第29話 開かれた門
「いいから中に入れろってばよ!」
「そーよそーよ! アンデッドが迫ってきてるのよ!」
「テメェも役人なら街の住民を守ってみせろ!」
住民を中央区画の中に避難させろ、と冒険者や住民が叫び、
「ええーい! ここから離れんかっ! ここはお前たちが来て良い場所ではない。さっさと自分の家へと帰れ!!」
それを役人のアジスさんが断固として拒否する。
そんな一触即発状態の現場に、俺とドロシーさんが馬車に乗って登場だ。
ドロシーさんは馬車から降りると、ツカツカとヒールを鳴らし通せんぼしているアジスさんに近づいていき――
「貴方、いったい何をやっているんですのぉ!!」
バッチーーーンと強烈なビンタをお見舞いした。
「――ひでぶっ!?」
吹っ飛ぶアジスさん。
ポカンとする冒険者。
ニヤリと笑うムロンさん。
「な、ななな、なにをするっ!?」
横っ面をひっぱたかれたアジスさんは、頬を手で押さえ怒声をあげかけ――相手がドロシーさんだと気づく。
「こ、これはこれはドロシー様……」
するとあら不思議。
すぐに表情を卑屈な笑顔へと変えたじゃありませんか。
お役人だけあって、ドロシーさんのお顔をご存じだったようだ。
「ドロシー様がなぜここに?」
ドロシーさんは地面に倒れたままのアジスさんを見下ろし、ずびしと指を突きつける。
「いますぐ住民を受け入れなさぁい。これはお父様の留守を預かる身として、チャイルド家としての命令ですわぁ」
「なんですとっ!? し、しかしこの区画は――」
「あらぁ、わたくしに逆らいますのぉ? それはつまり、お父様に――チャイルド家に逆らうということですわよぉ。それでもよろしいのかしらぁ?」
「っ!?」
領主の名を出され、アジスさんが黙り込む。
代わりにドロシーさんが声高らかに叫んだ。
「さあ、門を開け住民を受け入れなさぁい!」
◇◆◇◆◇
ドロシーさんの登場により、住民の避難が再開された。
次々と住民が中央区画に入っていく。
「ありがとうございますドロシーさん」
「こちらこそ感謝していますわぁ。チャイルド家の者として、最後に……務めを果たすことが出来ましたからぁ」
「ドロシーさん……」
痩せて頬がこけてしまっているけれど、ドロシーさんはどこか誇らしげな顔をしていた。
「ドロシーさん、これよかったら飲んでください」
俺はカバンからゼリー飲料を取り出す。
しばらく食事を取っていないとしたら、いきなり固形物は胃に優しくない。
それを考えた上でのチョイスだ。
「……これは?」
「たったの10秒で食事と同じだけの栄養を取ることが出来る飲み物です。キャップをこうやって外して……んくんくんく……っぷはぁ。こうして飲むんです」
「……はじめて見る飲み物ですわねぇ」
俺からゼリー飲料のパックを受け取ったドロシーさん。
日本語で書かれた成分表なんかを不思議そうに見ているぞ。
たぶん文字ではなく、模様として認識しているんだろうな。
「マサキさんのご厚意。遠慮無く頂きますわぁ」
ドロシーさんが俺の真似をしてキャップを開け、ゼリー飲料を一口。
「っ!?」
瞬間、ドロシーさんの目が見開く。
なんかキラーンって光った感じだ。
するとどうだ。
ドロシーさんはものすごい勢いで吸い込みはじめ、通常10秒かかるところを僅か3秒で飲み干したじゃありませんか。
ずっと食べていなかったから、お腹が空いていたんだろうな。
「もう一個いります?」
試しに訊いてみると、答えはやっぱりイエス。
ヘッドバンキングばりに首をぶんぶんと縦に振っていた。
けっきょく、ドロシーさんはゼリー飲料を10本飲み干すのでした。
「おいマサキ、なんか様子が変だぜぇ」
ムロンさんがそう声をかけてきたのは、ドロシーさんが30秒で食事を終えたあとのことだった。
「列の後ろの方から悲鳴が聞こえねぇか?」
住民のみなさんは、中央区画へはいるため列をつくっている。
その列の後ろの方から、なにやらわーわーきゃーきゃーと悲鳴らしきものが聞こえはじめてきたのだ。
「聞こえますね。まさか門が破られたんでしょうか?」
「いいや、それだったら狼煙が上がっているはずだ。それがねぇってことは、門は破られちゃいねぇ」
門に向かった冒険者たちには、門が破られたときは夜でも見える色つきの狼煙を上げて知らせる手筈となっていた。
それがないってことは、まだ門は破られてないはずだ。
じゃあなぜ避難民が悲鳴をあげているのか?
