第27話 おっさんの災難 前篇
「マサキ、お前そんなもんどこで買ったんだ?」
「いや……その……」
俺はいま、ムロンさんにmamazon装備一式をダメ出しされていた。
「どうして買う前にひと言いってくれなかった? そしたらオレだって――……」
それも、思いっきり。
俺が「でもこのグローブ、刃物だってつかめるんですよ」と言っても、「なに寝ぼけたこと言ってんだ」と言われしまい、まるで聞いてもらえなかった。
でも、
「このダガーはいいじゃねぇか、握りやすいし切れ味も悪くなさそうだ」
ナイフだけは褒めてもらえたぞ。
俺は小さくガッツポーズする。
「マサキ、お前はそんな装備で冒険者になるつもりなのか?」
「ま、まあ。いまのところは……」
「はぁ……しかたねぇな。ま、経験してきゃそのうち考えも変わるだろ」
「ははは……。すみません」
俺は頭をかいて苦笑いを浮かべた。
くっそー。mamazon装備じゃダメなのかー。
「それでマサキ、お前さん、今日はこれからなにするつもりだ?」
「ああ、それなんですけどムロンさん。俺、ムロンさんに聞きたいことがあったんです」
「おっ、なんだ聞きたいことって?」
「冒険者ギルドって、どこにあるんですか?」
「ってことはだ、これからギルドいって登録してくるつもりだな。いいぜ、ギルドの場所はなぁ――……」
冒険者ギルドへの道順を聞いた俺は、ムロンさんと一緒に家を出た。
なんでも、ムロンさんはこれから仕事を探しにいくつもりだったらしい。
「でもムロンさん、引っ越したばかりなのにもう仕事を探すんですね」
「あたり前だ。親父が無職じゃあ、リリアにカッコつかねぇだろ」
「ですよねー」
どうやら、異世界でも無職は肩身が狭いみたいだな。
日本よりずっと生きることが大変な世界なんだ。それも当然か。
「じゃあマサキよ、オレはこれから昔なじみのとこいって、仕事を紹介してもらうつもりだ」
「はい」
「冒険者ギルドはこの道をまっすぐいって、つきあたりを右にいきゃでっかい看板をぶらさげてる。見りゃわかるだろ」
「わかりました。教えてくれてありがとうございます!」
「おう。そんじゃ、またな」
「はい。また夜にでも」
小道にはいっていったムロンさんを見送ったあと、俺は冒険者ギルドを目指して道を進む。
言われた通り道を進み10分ほど歩くと、3階建ての建物が見えてきた。
入口のうえには、『冒険者組合』と大きな看板が掲げられている。
「うっわ~。緊張するなぁ……。し、失礼しまーす」
俺は緊張しながら冒険者ギルドの扉を開け、中へと入る。
冒険者ギルド内には、元アメリカンフットボール選手の格闘家、ボボサップみたいな体をしたひとがたくさんいた。
ボボサップたちの視線が、いっせいに俺へと集まる。
「失礼しましたー」
入ったばかりなのに、思わず回れ右して冒険者ギルドを出てしまう俺。
すっげー怖かった。
一度家に帰るか真剣に悩んでしまった。
でも、俺はこれから冒険者になるんだ。
こんなところで尻込みなんてしてられない。
俺は勇気を奮い立たせ、再び冒険者ギルドへ入っていく。
ムロンさんについてきてもらえばよかった、と若干の後悔をしながら。
中に入った俺は、顔を伏せたままあたりを見回す。
入口の正面には窓口があり、受付のひとが3人。
窓口の隣にある開けた部屋にはテーブルとイスが並んでいて、ちょっとしたカフェみたいになっていた。
俺は重たい一歩を踏み出し、窓口のひとつへ向かう。
窓口にはオレンジ色の髪をした、理知的な女のひとが座っていた。
「こんにちは。当ギルドへのご依頼でしょうか?」
ニコリと微笑んで聞いてくる。
歳は二十歳ぐらいかな?
