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取り巻きと悪役令息、あとついでに主人公  作者: 京 高


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1 物語は佳境なれど男の人生は終幕を迎える

ご無沙汰しております。秋の企画参加のため急遽投稿です。

 王城より南、かつて城下町として大いに栄えた旧市街に複数の足音が響く。しかし、それに反応する者はいない。揉め事に巻き込まれまいとする自衛もあるのだろうが、そもそもそれらの音を耳にしている人間の数が少ないためである。


 街並みこそ維持され続けて入るが、長らく開発から取り残されてきたことから住む者が激減しており、半ば倉庫街のようになってしまっているのだ。

 人気(ひとけ)や活気という面では、外壁の向こうに広がるスラムの方がマシかもしれないほどだ。もっとも、あちらの場合は犯罪等の喧騒が大多数だったりするのではあるが。


 そんな旧市街で捕り物が繰り広げられていた。逃げる側は男二人。一人は豪奢な衣装の上に薄汚れた外套を羽織るというちぐはぐな恰好をしている。が、おかしいという意味ではもう一人も同じかそれ以上であった。なぜなら、そちらの男が身に着けているのは王都衛兵隊より支給された武具だったからである。

 つまり、本来追う側であるはずの人間が追われていたのだ。


「待て!もう逃げられないぞ!」


 先回りをしたのか、それともあらかじめ布陣していたのか、二人の前に数人が立ちはだかる。慌てて足と止めて振り返れば、追走してくる連中ももうじき辿り着く距離にまで迫ってきていた。


「くそっ!挟み撃ちか!」


 追い詰められた状況にちぐはぐな衣装の男が悪態を吐く。衛兵姿のもう一人は眼光鋭く周囲を睨み据えていた。

 迫りくる敵は揃いの装備で固めているが、その立派さや質は段違いだ。王城の警備や要人の護衛も務める騎士団のものなのだから当然の話だ。

 だが、だからこそ城下、特に放置されてきた旧市街についての知識が浅かった。なんと二人が立ち止まったすぐそばに、人一人がギリギリ通れるくらいの細い裏道が延びていたのだ。しかも追い詰めたと高をくくっているのか、そのことに気が付いている様子はない。


「ヴィルライヒ様、そこの路地からお逃げください」

「ぬ?わ、分かった。それではお前が先に――」

「いえ、俺はここでやつらの足止めをします」

「なんだと!?それではお前は僕にたった一人で逃げろと言うのか!?」


 二人の会話を訝しみながらも、騎士たちは絶対的な優位を確信しているのかじりじりと包囲を狭めるのみだった。後に起きることになる惨劇を目前にして「もしもこの時、その企みに気が付くことができていたならば……」と彼らは深く後悔することになる。


「申し訳ありません。ですが仮にここで逃げおおせたとしても、俺ではこの先ヴィルライヒ様の力にはなれないでしょう。家族を、妻と娘を質に取られてしまえば逆らうことはできない。……どうか、ご理解ください」

「!!……ちくしょう!くそくそくそくそくそがあああっ!!!!」


 胸の内にたまった悔しさを全て吐き出すように叫ぶと、ちぐはぐな衣装の男が踵を返して裏道へと逃げ込んでいく。


「んなっ!?」

「そんな所に道が!?」


 慌てる騎士たちに対して、衛兵姿の男は悠々と歩くと裏道を塞ぐようにして立つ。


「ここから先に進みたければ、俺を倒してから行くがいい」

「なぜなんだ、ペイジ・ケプゴスト!?どうして君はそこまでしてヴィルライヒを助けようとするんだ!?あの男はこれまで一度たりともその献身に応えようともしてこなかったはずなのに!!」


 衛兵、ペイジの行動に騎士の一人が疑問を投げかける。


「……その認識からして既に間違っている」

「え?」

「恩を受け、それに応えなければいけないのは俺の方だということだ」

「アビリテア家の庇護を受けたことかい?だが、君はその実家から縁を切られていたじゃないか!」

「己への恩恵が薄くなったからと言って、受けた恩がなくなるものではない」

「この頑固者の石頭め……!どうあっても僕たちの邪魔をすると言うのか!?」

「俺は己の信念に則って行動するだけだ」


 睨み合いに圧し負けたのは騎士の方だった。


「……総員抜刀!今この時をもってペイジ・ケプゴストを反逆者とする!」


 その言葉に仲間たちに動揺が走る。

 騎士による反逆者認定、それはこの国に居場所がなくなったことを宣言するものだったからだ。これによってペイジは生死を含めたすべての安全と権利と補償を失った。つまり、たとえ殺しても罪に問われなくなったのである。