その答えは、答え自らやってきた。
『う、う、う、う、……』
『あ、あ、あ、ぅあ……』
『あぁ~……あぁ~……』
なんと、路地の至る所からからアンデッドが現れたのだ。
門はまだ破られていないはずなのに……なぜここにアンデッドが?
「アンデッドが出たぞーー!!」
誰かが叫び、新人冒険者さんたちの顔が一気に青くなる。
住民さんたちはもっとだ。
日本人ばりに規則正しく並んでいた住民の列は、一瞬で崩壊した。
「きゃ~~~!!」
「うわぁ! うわぁぁぁぁ!!」
「いや……いたぁぁぁぁ~!」
「助けてくれぇ!!」
慌てふためく住民さんたち。
どうしていいかわからず立ち尽くす新人冒険者たちと、武器を手に取り戦闘に備える中堅冒険者たち。
予期せぬアンデッドの出現に、状況は一気に混乱しはじめた。
「ドロシーさん! 住民の受け入れと誘導をお願いしてもいいですかっ?」
「任されましたわぁ」
「ありがとうございます。そんで、ムロンさん、」
「おうよ!」
既にムロンさんは剣を抜き、戦闘準備バッチリ。
「行きましょう!」
「ああ!」
俺とムロンさんは頷き合い、駆けだす。
「手の空いてるヤツはオレたちについてこい!」
ムロンさんが叫び、何人かの冒険者が走り出す。
俺とムロンさんは中央区画の門を抜け、逃げ惑う住民さんたちの間をかいくぐり、現れたアンデッドへ斬りかかっていく。
「落ち着いてください! ゾンビは動きが遅いです。取り乱さないで素早く門の中へ避難してください」
「おら新人共っ! ビビってねぇーでしっかりテメエの仕事をしやがれ!」
「しかしですねムロン教官……」
「いいから隊を組め! 住民の背を護るぞ!」
「ムリしてアンデッドを倒す必要はありません。アンデッドの足を止め、住民のみなさんが避難し終えるまで時間をかせぐだけでいいんです! どうか力を貸してください!」
俺とムロンさんの指示に、
「はいっ! 怖いですけどやってみます!」
先ほど会話した新人冒険者の女の子が大きな返事をしてくれた。
新人で、しかも女の子がやる気を見せたとあっては、他の新人冒険者たちもかっこわるいとこは見せられなかったんだろうな。
「クソ! おれだってやってやる!」
「新人だからって舐めるなよぉ!」
「アンデッドがなんだ! ノロノロのノロマ野郎なんかに捕まるかってんだ!」
他の新人冒険者たちも奮起しはじめたじゃないですか。
住民のみなさんを護るようにして壁を作り、湧き出てきたアンデッドを迎え撃つべく武器を構える。
「マサキ、先輩としていっちょいいとこ見せてやれよ」
「えー? じゃあちょっとだけ、……上位肉体強化! ハイブースト! ハイブーストぉぉぉ!! 更にオートヒール!」
俺は自分とムロンさんは元より、冒険者仲間に向かって肉体強化と自動回復の魔法を連発する。
「おお……力が漲ってくるぞ!」
「もの凄く剣が軽く感じる……いまなら誰にも負ける気がしないぜ!」
「そう言うんだったらお前、マサキさんに挑んでみろよ」
「ば、バカ! ものの例えだよ! そもそもあの人に勝てるわきゃないだろ!」
ハイブーストを受けて、新人冒険者たちにも余裕と自信が生まれたようだ。
おれはここぞとばかりに叫んだ。
「みなさん! ここががんばりどころです! 冒険者の凄さを街のひとたちにも知ってもらいましょう!!」
「「「おおーーーーっ!!」」」
こうして、俺たちはアンデッドを迎え撃つのだった。
明けましておめでとうございます。
本年も宜しくお願い致します!