ちょっとキツイ感じがする美人さんだ。
「あーっと、依頼じゃなくてですね。そのー、冒険者になりたいんですけど……」
「そうでしたか。これは失礼をしました」
窓口の女性は、咳ばらいをひとつしてから真面目な表情に変わる。
「冒険者ギルド、『黒竜の咆哮』へようこそ。わたしは受付のレコアと申します」
「これはどうもご丁寧に。冒険者志望の正樹です」
「はじめましてマサキさん。当ギルドで冒険者になるには資格試験が必要となりますが、ご存知ですか?」
たしかムロンさんがそんなことを言ってたな。
簡単な試験だからお前なら大丈夫だ、とも。
「はい。知ってます」
「そうでしたか。ですが規則ですので、一度ご説明させていただきますね」
「お願いします」
「では――……」
レコアさんが説明してくれたことは、ムロンさんから聞いていたこととあまり変わらなかった。
簡単にまとめると、冒険者の資格試験にはおカネがかかりますってことと、試験に落ちても返金されないってことがひとつ。
そしてもうひとつが、試験に合格したら冒険者の申請をするために、必要事項を記入すること。もし字が書けない場合は、レコアさんが代筆してくれるとのことだった。
試験に合格したらまたいくつか説明があるそうなんだけど、それは合格してから説明すると言っていた。
説明するだけしてもし不合格だったら、説明し損だもんね。
「以上となります。なにかご質問はありますか?」
「ありません」
「そうですか。では試験料の銅貨50枚をいただきます」
「はい。えーっと……じゅうの、にじゅうの……50枚っと。これでいいですか?」
懐からサイフ代わりの革袋を取りだした俺は、試験料の銅貨50枚をレコアさんに支払う。
「確かに。では次に、試験について説明してもよろしいでしょうか?」
「はい。お願いします」
俺は頷いて、レコアさんに先をうながす。
「当ギルドの資格試験は季節によって多少変わるのですが、いまですと『薬草の採取』が資格試験となります」
「ほー。薬草ですか?」
「はい。街から北に進むと森があります。その森で薬草を見つけ、持ってきてください。また、試験期間中は当ギルドの職員が同行しますが、規則で助言等はいっさい認められていません。あくまでも試験の監視役です。ですが、有事の際には職員の指示にしたがってくださいね」
ふむふむ。試験官も一緒に行くわけだ。
まあ、なかにはズルするヤツもいるかもしれないし、試験をする側のギルドとしては当然のことか。
銅貨50枚って額も、同行する職員さんの人件費もふくまれているんだろうな。
「わかりました。そうだ、いっこ質問してもいいですか?」
「どうぞ」
「薬草の特徴って教えてもらえるんですかね? その……葉の形であったり、生えている場所だったり」
「ええ。お教えできますよ。……うんしょっと、」
可愛い声をだしたレコアさんは、窓口の奥にある棚からでっかいうえに分厚い本を持ってきて、カウンターのうえに置く。
「ふう……。ではこちらを参考にしてください」
そう言って本をめくり、草の絵が描かれたページを指さす。
「この絵に描かれてるのが薬草なんですか?」
薬草は葉っぱの部分がギザギザになっていて、どことなくタンポポに似ている。
「はい。こちらが薬草になります」
「もうちょっとだけ見ててもいいですか?」
「はい。構いませんよ」
営業スマイルを浮かべるレコアさんにお礼を言ってから、俺はこっそりとスマフォを取りだして薬草の絵をパシャリ。
これでいつでも確認できるぞ。
「ありがとうございました」
俺は本をとじて、レコアさんに返す。
本を受け取ったレコアさんは、また「うんしょっと」と可愛い声をだして棚に戻していた。
「試験開始日はいつになさいますか?」
「そうですね、明日とかでも大丈夫ですか?」
「ええ。構いませんよ。では……そうですね、明日の昼前にお越しください。同行する職員を紹介しますので」
「わかりました。じゃー、また明日きますね」
「ええ。お待ちしていますね、マサキさん」
営業スマイルとはいえ、レコアさんみたいな美人さんに微笑みかけられちゃうと、俺みたいなおっさんは照れてしまう。
俺がレコアさんに手を振れば、レコアさんも手を振り返してくれるもんだから、なかなか視線を外せない。
だから気づけなかった。
俺の足をひっかけるようにして伸ばされた、何者かの、悪意ある足に。