 そして死闘が始まった。ペイジ一人に対して追ってきた騎士たちは総勢で七人。人数差だけを見ても勝ち目などあり得ない。誰もがそう考える、考えてしまった。

 勝利を確信してしまったことで騎士たちに油断と保身が生まれてしまう。しかも厄介なことに当人たちですら認目ることのできない心の奥深く、無意識の内に芽生えたものだった。しかし、身体は正直である。「こんなところで怪我をするなんて馬鹿ばかしい」というその思いは騎士たちの行動に如実に表れていた。

 精彩を欠いた動きでは連携もままならず、ペイジを倒すどころかあわや強烈な反撃を喰らいそうになる始末だった。


「こいつ、強い……!?」


 正確には実力を発揮できていない、要は自分たちが弱くなっているのだが、己の心の内を顧みる余裕すらなくなっている騎士たちは困惑するばかりだった。また、破落戸や酔っ払いが相手ではあるものの、ペイジが街中での実戦経験が豊富――例えば常に壁を背にすることで一度に戦う相手の数を制限させるなど――だったことも彼らの勘違いを助長させる要因となっていた。


「ぐあっ!?……し、しまった!?」


 大きく剣を跳ね上げられて体勢を崩す。がら空きになった胴体に一撃を喰らえば、仮に運が良くても重傷は免れ得ないだろう。死すら覚悟した騎士だったが、その時が訪れることはなかった。既にペイジは別の者へと攻撃の矛先を変えていたからである。

 なぜと疑問を覚えながらも、仲間が助けてくれたのだろうと無理矢理納得させる。未だ戦いの最中であり集中を切らせないためには当然の措置だ。また、ペイジも多勢を相手に無数の細かな傷を受けて血濡れになっており、止めを刺す機会を放棄するなど考えられない。

 結果、「手加減をされたのかもしれない」という予想は忘却されることとなるのだった。


 そうして七人の騎士を相手に半時も大立ち回りを繰り広げたペイジであったが、ついにその体力に限界が訪れる。


「これで!!」

「がはっ!?」


 鎧の隙間をぬって突き込まれた剣先は、右胸を貫き鎧の背中側にまで達していた。どう見積もっても間違いなく致命傷だった。

 よろよろと後退ることで血に濡れた剣身が抜ける。そのままおぼつかない足取りが止まり、崩れるように彼が座り込んだのはヴィルライヒが逃げ込んだ裏道への入り口だった。


「ふ……。時間、稼ぎは……、させてもらったぞ……」


 血まみれで凄みのある笑みを浮かべるペイジに、騎士たちが気圧される。そんな中でただ一人、戦闘前に問いかけた騎士だけは理解できないと(かぶり)を振っていた。


「なぜ、なぜなんだ……。ヴィルライヒが悪を成そうとしていることは明白だ。彼を止めることこそが正義の行いなのに」

「ふっ……。正義だけでは、救えない、人間も、いる……。それだ、けの、話だ……」


 刻一刻と命の火が消えゆく中、ペイジは空を見上げる。そこには降り注ぎそうなほどに多くの星が浮かんでいた。


「ジル、アンリ……。すまない、今夜は、帰れそうに、ない……」


〇取り巻き: ペイジ・ケプゴスト

 新興の男爵家の三男坊。「金で爵位を買った成り上がり」と揶揄されており、庇護を受ける寄親を求める実家の意向もあって『悪役令息』の取り巻きとなる。

 性格は融通が利かないレベルで生真面目。取り巻きになったことで悪い形――上からの命令は絶対服従――で現れることになる。


 『王立貴族学園』在籍時の悪行が響き、卒業後は『騎士団』ではなく『国軍』の『王都衛兵部隊』に所属することに。しかし噂が祟り勤務場所を転々とさせられ、実家からも勘当に近い形で断絶を言い渡されてしまう。

 その後、数年をかけて生来の実直さが評価されるようになる一方で、私生活では同じ新興貴族の四女と結婚して一女を設ける。


 しかしその幸せも『悪役令息』が起こした事件によって崩れ去る。彼を逃がすために追手である『主人公』たちと戦闘になり、足止めの役割を果たすも命を落とす。

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