟なのか知らんとは……無知は罪やなぁ」
「は……?」
そのタブーに関して一切の心当たりが無いザッカス……次は自分がキョトンとしてしまう。
「ええか? そもそもカンパニーが超巨大ギルドに、なり得たのはラシントン国王からの寵愛とも呼べる、ごっつい助成金があるからや。……それは何故か? その昔、マインドキル蔓延による国家存亡の危機をカンパニーの創始者、若き日のバルカス・ローエンドが救った背景があるからや」
バルカス・ローエンド……ザッカスは、今は亡き父の名が耳に入った瞬間……全身が凍りつき、血の気が引いた。
「……まぁ、今でも下層にマインドキルが密かに流通しているっちゅう事は、完全な封じ込めや殲滅では無く国王とバルカスの間に何やら黒いやり取りがあったんは想像に易いわな……ま、そこは割愛や。……とにかく、ローエンド家の血筋……しかもバルカスの息子がマインドキルのヤク中でした〜……と。いやぁ、父ちゃんがあの世で泣いとるで。……で、キミはどーなると思う?」
ザッカスは黙り、下を向く。スクエはザッカスに近づき腰を下ろして話を続ける。
「急に元気無くなったやん。こっからが本題なんやから元気出してくれよ。……ローエンド家のドラ息子がマインドキル依存者と世間に知れれば、国王は怒りローエンド家は没落……そしてカンパニーへの助成金も打ち切られギルドは破綻。キミは一族没落の大戦犯……最低の面汚しとして、死んだ方がマシの悲惨な生涯を送るやろうなぁ」
「う、ウソだ……全部ハッタリ……だ。それに、か、母さんと兄貴に頼めば、何だって、出来んだ……! 揉み消せる……揉み消してやるぁ!」
震えた声で、反論にもならない言葉を返すザッカス。
「クソ漏らしの失態さえも封じれんのに揉み消せるんかいな? ……ま、ウソやと思うなら試しに家族崩壊させてみたらえーよ。もしかしたら莫大な資産や権力より、しょーもない末っ子を選ぶハートフルストーリーに発展するかもしれへんしな」
ザッカスは頭の中で想像した……母は権力に、兄は金に取り憑かれている……それを捨ててまで家族が自分を選んでくれると言い切れるという絶対の自信は、無かった。
「す、スクエ……テメェ、何が望みだ? 金か? 女か?」
完全に追い込まれたザッカスは、取引を匂わす言葉を囁き始めた。
スクエは、そんなザッカスの髪を掴み顔を上げさせる。
「ぐあっ……!」
「ザッカス君、ボクと交渉しようなんて生意気やで。キミから欲しいモンは勝手に搾り取らせて貰うから、要らん事言わんでええねん」
「お、俺を……どうするつもりだ……」
「せやなぁ……折角、カンパニーに招待してもろたんやからキミらを利用して、このギルドの全部を貰おうかなぁ。ボクのサクセスストーリーの第一歩として相応しいわ」
「はぁ……無理に決まってんだろ……?!」
スクエは目を見開き、妖しく笑う。
「出来るって。だってボク、大魔王になる男やし」
【補足】
ザッカスがマインドキルに関してローエンド家の功績について知らなかったのは、本人の無知さ以外にも理由があります。
スクエの察しの通り、バルカスと国王の間にはマインドキルに関する『黒い密約』があり身内から情報を漏らさないよう一族にはマインドキルの功績を伏せていました。
なので『黒い密約』に関する情報はバルカス当人しか知り得ないまま彼はローエンド家を去りました。
後々の話で、語られる内容ではありますが
ザッカスが無知過ぎるので補足しました。




