下層の青年 スクエ君 登場
ー王都ラシントン 『下層』 貧民居住区
フード付きのマントを羽織ったザッカスは煌びやかな繁華街の路地裏を抜けた先の簡易的な関所を通り、地下へと降りる。
彼は新たな奴隷役を探す為、下層の人々が暮らす貧民居住区へと足を運んでいた。
下層の住人は水路として活用されている古代地下遺跡に廃材を集めて住処を作っていて、そこには生活排水や汚水が止めどなく流れてきており鼻を刺す匂いが充満している。
僅かな吹き抜け部分以外からは自然光が入って来ないので常に薄暗い淀んだ雰囲気に包まれていて、住んでいる人々の表情も生気が無い。
(相変わらず、クソみたいな場所だな。さて……用事を済ますか)
ザッカスは、しばらく貧民居住区を探索……そして、ある人物に目をつけた。
糸の様に細い目が特徴的な青年。彼は他の下層の住人と違い、笑みを浮かべ鼻歌まじりで悠々と闊歩していた。
(なんだコイツ……下層のゴミ溜めで上機嫌なんてイカれてやがる。背丈もサンドバッグにするには問題ねーし、コイツにするか。頭のネジが飛んでる奴の方が殴りやすい)
ザッカスは、焚き木で暖をとる初老と中年に声をかけた。
「オイ。お前ら、カネが欲しいだろう?」
袋に入った貨幣をジャラジャラと見せつける。
「ほ、欲しいっ……欲しい!」
「……なら、あそこにいる細い目の男をリンチしてこい。俺が止めろと言ったら消えろ。わかったな?」
ザッカスが貨幣が入った袋を男達に投げると、目を輝かせて受けとり……すぐさま糸目の青年へと走っていく。
後ろから殴られた青年は、倒れ……そのまま暴漢達に蹴られ続ける。
「……そろそろいいか」
遠目で傍観していたザッカスは、そう呟いて現場へ近づいていく。
「お前ら! 止めろ! その辺にしとけ!」
ザッカスは声をかけ、虫を払うような動作をして男達を散らして糸目の青年に近づく。
「オイ、お前。俺が助けてやったんだ。感謝しろよ」
白々しく声をかけると、青年は1人で立ち上がった。
「いやぁ〜……助かりましたわ〜! ホンマ、おおきに! しっかし、急に後ろから殴られてリンチとかビックリしますわ〜。全く、下層は油断ならん場所で参りますよ。ま、それがオモロいトコでもあるんやけどな」
(なんだコイツの喋り方……まぁ、どうでも良いか。どうせズタボロの奴隷にすんだ。最後には喋る事もできねーくらいにな……)
卑下な考えを表情に出さぬ様にしながら、ザッカスは上を指差し話す。
「助けてやったついでだ。俺の仕事を手伝え、上でな」
その提案に青年は驚きながら笑う。
「えぇ〜?! ホンマですか?! 助けてもらっただけやなく、王都で仕事させてもらえるなんて! アンタは神の使いですか? そしてボクは何てラッキーボーイなんや〜! もしかて明日死ぬんかいなボクは! ナハハ!」
(ゴチャゴチャとうるせー野郎だ……。テメェが死ぬのは、もうちょっと先だ。俺らが追い込んで追い込んで……それからだボケ!)
「アンタじゃねぇ。俺はザッカスだ。……ついて来い、身なりを整えさせてやる。そんなゴミみたいな格好じゃ、話にならねぇ」
「いやぁ、何から何までホンマにありがたいこっちゃ……。ボクの名前はスクエ言います。よろしくお願いしますわ、ザッカスさん」
──こうして、仲間として迎えられたスクエは、新しい服を身につけ新しい環境に身を投じる事になった。
街の酒場『せせらぎ亭』にてリンタルとネチカルに挨拶を済ませる。ザッカス達3人はスクエに逃げられない様に最初は表面上、暖かく迎えていた。
その様子を見た酒場の傭兵、ウェイトレス達は思った。「ああ、また奴隷を見つけたのか。可哀想に」と。
しかし、その考えは後に覆される事となる。




